ラブぜろ? 三話

 結局、押し切られた形になった、のかな?

 電車に揺られながら、瞬は袖が擦りむけたジャケットの内ポケットに入る妖精を撫でつつ、ぼんやりとそんなことを思った。

 あの後、ほとぼりの冷めた後にアパートへ戻ってみれば、そこはすでにパトカーが数台止まっていた。焼け焦げた鴉の回収もしているようだが、本命は突然の電灯破壊によるアパートの住人への事情聴取に違いない。

 突然暴発したとしか思えない電灯の破壊は、不審をあおるには十分だ。

 目撃したのは瞬を除いた数人、それぞれ主婦や出かけのサラリーマンといった大人達だ。瞬より年下の子供なら言いくるめられたかもしれないが、流石に瞬の倍以上年の離れた相手の認識を変えるのは難しい。

 早く家へ戻りたいと願っていたが、目撃者の口から片乃瀬瞬の名前が出たことでそえれは叶わなくなった。現に、警官の一人が開いたままの扉の前で無線機片手に何か喋っている。これではもう戻れない。

 諦めの境地へ至った瞬は、ジーンズのポケットに生活費入りのサイフが入っていることを確認すると、逃亡の意味を含めて駅へ向かった。結局、彼女の野花探しに付き合うことにしたのだ。
 逃げたら余計まずいんじゃないか、とも思ったが時既に遅しだ。こうなれば、さっさと花を見つけて現地で別れればすむことだ。そう結論付けた瞬が痛い出費にこめかみをおさえながら電車に乗ったのは、つい十分ほど前のことである。

 電車の中は都合良く無人だった。そこで瞬は、むやみに力を使ってはいけないことを妖精に教え込むことにした。

「いいか、身に危険が及んでもなるべく電気使っちゃだめだぞ?」

 頭に? と浮かべ首を傾げるレフィン。むしろ、なんでそんなことしなきゃならないの? というニュアンスだ。

「周りにいる人らはみんなそんなことできないんだ。こう、ばーんと」
 手を上げながら、指先から雷撃を放つジェスチャーの後、すぐに手を交差させて×印を作る。これで伝わったかと思いきや、指に雷撃を灯し瞬へ向けてくる。

「うおっ!」

 昼間にも関わらず、視界が白一面に染まる。瞬は目を奪われながらも、咄嗟に首を傾けた。頬が痺れ、髪が焦げる臭いが鼻につく。……恐怖で一瞬にして顔が汗にまみれた。

「だからね、俺以外の前じゃこうぱーっとやっちゃ…………」

 言い切る前に光と雷撃が閃く。軽くパーマになった頭部を手櫛で整えながら、手を上げたら反射的に撃ってしまうんだなーと唸る。

 それに注意しながら再度教育を開始する。試行錯誤の末、瞬は力の行使を押さえ込むことに成功した。具体的には、力を使わせないよう先導する方法を瞬が覚えた。

 講義で妖精は疲れたのか、内ポケットの中ですやすやと眠っている。よくこんな狭いトコで寝れるもんだなと感心していると、目の前に座っている少女がこちらを見据えているのに気づく。いつの間に……

 パーマがかった黒髪で、黒いタンクトップに白のオフショルダー。ローライズジーンズに通した足は細く、体全体がすらりとしているせいか身長よりも小さく見える。

 頬から顎にかけてのラインは流麗で綺麗な印象を与える。表情を崩さないので感情が窺えないが、一見すればアイドルと言われても通用する容貌だ。笑えば妖精とは違った好感を沸くに違いない。

 視線が合う。瞬はどうするか悩んでいると、少女がつぶやくような声で口を開いた。

「人形趣味」

 血の気が引いた。すぐにジャケットを深く着直すが、蔑むような視線は瞬の体を貫き心を抉っていく。

 事情を知らない第三者から見れば、瞬の姿は人形相手に話しかけてる変な趣味の持ち主に見えるわけで……

 違う! 違うんだよ! 俺はノーマルだ!

 証明しようにも、見せてしまえばさらに話がややこしくなるのは眼に見えている。瞬に出来ることは、恥辱に耐えることと一秒でも早く目的地に到着すること、そして少女が途中下車してくれることを祈ることだった。車両を移るのは本当にそういう趣味だと思われそうで怖かったため、動くことが出来なかった。

 祈りは自己満足させるだけに留まり、効果を及ぼすことはなかった。ようするに、目的地に着くまで少女はぴくりとも動かず彫像のように座していた。

 県外へ走る電車の中、朝が早いので車両には二人しかない。うずくまる様に体を支える少年と、そんな少年を半眼で見る少女。そんな状態が二時間以上続き、瞬の精神は朝の件を含めて限界近くまで磨耗していた。もう帰りたい。

 瞬にとっては半日近くにも感じた乗車時間だったが、解放されると思えば気分は幾ばくか楽になる。

 電車が止まる。

 プシューっと音を立てて開かれる扉をくぐる。開放感が押し寄せ、ぐっと伸びをして疲れた心に活を入れる。その一喝は、隣に並んだ少女の存在によって無駄になったが。

 驚き呆然と少女を凝視する瞬をますます不快に思ったのか、

「何?」

 と携帯電話を掲げる。え、俺犯罪者?

「な、なんでもないです」

 反転して出口へ向かう。ゆっくり歩いて平静を得る時間が欲しかったが、本当に電話をかけている少女に焦って思わず早足になる。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。本当に警察に電話しているわけじゃないんだ。友達か家族に電話しているだけで俺とは全く関係ないんだどそうだそうだよそうだってよーしクールダウンクールダウン。

 息を大きく吐いて深呼吸。やましいことと思うから動揺するんだ。別に悪いことをしているわけでない。堂々と、堂々としていればいいんだ。

 瞬が駅の改札口を抜けるまで、それから十分の時間を必要とした。ちなみにこの駅、階段を下りればすぐに改札口に着く小さなものであったと言っておく。途中、少女が後ろにいたような気がしたが、極度の緊張状態にあった瞬は察知することができなかった。すぐに通り過ぎていった、というのもあるが。

 切符を処理して外へ出る前に、駅員にバス停の位置を確認する。時間を確認してみれば、あと一、二分で着くとのこと。

 見れば、バス停にはちょうどバスが止まっている。瞬は好都合と思いつつ駆け足でバスに乗り込み、絶句した。

「奇遇ね」

 電車の中で出会った少女が、一足先に腰掛けていたのだ。髪を払う仕草に少し心臓の鼓動が早くなり、ぎこちない返事をしてしまう。

「そ、そうですね」

 さび付いた機械のような動きで少女の横を通り過ぎると、瞬は一番後ろの座席に腰掛ける。少女が何も言わないことに安堵し、電車の中では出来なかった一休みに体が自然と脱力する。

 目的の山に着くまで約三十分。瞬は目を閉じて、疲労と精神を癒すことに専念した。
「………………」

 ゆさゆさと、バスとは違った揺れがする。微細なものであるが、意識を傾けるには十分なそれを見れば、妖精が起こしてくれていることに気づく。

「んあー……」

 体がだるい。バスの中で寝てしまったせいだろうか。公園のベンチで寝るよりは体が痛まないと思ったが、体の節々に疲労が溜まっている。三十分余りで寝てしまうとは随分疲れていたようだ。まあ朝から全力疾走を繰り返していたのだから仕方のないことか。

 ぐっと伸びをして、妖精に礼を言いつつバスを降りる。バスの真ん中の座席に座っていた少女の姿はそこにない。途中で降りたようだ。まさか、目的地まで同じということはあるまい。

 まずは聞き込みをしようとした瞬だったが、妖精が内ポケットから飛び出し、山の中へ飛び出していくのを見やり、慌ててその後を追いかける。

 舗装されているとはいえ、坂道を歩くのは正直辛い。さらに運の悪いことに、妖精は舗装されるとは言い難い山の中へ向かっていく。瞬は顔中に汗を滴らせ、無言でその背中に続く。

 季節は夏を終えた九月、山道を歩いていれば自然と汗が噴出す。邪魔な枝を折りながら歩くたび足に疲れが溜まり自然と歩調も緩くなる。固いジーンズでなくて動きやすいジャージのように柔らかいズボンにすればよかったと後悔する。目の前を飛ぶ妖精や鳥のように翼を持たない人間である瞬は、ふわふわ飛んでいる妖精に軽く羨望を覚えた。

 肩で息をしながら首を横に向けても、視界に舗装された道は一切見当たらない。下を見ても同じだ。気づかぬうちに、結構な距離を踏破していたらしい。それに太陽が頂点から傾いているのを見ると、もう午後を回っているのだろう。道理でここまで来れたはずだ。

 ほとぼりが冷めるまでの時間稼ぎでもあった登山だが、できるものならすでに辞めたくなっていた。山の標高に程度の差があるといえ、基本的に山を登るというのは高さに関係なく辛いものだ。

 しかし、心配そうに見つめてくる妖精を見てしまうとそれを口に出すのははばかれる。

 一度聞こえていなかったとはいえ、朝には一度言えた言葉が今度は出てこない。

 ネガティブな思考に陥っていた瞬はすぐにそれを打ち消す。もうとことん付き合うと決めたのに、躓きかけた途端にこれでは先が思いやられる。

 こんなことじゃ公務員にもなれんぞと一喝して立ち上がり、下半身の重さに気だるさを覚えながら、引きずるようにして移動を再開する。

 さらに三十分ほど足を動かしていくと、見晴らしの良い崖の一角に出る。

 街の喧騒とは無縁の、自然に囲まれた山々から眺める景色は良いもんだ、と年寄りの意見を交えて清々しい気分に浸っていると、妖精がくいくい服を引っ張ってくる。

 どうした、と見てみれば崖の先に一輪の花が咲いている。なんだこのお約束展開、と思いながらこの崖を下るのかと汗とは違ったものが背中に張り付く。

 ようやく目的のものを見つけたのだからやるっきゃない、と疲れ果てた体をほぐしていく。よっし準備完了、レッツラゴー!
その横を妖精が飛んでいき、崖下の花をぷちっと抜いて戻ってくる。あれ?

 呆然と立ちすくむ瞬を尻目に、妖精は摘んだ花をその場に置いた。花をぶん投げてやりたい衝動に駆られたが、自制心を限界まで引き出して体を抑圧する。

 考えるんだ片乃瀬瞬。助かったと考えるんだ。脳が熱暴走していて失念していたが、常識で考えれば崖を降りるなんて危険極まりない。この呆気なさは生きている証拠と考えろ。昨日自分の中の常識がぶち壊されたとはいえ、自分まで壊れてしまったら泣くに泣けないではないか。

 落ち着きを取り戻した瞬の胸に小さな圧力がかかる。妖精が小さい体を懸命に使い、ぐいぐい後ろへ押している。御役御免なのかもしれないが、少しは感謝の意があってもいいのではなかろうか。

 瞬が不満を眼に宿して妖精を睨めつけるが、視界の中に置いた花が映った瞬間それは綺麗に消えた。花が先ほどみたものとどこか違う。
瞬が口を開くより早く、なんと花の穂の中心がくわっと開き花びらが妖精に迫った。

「うえええええっ!」

 さらなる驚愕が瞬を襲う。

 ぱくっと擬音でもつきそうなほど鮮やかに妖精が花に食べられる。瞬を押しのけるのに集中したせいで背後の存在への注意が散漫になっていた。

 幸いなことに一飲みではなかった。瞬はじたばたもがく妖精の足を取り、一気に引き抜いた。

 救出したのもつかの間、花弁の一つが幾重にも分かれて伸縮し、無数の鞭となって二人に迫った。妖精は瞬よりも冷静だったため、対する反応は機敏だった。

 妖精は瞬の手の中から抜け出し、しなる打撃を電撃で打ち落とす。翼を持っている分機動力で勝る妖精は、宙を縦横無尽に飛び回り花の攻撃を捌いていく。

 次々に起こる非常識さに脳がついていけず、その場から動くことができなかった。

 妖精は自分以外にも、瞬という足手まといを守りながら鞭を防いでいるため、防御に精彩を欠き徐々に凌ぎきれなくなっている。

 対して花のほうはまだ十分に余力を残し、複数ある花弁のうち一つしか形状を変化させていない。全てを鞭にされたら妖精単体の力では防ぐことができなくなる。瞬の体が硬直から解けない限り、このままではジリ貧だ。

 その状況を助けるように、電撃によって軌道を反らされた花の鞭が瞬の腕を叩く。皮膚が弾けるほどの痛みではなかったが、我に返るには十分なものだ。

 同時に、鞭が妖精の体を打つ。吹き飛ばされた妖精は、きらきらと輝く赤い血を垂らして瞬の横を通り過ぎていく。瞬は胸の内に説明できない感情が沸いた。

「なんなんだよ、あれは!」

 自分を守ってくれている妖精をつかみ、一目散に逃げ出す。普通の道であれば走るのを助けてくれる傾斜だが、今は不幸にも山の中。傾斜にそびえる木々の群れが逃亡の邪魔になり思うように走れない。

 瞬はそれでも、多少ぶつかろうが構わず走り抜けた。妖精は電撃の打ちすぎのせいか、顔面蒼白の様子で飛ぶこともままならなそうだ。助けられてばかりでは男がすたる。今度は自分が助ける番だ。

 全力であの花から逃げ切ることこそ、瞬が唯一もつあの花への対応手段。妖精と自分が助かるためにも、足を止めるわけにはいかない。

 自分でも信じられない反射速度を見せながら瞬は急勾配を走っていく。しかし体は足の痛みと疲れを訴える。瞬はそれらの一切を無視した。ツケが鉛のような重さとなって足を蝕んでいく。

 スピードが段々落ちていくことを実感する。それでも足を止めるわけにはいかない。止まった時こそ、瞬達はあの花に追い詰められて絶体絶命に陥るからだ。

 しゅわん、と鞭の風切り音が耳をかすめる。振り向く暇もなく手と足を絞められ、手の中に包まれていた妖精が宙へ放り出される。

 瞬は派手に転倒し無数の切り傷や打撲を負いながらも懸命に妖精へ手を伸ばすが、無情にもその手は何も触れることなく空しく空をつかんだ。

「…………っ!」

 手を離してしまった後悔が歯軋りとなって表れる。誰か助けてくれ、とすがるような気持ちで声にならない叫びを上げる。

 希望を蹂躙するように、無情にも花弁の鞭が妖精を絡め取る。抵抗はない。瞬は世の理不尽さを嘆いた。

 だが、嘆きはすぐに驚愕へ変わった。

「諦める? それとも、助けたい?」

 声が聞こえた。この状況では苛立ちを覚えさせるほど落ち着いた声だった。

「諦める? それとも、助けたい?」

 二度目の声。瞬は自分に都合の良い幻ではないか自問する。――それでも、藁をも掴む思いで幻聴の線を捨てきれないその声に答えを返す。

「助けたい!」

「了解」

 了承が響き、理不尽がさらなる非常識によって払われた。

 一枚のカードが天からの落し物のように舞い降りる。カード全体が光を帯びて輝きを発したと思うと、一瞬後にあの奇怪な花はその場から消えていた。後に残ったのは、宙と地面で呆然とする妖精と瞬、そして変化する前の花を携える電車の中で見た少女だった。

「あ…………」

「傷を治してあげて」

 少女は花を妖精に渡しながら、冷静な声で妖精に指示を出す。

「ちょ、待って。この子だって疲れてるしってそうじゃない、いやそうだけど。や、まず礼が先かな? えと、ありがとう。誰だ?」

「まあ色々言いたいことはあるだろうけど、今は体を治したほうが無難よ、人形趣味」

「俺は健全ういてっ!」

 叫んだ拍子に体が疼く。普通に喋る分なら問題ないが、声を荒げると体に響いてしまう。見かねた妖精が、疲労を気にせず手から発する光を傷口に当ててくる。文字通りの手当てで体はすこぶる快調に向かっていた。ただし体力は時間による自然回復に任せるしかないが。

 瞬は感謝の意を込めてまた妖精の頭を撫でようと思ったが、少女の視線が自分に刺さっているような気がして慌てて手を引っ込める。首を傾げる妖精には口答でありがとうと言っておいた。

「まずはゆっくり話せる場所まで移動しましょうか」

 そう言って、少女は振り返り瞬に背を向けて座り込む。

「乗って。おぶるから」

「い、いいよ。少し休めば歩ける」

 逆ならともかく、女におぶってもらうというのは気が引ける。体力が尽きているといえ、そこは断固否定の構えだった。

「はいはい」

 口ではそう言うものの、少女はすでに瞬を背負って歩き始めていた。降ろせと言っても聞かず、力ずくも行使できない瞬はなすがままにされるしかなかった。

「一生の恥だ……」

「じゃあしっかりきっかり刻んでたっぷり後悔してから礼として私にプレゼントでも贈って」

「降ろせ。迅速に」

「冗談」

「マジかジョークかわからんのはやめてくれ」

「善処します。政治家並に」

「降ろす気なしか。信用できん例えを出すな」

 ああ言えばこう言う、そんなやりとりはものの数分で終わった。

 無我夢中で走り回っていながら下山していたせいか、ふもとまではすぐに到着したからだ。簡易休憩所に腰を下ろすと、瞬は妖精を木製長椅子に座らせる。

 二の句を告ぐ前に少女は瞬を手で制した。

「何から答えて欲しい?」

 どうやら瞬の心情に関しての把握はしているようだ。瞬は意を汲み、まず少女について尋ねた。

「名前と、あとなんでここにいるのか」

「苗字は高原(たかはら)、名前は恋(れん)。親しい人からは名前をもじってラブって呼ばれてる。ここにいる理由は、あなたが匿ってるその子を保護するためよ。逮捕とも言うけど」

 その言葉を理解するのに、若干の時間が必要だった。やや経ってようやく耳から頭に入り、唖然とした。

「逮、捕?」

 花を大事に抱きすくめる妖精を一瞥する。とても犯罪をしたようには見えないし、するようにも思えない。

「とてもそうは見えないんだけど…………」

「逮捕の理由は大まかに二つ。無断で地球に来てあなたと接触したことが一つ。もう一つは、本来は採取禁止に当たるその花を摘んだこと。法を犯したら取り締まらなきゃいけない。だから私はその子を逮捕しなきゃならないの」

「…………」

 確かに少女の言っている事は正論だ。罪を犯した者を罰さなければ社会を維持できない。犯罪を取り締まらなければ世の中はもっと混沌としてしまう。理屈はわかるが、瞬の中では説明できない感情が沸き上がっていた。それを鎮める方法を瞬は知らなかった。

 押し黙る瞬を見かねたのか、少女は宥めるように話しかけてくる。

「さっきも言ったけど、逮捕よりは保護の割合が高いと思って。理由はもちろんある。昨日、レフィンと会った時別の離界人(りかいじん)と会ったでしょ?」

「レフィン? りかい、じん? それに、なんでそのことを…………」

「順番にね。レフィンっていうのはその子の名前。離界人っていうのは蛇顔の男と、霧に変化できる男のこと。昨日のことを知ってるのは、昨夜に二人を見つけたから。そしてあの二人はレフィンを狙ってる」

「狙われている?」
 
 目を見開く瞬に、少女は頷いて肯定した。

「二人の相手をしてる途中で追われてるあなたを発見して、ついでにあなたの性格を把握するために、花に追われてるとことか色々観察させてもらったの。面白かった」

「とりあえず、あんたの性格わかった気がする。……あんた何者?」

「よくぞ聞いてくれました」

 待ってました、と言わんばかりに長椅子を叩く恋。といっても無表情なのであまり盛り上がっているようには思えないが、本人はノリノリだ。

「離界管理局(りかいかんりきょく)局員よ」

 さっきの盛り上がりはどこへやら、急にテンションが下がる恋。急な切り替わりに呆然とする前に、

「…………何それ」

 内容がさっぱりわからない瞬は、間の抜けた声しか出せなかった。

「離界からやってくる人たちを取り締まったり仲介したりするのよ」

「だから説明しろよ!」

 激昂する瞬を宥める恋の様子にさらに怒りが増す。まともな説明が聞けたのはそれから十分後だった。

 話を要約するとこうだ。

 離界というのは、地球とは違う次元にある別の世界。異世界というやつだ。一つだけでなく、数百種類に及ぶ世界があり、文明レベルは地球を超えるものもあれば、劣る世界もある。用はピンキリとのこと。

 レフィンも離界の一つ、プラントという世界の住人らしい。
簡潔に説明すると翼を持つ小人達の世界で、地球の神話では妖精郷に例えられる妖精達の国のようだ。過去に離界から地球へ来訪したさい、当時の人間がその神秘性を前にして神話が作られたのかもしれない。

 意外なことに、地球でも離界の存在は確認されていると言う。無論、瞬も知らなかったように一般には公表していない。警察の上層部や、一部の組織では友好的な離界人と協力する等の対応も取られているようだ。
次に、離界管理局。

 各世界の平穏を求めて結ばれた広域連合で、友好的な離界人は基本的にこの組織に参入し各々の世界のために働いている。政治はあまり詳しくないが、用は離界という国相手に外交をしていると思えば納得した。

 また、目的のためには情報を操作し、記録を捏造し邪魔な存在の暗殺すら請け負っている派閥もあるそうだ。

 離界管理局の分会として、離界管理局員が世界各地に派遣されている。市町村と派遣される数は違うが、最低二人は派遣されるらしい。

 基本業務を上げると、在住している離界人の隠蔽や犯罪にトラブル処理。最も、それ以外にも局員達には捕縛等の権限が与えられており、それを行使することも多々ある。

「そして私は、あなたの住んでる愛和町(あいわちょう)に派遣された局員、というわけ。わたしが注意をそらしたから、蛇男と霧男――正確に言えばアニマジカとミストラルの離界人ね――があなた達を捕まえることはなかったけど、それもいつまで続くかわからない。だから私としては、二つの意味で一刻も早く彼女を離界省に連れていかなきゃならないのよ」

「連れてくうんぬんに関しては置いといて……その、なんであいつらはレフィンを狙ってるんだ?」

「彼らは離界犯罪者。理由は定かじゃないけど、何らかの意図を持ってあなたかレフィンを狙ってるみたい」

「ちょっと待て。なんで俺も狙われるんだ。生憎俺は一般ピープルの域を出ない普通の人間だぞ」

「そんなの知らないわよ。離界犯罪者に限らず人体実験や労働奴隷の類は地球でも行われてるし、そうじゃないかもしれない。目的がなんであれ、たまたまあなたがレフィンと居たから、それが狙われる理由なんじゃないの?」

 さらりと怖いことを言いつつ、納得できないでもない説明に軽く目眩がする。

「たまたま、で俺はこんな目にあってるのか…………」

 疲労とストレスにタッグを組まれて襲われた気分だ。いっそ自分もレフィンと一緒に保護してもらったほうが良いんじゃないだろうか?

 瞬はさっそくその旨を恋に伝える。彼女は肯定し、まず愛和町まで戻ることになった。市のある場所に支部があるという。そこへ赴けば瞬は明日からいつも通りの一日を始めることができるのだ。

 弾む思考に、自然と頬が緩む。その傍らで妖精が悲しいような、寂しげのようなよくわからない表情で瞬を見ている。だが気持ち悪いという恋の声で我に返った瞬は、ヘコむことに気を取られてそのことに気づかなかった。






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鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
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