咲霖ホワイトデーSS

咲霖バレンタインを脚本といえ書いたし、ホワイトデーとして書いてみるのもまた一興か。
というわけで記事の後に書いてみました。
一樹さんへの脚本派生で一時間くらいの即興ものですが、良ければお読みくださいませ。



「さて、どう返したものか」

 僕は独りごちながら、お勝手で頭を悩ませていた。
 こうしている理由は一つ、先月のバレンタインというイベントと対をなす行事、ホワイトデーというものである。
 文々。新聞曰く、チョコをもらった相手は三倍返しが基本ということ。外の世界では男尊女卑が流行っているのか。いや、幻想入りしているならそういうものが流行っていたのかもしれない。
 どの道良い迷惑である。
 ただでさえ収入、というより客が少ないのに出費が多いのはいただけない。
 しかし、咲夜は頻度は低いといえかなりの上客だ。何もせず信用を下げるのはもっと駄目だ。
 というわけで、何をお返しにするか悩んでいるのである。
 何より……

「メイドもメイドだ。手作りなら手作りと言えばいいものを」

 日用品の購入ついでに人里へ赴いたついでに、チョコが販売している甘味処でも探してみるかと回ってみれば、返ってきたのはそんな店など最初から存在していないという事実。
 考えてみれば当然か。
 人里にそんな裕福なイベントはなく、あったとしてもそれは妖怪の恩恵を受ける一分の人間――霊夢や魔理沙のような特殊な事情を持った者だ。
 一般の人里に普及しているはずがないのである。
 メイドに騙された、と思うよりはなぜそんな回りくどい言い回しをしたのか。それについて僕は悩んだ。
 結果として気まぐれということに落ち着いたのだが、僕のお返しという新たな問題が発生してしまった。
 結局、気づいたのは一週間前で今もこうして頭を悩ませているが、良いものは思いつかない。
 文々。新聞を配達しに来たにブン屋に聞けば、お返しはマシュマロや飴などが一般的らしい。外の世界から来た山の神社の風祝に聞いたそうなので間違いないだろう。
 お菓子をもらったならお菓子で返すか、と思いお勝手で調理しているのだが…… 

「……しかし三倍返しとは、全くもって面倒だ」

 僕がお返し作っているのは、竜のひげというお菓子だ。
 大陸に伝わるお菓子の一つで、昔は王様に献上されるほど格式の高いものである。
 冷やして固めた水あめと蜂蜜に粉をまぶしながら手で暖め、2本、4本、8本とどんどん伸ばしていって、最終的には16384本になった極細の蜂蜜の糸にピーナッツ、黒ゴマ、アーモンド、松の実などの粉末を包んだものだ。
 試しにこそ泥二人に試食させてみたら、結構な好評をもらった。紫に食べさせてもらった、きなこねじりという和菓子に似ているらしい。
 食べたことのないものを例えに出されても困るが、悪くないから大丈夫だろう。
 ともあれ、こうして手間暇かけて作れば三倍返しになるだろう。
 さて、後は当日咲夜に渡すだけだな。




 そして三月十四日の当日。
 事前に店に来てもらうよう言っておいたため、朝早くから咲夜は来店してきた。
 なぜか緊張しているように見受けられるが、どうしたことだろう。まあ紅魔館で何かあったのだろう、と僕は気にしないことにした。

「それで、今日は何のご用件で?」
「ああ。わざわざすまないね。先月のお返しにこれを作ってね」

 言いながら、僕は事前に作った竜のひげを取り出す。
 軽く驚いた様子だったが、内容を説明すると納得半分、肩透かし半分の微妙な表情を作ってくれた。……肩透かしを喰らうほどダメだったのだろうか、お菓子のお返しは。

「霊夢達にも試食してもらったが、まずくはないそうだ。今一つ食べてみてくれ」
「ええ。じゃあ遠慮なく……」

 と、優雅につまみお菓子を唇へ運ぶ咲夜。一つ一つが洗練されて見えるのは、やはり彼女がよく出来たメイドだからだろう。食事の礼儀作法一つ一つがいちいち目を惹く。

「……意外と甘くないのね。ハチミツとか使っているから、結構な糖分を覚悟してたのに」
「中に包んだピーナッツ達で相殺されてるんじゃないか?」

 詳しくは知らないけど。
 それより、一見してハチミツと見破ったメイドがやはり優秀だ。さすが紅魔館の食事を牛耳っているだけはある、のだが吸血鬼に食べさせる料理と言うとあまり良いイメージがない。
 咲夜は人間だし、やはり自分用に食事を用意するのだろう。食事に妥協せず、それで舌が肥えているのかもしれない。

「半分は凍らせて食べるのもアリだよ。周りの糸の食感がパリパリしていて美味だ」
「パチュリー様って氷使えたかしら……」

 つぶやいた人物のことは詳しく知らないが、図書館に住まう魔女は噂程度に知っている。五行の属性を操るそうだし、もし使えずとも彼女なら氷の妖精を上手く利用して凍らせるのもお手の物だろう。

「けど意外としっかりしたものを返してもらえてびっくりね」
「それは、君があんな遠まわしに労力を使うからだろう。あの大量のチョコ、一人でよく作ったものだ」
「……気づいてたの?」
「残念ながら。そして気づいてしまえば、三倍返しというルールに乗っとって、君のあの労力に見合ったものを作らなければと思ってね。君と違って数は多く作らなかったが、お嬢様に奪われてもなくならない程度には用意してあるよ」
「準備いいのですね」
「何。こんなこともあろうかと、だよ」

 何はともあれ、これでお返しは済んだ。咲夜も香霖堂のことを悪くない店だと思ってくれていることだろう。
 これからも良い付き合いを願いたいものだ。

「……けど、私のためにしてくれたのですよね?」
「うん?……君のため、と言えばそうだが、それがどうした?」
「いいえ、なんでもありませんわ」

 澄ました顔でしれっとする咲夜だが、微妙に顔が動いている。
 普段は従者として主に尽す側なので、受け取る側の立場になるのが珍しいのかもしれないな。

「香霖堂なら、いつでも客に尽くす側さ。変わらぬご贔屓を君に」
「口の上手いこと。別にお世辞を言わなくとも、ここを利用するのはずっと変わらないわ」

 それは良いことを聞いた。
 少なくとも咲夜が存命中は贔屓にしてくれそうだ。

「こうなると、来年はもっと豪華にお返ししないとね。ごちそうさま、ありがとう」

 つぶやかれた言葉に何か言おうとして、気づく。
 ――来年、あれ以上に豪華……?
 ということは、来年の今日はさらにその豪華なものの三倍返しということになるのだろうか。

「ちょっと待った。別に手を尽くさなくても――」

 その時、目の前にメイドの姿は見受けられない。
 渡した竜のひげを納めた箱もない。時間を止めて、紅魔館へ戻ったのだろう。

(…………これって、悪循環ループじゃないか?)

 豪華にすればするほど、支出の激しくなる行事。それがバレンタインであり、ホワイトデー。
 おそらく、これは一種の陰謀なのだろう。
 乗せられてしまったが最後、骨の髄まで武者振り付くされる地獄の輪廻。商売人殺しの境地。

「……外の世界とは、なんとも恐ろしいところだ」

 つぶやいた僕が、一瞬だけ外の世界に対する憧れより恐怖が勝ってしまっても仕方がないことだろう。
 技術が優れている分、それを扱う人間の知恵も発達しているのかもしれない。
 そう考えたのも一瞬、僕は来年のお返しはいらないとどう咲夜に伝えたものかと別の話題に頭を悩ませることになるのだった。



 なお、その日紅魔館ではあるメイド長がバレンタインに配ったチョコが行き届いたメイド妖精達や同僚からもお返しを受け、その消費に追われていたという。主一人で食べられなくなった分、余波が館内に行き届いたらしい。
 お祭り好きの紅魔館でそのイベントが回避されるはずもなく、チョコをもらった者は全員メイド長へのお返しを用意していたらしい。
 浸っていた気分は紅魔館への到着と同時に吹き飛ばされ、奇しくも香霖堂の店主と同じことが脳裏に過ぎったものの、怒涛のお返しを消費する作業に追われすぐにその考えは消えるのであった。


<了>

コメントの投稿

非公開コメント

・・・・・・・・・・ふぅ






さて、モチベが上がったからゲームを徹夜で作るか(無理

ネタバレ解禁が待ち遠しいAllenです。
文霖の新たな可能性が開けそうな感じですね。

そしてホワイトデー、聞いた事のないお菓子が。何だか食べてみたい感じです。
お返しというと、キャンディーが『好き』、クッキーが『普通』、マシュマロが『嫌い』という逸話と言うか噂ぐらいしか聞いた事がないので、あんまり話が出来そうになかったのですが、珍しいお菓子というのも面白そうですね。

しかしクロさんとの話、名前が出てると気になってしまうじゃないですか。

>牛乳帝国さん
モチベ上がったのなら描いた甲斐がありましたw
今月中には更新ですかねぇ?(チラ

>Allenさん
まだダブルスポイラーやってません、文霖ですと?
そいつは楽しみですね……
竜のひげはクルタレとも言う韓国のお菓子です。キャンディ系の薀蓄は知らなかったかも。また一つ勉強になりました(えー

クロさんとの会話は、僕の脚本・動画製作がAllenさんで巫女ハーのストーリー動画を妄想した、とのことでした。
流石にそれはAllenさんが厳しいと返事しましたよw
プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
noblenova☆gmail.com←☆を@に変えて送信お願いします。
バナーは目次の中にあります。

web拍手

      ↑
  お礼画像はこちらです。
  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード