巫女とハーフは特訓中?

 第11話


 轟く烈風唸る剛腕。風斬り音がしなやかに伸び、空気を貫き音を置き去りにして放たれる巫女の拳が文の風を圧殺する。
 空気抵抗をものともしない武技はしかし扇によっていなされる。
 疾きこと風の如く、しかし風を支配する天狗の速さはその上をいく。
 体を回した肘打ちが巫女の首を襲う。だが、それにやられるほど博麗の巫女は容易くない。
 瞬間移動と言っても相違なき体術を駆使し、文の背後を取った巫女の足が伸びる。
 標的は文の背中、痛打は確実かと思われる蹴りは後ろに回された手によって受け止められる。
 互いに力みを入れるも均衡は一瞬、弾けるように互いに距離を取る。
 闘気の満ちた場に訪れる静寂。千日手と判断した僕は、隣の小傘に合図を送る。
 頷く小傘の手から放たれる光の弾幕。目標は二人でなく、その中間にある虚空へ向けて放たれた。
「はい、そこまで。日が傾くまで修行に付き合う暇は僕にはないよ」
「む」

 弾幕によってようやく僕たちの姿を再認したのか、巫女と文は同時に構えを解いた。

「いやはやなんとも、人間とは末恐ろしきものですね。近接限定といえ、仮にも天狗とここまでやり合うなんて只者じゃありません」
「妖怪退治を生業としてるんだし、これくらいはできるんじゃない? それに、術に劣る分体で頑張らないと」
「それにしても人並外れすぎですよ、ホント」

 扇で口元を隠しながら、難しい顔をして巫女を見る文。
 僕は巫女の相手を小傘に任せ、文に近づき耳元に唇を寄せた。

「君の見立てではどうだい、巫女の仕上がりは」
「……はっきり言えば、異常、と申し上げます」
「それは、どこを見て?」
「色々、です。まあこの仕上がりならアリスさんのグリモワールの結界術を駆使されても、以前ほど苦戦はしないと思われます。まあ私の本気ほどではありませんが」
「ぜひ発揮されないことを祈ろう」

 手加減しているといえ十分に強い妖怪である文がそう分析するなら、誤りはないだろう。
 何にせよ、最初に戦ったときよりも巫女は文と互角以上に戦えている。
 異常なまでの成長速度を見せる彼女であるが、それが当代の巫女の強みであった。

「なら、鉄人形並に硬い相手でも、拳を痛めることはないだろう。とりあえず巫女の修行はここまでかな」
「何言ってるのよ。まだ文を完封してないし、あのロボットだって大量生産されてるかもしれないわ。なら、あれを一撃で……」
「それ、高望みがすぎるんじゃないかしら」

 小傘の言うとおりだ。目標を高く持つのはいいが、巫女にそんな武力持たれたら困る。主に僕が。

「ハーフ君には手加減するから大丈夫よ」

 心を読むな。

「顔に出やすいのよ、貴方」

 そんなものかな?

「そうですね。意外と顔に出ますよ」
「正直者の策士って感じよね。ハーフさんって」
「それは策士として機能するのか、甚だ疑問だね」

 ともあれ、こうして巫女が文と戦っているのは会話から察せられるように修行である。
 先日、魔法使いの少女アリスとの戦いで力不足を感じた巫女が文へ相手を頼み、連日組み手を行っている。
 常識的に考えれば一日二日の修行で効果など現れるなんてありえないはずだが、巫女は違った。
 体術は言うに及ばず、効果的な霊力の込め方に始まる拳撃の威力上昇、足さばきから連なる回避の向上。
 術に関してノーコメントとさせてもらうが、ともあれとんでもない上昇率であった。

(こうなると才能以前の問題ですね……巫女さん、ホントに人間ですか?)
(巫女が人間じゃなかったら、何なんだい? 妖怪でないことは君だってわかっているだろう)
(それはまあ、そうなんですが)

 耳打ちしてくる文の疑問を潰し、体を解しながら小傘と談笑する巫女を見やる。
 巫女は、人間だ。それは間違いない。
 それで、この話題は終わりなのだ。

「あによ、こっち見て。……そうだ、ハーフ君も見てないで修行したらどうなの?」

 視線に気づいた巫女がとんでもない提案をしてくる。
 小傘は花咲くような笑みを浮かべ、文はネコ口の形に唇を歪める。
 巫女ばりの勘が弾け、危険感知警報が脳内に鳴り響く。
 逃げ出すのは無理なので、口であしらうことにしよう。

「僕は鍛える必要ないよ。戦いは避けるから」
「無理よ」
「無理じゃない?」
「無理ですね」

 怒涛の三連ツッコミ。僕は思わずのけぞった。

「そこまで言う必要ないだろう。仮に戦ったとしても僕は後方支援が主なんだし、腕力鍛えるより道具を弄っているほうがずっとらしい」
「なら、小傘の改良?」
「わちき?」
「そうですね。唐傘お化けといえ、小傘さんは付喪神なのですし、短期間での戦力向上を図るならハーフさんに改造を任せたほうが良いかもしれませんね」
「おいおいおい、整備・修繕は請け負うが戦闘用に仕立てろなんて言うのか? 小傘の妖怪としての定義は人間を驚かせることなんだから、無理に戦う必要はないだろう」
「でも、私は足手まといなんかになりたくないわ」
「それ以前に、小傘が無理にこの事件に首を突っ込む必要がない」

 そう言うとだんだん小傘の目が潤んでくる。ちょっと待ってくれ。その先が自然と予想できるから。

「ハーフくぅーん?」
「待て落ち着け、おかしいだろう。僕は正論をだな」
「時に正論が通用しない場合が人生には多々あるのですよ」
「多々良だけに!」
「上手くない。上手くないからな小傘。そんな弁舌じゃ僕は口説けないぞ」
「残念」

 そうですかねぇ、とつぶやく文は放置し、僕は頭を掻きながら状況を思案する。
 乗り気な小傘の意見を封殺するのは容易い。
 しかし、実際に鉄人形――

「ん? 巫女、あの鉄人形の名前を知っているのか?」
「え? あー、そういえばなんでだろ。すっと思い浮かんだのよ、その名称が」
「ハーフさんの能力が移ったとか?」
「遺伝ならともかく、そんな能力効いたことありませんね」
「多分昔読んだ本にでも載っていたんじゃない?」
「そういえばうちの河童が外の世界の本を持ち込んで読んでいたような」
「出所はどうでもいいさ。仮称ロボットの持ち主に対する戦力向上と考えるのは構わない。だが、仮に自分達に手が負えなければ妖怪の山の戦力を借りればいいだろう。無理に単独で解決する必要はない」
「単独じゃないわ。チームよ」
「わかったわかった、チームで構わない。ともあれ今の僕らには組織という後ろ盾があるんだ。無理に強くならずともいいと思うが?」
「そうでもないわハーフさん。私はその場に居なかったけど、仮に犯人と対峙したとして、そいつが予想以上に強かったら? 逃げる前にやられるってこともあるんじゃないの?」

 くっ。小傘のやついつになく反論するな。それだけ本気ということだろう。
 だが甘い。僕の攻撃は口撃にして反論を根元から断ち切――

「じゃあハーフ君は帰っていいわよ。無理に突き合わせるのもなんだしね。小傘、基本性能が無理なら技術を鍛えるべきね。ちょっと今できることをおさらいしてもらっていい?」
「あ、うん」

 まさかの逆撃に口をぱくぱくと開閉させる。
 ここにきて放置するとは、やるな巫女。ならばお言葉に甘えて帰るとしよう。

「基本、私は人を驚かすだけだからそう戦闘力高くないけどいいの?」
「それを補うのが修行というわけです。妖怪を倒すために人間が努力して強くなるのなら、妖怪とて努力すれば同じように強くなるというものです。さらに我々には時間が多くありますからね」
「そういう意味では妖怪ってずるいわー。人間、長生きできても百年程度なのに妖怪はその数倍は生きるし」
「一応寿命みたいなのはあるんだけどねー」

 誰も見向きもしなかった。足は止まることなく、博麗神社の敷居を越えてしまう。
 ………………………おかしいなあ。晴れてるのに、雨が降ってきたぞ。

「わかったわかった! ようは、護身できる程度に強くなれば良いんだろう?」

 結局、小傘の妖怪の定義を崩さずにこの局面を乗り切るために僕もこの修業に付き合うこととなってしまった。
 こうなれば最高に良いものを作ってあっと言わせてやろう。 






 工房へと戻った僕は、魔法で温める火炉を取り出していた。
 スペアの分は冬用や寒い時用に残しておき、本命の一つを改造に当てる。

「ハーフさん、それで何をするの? 傘に飲ませる気?」
「まさか。君には改造したこいつを扱ってもらうのさ」

 工房は幾つかの区画に分かれており(といっても、そこまで大きいものではないが)、僕らはその中で地面に八つの巨大な卦(け)が刻まれた部屋へと移った。
 マジックアイテムの生成ならば、この空間でなければいけないからだ。少なくとも、僕にとっては。

「それより、本当にここにいるのかい? 武器作りだから居ても暇だよ?」

 そう言ってみるが、小傘は首を横に振った。実際の道具作りに興味があるのか引こうとしない。
 昔から刀鍛冶の場は女人禁制とも伝えられている。
 鍛冶の技術を伝えたとされる金屋子神(かなやこかみ)。一般的に女神として伝えられているこの神様(男という説もあるが)は、鍛冶場に女性がいると嫉妬するという言い伝えがあるのだ。
 実際は過酷な労働場である鍛冶場で女性を働かせまいとする嘘だったのかもしれない。
 それでも世の中奇妙な人間とはどこにでもいるもの。刀鍛冶に興味を持つ女性も中には存在した。
 そもそも西洋では魔女が釜を挽いて錬金術の一つを築いているわけだし、正常ならばこの道に興味すらないだろう。
 いやしかし、弟子でもない相手に錬金や鍛冶の技術を見せるのはご法度……でも小傘は付喪神だし、カウントしなくても大丈夫……うん、大丈夫だろう。……大丈夫だよな?

「? どうかしたの?」
「いや、なんでもない」

 小傘は多分もう止まらない。鍛えれば強くはなるだろうが、巫女ほどの成長速度は望めないのだ。
 それ以前に、人間を驚かすだけの唐傘お化けに戦闘力など無用なのだ。
 必要な時に、必要な力だけを出せばいい。
 そうするために必要なものは、修行でなく道具である。
 何十年と剣の修業に打ち込んだ侍も、子供の放つ鉄砲一つで命を落とす。
 道具には人間の一生を超える歴史が詰まった、まさに人類そのものと言い換えられる。
 その結晶の欠片である道具を与えてやれば、護身にはなるだろう。これでダメならその時はその時だ。もう知らない。
 僕が小傘に与えようとしているのは、火炉を改造した武器――八卦炉である。
 太上老君と呼ばれる神仙の持つ道具にして、かの斉天大聖孫悟空を捕らえた万能具。
 本来は薬を調合するための道具なのだが……無論、本物でなく自分なりの八卦炉の定義を盛り込んだ模造品だ。これがあれば、少しは楽になるだろう。
 
「まずは形から整えないとな」

 火炉を八角形に整えながら、その中で卦を刻んで行く。  

「それは意味があるの?」
「当然さ。これこそ、八卦炉を正常に機能させる仕込みだからね。ついでに説明してあげよう」

 火炉の表面にある印。それが卦である。
 卦はそれぞれ天・地・雷・風・水・火・山・沢に分かれ、これは自然を示す。
 他にも性情・家族・身体・方位などを示す記述もあり、それ自体が自然界・人事界百般の現象を象徴しているのだ。
 八卦炉とは、それ自体が一つの世界でありその内部では世界の生成そのものの作用が起こる。
 それによって仙丹と呼ばれる薬を生成する。仙丹は服用すれば不老不死になれるという一説がある。

「そうなの? じゃあ、完成したので薬を作れば、そうなるってこと?」
「太上老君が持つ、本物の八卦炉なら可能だろうが、僕が作るのはレプリカだから無理だよ。ま、霊薬や何かを作るのはできるだろうけど」

 世界を構成する八卦炉によって生まれることから、僕はこれを世界との同化と考えている。
 所詮不老も不死も僕らの住む世界に住む存在が定義したものだ。
 不老不死が成り立ち、通用するのは世界がそれを定義している故のこと。
 つまり世界との一体化に至ることで、その恩恵を得ることなのだろう。
 人間や妖怪という種族から逸脱し、世界というシステムの一部となる。
 それが仙丹の恩恵なのだろう。
 そうなると仙丹とは、延々と回り続ける歯車の一部になるということだろうか。

「難しい顔してるけど……手詰まったの?」
「ああいや、なんでもない」

 不老不死について考えてみるのはまた今度にしよう。今はそれより改造だ。
 外見を整える作業を終え、僕は工房の中から根本となる真火(まひ)やそれに連なる八つの力を持った道具を取り寄せる。
 中でも真火は重要だ。金属の加工や精錬もこれがないと始まらない。
 三昧真火(さんまいまひ)とも呼ばれ、これらは簡単に言えば常に絶えず全てを燃やすとされる炎のことだ。
 三は陰陽五行思想では太陽であり、転じて永続的な炎を示す。まさに火炉の源泉となる力として相応しい。
 これを火炉の中心に仕込み、その周りを八つの力で制御する。絶対なる一、太陽が中心となり恒星となった世界に降り注ぐのだ。

「部屋を移動する。これとこれと……小傘、これらを並べてくれ」
「あ、はーい」

 小傘に渡したのは、八種類の異なるアイテムだった。これらを全て八卦炉に混ぜ込めば、作業は完成である。

「道具を合成させるの?」
「いいや。混ぜるのは用途だけだよ。見ているといい」

 小傘が一つ一つ円形になるよう道具を置いておき、それら全てが並んだのを確認すると僕は中央へ移動し八卦炉を地面に置く。
 小傘には離れているよう指示し、置いた八卦炉を囲むようについた両手の先へ、魔力を流し込む。
 明滅する八卦。魔力が部屋全体に伝わり起動を確認する。
 
「まずは真火からだ」

 八卦の中央、すなわち僕の真上に何かが集まっていく。
 虚空より粒子状の魔力が生まれ、収束するそれらは一つのものを生み出した。
 現れ出るは真なる火炎、真火。空間に固定されたそれを、僕は巨大なる八卦を操作して中央にある八卦炉の中へと定着させていく。
 まるで幽霊が人間に憑依するかのように、炎は八卦炉の中へ乗り移る。少し制御面に不安はあったが、なんとか定着を成功させる。

「ハーフさん、これは?」
「この部屋自体が、一つの八卦炉なのさ。僕が今しているのは、薬の生成を応用しているに過ぎない。易に太極あり、これ両儀を生じ、両儀は四象を生じ、四象は八卦を生ず。部屋という空間が太極。地面を用いた両義、壁の四方を四象としこれらより八卦――目的のものを生み出すんだ」
「えーっと……………」

 ちょっと難しかったか? 小傘は首を傾げて頭に疑問符を浮かべている。
 別に覚えさせるつもりはないし、いざとなれば忘れさせればいいだろう。それくらいの処置の仕方は心得ている。
 さて、真火は定着させたし、今度は八つの道具の用途を八卦炉に混ぜないと。
 両手の先から八卦、世界に干渉し配置された道具の用途を抽出する。
 それらは等しく中央の八卦炉へと送り込まれ、卦の一つ一つを力ある印へと変えていく。
 八卦炉に定着させ、効果を永続させるマジックアイテムを作るべく、僕はその作業を延々と繰り返していった。




 ここで、僕は失念していたことがあった。
 基本、僕は食事が必要ではないので生きるためのエネルギー摂取というものを必要としていない。
 捨食のように魔力を食事にしているのではなく、人間と妖怪のハーフという種族としての生態だ。
 ゆえに、工房での作業は日夜問わず続けることができるのだが……

「できた。完成したぞ、小傘」

 完成した八卦炉を手に取り、その姿を目に焼き付ける。
 手に抱えられるサイズの大きさではあるが、これ一つで様々な効果を発揮する万能アイテムの誕生だ。
 報告のため振り向いてみれば、そこにはお腹を押さえて倒れ込んだ小傘の姿があった。
 どうしたんだ、と慌てて彼女の体を抱き起こす。
 ふるふると震える小傘の唇。僕は何か言おうとしているのかと思い、耳を寄せると―― 

「………………………………おなか、すいたよぅ」

 僕は忘れていた。
 人も妖怪も、本来食事をしなければ生きていけない存在だということに。 

「あーっはっはっは! 驚いたなぁー!」

 声を張り、笑いを強引にひねり出すも、

「………………………………うら、めし、………」
「今すぐ人間を驚かせにいくぞ!!!」

 やはり、心の底から驚かせないと糧にはならないらしい。
 ちょうどいい。完成した八卦炉の試運転といこうじゃないか!
 何日篭っていたか知らないが、小傘が倒れる程度には日が経っていたのだろう。
 つまり、僕は連日完徹作業をしていたのだ。いくら食事が必要でなくとも、精神が高揚していても仕方ないと思う。
 だからつまり。

「言い訳、ある?」
「感情と言う名の激流に身を任せた結果だよ、巫女」
「一時のテンションに身を任せて行動するなっ!!」

 道行く人間・妖怪問わず小傘を抱えながら八卦炉で相手を驚かせていた僕達(正確には僕)は、騒ぎを聞きつけた巫女によって鎮圧されていた。
 少なくとも小傘の空腹は満たせたようだが、そんな彼女も今は僕と一緒に巫女に怒られている。

「あのね、三日以上連絡がないと思ってたら色んな人を襲ってるって、下手したら私がハーフ君を滅さないといけなかったのよ? そこんとこわかってる!?」

 凄まじい剣幕だった。
 からかったときに受ける反撃なんて目じゃない。本気で巫女は怒っていた。
 ぎゃおー、と幼稚っぽい怒りの唸り声を上げながらも、悪いのは僕ら(というか多分僕)なので甘んじて受け入れる。
 一時間くらいは経って、ようやく説教から開放される。
 連日の通し作業の上に正座は、辛かった。

「悪かったよ。あー……僕自身の強化をしたってことで勘弁してくれないか?」
「強化?」
「こいつだよ」

 と、完成した八卦炉を見せる。
 へー、としげしげと眺める巫女と文を尻目に、僕は小傘に言った。

「小傘、虫のいい話かもしれないが、唐傘を僕に貸してもらえないか?」
「どうしてまた?」
「こうなったら八卦炉を僕が使う。代わりに唐傘は僕が仕上げる」
「わかったわ、ハーフさんに私を預ける」
「……即答だな。いいのか?」
「だって、ハーフさんだもん」

 それは答えになってないぞ、小傘。

「ハーフ君がやる気になったって言うなら、説教の甲斐はあったか」
「ありすぎて困る。まったく、僕は戦いなんて野暮なことしたくないんだけどね」
「諦めてくださいな。それより、これでどんなことができるんですか?」
「……そいつは戦闘以外にも使える万能マジックアイテムだ。何せ……………」

 諦観をため息混じりに吐き出す。結局、こうなるのか。
 ならば、と僕は憂さ晴らしの薀蓄を披露するべく、舌を滑らかに滑らせる。
 ハイになったテンションの状態が維持されていたのか、僕は巫女達が眠っていることに気づくまで八卦炉のルーツを語っていたのだった。



第12話




「私の特訓は一段落ついたし、今度はハーフ君に付き合いましょうか」
「……なんだって?」

 小傘の唐傘の骨子を弄り回し、性能の底上げを行っていた僕の元へ現れた巫女が、突然そんなことを言い出した。
 工房付近には結界を貼り直したので当然中にはいれておらず、外へ連れ出しての会話である。
 以前は文に工房の一室に入り込まれ、迂闊にも呪い人形を受けてしまった反省を経て、察知の結界を作っておいた甲斐があったな。
 っとと、そんなのどうでもいい。
 今は巫女の真意を聞かなければ。

「八卦炉だっけ? その性能を試す意味でも、ハーフ君を色々連れ回そうと思っているんだけど」
「却下却下、大却下」
「でもハーフ君も戦うんじゃなかった?」
「戦うのは専ら君だよ。いや、小傘と文もか。僕は後方支援、直接戦闘に参加なんかしたりしないよ」
「なら八卦炉が宝の持ち腐れじゃない」
「護身用以上に使うつもりは、ない!」

 きっぱりと言い切る。
 元はこの八卦炉、小傘の強化のためのものだったのだ。
 不覚を取ってつい言質を取られてしまったが、もともと僕にとって戦闘は投げ捨てるもの。積極的に参加するつもりはない。

「あらそうなの、って言うと思った? んなわけないでしょ」
「待て待て。君にとって何のメリットがあるって言うんだよ」
「だって私が楽になるし」

 巫女ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!

「いい加減真意を言ってくれ嘘をつくな。僕に戦いを強要したって、そんな役に立つなんて思わないだろ?」
「今まではそれで良かったわ。私が直接、貴方が交渉で役割分担していた」
「僕からすれば交渉でも十分戦いさ」
「けど、それだけじゃ足りない。アリスとの戦いでそれを知ったわ。それにハーフ君だって、あの子に操られてたじゃない」
「あれは僕から進んで協力したんだ。生粋のドMと呼ばれたこのハーフ君が、あの場で動かないはずがない」
「ああ、趣味と実益が合わさったと」
「そこでスルーされると、どこで止めればいいかわからないじゃないか。ツッコミはどうした」
「ハーフ君どっちかと言えばSだもんね。って、真剣に話してるんだから絡みづらいことしないでよー……」

 げんなりとした顔を見せながら肩を落とす巫女。
 どうもかなり本気の話のようだ。
 僕としてはのれんに腕押し柳に風のように、巫女の言葉を流していたかったが。

「どうしたんだ、いつになく押しが強い。押せ押せモードってやつか?」 
「根拠はないんだけど、強くなっておいたほうが良いと思う」
「勘、か」
「勘、よ」

 ひらめきだけの理由で物事を進めて欲しくないのだが、他ならぬ巫女の勘だ。
 ただの第六感や直感、下手な根拠よりも動くに値する理由になってしまう。
 しかしながら、そうと言われて素直に動くかと言われれば絶対にノゥ、な僕である。

「……………………」
「……………………」

 じぃ、っと僕を見上げる巫女。
 ささやかな風が巫女の黒髪を揺らす。釣られて揺れる瞳が身じろぐ僕を射抜き、偽りの回答を拒絶する。
 仮屋として建てた家の壁に背を預け、頭を何気なく掻いてみる。
 引き結んだ口から漏れるのは息遣いのみ、肝心のものは言葉にならずただ生態としての機能を繰り返すのみ。

「私だってね、そりゃ無理強いってのは良くないとは思ってる」

 ぼそぼそと、つぶやくような巫女の声。
 僕は何か言い掛けるが、続けざまに語る巫女の言葉に遮られた。

「でも、不安がさ、あるの。どうしようもない、澄んだ水に一滴だけ混ざった泥みたいなのが、こびりついて離れない」

 随分と抽象的な例えだが、巫女にも詳しいことはわからないのだろう。
 閃きの理由付けほど難解なものはない。僕でさえ手こずるのに、巫女がすんなり説明できるとは思えない。

「だから、恨んでもいいわハーフ君」
「え?」

 不意に、巫女の声のトーンが変わる。
 同時に冷や汗が噴出し、不安が胸中に生じる。
 勘が導くままに工房の中へ逃げこもうとした僕は、瞬間移動したとしか思えない巫女の歩法術によって腕を取られていた。
 せめてもの抵抗として、背は見せているが顔は巫女に向けていない。
 だからどうした、と言われればそれまでだ。 

「力ずくは、嫌いじゃないの」

 僕は大嫌いだ!


 これ以上のことは、あまり口に出したくはない。
 ただひと言……その日の巫女は激しく厳しく、すごかった。






 巫女の強制的な特訓から早数日。
 僕は早速巫女から逃げ出し、妖怪の山付近へ足を運んでいた。
 長期的に見れば鍛えられるだろうが、あいにく僕は巫女のように特訓で即日強化なんて芸当はできやしない。
 肉体を鍛えるより、体や思考の反射を鍛えたほうがよほどマシだ。
 とはいえ、巫女が僕を案じているのはわからないでもない。
 書置きを残し、僕なりのやり方でやるということを言ったが、多分納得しないので離れて伝えさせてもらった。
 さて、帰るのが怖いな……

「おや、これは」

 日の差しにくい場所に落ちていたので気づきにくいが、僕の『眼』は誤魔化せない。
 それが道具であるなら、確実だ。
 僕は落ちているそれらを拾い上げ、鑑定を試みる。
 名称は「ビームガン」。用途は光線を撃ち出すこと。
 ……なんだこれは?
 外見の形から判断するならば、これは銃だった。
 握りと先にある筒の形は、博麗大結界によって遮断される前に見たことのある外の世界のものに似ている。
 いや、それに比べれば遥かに洗練されているし、何より作りが違う。
 どのような金属で作られているのか、重さはあまり感じない。
 真上に銃を向け、誰も居ないことを確認してから引き金を引いてみる。
 カチッ、と軽い音が鳴るが、それ以上は何も起こらない。弾は入っていないようだ。
 ならばこっちか、と僕はもう一つの拾い物に眼を向ける。
 真鍮に見紛う、不思議な金属製の小筒。僕の知識では、薬莢が一番近い形をしている。
 しかしこちらの正式な名称は「ストロベリークロス」。用途は苺色の十字架光を撃ち出すことだった。

「苺色?」

 思わず口に出してしまう。
 そんな色、聞いたことがない。自然につけられたものでなく、本来の持ち主が愛用した結果、この名前に変化したと見て良いだろう。
 さぞかし苺の色……いや、苺そのものに愛着があるのだろう。
 銃という凶器と比べると些かアンバランスな気もするが、わからないことは気にしないことにする。
 ともあれ、この銃と薬莢はおそらくワンセットなのだろう。
 これは思わぬ拾い物をした。持ち帰って調べてみるか。
 僕はビームガンとストロベリークロスを右手に持ち替え、左掌へ寄せる。
 そこで僕は掌に刻んだ魔法の術式を起動する。
 顕現するのは、縮小された太極図の形を記した陣。紋章と言い換えても良い。
 その魔法陣がビームガンとストロベリークロスに触れた途端、二つの道具は抵抗なく掌の中へ吸い込まれていき、やがて完全に僕の手の中に溶けて行く。
 多くの道具を携帯するのに便利な、収納の技術であった。

「―――――ん?」

 がさがさと茂みが揺れる音。
 絶え間なく続くそれは、やがて破砕を伴ったものへと昇華する。
 妖怪っ、と太もものポーチからお札を取り出し少しずつその場を離れていく。
 巻き込まれぬうちに退散しないと……
 が、地獄の閻魔か幻想郷を支配する妖怪の賢者のイタズラか、どうも僕は来るべき災厄から逃れることは出来そうになかった。
 逃げ出そうとした途端、茂みから赤い長髪を一つに巻き束ねた少女が飛び出し、それに続いて新たに何かが現れたのだ。
 体は扁平で細長く、多数の環節から一対の歩脚を持つそれは、身の丈七尺(一尺約30センチ)はあろうムカデだった。
 妖怪と言うにはあまり知性を感じない。おそらく、従来の生物が異常な成長を遂げた一つの形なのかもしれない。
 赤い衣とマントを翻す少女が僕の方向に来るので逃げられない、と判断し携えていたお札を投げる。
 お札はムカデの腹に着弾し、相手をよろめかせるも完全なトドメには至らない。
 おそらく少女を捕食しようとしていたのだろう、不埒な乱入者(つまり僕である)に眼を向けたそいつは、ぎらりと眼を光らせて牙を向く。
 だが、お札の一撃が相当効いているのか、その動きは鈍い。もう一撃、とポーチからお札を取り出すが……

「え、それ魔法? ううん、お札だから陰陽道? 科学技術で熱を集めてる様子はないし……ああでもやっぱり、魔力はここにあったのね。素敵」

 突然、横合いから少女に手を掴まれてお札を落としてしまう。
 拾うにはもう遅い。ムカデが僕達を喰らわんと大きく口を開く。避けられない……!

「離すんだっ!」

 力ずくで少女の戒めから離れるが、ポーチに手を入れるにはあまりにも遅い。
 いけるか――と悩んだのは一瞬、すぐに左手を水平に構えて薙いだ。
 まるで刀を振るかのような動きに沿って体は流れる。
 交錯と決着は一瞬。
 沈んだのはムカデ。腹部へ大きな斬撃の傷跡が刻まれており、紛れもなくそれが決め手だろう。ムカデは僕らに食いつくことなく、土の味を噛み締める余韻もなく倒れていった。
 
「間に合ったか……」

 ほっと一息つき、緊張によって滲んだ汗がこめかみから顎へ伝い、ムカデの体に落ちた。

「……貴方、それどこから取り出したの?」

 少女が目を丸くしながら、僕の手の中に突如現れた刀を凝視している。
 僕の手には、数秒前にはなかった抜き身の刀が握られていた。
 徒手空拳による手刀で本当に相手を切り裂く技術は僕にはない。となれば、横一線による斬撃ができたのはこれのおかげであった。
 幸いにもあのムカデはお札の一撃で弱っていたからこそ、僕の腕力でも倒すことができたのだ。
 こんな近接戦闘での命のやり取りは不得意なので、あまりしたくない。 

「その前に、お礼の一つでも言えないのか?」
「ありがとう。助かったわ。それで、どこから出したの? 刀なんて持ってなかったでしょ? それも魔法?」 
 
 かなり釈然としない礼だった。
 そもそも彼女がいきなり僕にしがみつかなければ、お札の追撃で難なく倒せたはずなのだ。
 しかし少女の言葉によって悪癖というかなんというか、説明癖のようなものが刺激された僕は言われるがままについ説明してしまう。
 そのためにまず、刀を右手に持ち替えてから左掌に魔力を送り込む。霊印によって刻まれた太極図が煌めき、その力を起動させていった。
 顕現した太極図の中に武器を納めていく。
 まるで鞘の中に納刀されるようにするすると掌の中に入り込む刀を見て、少女が歓喜の声を上げた。

「手品じゃないのよね!?」
「これが手品であってたまるものか。大陸の流れを組んだ魔法さ」

 本来、霊脈の出口に敷く魔法陣の上で行う術式を簡略化して僕の手の中に圧縮させた魔法。
 儀式魔法と呼ばれるそれは、錬金術の奥義の一つとして区分されている。
 その技術は簡易的な四次元空間の生成。ようは、携帯の倉庫である。
 魔力を送り込むことで鍵を開き、中に保管した道具を取り出すことができる。
 鍵が開いた状態、僕の場合太極図が展開している間なら、負担の許す限り道具などを入れておくことが可能になるのだ。
たとえば、お札をそこに入れたとする。お札そのものが太極図の中に入っているわけではない。
 お札は太極図を通すことで細分化され、僕の魔力となって分解されるのだ。 
 このさい、僕は太極図を通じて入れた物質を全て把握することができる。半端ではあるが、生来の能力のおかげだ。
 理解と分解によって、僕は中に封じられた物質を完全に把握することができる。
 そして取り出すときに、太極図を通じてお札が再構築され手元に召喚されるわけだ。

「素敵ね。じゃあなんでも生み出せるってことなの?」
「流石にそこまで万能じゃない。僕が行っているのは、半端な錬金術だよ。あくまで元になるアイテムの保管に過ぎないんだ」

 この力は僕の種族同様に半端なものなので、高度なマジックアイテムになればなるほど負担も大きく、無から有を生み出すわけではない。
 お札が魔力に分解されたとき、僕には仮想の魔力タンクが体内で生成される。
 自身の魔力ではなく、入れた物質の力……情報とも言うべきものがそこに保管される。
 取り込んだアイテムの再構築は、そこに保管された情報を元に生み出されるのだ。
 それは僕が生来持つ魔力では無理なこと。性質が違うと言ってしまえばそれまでだが、再構築に自分の魔力を使うことはできない。
 できるのは、自分の魔力を取り込んだアイテムを再構築するための力へ変換する程度のことだ。

「つまりはだね。取り込んだアイテムを出すことは出来ても、増やすことはできないんだ」
「けど、科学技術と違ってメリットもあるわ。確かに仮想四次元空間領域内を応用した倉庫は再現できるけど、何の道具もなく瞬時にそれを行える……まさに魔法ね。ううん、太極図の構成をモチーフにしているあたり仙術に該当するのかしら?」
「そうかもしれないな。僕の手の中で八卦炉による調合の過程、そのちょっとした応用が行われているんだろう」

 打てば響くような少女の反応に、僕は先程まで感じていた嫌悪はすっかり晴れていた。
 巫女も小傘も文も、こうした魔法談義に関しては全くノータッチだ。
 だから、理解はしていないだろうが考察を含めた話し合いは僕にとって新鮮なものだった。

「科学技術と言ったが、それが何の力も使わない、純粋な技術のことかい? 河童が高度なそれを有していると聞くが……君が僕のやり方を知っていると言うなら、過程こそ違えど結果は同じなのかもしれないね」
「科学と魔法は双子の兄弟。過ぎた科学は魔法に見えるけど、魔法じゃないわ。私は魔法をというハードウェアを動かすソフトウェア、魔力を求めてるの」
「ハードウェア? ソフトウェア?」

 聞き慣れぬ単語を思わずオウム返ししながら、僕はムカデを一瞥する。
 つい話し込んでしまったが、血の臭いに誘われて妖怪や別の動物が現れるかもしれない。いまだムカデは息を残していたが、この傷では放置しておけばやがて死に至る。なら、これ以上僕が手を下す必要はない。
 無駄な戦闘は避けたい僕にとっては、これ以上この場にいるのは憚られた。

「そういえば、君は人間のようだけど……どうしてここに? 人里からは随分離れているが」
「ちょっと落し物をしちゃってね。武器がなくて、仕方なく逃げ回ってたの」
「逃げ回ってたって……君、さっきのムカデに戦闘を仕掛けたのか?」
「ううん。あれは逃げてる途中に増えたの。元は別の妖怪を相手にしてたわ」
「無茶をするな……妖怪退治は巫女に任せておけばいいものを」
「調べたいことがあるのよ。まあ今は装置が壊れてて本格的に出来ないから、地形の把握に留まってるんだけど」
「へぇ。魔法は嗜んでいないようだが……河童の恩恵にでも預かっているのか?」
「まさか。むしろ『教』えを『授』ける者よ、私は」

 河童に教えを授けるとはまた豪胆だ。
 っとと、話し込んでいて全く動いていないな。

「まあいい。とりあえず移動しないか? 武器がないなら、一つの場所に留まるのは危険だ」
「え?」
「いや、え? じゃなくて」
「貴方が退治するのでなくて?」
「僕は戦闘が不得手でね。どちらかと言えば、物作りの側だよ」
「ふぅん、素敵ね」

 さっきから素敵という単語をよく使うが、口癖というやつか?

「物作りが得意なら、やっぱり魔力とかも扱うのでしょう?」
「まあ、人並み以上には使うが?」
「そう、素敵ね」

 なぜだろう。説明できない、嫌な予感がした。  

「とりあえず巫女の下へ案内しよう。そこから彼女に家まで案内してもらうといい」
「何言ってるのよ。わざわざ神社に行かなくても、貴方がいるじゃない」
「だから、僕は戦闘は苦手だと」
「いいからいいから。いざとなったら私の切り札もあるから」
「その心は?」
「回数限定式で、そう多くは使えません」
「僕は節制のための調整か」
「まあまあ。案内に見合った要望くらいなら、答えてあげるわよ?」
「……………」

 しばし逡巡した振りを見せるが、心の中ではすでに即断していた。
 僕の目はあらゆる道具を見破る。この少女が服の中に様々なものを仕込んでいるのは事前に察知しているが、その全てが僕の見たことのないものに溢れているのだ。
 好奇心を刺激されたうえ、今回巫女の特訓から逃亡している理由――それは、新たな道具製作に他ならない。
 彼女についていけば、そのヒント或いは道具そのものを入手できるかもしれない。

「仕方ないな。あまり信用するなよ?」
「普通、そこは任せろとか言うものじゃないの?」
「僕は自分の身の程を知ってるんだ」
「なら十分優秀ね」

 言いながら少女が前を歩き始める。おそらく、家とやらに案内してくれるのだろう。
 
「落とした武器を拾いに来たけど、思わぬ収穫ね。銃の一つ手放しても余裕でお釣りが来るわ」
「何か言ったか?」
「いいえ、なんでもないわよ」
「そうか。……そういえば、名前を聞いてなかったな。僕は名前はないが、ハーフと呼ばれている」
「ハーフ? 名称が名前なんて珍しいわね」
「放っておいてくれ。それより、君の素敵な名前はなんだい?」

 振り返った彼女の目がぱちくりする。
 意趣返しでもなんでもないが、知り合ったばかりの男に口癖をからかわれて不愉快だったのかもしれない。
 ちょっと調子に乗ったかな、と顔色を伺うが、少女はすぐに唇の端を吊り上げる。
 力強い笑みを見せながら、少女は宣言した。

「――夢美。岡崎夢美。よろしく、素敵なハーフ」






 第13話



 博麗神社。その一室――というか、私の部屋。
 泊まっていたはずのハーフ君の部屋から彼の姿が消えてなくなり、いつものようにやってきた小傘と文に伝えて捜査すること小一時間。
 自室に残されていた手紙を見つけた私達は、代表として文がその内容を朗読することにした。

「――拝啓、巫女様。季節の変わり目を迎える時期の中、いかがお過ごしでしょうか。先日のご忠告ありがとうございました。まことにお優しき心遣いをしていだくのは光栄ではありますが、致命的に方向が間違っているのはいただけないと思います。わたくしのことをご心配いただきましたが、今のところ筋肉痛や打撲傷など骨折以上のことは起きておりませんのでご安心くださいませ。
 博麗が私に囁いている、と巫女様はおっしゃりましたね。貴方の勘は確定した未来を視るかのごとき予言、まこと驚くこと他なりません。ですが、その危険予測の使い方がいまいちなっていないとわたくしは思うのです。人には然るべき伸び方があるように、巫女様と同じやり方で同じ力がつくわけではありません。
 ゆえに才能の伸ばし方に関して、わたくしは独自に動いてみようと思います。しかしてわたくしの才能はあくまで物を作ることにあります。よってこのたびのことは、貴方へ捧げる道具の入手に他なりません。だからどうかご心配なさらず、決して怒らず拳を握らず足を振るわずわたくしが帰ってきたときには温かい言葉を投げていただけるよう、切に願います。
 わたくしが傍におらずとも、貴方には小傘や文がついています。孤独な静寂を感じることなく幼少のみぎりのように一人寂しくても泣くことは決してありま――」
「人を寂しがり屋に仕立てるんじゃない!!」
「ああっ、まだ色々書いてあったのに!」

 ハーフ君の残した手紙を朗読していた文へ喚きながら、私はその手紙を奪いとって引きちぎる。
 これ以上続けなくて正解。
 いったい、どれほど私の小さな頃のエピソードが書かれていたものかわかったものじゃない。
 それ以前に、きちんと手紙の手法に乗っとって残して置くのがまた腹が立つ。
 書に筆を垂らす暇があったなら、少しでも有効な使い方をすればいいものを……

「しかし、これでハーフさんが消えた訳がわかったわね。工房にもいなかったから、心配だったけど……」
「手紙には紆余曲折ありましたが、結局は巫女さんのために新たな道具の材料を入手してくるとのことです。大目に見てやったほうが良いのでは?」
 
 そんな風に言うのは、ズルイ。
 ここで私が反論すれば、我侭なお子様じゃない。
 大人というほど大きくなったつもりはないけど、子供というほど聞き分けが悪くはない。
 だから私は黙って意見を中に押し込むしかなかった。

「でも、確か巫女さんって道具の扱いは上手じゃないはずだけど?」
「あや、そうなのですか」
「う……まあ、お払い棒もお札も使えないけど、十分対抗できてると思うなぁ」
「それじゃ不十分だからと、こうして特訓しハーフさんにも強要しているのではないですか」
「わかってるわよ……」

 しかし、道具、か。
 自分では不器用だとは思ったことがないけど、どうしても戦闘中に道具を使うという意識がない。
 使おうと思っても、上手く動かない。まるで別の誰かに邪魔されているかのように、満足に扱えないのだ。
 結局、何もない拳を使った体術に落ち着いたわけだけど……ハーフ君だって、それは理解しているはずだ。
 それでも道具を手に入れるとなると、以前のアレの欠点でも見つけたのだろうか。

「アレ?」
「ああうん、私でも扱える道具を一度だけハーフ君が作ったことがあるのよ。でも、ちょっと問題があってね。長く使うことを考えて、結局道具は破棄したの」
「ハーフさんが作る道具に欠点があるなんて、珍しい」
「ハーフ君だって万能じゃないわよ?」
「そうかなぁ。すっごい技術者だと思うわ」

 そこは否定しない。
 多分、幻想郷中を探してもハーフ君並の職人はそう見つけられないと思う。
 刀鍛冶と服飾の技術が両立しないように、普通の職人はそう多くの技術を保有することはできない。
 鍛冶一つ裁縫一つに秘伝があり、口伝か何かで伝えられるような技法を継承する職人はそれ一つを極めることに時間を使ってしまうからだ。
 けど、ハーフ君はゼネラリスト……多種多様の技術をその身に収めている。
 本人に物作りの才能があったことと、半分妖怪ということで人よりも多くの時間をそれらに注ぎ込めた結果だろう。
 薀蓄好きなだけあって知識は豊富だし、魔法の技術まで身につけている。

「そう考えると、ハーフ君ってすっごい技術者なのよね」
「普段はああですからね。人は見かけによらないものです。……っとと、話が逸れましたね。結局、その道具とはなんなのです?」
「うーん、そう難しいものじゃないわ。ただ……」

 口にだすのも何なので、私は小傘と文を手で招き、小さく小声でその内容を告げる。
 小傘はえー! と驚き文は訝しむように眉をひそめた。私も逆の立場なら、二人と同じリアクションをしたことだろう。
 けど悲しいけどこれ事実なのよね。

「簡単なものでしたら、いつでも使えるのでは? 確かに手間もあるかもしれませんが……」
「その手間が問題なのよ。ついでに、一度使ったら使い切るまで止まらないの。ハーフ君が言うには、霊力の総量が増えれば解決案も出せるって言ってたけど、生憎博麗の巫女としては落ちこぼれだからさ、私」
「そんなこと言わないでよ、巫女さーん」

 小傘の悲しそうな声に慌てて謝りながら、私は体を投げ伸ばして横になる。
 ハーフ君が逃げ出したことに、少しショックを受けていたのだ。
 私なりに考えて動いた行動が、ハーフ君の脱走と言う結果に繋がったのだ。
 本来なら、十年あまりの付き合いの中にある軽口の延長上のはずだ。今更この程度で私達の仲がどうこうする訳ではない。
 だというのに、妙に私はショックを受けていた。
 
(わざわざ手紙に残さなくても、面と向かって言ってくれればいいのに)
 
 ハーフ君にした仕打ちを考えれば、直接話しかけることなんてないのだろうが、今の私はそこを失念しており、ただハーフ君にわからずやと思われていることが納得していなかった。
 自分でも説明できない感情に悶々としていると、文がこんな提案をしてくる。

「結局、ハーフさんは道具探しのために留守にするってことですよね。では、我々はその間に犯人探しの続きをするべきでしょう」
「文さんにしては真面目な意見ね。どうかしたの?」
「私はいつでも真面目ですよ? ですが、少し急く理由も出てきましてね。最近、一部の河童に妙な動きがあるのですよ」
「妙な動き?」

 こくりと頷く文。私は続きを促した。

「活発といえば聞こえが良いかもしれませんが、一部実験と称した動きが派手になってきましてね。妖怪の山の中でしたら問題ありませんが、最近は外で実験を行っているようでして……我々は山の仲間を傷つける者は許しませんし、外部を排除したりしますが積極的に周りを敵に回す気は毛頭ないのですよ」
「つまり、河童の実験の動きによっては周りの妖怪を刺激する可能性があるってこと?」
「ええ。前回のロボット騒動のさい、河童はそれらとは関係ないと思っていましたが……どうにも、それに類似した何かを見たという報告もあるのです」
「それって、例の壊れたロボットをいじった河童が、模倣して何か作ったんじゃないの?」
「その可能性のほうが高いのですが……いずれにせよ、問題が解決するまでは河童には大人しくして欲しいのです。上はその動きを抑えるのに動いていまして、我々下っ端へは一刻も早い事件の解決を望まれているのです」
「組織も大変ね」
「ええ。ですから神社に来るのは避難でもありますね」
「人間も参拝しに来るんだから、暴れなければいいんだけど」
「ハーフさんもいませんし、私達三人ならそう暴れることは少ないかと」
「それもどうかと思うなー」

 小傘の意見は軽やかにスルーされ、結局私達は何もしないよりは、と外へ捜索することとなる。

「私は一度山に戻ります。途中で合流できたらしますし、なければ夕刻ごろに神社に集まりましょう」
「わかった。それじゃまた後で」

 はい、と言い残しその場から消える文。
 私もスピードには自信があるけど、文のように長距離間の高速移動は出来ないので少し羨ましい。
 
「それじゃ小傘、行きましょうか」
「あー、その、ごめん巫女さん。私は少し動けないの」
「具合でも悪いの?」
「ううん。ハーフさんに体を弄ってもらったときにね、色々組み込んでもらったんだけど……それが体に馴染むまで、派手な動きは控えるよう言われてるの」
「組み込む? 布や骨組みをいじるだけなら、今まで散々してたじゃない」
「今回は全体の底上げだから、色々新しいのが入ってるからかなぁ。でも無理に動かず、戦闘は持っての他とか言われちゃったから、残念だけど留守番に専念してるわ。それに、もし巫女さん達が出かけてる間にハーフさんが帰ってきたらおかえりって言ってあげられるし」
「そうね。それなら仕方ないか。じゃあ留守番よろしくね、小傘」
「任されました!」

 しゅたっ、と敬礼のポーズを取る小傘を見て苦笑しつつ、私は準備を整えて博麗神社を後にした。
 あ、そだ。どうせだし「アレ」も一応持ってこーっと。




 妖怪の山付近へ訪れた私は、一人勘が導くままに進んでいた。
 光の通りにくい山道を抜けながら、そういえば文と戦ったのもこの辺ねー、とのんびりそんなことを考える。

(そういえば、こうして一人で歩くのは久しぶりかも)

 思えば、最近出歩くときには誰かしらが必ず傍にいた気がする。
 小傘や文が来るようになってからは、サイクルは変われど一人ということはなかった気がする。
 ハーフ君が傍にいてくれたといえ、ずっとくっついているわけじゃなかった。
 あの人と知りあってもう十年くらい経つけど……そういえば、なぜ彼は私に構うのだろう。
 薀蓄を聞いてくれるから?
 話しかけられて無碍にしなかったから?
 私が……博麗の巫女だから?
 考えれば理由は浮かぶけど、そのどれもが予測に過ぎず明確な答えを出すことはできなかった。

「…………ん?」

 何かが地面を這いずり回る音がする。音の感じから、結構な質量を持つ者らしい。
 気になり、音源へ足を運んだ先で私を待っていたのは、音源とは違う別の人物だった。
 そこにぽつんと立っていたのは、水色のワンピースに緑の帽子を被った少女だった。
 背にはリュックサックを担いでおり、きょろきょろと周囲を見回すたびに水色の髪を結ったツインテールが揺れる。
 あれは……妖怪?
 気になった私が声をかけようと寸前、少女の背後から音源の正体が現れる。
 それは、刃物による裂傷を負い全身から透明な体液を垂れ流す身長二メートルはあろう巨大なムカデだった。
 従来よりも異常な成長を遂げているそれを見やり、私は驚きより生理的な嫌悪が先にきた。
 血液か何かわからないけど、虫を潰したときに出る何かを想起させて顔を盛大にしかめた。

「そこの子! こっちきなさい!」
「ひゅい、人間!?」

 間の悪いことに、少女は私の声に驚いて硬直してしまい、さらにその妖怪もどきの巨大ムカデは少女へ牙を向けてくる。
 しかし、妖怪退治の専門家にして近接戦闘のスペシャリストな私からしてみればその動きはあまりにも遅い。鈍重極まりない。
 迫り来る一撃より速く動きつつ、私はねじり込むような回転を交えた蹴りをムカデに叩き込む。
 体液に毒が混じっているとは限らないので、足で仕留めさせてもらおう。
 決して直接触るのが嫌なわけじゃ……ごめん嘘ついた、すっごい嫌です。
 二度相手にするのも嫌なので、かなり本気で蹴ったせいか、そのムカデは吹き飛ばされたのち、ぴくりとも動かなくなった。
 妖怪ならお札を貼るべきだろうけど、これは単なる異常成長のムカデだろう。
 だから死体は放置しても問題ないだろうけど、出会い頭だったし埋めるくらいはしたほうが良いかもしれない。
 ハーフ君も無縁塚でよく墓参りしてるしね。

「スコップはないし、適当に拳で陥没させて穴を……」
 
 って、そんなことよりすることあるじゃない。

「貴方、大丈夫?」
「え、う、うん。なんとか……うわぁ、気付かなかったよ。ありがとう」

 少女がぺこりと一礼し、背後のムカデの死体をしげしげと眺めている。
 そんなのに興味あるのかしら、と思いつつ私は少女に再度話しかけた。

「それより、ここは妖怪の山の付近よ。天狗達に目をつけられる前に離れたほうがいいわ」
「それは私の台詞さね。助けてもらったから言うけど、人間がここにいたら危ないよ」
「大丈夫よ。私一定期間顔パスだから」
「はあ? 人間がそんなことあるはず…………あんた、博麗の巫女?」

 じろじろと私を眺めるように見据えていた少女がそうつぶやく。
 私は否定もせず頷いた。

「そうよ。そう言う貴方は?」
「ごめん、紹介が遅れたね。私は河城にとり。ふふふ、河童のにとりと言えば有名なんだぞ」
「で、その有名なにとりさんがどうしてここに?」
「う、流されると結構悲しい……まあいいや。ちょっと頼まれごとを――」

 にとりが全てを言い切る前に、私は突如感じた怖気から逃れるように横っ飛びにそこから離れた。
 次の瞬間、私が立っていた場に着弾する光の弾。
 妖怪が使う弾幕ではない、貫通性を持った光弾……レーザーだ。

「ちぇっ、外しちまったか」

 茂みを揺らして現れた人影に、私は思わず目を見開く。
 その少女は幻想郷では見ることが珍しい服装をした人間だった。
 
「セーラー服……? 学生……?」
「うん? 原住民にしては物を知ってるみたいだな。ま、にとりみたいにここは外観だけじゃ判断つかないから、当然か」

 にとりの名をつぶやく少女に思わず私は彼女を見るが、にとりはにとりで怒りを顔に宿して少女へ怒鳴っているところだった。

「こらちゆり! この人間は私の恩人なんだよ!? いきなりなんてことしてんのさ!」
「あー、そうなのか? てっきりターゲットの補足かと思ったぜ」
「違うってば! この人間は博麗の巫女。そう簡単に手を出しちゃ――」
「なーに言ってんだ。巫女はいなくなれば代替わり、いなくなるならその程度ってことだろ?」
「それをするのは妖怪であって、同じ人間同士でする理由ないでしょ?」
「ご主人様の実験内容は知ってるだろ? 幻想郷を統べる巫女、まさに相応しいじゃないか」

 置いてけぼりで話が進んでいるようだけど、なんだか胸騒ぎが収まらない。
 話の内容がどうにも不穏というか何と言うか。逃げていいかな?
 でも放置しておくのもなんだしなー、と頭を抱える中、ちゆりと呼ばれた少女が持つ何か……いや、あれは――

「銃!?」
「小さくても必殺の武器だぜ」

 放たれた光弾を横っ飛びに回避し、戦闘態勢に入った私はちゆりへ接敵する。
 一瞬の内に懐に潜り込んだ私は、ちゆりが銃をこちらへ向けるより速く掌底をちゆりの胸元に叩き込む。
 加減はしたけど、人間なら一日は絶対に目覚めない威力を込めた。昏倒は免れないはずだ。

「さて、説明してもらうわよ?」

 どうやら彼女と知り合いらしいにとりから事情を聞くべく首を向けるが――私は考えるより速く体を半身ズラした。
 それが正解だと気づいたのは、体の先にあった木に熱で穿たれた穴が作られてからだった。

「うん、説明してもいいけどまずは無力化させてからがいいな」
「………………どうやら、単なる人間じゃないみたいね」

 一撃はまともに入った。ハーフ君だって気絶する威力だった。
 けど、ちゆりにダメージらしいダメージは見受けられない。
 どうして、という疑問はすぐに消し飛んだ。
 理由は知らないけど、ちゆりは私をどうにかしたい模様だからだ。
 捕縛かあるいは拉致かは知らないけど、二度も撃たれては交渉の余地はない。
 拳を構えながら意識を切り替える。目の前の相手は妖怪に等しいと、そう自分に言い聞かせる。

「あわ、あわわわわわわわわ」

 にとりの慌てたような声に答える余裕はなかった。
 妖怪退治における殺し合いならともかく――案外、私は売られた喧嘩は買い叩くからだ。
 おそらく私から漏れでた殺気がにとりを萎縮させているのだろう。ごめんなさいね。

「とりあえず――口が聞ける程度にぶっ飛ばしてから話を聞かせてもらうわよ」

 物騒な言葉を吐く私。朝のショックで受けたストレスを、ここで発散するいい機会だと思ったのだ。
 にとりの悲鳴が轟く中、銃声と地を駆ける音が同時に鳴り響くのだった。






 第14話


 束ねられた岡崎の髪が揺れる様子を眺めながら、僕は彼女の案内の下に妖怪の山を歩いていた。
 人里に向かうものとばかり思っていたが、岡崎にそんな様子はなくむしろ妖怪の山を我が物顔で歩いている。
 と言っても、天狗に見つかるような正面口でなく、迂回して入るように歩く彼女はむしろ侵入者と言われたほうが納得できるかもしれない。
 気になった僕は、雑談の意味を込めて岡崎に話しかける。

「随分と回り道をしているようだが、君の住居は本当にこんなところにあるのか?」
「ええ。今はこの山で住んでるけど、それがどうかした?」
「ここは妖怪の山と言って、幻想郷の中でも特に組織だった妖怪達の住居だ。そして何より彼らは外部からの侵入を嫌う傾向にある。人間の君がそんな場所に住んでいると言われても、いまいちピンとこないんだよ」
「先入観は先の見通しの妨げよ。今までそうだとしても、これからずっとそうなるわけでもないでしょ? ルールはどこかで必ず綻びが生まれるものじゃない」
「幻想郷においては、そのルールを破った者には相応の処罰があるはずなんだがな。まさか君は妖怪退治の類なのか?」
「それこそまさか。そんな力があれば欲しいくらい」
 
 肩をすくめる岡崎。 
 最初に出会ったときもそうだったが、彼女は必要以上に「魔法」という単語、いや力に固執している気がする。 
 妖怪を倒すための力はあるようだし、魔法の技術自体はそう珍しいものでもないはずだが……?

「どうして魔法を求めているんだ?」
「その存在を実証したいから。私の教える学問には魔力と呼ばれる要素を含んだ力の存在は確立されていないから、それを証明したいの」
「魔力の存在が確立しない? そんな馬鹿な」
「そうね。幻想郷に住んでる貴方なら、そう言うわよね。けど、私の住んでる世界にはそれがなかったのよ」

 会話を交える中、僕は岡崎という少女の正体がわからなくなっていた。
 最初は人里の人間、或いは妖怪退治の類か何かだと思っていたが言っていることがどうにもちぐはぐだ。
 人里には寺子屋らしいものはないし、あったとしても専攻するほど何か一つを突き詰めているわけではない。
 基本的な教養さえ身に付けてしまえば、あとは日々の糧を得るため一日中畑仕事などに精を出していて、そんな暇はないはずだ。
 となると、この少女は……

「だから!」

 急に振り返った岡崎に手を取られ、彼女の顔が間近に迫る。
 鼻と鼻がぶつかるか懸念するほど狭まった距離の中、岡崎の輝く瞳に僕の顔が映っている。

「派手でも戦闘用でもなかったけど、貴方が魔力を使ったときは感動したわ~。よくよく考えればエネルギーの問題さえ解決すれば船の一つも収納できそうな技術だし、それを調べるのは当然として他にも何か教えてもらうから」
「何を言いたいのかよくわからないが、基本的に魔法は隠匿するものだ。誰かに素直に教えるようなものじゃないよ。ついでに言えば僕のメリットが全くない」
「メリットがあればいいの?」
「対価次第だな」
「一時的に私が貴方のものになってあげるとか?」
「もっとマシな冗談を言ってくれ」
「魔法が手に入るなら結構本気だけど? もちろん、それなりの条件はつけるけど」

 手を離し、やれやれと言わんばかりに首をすくめる岡崎。
 そうは言われても、彼女に何が出来るのか知らない僕からすれば外見以外で見るべきところなど何もないと言うのに。

「君をもらって何ができるんだか」
「あら、こう見えても人間に出来る範囲ならそれなりのことは出来るわよ?」
「へぇ。じゃあ一応聞いてみようか、そうだな……永久機関とは言わないが、長時間尽きないエネルギー源に心当たりはないか?」
「エンジンで良ければ、材料もあるしぱぱっと渡せるかもしれないけど、でも貴方が求めてるのはそうじゃない。詳しく説明お願いできる?」
「(エンジン?)ああ、ちょっと新しい道具を作ろうと思っているんだが、中々上手い解決案が出なくてね。道具というのは……」

 言いながら、以前設計し、考案した道具の中身を岡崎に教える。
 岡崎は一つ頷き、口を開いた。

「随分簡単な道具ね。貴方の収納魔法のほうがよほどすごく思えるわ」
「渡す相手は道具の扱いを苦手としているからね。単純なほうが良い」
「そ。それならカートリッジみたいな外部機関を作るのが手っとり早いだろうけど……」
「カートリッジ……?」
「銃で例えれば、あらかじめ弾を詰めた保管箱ね。はめ込み式の交換部品ってとこかしら。エネルギー源は、バッテリーとも言い換えられるわね。ほら、こんなの」

 そう言って岡崎が服の中から取り出したのは、掌に収まる大きさの小箱だった。
 四角形のそれには金属でできた管や明滅するボタンなど、僕の理解の及ばぬ構造から作られている。
 科学技術の産物の一つだろうか?

「こんな小さなものでエネルギーが賄えるのかい?」
「そうよ。今は不足気味だけど、これ一つで幻想郷の人里一つに電力配布してもお釣りがくるわ」
「電力?」
「電気の力ね。私らは統一原理って呼んでるけど」
「魔力のようなものか。にしても、統一原理とは?」
「全ての力が統一原理によって説明できた、といわれている力よ。重力、電磁気力、原子間力……呼び方の色々ある力も、これ一つで全て説明できるって言われる理論よ」

 薄々感づいてはいたが、僕はここで確信する。
 岡崎が幻想郷在住の人間でなく、幻想郷より遥かに文明の進んだ技術を持った外の世界の人間である、と。
 だがここで一々指摘するほど僕は愚かではない。
 抱えていた道具の問題解決が出来るかもしれないし、最大限教えを請うとしよう。

「説明してもらった道具だけど……すぐにエネルギー切れになるなら、それを随時チャージすることができれば問題ないんじゃない?」
「その手間がね。意識一つで出来るなら、思念魔法を応用した切り替え式で起動できるだろうけど、彼女は弾込め一つにも手間取るからな
ぁ……日常生活なら問題ないけど、戦闘中にそれは致命的さ」
「思念魔法? デバイスか何かに組み込む思念端子みたいなものかしら。ようはリロード、弾の詰替えに手間取るから、問題が発生してる
ってことでいい?」
「ああ。渡す相手の霊力が強ければ、さっき言った思念の用途を混ぜ込んで意識一つで装填が出来るように仕上げるんだがね」
「結構さらっと言ってるけど、貴方どれだけふざけた技術持ってるの?」
「僕からすれば、見知らぬ知識を持つ君のほうがふざけてる。まだまだ保有していそうだしね」
「あら、興味持たれました?」
「至極、ね」

 互いの唇が歪む。
 恋人同士のような甘酸っぱい雰囲気はそこになく、ただ己の興味を惹き好奇心を満たすための存在を見つけたことによる、本能を超える歓喜の感情。
 求道者特有の、半ば倒錯に近い感情。
 男女という異性の垣根を超えて、僕たちは目の前にある人の形をしたおもちゃ箱に夢中になっている。
 或いは、己が学び得た成果の理解者。
 種類は違えど、同じ視点で同じ方角を見つめ合える相手。
 そんな、予感がした。

「ねえハーフ――」
「……すまないね岡崎。雑談の時間は終わったらしい」 

 岡崎も僕と同じ気持ちにでもなったのか、唇を笑みの形に刻んだまま口を開こうとするが、生憎そこに邪魔が入ってしまった。
 そこは妖怪の山の中では珍しい、光の届く場所にして少し開けた場所だった。
 山地にしては平らな地面が広がっているものの、十数間(一間=1.8メートル)の先では小川が流れていてそれ以上の進行を阻めている。
 飛び越せないことはないが、乱入者がいる状況で五間程度の長さを岡崎を抱えたまま飛び越えるのは僕には中々厳しいところである。 
 行き止まりと評してもおかしくないこの場所で、僕は随分と物騒な相手に出会ってしまったのだ。

「…………あれは…………」
「最近幻想郷を騒がせている、『ロボット』らしい」

 つぶやきながら、僕は以前巫女と文が協力して仕留めたゴーレムもどき、通称ロボットに酷似した相手を見据える。
 同型なのか人型で形成されているが、あのロボットとはやはり形が違う。
 全身は白銀の装甲に包まれており、頭には左右に突起物が生え口は丸い形になっている。手足の部分だと足は普通なのだが、手が身長に近いほどの長さ…少なく見積 もっても僕と同程度の長さである。
 全身にはいくつもの管のような物が突き刺さっており、何か循環による動力で動いているようにも見えた。
 原動力は……魔力? いや、管から少し漏れているのは液状の何か……水気を応用した妖術?
 確信の持てない僕は岡崎を横目に見やる。
 もし推測通り幻想郷の外からの来訪者なら、このロボットの持ち主は――

「何かしらあれ、統一原理で動いてないみたいだし……今の幻想郷にあるパーツから組み合わせてるようね。素敵。まさかここまで再現できる技術があるなんて」

 言葉からして、残念ながら岡崎の持ち物ではないらしい。
 となると、あのロボットを調べた誰か、おそらく河童がこのロボットを作り上げたということだろうか。 

「なんて傍迷惑な」

 河童の好奇心は天狗に劣らないと文に聞いていたが、まさか実物を作り出すほど突き詰めているとは思わなかった。
 このロボットが河童の作品であるというのも推測でしかないが、おそらく高確率で当たっているだろう。
 岡崎の持ち物でない上に、ここまで高度な技術を駆使して作られた自律人形など、作れる奴がいたら教えて欲しいくらいだ。
 そうなると真犯人、というより事件の顛末は河童の暴走にあるのだろうか。
 岡崎のことを問いただしてもみたいが……それにはまず、目の前のこれをなんとかしなければならない。
 そしてそれは僕の役目では、ない。
 となれば、選択は一つ!

「逃げるぞ、岡崎!」
「はぁ? ええ!?」
「こんな奴を相手にしていられるか――」

 閃光が迸る。
 球状かと思いきや筒状だった口の中から吐き出された光線が僕と岡崎に襲いかかってきたのだ。
 なんで私もっ、という岡崎の声を聞く傍ら、このロボットに関して彼女は完全に白と割り切ることにする。
 ポーチからお札を取り出し、投擲。
 放られた札は光線を吐き出した硬直後だった隙を縫ったため、避けられることなくロボットに貼られ、内なる力を解放する。
 霊力の煌めきが放電しながら散らす中、全く無傷のロボットの首が再びこちらへ向いた。――狙いは岡崎だ。
 咄嗟に岡崎の手を引いて射線から外し、腕の中に彼女を抱えながら左掌へ魔力を送り霊印を起動させる。
 蓄積情報の魔力から作り出されるのは、アリスとの戦いのさいに拾った名無しの汎用魔道書。
 お札が効かない以上、それ以上の攻撃を持って引かせる他ない。倒すなんて考えは元からなかった。

「うわすごい、魔道書!?」
「そうだよそうだから今は離れててくれ!」

 ページを開き、字をなぞる。
 それだけの動作で発動した爆炎が、僕達とロボットの中心部で炸裂し、粉塵をまき散らせる。
 今の内に……!

「ダメよ、ああいったのには熱源センサーが搭載されてるはずだから、目くらましは無意味……!」

 腕の中で叫んだ岡崎の言葉が証明されたのは、煙幕の晴れた先、僕が逃げ出した方向へ鎮座するロボットの姿を認めてからだった。
 凄まじい速さ。しかも音が聞こえず、消音効果も半端ない。本当に幻想郷の技術で作られたものなのか?
 再び発射される光線。僕も岡崎もなんとか体に当たることなくそれを避けたが、岡崎の方向から何かが焼き切れる音がした。
 ブチ。
 いや、焼けてないな。とにかく、キレた音だ。

「ちぃ……!」

 魔道書をいつでも起動できる体勢を維持したまま、油断なく身構える。
 岡崎を連れて逃げ切るのは不可能だ。自分一人なら逃げ出す自信はあるが、彼女がいる以上その手は使えない。
 見捨てるという選択肢は元よりない。
 彼女は僕の疑問に答えてくれるかもしれないし、多分妖怪の山の騒動に関わっている。数々の言動がそれを証明しているからだ。
 ならば、彼女の住む場所を突き止め巫女や文に報告すれば何かしらの進展を迎えられるはず。
 そうでなくとも、彼女の持つ知識には興味がある。
 それに……家に送るとも約束してしまったしな。
 知識はともかく、身体能力がただの人間である岡崎に山々を走り回らせるのは体力的に厳しい。
 となれば、抱えて移動するしかないが、あのロボットを一時的に動けなくするまで今は下がっていてもらおう。
 僕は抱えた岡崎を離し、避難してもらうよう言ったのだが、

「岡崎。邪魔だから下がって……岡崎?」
「うーふふふそーかそーなのね飼い主に手を噛まれるとはこのことなのかしら折角人が一からモノを教えて科学技術の発展に協力したって言うのに恩を仇で返すとはこのことねあらあら私が正の光子と光波しか使えないから馬鹿にしてるのちょこっと生まれが違うだけでそんな誇らしいことじゃあるまいし私だってここに生まれていれば魔法の一つ二つむしろ大魔法使い悪霊でもどんと来い…………」

 見れば、顔を俯かせて何かぶつぶつと僕には小声で何かを言い続ける岡崎。
 正直、怖い。
 キッ、と擬音が聞こえるくらい鋭さを持った岡崎の視線に怯えていると、彼女はどこから取り出したのか前突の尖った金属管を取り出した。
 筒のような丸みを持ち尖端にもそれは帯び、柄らしい柄も見受けられない。
 柄があるべき下方部分は太く、空洞のような穴がそこにある。なんだあれ……?
 僕の眼で見てみると、名称は四次元ポジトロン爆弾。用途は……

「さあ、こいつで幻想郷ごと吹っ飛ば……」
「やめろ!」

 手頃な魔道書で岡崎の頭をはたく。
 少女を殴ることになってしまったが、それは些細な罪悪感である。
 この岡崎、何を血迷ったか地球壊滅の用途を持った爆弾を使おうとしていたのだ。
 多少の良心の呵責など投げ捨ててでも止めるべきだ。

「幻想郷を消滅させる気か!?」 
「だ、だって~」
「だっても何もない! そんなの使うなんて馬鹿か、馬鹿だからかな、ちょっと褒めた自分を罵倒したいくらいだ!」
「いちいちうるさいなー」
「やかましい! そこをうるさいですませる君の思考回路を知りたいよ早く非常に速やかに!」
「も~、いちいち気にしちゃって、小さい神経してるわね。素敵。ううん、可愛いって言ってあげる」
「っさい! 可愛いとか言うな!」

 そんな掛け合いを裂くような閃光が閃き、僕と岡崎は同時に横っ飛ぶ。
 むしろ今までよく攻撃してこなかったな。空気を読んでいるのか?

「これならどうだ!」

 そう言って岡崎が投げたのは、名称を夢幻爆弾。用途は広範囲に衝撃を撒き散らすものだった。
 制圧力の高い広域の衝撃波をまともに受けたロボットの動きが若干の鈍りを見せる。
 岡崎曰く、少し知覚が鈍ったとのこと。
 その隙に近くの木々の隠れる。今が作戦会議のチャンスだ。

「岡崎、確か回数限定式の切り札があるって言ったな。今の含めて、何回使えばあいつを倒せる?」
「さっき無理になったわ」
「何だって?」
「さっきのあいつの攻撃で、バッテリー機関が潰されちゃったのよ。帰れば予備もあるけど、今は動力切れで私の持ってる道具は大半役たたずよ。夢幻爆弾は手持ちも少ないし」
「さっきの話と照らし合わせるに、要はエネルギー源さえあればあいつを無力化できるってことでいいかい?」
「そうね。多分大丈夫」
「…………その言葉は信用しても構わないか?」
「私があいつに対して怒ってる度合いくらいには」
「なら安心か。残る問題はあいつを引き付けないといけないんだが……」
「ん? 時間稼ぎ? それくらいなら私がしてあげる」
「出来るのか?」
「ほら」

 言って、岡崎は服の裾をめくる。
 柔肌をさらすとは破廉恥な、と思ったのも一瞬そこには服にも見間違うほどの薄さと繊維を併せ持った軽装甲が仕込まれている。僕の目でなければ鎧と見抜けず、単に服の下に着込んだ肌着にしか思えなかっただろう。

「パワードスーツって言ってね。この中に武術の達人のデータとか、色んなのが入ってるから私でもすっごい動きができるのよ」
「…………………………式神のようなものか」

 詳しいことはわからないが、武術の達人並の動きができるのであれば足手まといにはならないだろう。
 なら、わざわざロボットを相手にする必要はない。

「岡崎。さっきの夢幻爆弾をばら蒔いて牽制してくれ。その隙に逃げる」
「嫌よ」
「は?」
「少なくとも、あれを放置して逃げるなんて真似できないわ。徹底的にぶっ壊してやるんだから!」
「落ち着け。道具が万全じゃないんだろう? 逃げられるなら、体制を立て直す……」
「正論なんて大嫌い! 貴方、さっきなんとかするって言ったじゃない。あの言葉は嘘なの?」
「いやそれとこれとは話が違……」
「とにかく! 私があいつを引きつけて時間稼ぐから、後はよろしく頼むわね」

 駄目だ。短い付き合いの中でも、岡崎は前言を撤回するような理性的な少女でないことは把握している。
 となれば、覚悟を決めて付き合うしかないだろう。……全く、面倒な。

「わかったよ。その言葉、さっきと合わせて信用するぞ」
「任せなさい。で、私は何をすればいいの?」
「その魔力……いや、統一原理の切れた武器をくれ。そいつに魔力を流して起動させる」
「はあ? 動力が違うと動かないわよ」
「そこは逆に、僕を信用してくれ」
「……その言葉は信用しても構わない?」
「僕が今すぐに戦闘を逃げ出したいと思うくらいには」
「なら安心ね」

 僕に差し出されたのは、なんと岡崎と出会う前に拾ったビームガンと同型の銃だった。
 と、すると僕が拾ったのは岡崎の武器だったのか。ま、予備があるなら一つくらいもらっても構わないだろう。

「パワードスーツのレベルを調節して、と……さ、来なさい! この私を敵に回したこと、スクラップの中で後悔するといいわ!」
 
 木々の中から飛び出してマントをはためかせ、勇猛に吠える岡崎。
 その姿を頼もしく思う反面、期待を裏切った時が凄まじく怖かった。
 そのためにも、失敗は許されない。
 岡崎とロボットが同時に動く。
 右薙ぎに迫り来る銀腕を避け、岡崎は首筋の辺りへ蹴りを一閃させる。僕の見立てでは体を覆う装甲は従来の銀よりも硬く、その硬度は鉄をも簡単に上回る。いくら外の世界の式神を見にまとって力を底上げしているといえ、あれでは体が持たない。

「流石私の教え。ここまで私らの世界のものに近づけるなんて……素敵」

 人事のようなぼやき声を出す岡崎に、ロボットが再び攻撃を仕掛ける。
 上段から繰り出された腕を叩きつけられる前に、ロボットの後ろに回り込む。
 蹴撃はまたも弾かれるが、ロボットは背中越しにその腕を振るう。
 岡崎は小さく屈んでやり過ごすが、腕がムチのようなしなりを見せ、その軌道を変えた。

「んもう、煩わしい!」

 とっさに防御姿勢を整えて打点を上手くずらすが、ロボットの遠心力と腕力に負け、大きく吹き飛ばされる。
 体勢を立て直そうとしている所へ、その巨体からは信じがたいほどの速さでロボットが迫る。
 正面まで移動したかと、今度はその両腕を岡崎に叩きつけた。
 前に転がって直撃を逃れる岡崎だったが、両腕がしなり先程相手にしたムカデのような動きを見せ、がら空きの背中を狙う。
 一瞬の判断で跳躍し、ロボットの頭の部分を蹴って一旦間合いを取り、難を逃れる。

「厄介だな。つくづく厄介だ」

 僕は初めて見る動きを見せる相手に戸惑っていた。妖怪でも人間でもない、新種の生物を相手にしているから当然かもしれないが……
 そんな危機的な状況の中、早く岡崎を援護しなければ、と僕は右手にビームガンを握り、左手を魔道書に添えた。
 起動する霊印。顕現する太極図。
 八卦炉の調合をイメージしながら、僕は太極図の中に魔道書を放り込みその用途の情報を整理していく。
 抽出するのは魔道書本体ではない。
 岡崎にも、巫女達にも全貌を話していない僕の切り札。

「ビームガンに、魔道書の用途を溶かし込む!」

 左掌から漏れる魔力光を、僕はビームガンに叩きつける!
 太極図を通して情報から再構成される魔力。そして抽出した用途の力を右手のビームガンに注ぎ込むためだ。
 永続的な定着は必要ない。使うのはこの一時、この戦闘を終わらせるためだけでいい。
 そう、魔道書の用途……炎や雷撃の力を、このビームガンの薬莢に与えるのだ。
 僕が行っているのは何も難しいことではない。
 八卦炉を作るさいに行った、用途の抽出、混入、定着を短い時間だけ行うだけだ。
 道具として作る場合は、永続的に用途を出し続けるための作業を行わなければならないが、この場合は数分と持たずに消えてしまう用途を混ぜるだけだ。
 しかし、戦闘中に道具の用途を移し変えて使うというのはかなりの脅威である。
 その辺の小石にお札の用途を移してしまえば、僕にとってはわざわざお札を用意せずとも無限に武器が散らばっていることに他ならない。
 だが、これらは道具作りよりもさらなる消耗を必要とする。べらぼうに疲れるので、そう何度も出来るものではないのだ。
 さらに、使用した用途の分だけ元の道具からそれが減っていく。用途を半分移し変えても、元の道具には半分の力しか残らないのだ。無論、移し変えて消えた用途は永久に戻らない。
 戦闘中に使ってしまえば、逃げる体力も奪われ元の道具から用途も失われ、本末転倒になってしまう。
 それはあくまで、一人なら、の話である。
 今回は岡崎という協力者がいることで、若干の余裕がある。ゆえにこの方法を取ることが出来るのだ。
 ともあれビームガンの動力はこれで確保した。
 用途を移したことで起動に魔力を必要とする。
 この空薬莢内には魔道書と本来の用途が合わさったことで、元来統一原理とやらで動くはずの銃弾を魔力で代用することが可能となり、さらに用途の混同により強力な一撃として放てるはずだ。
 僕がその切り札を人知れず展開する中、岡崎とロボットの戦いも佳境に入っていた。
 勝負はやはり火力の乏しい岡崎が不利に進んでいるようだが――これで結果は変わる!

「岡崎!」

 叫び、互いに距離が離れたことを確認すると僕はビームガンを岡崎へ放り投げる。
 唖然としつつもっと優しく扱えと怒号する岡崎だが、僕の意識はその後のことへ移っていた。
 岡崎の後ろへ回りこむような動きを見せつける。仕留め損なったときのための行動だ。

「仕留めきるわよ!」

 僕の行動を察したのか、ビームガンを空中で受け取った岡崎が吼える。
 ビームガンのスライドを引き、弾が入っていることを確認して僕を見据える。
 その眼が「どうやってやったの?」と訴えていたが、今はそれに答える余裕はなかった。
 岡崎も何も言わず、ビームガンをロボットに向けて構える。
 同時に迎撃行動に移るロボット。
 口から光が漏れる。発射されるのは目前。
 それらの引き金を引いたのは――

「ウラシマエフェクト!」

 岡崎のほうが早かった。
 後方へジャンプしたかと思えば、ビームガンより射出された様々な属性を持った光条が幾重にも閃く。
 ビームガンの小さな発射口より乱射された光線の乱舞がロボットを貫く。
 だがロボットもさることながら、あの光線にさらされながらも反撃を試みようと地面へ着地しようとする岡崎へ手を伸ばす。 
 完全に仕留めたと思っていた岡崎は動けず、その凶手から逃れることは出来なかった。
 ――そう、僕がいなければ、だ。
 再び左掌へ魔力を送り込み、今度は八卦炉を取り出す。
 反撃は許されない。僕はロボットの黒く煤けた銀腕が岡崎に叩き込まれる直前に二人の間に割り込み、八卦炉の力を解放する。

「太上老君式折檻術!」
 
 宣言と同時に炉の蓋が魔法によって開け放たれ、荒れ狂う台風の中に紛れ込んだような強風が僕へ殺到する。
 正確に言うならば、炉の一部を解放したと同時にその中へ周囲の物を吸い込んでいるのだ。
 かの太上老君が生み出した宝具、八卦炉。
 斉天大聖孫悟空を閉じ込めたとされる伝承の通り、この八卦炉には相手を閉じ込める機能も備わっているのだ。
 僕はそれを使いほとんど鉄くずに近い状況のロボットを、手に収まるサイズの八卦炉の中に取り込む。
 八卦炉の力によって大きさが縮小されることで、たとえどんなに巨大な相手でも性能が許す限り炉への捕縛を可能とするのだ。
 さらに三昧真火の炎により、融解にも等しい熱度にさらされたロボットの体は、くずと表現することすら生ぬるい状態へと変貌する。
 孫悟空のように炉の一角、風をあらわす巽(東南)の方向に身を隠し、火を避けるなんて真似はできないだろう。
 トドメとして八卦炉の風の力を用いて、僕はロボットを排出して吹き飛ばす。
 予想通り、そこには白銀の装甲を溶かし機動を停止させたロボットの姿があった。
 苦戦はしたが――どうにか、僕らの勝利であった。

「………………くはぁ」

 溜め込んでいた息を吐き出す。
 最後の最後で危なかったが、どうにか撃退することが出来た安堵で僕は一息ついた。
 出来るならそのまま座り込みたかったが、残念ながらそうもいきそうにない。何故なら。

「…………岡崎。何してるんだ?」
「見て分からない?」

 岡崎は地面にうつ伏せになって、そこから動こうとしない。いや、手だけは僕に向けて投げ伸ばしている。
 正直、倒れていると言われれば素直に納得するのだが。

「倒れてるのか?」
「どこを見てそう言えるのよ」

 いや、何もかもがだよ。

「バッテリー完全に切れたわ。パワードスーツすら動かせないの。服の下に着込んでるから、統一原理の加護が切れて重力操作も切れたから、かなりの重さが私の上にのし掛かってるわけ。そして私は先程大立ち回りを演じて体力を削られている。さてハーフ。ここから導き出される答えは――」
「ようは動けないってことだろう?」
「素敵、正解よ。ついでに」
「ついでに言えば、もう動けないから抱えて移動してくれと?」
「先読み? テレパシーすら持ってるの? 素敵よ」
「いや、なんというか……君と似たような行動を取る知り合いがいるからね」

 巫女とか巫女とか巫女とか。
 先日も背負って帰ったしな。

「まさか、背負って移動しろとは言わないよな」
「その通り。感謝しなさい、女を背負って運ぶなんて男に許された尊い義務の一つよ」
「したくないことをする義務なんて聞いたことない」
「何よ。私のおかげでこの場を切り抜けられたんだから、感謝の言葉の代わりに行動で示しても文句ないはずよ」
「そう言われると、何も言えないから困る」

 僕がしたのは、魔道書を少し使ったことと、その用途をビームガンに移したことと、八卦炉の力を少し使ったくらいだ。
 比べて、岡崎はロボット相手に大立ち回りを演じた。
 行動の回数で僕が上だが、疲れという点では圧倒的に岡崎に軍配が上がる。

「しかし、君くらいの年齢の少女が知りあって一日も経ってない男におんぶされてもいいのかい?」
「なら、回復するまでここにいる?」

 妖怪の山で派手な戦闘をしてしまった以上、天狗に見つかるのは時間の問題だ。
 正直、僕は文と知り合いだしこの件に関しては通達もあるだろう。困ることなど一つもない。
 ないはずなのだが……

「じー……………………」
「わざわざ言葉に出すな」

 顔を上げ、視線を僕に向けながらも岡崎は差し出した手を収める様子はない。
 天狗に見つかって困るのは岡崎だが、そうすると彼女は天狗の手によって処罰を受けるだろう。
 まだ大事らしい大事は起きていないが、妖怪同士ならともかく人間にすることなど一つしかない。
 そうなると、岡崎は……

「……………………はぁー」

 頭を掻きつつ、僕は損得勘定と目的の達成や約束の内容、何より好奇心と天秤にかける。
 だが、そんなことせずとも、答えはすぐに出ていたのかもしれない。
 何故なら――

「やっぱり素敵ね。これから名前で呼ぶことを許可するわ、ハーフ」

 差し出された岡崎……いや、夢美の手を握り返しながら、僕は久しぶりに心の底からのため息をつくのだった。









 拳がちゆりの腹部を穿つ。
 それに苦悶するでもなく、ちゆりは平静な顔を刻んだまま右手に持つ銃を私に向ける。
 頬を掠める光弾の熱さを意識する前に私は銃口の先から逃れ、軽く小刻みなステップを踏みながら攻撃を逃れる。

「ちっ、ぴょんぴょんぴょんぴょん……少しは当たりやがれ!」
「何巫山戯たこと言ってんのよ」

 乱射される光弾の群れをかいくぐり、こちらも拳と蹴りを含めた乱打をお見舞いする。
 動きに対応出来ていないちゆりはその全てを受けて吹き飛ぶも、すぐに体勢を整えて攻撃を再開する。

(まるで効いてない……)

 これで何度目か。まともに私の攻撃を受けているにも関わらず、ちゆりにダメージらしいダメージは見受けられない。
 服の中に帷子でも仕込んでいるのか、何か金属のような感触はあれど、ロボットを吹き飛ばす私の拳の前に鉄の装甲など意味をなさない。
 だから、おかしい、と何度も心の中でつぶやくが現実はそれを容易く否定する。
 何度目かの攻防の中、すでに私の中で決着はついていた。
 ちゆりの動きは武術家のような、いわゆる達人に近い動きだ。ハーフ君や小傘であったなら、おそらく問題なかっただろう。
 だが私や文から見ればまだまだ不足。ちゆりの銃口や動きが手にとるように見える。
 最近文との特訓をする前だったら苦戦したかもしれないが、今の私から見れば取るに足らない。
 攻撃が当たらなければ負けることはない。だが、こちらの攻撃もまた相手に通らない。
 お互いの攻撃が欠ける千日手の中、私はいまだ戦いを見て慌てているにとりを見やる。

「ど、どどどどどうすれば…………」

 戦闘の最中だというのに、どちらに加勢するでもなくその場に留まっている。
 ちゆりとは顔見知りのようだし、さっき私のことを庇っていたし……彼女の中の人情がせめぎ合っているのだろう。
 それはそれでいい。少なくとも、敵が増えないのだから。

「くっそー……まったく当たりやしない。本当に原住民の人間か? 妖怪じゃないのか?」
「失礼ね。純度百パーセントの人間よ」
「だったらなんで私のパワードスーツに入力したデータ以上の動きをしてるんだぜ」
「(変な口癖……)鍛えてるから」
「ご愁傷さま。女の身で腹割れしてるなんて災難だな」
「生憎肉体に恵まれてるみたいで、女の肉付きを維持してるわ」

 軽口を叩き合いつつ、ちゆりの言ったパワードスーツなる単語に眉をひそめる。
 そんなもの、この幻想郷にないはずの技術なのだから。

「パワードスーツって……貴方何者? 少なくとも、幻想郷の住人じゃない。河童でもそこまで高度な技術は持ってないはず。ここの技術より何世紀も先の代物じゃない。まあでも納得行ったわ。貴方の動き、対人に特化してるもの。妖怪相手に生き抜く動きじゃないわ。貴方の知ってる武術の達人のデータを入力して技術を借りていたのね」

 そういうと、先程までの軽口はどこへ言ったのやら真剣味を帯びた瞳で私を見据えるちゆり。
 何かおかしいこと言った?

「……おまえ、本当に博麗の巫女か?」
「当然でしょ。何を言って…………」
「パワードスーツの概念理解してなきゃ、そんな言葉出てこないぜ」
「え?」

 厳かにつぶやかれた台詞に、私は戦闘中にも関わらず間の抜けた声を上げる。

「博麗の巫女ってことは、ここで生まれてここで育った人間のはずだ。霊能うんぬんの知識が負けるのはあるかもしれないけど、科学技術に関しては河童と巫女の間に流通していたことはない。……となると、おまえどこでそのこと知ったんだ?」
「…………外の世界の本でも読んだのを覚えてたんじゃないの」
「嘘だな。いや、無理だって言い換えてやる。私らはここより5世紀は未来から来てる。仮にこの時代の外のモノが流れてきたとしても、パワードスーツの概念なんてあるはずないんだ。……もう一度聞く。おまえ何者だ?」
「…………………………」
「教える気はないってか」

 返したのは沈黙。いいや、沈黙しかできなかったのだ。
 言われてみると……どうして?
 ハーフ君が鉄人形と称したロボットについても、私の口は何の躊躇いもなくその単語を紡ぎ出した。
 それが当然と言わんばかりに。当たり前とばかりに。
 子供のころ、ハーフ君が溜め込んでいた外の世界の本をうっすら覚えていたとばかり思っていたけど……本当にそうならハーフ君は正確な名称を言っただろう。
 彼は名にうるさく、何より無駄に知識に富んでいるのだから。
 でも、私はどうして……そんなことを知っているのだろう?
 以前、誰かに教えてもらったことがある……?

「博麗の巫女さんよ。あんた少なくとも異常だぜ。話に聞いていると才能は歴代最低らしいし、霊能より武術みたいだし、何より妖怪退治をする人間が妖怪を囲ってるって話じゃないか。異常だ、異常すぎるぜ。少なくとも河童に聞いた昔の巫女と比べると明らかに異常だ。なんつーか、妖怪を退治するものじゃなくて、理解するものとして見て無いか? それこそ、私ら人間のように」

 心臓の音がやけに大きく聞こえる。
 うるさい。すごく、うるさかった。
 音も、声も、何もかもが煩わしい。
 だから、音を消そう。
 そう思い至った時、私はすでに行動していた。

「んん、今更?」

 怪訝そうにつぶやくちゆり。私が取り出した道具の意図を理解できないのだろう。してもらう必要もないけど。
 取り出したのはお札だった。いつも拳で打ち倒した後に使うお札ではない。ハーフ君特製の、少々物騒な代物である。
 私はそれを拳に巻きつける。名をつけるなら、さしずめ「お札メリケン」と言ったところか。
 これの用途は至極簡単。殴りつけたさい、お札に込められた力も同時に発動し、相手に多大なダメージを与えるのだ。 
 今まで使わなかったのは、問題があるからだ。自在に使えているなら、とっくの昔に常備している。
 
「降参するなら今のうち、って言っておくけど、どう?」
「逆の立場だったら、あんた素直に頷くかい?」
「無理ね」
「だろ?」
「だったら」
「力ずくで」
『証明する!』

 早撃ち同士の刹那の抜き打ち。
 前言の通り、ちゆりの動きでは私を捉えることはできない。
 だから攻撃は私のほうが当たる。
 それでも、今まで一度たりともちゆりにダメージは与えられなかった。
 おそらく、パワードスーツが関係しているのだろう。
 データ注入による技術の取得のみならず、相当な強度を誇っていると私は推測する。
 私の攻撃など何度受けても構わない、といった余裕の表れがちゆりの言動からも伺える。
 事実、私の攻撃を何度も何度も防いだしね。私もまだ慢心していたのかもしれない。
 けど、それはもう無意味。
 いや、すぐ無意味になる。
 ハーフ君の作り出した実験兵装である、このお札メリケンによって――!

「――――――――疾ッ!」

 踏み込んだときのスピード。腰のひねりから生まれる回転、手に全体重を乗せた、武術のお手本と言い換えても遜色ない一撃。
 手に宿した破壊力を外部でなく内部に解き放つ、浸透勁の技術。
 握力、手首の力、肘の力、肩の力、腰の力……それらを統合した力、発剄とお札に込められた力が合わさり、重ね当てとなってちゆりの胸部を打ち砕く。
 着弾の音はあまりにも小さく解放される。派手さで言えば、今までの攻撃のほうが上だろう。
 けど、今しがた私が打ち込んだ掌底はパワードスーツの装甲を超えてちゆりに直接打ち込まれた。
 さらにお札メリケンの力――私のなけなしの霊力とお札の中にあるハーフ君の霊力とを反発し合わせ、より強大な威力を発揮するという代物だ。
 電気と磁気にはプラスとマイナスがあって、同じ性質のもの同士は反発しあい、違うもの同士は引き付けあう。
 私が使うのはその反発の性質である。
 いかに同じ性質の磁石をくっつけようとしても、その反発力によって二つが交わることは決してない。そういった力を、霊力によって衝撃へ変化させたものがこのお札メリケンだ。
 絶大な威力を発揮する代わり、当然ながらデメリットもある。何せハーフ君が未完成品と称した代物だ。
 その不具合とは――

「うわ、巫女! 血が…………」
「あー、治ったばかりなのにー」

 お札から霊力の残滓が蒸気のような煙を上げながら私の手から自然と落ちる。
 反発の威力が高すぎて、殴りつけるたびにお札は壊れその余波が私の拳にも受ける。
 つまりは、一撃出すたびに私自身も傷つく諸刃の剣というわけだ。
 ハーフ君曰く、豊富な霊力があればお札メリケンを改良し、霊気の膜で拳を包み込んで反発による被害を抑えることが出来るとか、私にはよくわからないことを言っていたけど、無いものねだりは仕方ない。
 けれどその分威力は保証する。何せ、

「……………………きゅぅ」

 目を回して気絶するちゆり。拳自体の威力に変化はない。変わったのは、お札メリケンを装備したか否か、だ。
 さすがに内蔵破壊とかそこまでひどいものじゃないと思う。私なりにあのパワードスーツの防御力と自身の攻撃力を考えて実行したんだし。
 私は霊力を拳に回して止血しながら、今日は拳を使えないなぁとぼやきつつ改めてにとりに話しかけた。

「そんで、この子貴方の知り合い?」
「あ、う、うん」

 びくつきながら一歩後ずさるにとり。そんな態度されると、後ろめたいことしてますよ、と言っているようなものの気がする。

「そう怖がらないで。今のは火の粉を払ったにすぎないし。それで、河童の貴方と人間のこの子が知り合いな理由を教えてもらえる?」
「えーっと、そのちゆりは最近幻想郷に来た外の人間なんだ」
「私が聞きたいのは、妖怪の山に住んでいる河童が掟を無視してまでその子を保護してる理由なんだけど」
「ほ、保護だなんて……」
「ハーフ君じゃなくたってわかるものよ、これ。そもそも河童と顔見知りな人間の時点で、ある程度親しいのは確定的ね」

 これは文からの情報提供のたまものだ。
 人里の人間などに漏らさぬよう、という条件の元にもらった妖怪の山の内情だ。
 それらを照らし合わせてみると、最近出入りした人間は私達以外にいないと聞く。
 なのにちゆりは最近来たと言う。それらを踏まえると、にとりが嘘をついているか、あるいは――

「天狗にも秘密にしている、とか」
「ひゅい…………」

 びくつくにとり。ハーフ君を真似て交渉してみたけど、案外素直にいくものね。にとりがわかり易すぎるとも言うけど。

「妖怪の山って上下関係しっかりしてるんだっけ? 私、文と知り合いなんだけど、これを教えたらどー思うかなー」
「あ、あのえっと……」
「……まあいいわ」
「え?」
「らしくない。やっぱ私にゃ向かないわね、交渉。これ以上聞くの躊躇っちゃうし」

 言いながら、私はちゆりの傍によって腰を下ろす。簡単な診察だけど、念のため容態を確認させてもらおう。

「やっぱ、妖怪とも仲良くできたらしたいしさ、私」
「……………話には聞いてたけど、本当に当代の巫女は変わってるんだね」

 はぁー、と意図の読めない息をつくにとり。褒められている、のかな?
 簡単に呼吸や脈拍を測ってちゆりに問題がないことを断言する。このくらいなら、時間が経てば起きるだろう。
 後遺症として痛みには悶絶してもらうけど、人のことを襲いかかったんだから当然よね。 
 っていうか、今はすぐ休みたい気分だった。
 ちゆりに指摘された、私が紡いだ未知の言葉を考えると頭が痛いし、拳の使えない状況で敵を増やすのは勘弁だし。

「あ、でも襲ってきたら容赦しないから、よろしく」

 念のため、という意味で一瞬にしてにとりの目の前に潜り込む。
 縮地という歩法を知らなかったのか、突然目の前に現れたようにしか見えないにとりにとっては、瞬間移動にしか見えなかったことだろう。
 驚きの声を上げたにとりは後ろへ後退り……地面を滑って思い切り転んだ。しかも、頭を打つというオマケ付き。
 自分に手を出すと苦労するからやめておけ、という意味で驚かしたつもりだったけど……悪いことしたなぁ。
 大丈夫、と声をかけるも返事はない。気絶してしまったようだ。
 うーん、こんなとこ誰かに見られたら誤解されるかも……という私の懸念はあっさりと実現した。

「誰!?」

 咄嗟に後ろへ跳躍してその場から離れる。
 別段、そこに何かが打ち込まれるということはなかったが……結果として、それは正解だった。
 
「よう、面白いことしてるみたいじゃないか。俺も混ぜてくれよ……ま、断れられても混ざるけど」

 声を投げ込みながらこの場に乱入したのは、私より若干背の高い天狗だった。
 取り敢えず天狗らしい服装を基に描きました
 色素が薄いのか、灰色がかったクセッ毛の黒髪の上に天狗を示す六角帽子を乗せ、スカーフに白いボンボンを付けた厚ぼったい衣に身を包んでいる。
 つり目気味な瞳は紛れもない闘気……いや殺気に近いそれを乗せて私を射抜く。
 恨まれる筋合いはないはずだけど、紫にも似たすみれ色の双眸は剣呑な光を宿している。

「貴方、天狗?」

 荒々しい口調だが、妙に声質が高い。女顔の男と言われても通用しそうだ。
 ま、性別なんてどうでもいい。
 大事なのは、この天狗が何を目的として乱入してきたか、だ。

「おうよ、俺は天狗様だぜ。うちの河童がお世話になったみたいだな」

 言って、にとりと……なぜかちゆりを見やる天狗。口調も混ぜて、俺天狗ってとこかしら。
 しかしにとりはともかく、ちゆりが河童……? 服装を除けば、髪型くらいしか類似点ないんだけど……細かいことは気にしないタイプ?

「博麗の巫女だからって、協定結んでるからって襲われないって思ってるのか? だったら楽観的すぎるぜ、巫女様。俺は見てたんだよ、にとりに詰め寄ってるところをな」
「何言ってるのよ。私は身にかかる火の粉を払っただけよ。それににとりは誤解……」

 一歩足を踏み出す天狗。確かにしたと言えばしたけど、危害を加える気は皆無だしそもそもあれ自爆……

「こうなりゃ協定も何もないな。仲間を傷つけられて黙ってる奴は天狗じゃない」
「ちょ、話を聞いて!」
「文と知り合いだから問題ないとでも思ってるか? 確かにあいつは俺の上司だけど、今はんなこと関係ないぜ」

 私に詰め寄りながら、ズボンの左ポケットより何かを取り出す俺天狗。あれは……毛筆?

「手のない時は端歩を突け」

 よくわからない言葉をつぶやき、俺天狗が腕を振るう。 
 振り切り、静止した時には携えていたはずの毛筆はなく、代わりに黒い凶器が出現していた。
 私の身の丈をも超える長槍。その穂先が、ゆっくりと私に向けられる。

「俺はあんまり戦闘はするほうじゃないけど……身内傷つけられて黙ってられるほど寛容じゃないんだよ!」

 速い!
 天狗という種族の特性か、文ほどではないが風を操って己のスピードを上乗せした疾走は容易く私の間合いへ侵入を許した。
 拳は……我慢して闘るしか、ない!
 ちゆりの銃がレーザーによる光線ならば、俺天狗のそれは黒い鉄塊。
 刺突に特化した凶器が颶風となって迫るそれは、私の近接技量を以てしても凌ぐのがきつい。
 点の攻撃を横に避けても、横薙ぎによる線の一撃に切り替わる。屈んで逃れても、切り返しが早く次の点が襲い来る。
 文ほどの速さはなくとも、拳が満足に使えない私では紛れもない脅威に値した。

「っつぅ……」
 
 長槍を手で弾くたびに拳に痛みが走る。
 アリスの結界を破ったときのほうがまだマシだった。あれは的が動かないからだ。
 けど目の前の相手は違う。
 技量もあればそれなりの重さもある。弾いても芯に響くような痛みが私の手を止める。足を穿たれたら、その時点で私は終わる。
 拳が満足に使えないなら、足技しかないか!

「なぁっ!?」

 槍の穂先に対して、私は足を止めてそれを受け止める。
 避けたのではない。草鞋をあえて貫かせ、足指の間に潜り込ませた長槍を器用に受け止めたのだ。

「なんつー強引なっ」
「お褒めに預かり恐悦至極!」

 文の口調を真似ながら穂先を足指で強烈に握り締め、かかと落としの要領で下へ叩きつける。
 俺天狗の腕力と私の脚力。膂力自体は私のほうが上。状態が万全なら、当然勝つのは私だ。
 だがどういうわけか、足指で止めていたはずの武器の重みが消える。かと思えば、相手の左手には何事もなかったかのように長槍が握られていた。理由はわからないけど、今更に槍を突き出したとしても私の踏み込みは阻害できな――

「猛き牛角特攻劇」

 視界に毛筆と将棋の駒が映ったと同時、次の瞬間には墨汁で描かれたような漆黒の牛が突進してくる。
 目の前に突如現れた猛牛に対し、私は俺天狗に叩き込もうとしていた足を跳ね上げた。思った以上の圧力に足が止まりそうになるが、一瞬の膠着を保った力比べは私が制した。
 頭へ横殴りに叩き込まれた猛牛は、勢いのまま横へ吹き飛ばされる。だが、それは私の攻撃に隙間が生まれたことを意味していた。

「と金、成り。これで詰みだ」  

 まずい、何を取り出すかわかんないけど避けられない。 
 こうなれば、諸刃覚悟で突っ込んで――

「ストップストップストーップ!!!」

 そこへ押し寄せる水鉄砲。
 押し流されるような津波の如き大量の水に横入れを食らった俺天狗は、意識の外からの乱入に為す術も無く押し流される。
 俺天狗は近くの木々へ叩きつけられ、軽く目を回している。
 私は別の意味で目を丸くしていると、息切れするにとりの大声が辺りに木霊した。

「勘違い、勘違いなのよ! その人は私を助けてくれて、ちゆりは自分から喧嘩売ったんだよぉー!」
「な、なんだと……」
 
 ようやく朦朧から復帰した俺天狗は、水に流されて頭が冷えたのか、それとも河童の言葉だからか冷静に言葉を受け入れている。
 受け入れた結果、愕然として地面に手をついている。辺りに水が流れたせいで地面泥だらけだけど、平気なのかしら? と変な心配をしてしまう。

「…………悪かった」

 にとりが懇々と説得? した結果、俺天狗はそっぽを向きながらも私に頭を垂れる。
 うーん、私としては誤解が溶けたならそれでいいけど。にとりはあまり納得していないようだ。
 
「いつもの寛容さはどこに行ったのさー」
「お前は河童だからな。けどこいつは博麗の巫女だ。それに、あのまま続けてたら俺が勝ったな」
「そういう問題でもないでしょ!?」
「あー、私はもう気にしてないから」

 このまま続けても進展はなさそうなので、私から歩み寄ることにする。
 そう言った結果もあったのか、和気藹々とまではいかないけど戦闘の空気はもうそこにない。

「う、う~ん……」

 そこでちゆりが気絶から目を覚ます。
 案外速い覚醒ね。気絶じゃなくて、昏倒だったのかも。
 目覚めたちゆりが胸元に手を置いたと思うと、私の鋭敏な聴覚が静かな異音を察知した。
 ここ幻想郷では決して聞こえることのない、装置を入力したことによる電子音――

「こうなりゃ電力消耗激しいけどレベル上げて使うしか……ん?」
「あ」
「お」

 ちゆりはにとりと俺天狗を交互に見比べながら、静かに冷や汗を垂らす。……どうして?

「にとり。あれ誰だ?」
「あ、えーっと私の盟友だよ?」
「そうなのか。俺は初めて見るな」

 ほほう。これは新たな新情報。
 にとり――というか、河童がちゆりのことを秘密にしているのは、どうやら事実のようだ。 

「お、おう。北白河ちゆりだ、よろしくな」

 しどろもどろになりながら、私と俺天狗を見比べるちゆり。
 さて、ここで深く突っ込んでおくのも構わないだろうけど、そうするとさらに慌てるにとりに追い打ちをかける結果になる。
 さっきこれ以上手は加えないと言った手前、ここは私が引くべきだろう。
 それに……今じゃなくとも、今日手に入れた情報を文に報告すれば、一連の事件の解決は時間の問題だ。

「そこのちゆりは、新兵器を試したいって理由で私に挑んだのよ。一種の腕試しね。別に退治する気はないから、安心なさい」
「へえ、河童の意欲には感心させられる。にしても、余裕なもんだな」
「妖怪は人間を襲ってなんぼでしょ?」
「違いないな」

 ここでようやく笑みを見せる俺天狗。
 男らしい口調に合った勝気な笑みだ。しがらみを取り除けば、案外良い交友関係を築けるんじゃないかとふと思う。
 そこにがさがさと、私達三人以外の闖入者が現れる。今日は賑わ――っ!?

「おや、巫女に天狗に……誰だ?」
「ちゆり。それににとり……あら、天狗もいたのね」

 現れたのは、ハーフ君だった。
 手には八卦炉を持ち――何より、見知らぬ少女を抱えたまま油断なく構えており(私から見れば打ち込む隙は多々あった)紐で少女ごと自分を括っている。落とさぬための処置なのだろうが、少女がしっかりとハーフ君の首に腕を回して抱きついているあたり、さぞかし楽しい道中だったのだろう。
 
「あれ、ハーフじゃないか。どうしたんだよ、今日は」
「君か。ちょっと拾い物をしてね、その面倒を見ていたんだよ」
「ははっ、そいつは苦労したな」
「まあね。その分得たものもあったが……それより、どうしてここに?」
「俺はまあ成り行きかな」

 軽快な会話を交わすハーフ君と天狗。顔見知り、なのだろうか。
 文を通しているなら、別におかしいことはないのだけど……

「……どんな状況だと思う、夢美」
「さてね。一見で全てを見通せたらそれはそれで素敵だけど。……貴方が博麗の巫女?」
「……ああうん。そうよ」
「へぇ。幻想郷を牛耳る存在、素敵ね」

 ハーフ君に注視していた私は、彼に背負われた夢美なる少女に声をかけられる。
 なんて返答しようか悩んでいると、ハーフ君が話題を進める。

「牛耳るというほど偉いとは思わないが、博麗の巫女様だよ」
「いいじゃない。偉さがない分親しみやすくてフレンドリー」
「一見で全てを見通したい事と、決め付けはまた違うぞ夢美」
「いいじゃない。全ての事象に予想は付き物よ。予想と実験を繰り返して科学は発展するのだから」
「科学じゃなくても、あらゆる分野においての正論だね。さて、そろそろ視線が厳しくなってきたな。それがどういったものなのか説明してもらいたいものだ」

 二人を見ているのは私だけではない。他の三人もまた、奇異の視線を送っている。
 一人は好奇に。一人は怪訝に。もう一人――ちゆりは揶揄であった。

「へぇ。ご主人様にも春が来たのか。こいつは盛大に祝ってやらないと」
「そうね。協力してくれるならそれもいいけど?」
「そいつは魅力的だね。けど清く正しいお付き合いを願うよ」
「あら残念。どう転んでも妖しくなるわ。色んな意味で」
「それよりどういう状況なんだい、これは」

 ハーフ君が進行することで、ようやく停滞していた雰囲気が変わる。
 私は私が掴んだ情報を渡すため、ハーフ君に近寄ろうとする前に夢美が背負われながら失礼しますと前置きして口を開いた。

「失礼、少々私の部下が粗相を働いたようで、博麗の巫女はもちろんあなた方にも迷惑をかけてしまったようです。少し貴方の管轄にお詫びの手を回すことでここは不問にしていただきたいのですが……」
「ん? おう、俺は別にもう気にしちゃいないからそこまでする必要はないぞ。もちろん、カメラとか印刷技術の向上に尽くしてくれるなら無条件でゴーサイン出すけど」
「こないだ僕が道具を作ったじゃないか。まだ足りないのか?」
「うっせ。今度は自分じゃなくて天狗のためだよ。ま、とにかく俺に関してはそういうことだ」
「御寛容のお言葉ありがたく頂戴いたしますわ。それじゃちゆり、迷惑かけた分はちゃんと謝っておきなさい」
「はあっ? ご主人、言ってることと……」
「いいから、今はそうしなさい」
「ちぇー……ごめんなさーい」

 まるで謝られてる気はしないけど、とりあえずこれ以上の敵意を起こす気はないようだ。
 深い追求は「今日は」しないとにとりと約束したし、これ以上は何もない。もうお開きだろう。

「ハーフ君。後は妖怪の山の問題みたいだから私達は帰るわよ」
「…………」
 
 無言で背負った夢美を見やり、夢美もまたそれに頷く。
 通じ合っているようだけど、短い時間の中でそこまで気が合うというのもまた珍しい。
 なんだか、面白くなかった。 

「ではすまないが、夢美は動けない様子なんだ。誰か代わりに抱えてもらっていいかい?」
「ちゆり。代わりにおぶりなさい」
「げー。家まで送ってもらえばいいじゃないか」
「そのつもりだったけどね。今は上司がいる手前、そこまで悠長にしていられないでしょ?」

 言って、夢美は俺天狗を見やる。見られた相手は別段気にする様子は見受けられないが、上下関係があるに加えて組織のルールに口出ししてもこじれるだけだから、黙っておこう。
 ハーフ君が夢美を降ろす前に、ニ、三会話を交え改めてちゆりに受け渡す。
 何を言っているかわからないけど、朗らかな笑みを浮かべる表情からして悪い話題ではなさそうだ。

「じゃあねハーフ。今は退くけど、今度改めてお付き合い願うわ」
「僕もそれを願ってるよ。良い話をありがとう」

 良い笑顔をするハーフ君。
 これ以上は身内の問題だろう、ということもあり私達は足早にその場から去っていった。
 ちゆりは夢美にかかりっきりだし、俺天狗は微妙な顔を私に向けるし、良い感情持たれていないのかもしれない。なんで?
 にとりは最後まで申し訳なさそうだったけど、仲良くしたいからと言ったら嬉しそうな顔をしていたし、多分後には引かないだろう。
 妖怪の山の面々と別れて、姿が見えなくなったころとりあえず私は痛みを堪えて軽くハーフ君を小突いておいた。

「何をするんだ巫女」
「別に。なんとなく」
「いつものことだな」

 軽く顔をしかめていると、ハーフ君から視線を感じる。
 その先は、止血したけど赤い染みが付着した私の手。ああそうだ、お札メリケン試したんだっけ。

「使ったのか。それほどの相手だったか……けど安心してくれ。さっき夢美と話していて、改良点が浮かんだから」
「ん、それって問題点が消えるってこと?」
「ああ。多分デメリットなく使うことができると思う」

 腰を下ろすよう言われ、素直に従う。応急処置はしたけど、治療はしていなかったから今からするのだろう。
 ポーチから取り出した止血道具を傷口に当てながら、ハーフ君が改良点を上げていく。
 薬の染みに顔をしかめながら霊力の問題は解決したの? と聞くと、秘訣はカートリッジだと答えた。

「カートリッジって……」
「ああ。巫女は知らないだろうから説明してあげよう。夢美から教わったものなんだがね、そもそもカートリッジというのは…………」

 きつすぎず、緩すぎず。上手く包帯が巻かれていく様子を眺めながら、私は「既知」の知識の薀蓄を聞き流していた。

(どうしてだろう……どうして、その単語を知ってるんだろ……)

 ちゆりにも指摘された、不可解な事象。それが今になって不安を後押しして想起される。
 幻想郷生まれの博麗の巫女である自分が、どうしてこんなことを知っているの……?
 私は一体……

「巫女」

 と、いきなり左右のほっぺを挟まれる。
 むぎゅ、っとうめき声を上げながらハーフ君を見ると、彼は徐々に私へ近づき――そそくさとお札を取り出して私の額に貼り付けた。

「一発芸、キョンシぐっ!」

 くだらないことをするハーフ君へ渾身のパチキをかましておく。
 パチキとは頭突きのことであり、ようはハーフ君と私の額がごっつんこ☆ というわけだ。
 もちろん、互いへの被害の大きさは推して知るべし。

「うぐおおおぉぉぉぉぉぉ…………」

 頭を抑えて悶絶するハーフ君。本来なら手刀でもお見舞いしたかったけど、ケガをしているのでこちらに切り替えた。
 威力の調節がしにくいという点ではこっちのほうが痛いかもしれないけど。
 しかし、今ので暗澹とした気持ちが晴れていくような気がした。だから、

「ありがとね、ハーフ君」
「お礼が痛みなのは勘弁して欲しいんだが。あー、頭に響く。だがそこまで動ければもう問題ないな」

 かぶりを振りつつ、私の手の具合を確かめるハーフ君。使ったのは頭なんだから、手は関係ないと思うんだけどね。

「それより、あの天狗と知り合いだったの?」
「ああ、彼のことか。文から道具のことを聞きつけたのか、そっち方面でね。面白い能力を持っていたから、僕もそれに合わせて一つ道具の修繕や提供を――」
「あの毛筆、ハーフ君が作ったの?」
「正確には駒だけさ。彼の本来の力は描いた絵を実体化させる程度の能力だ。だが駒に霊力という名の墨汁を垂らすことで指向性を得ることになり、より速く、より強く具現化することが出来る」
「また厄介な……」
「好奇心をくすぐられてね。面白い能力さ、彼自身も僕の話をよく聞いてくれるしね」
「というかハーフ君、彼って……あの天狗、俺とか言ってるけど多分――」
「それより、迂闊に試作品を使ってはいけないよ。問題があるから使わないよう、お蔵入りしていたんだからな」
「う。それに関しては悪かったと思うけど、あれがなきゃ現状打破は難しかったし」
「言い訳しない。怪我をして手が使えなくなったらどうするんだ。僕はその辺を危惧してだな…………」

 くどくどと、いつもと立場が違って説教を受けてしまう。
 心配されるのは嬉しいけど、やはり勘弁して欲しかった。

(でも)

 試作品といえ、お札メリケンがなければ苦労したのは本当だ。
 もし、明日以降にこの事件を収束させるために動いたとしたら、もっと苦労を強いられることだろう。
 まあ、苦労は当然か。妖怪の山が動く事件だし。

(でも)

 私は話を続けるハーフ君を見据える。
 彼もいるし、小傘や文、それにアリスだって協力してくれると言ってくれた。
 だから不安なんて、ない。

「ハーフ君」
「ん、なんだい巫女、話はまだ終わって」
「よろしく、ね」
「…………よくわからないが、こちらこそ」

 意味が伝わらなくとも、言いたかった言葉は言った。なら、これ以上の葛藤は必要ない。
 ゆっくり休息して装備を整えて――博麗の巫女らしく、異変の解決と行きましょうか!


<了>



支援絵いただいてきました!
会帆さん(太上老君式折檻術)
画像提供:会帆

拝一樹さん(お札メリケン)
画像提供:拝一樹

NINAさん猛き牛角特攻劇)
画像提供:NINA

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鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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  画像提供:会帆
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上記絵文字提供:うるち

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