スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ラブぜろ? 七話

「そろそろ閉店ですね」

 囁くようにか細い声。それはボックス席に座っているハイウェストのドレスをまとった少女の確かな意志を伴って瞬へ投げかけてくる。

「だね。こんな遅くまで出歩くなよ不良少女」
「…………」
「すいません調子乗ってました」

 絶対零度の視線を送ってくる少女、卯花藍那(うのはなあいな)に情けない声を上げる。
 恋が家に入り浸って数日が経過し、現在瞬はバイトのため自宅近くにある喫茶店で働いている。学校には家庭の事情ということで、特例といてバイトを認めてもらっているのだ。

 ボックス席が数個と十人程度で満席となるカウンターは、全部で数十人も入れば埋まる小さなものである。

 内装は日本の喫茶店の原形になっている、古き良き時代のヨーロピアンな意匠を模したもので、余計な装飾がないシンプルなものだ。

 壁は一面、黒いレザーを模したようなものが張られていて、壁の所々に小さな半円形の電球式のシャンデリア。小振りなテーブルとゆったりしたイスはどれも手入れが行き届いており、床も奇麗に磨かれている。

 装飾といったらシャンデリアと花、貼り紙くらいなもので、メニューもテーブルにあるスタンドメニューだけ。実にシンプルで、瞬としても中々好みな内装だった。ただ最近、メニューの乗っていない料理を何故か瞬が作ることがあるので困っている。

「ここ最近冗談言うのが増えましたね。何か良いことがありましたか?」
「んー? いや、楽しくはないよ?」
「疑問系になる意味がわかりません」

 藍那が眉一つ動かさず息をつく。

 彼女は瞬と同じ学校に通う中学一年生で、この喫茶店には読書のためによく利用する文学少女だ。読んでいる本は生物学など、瞬には理解できない類が多いが、なんとなく絡みやすいことから雑談を交わす程度に仲が良い。

 ただ、文学少女と言っても決して大人しいわけではない。いや、大人しいことには大人しいのだが、行動は意外と過激だ。同級生の妹に変な薬を飲ませて、その日一日痴呆症になった光景は未だ鮮明に思い出せる。……いや、あれは向こうが悪かったのか?

 それ以外にも、彼女が飼っているペットの存在もある。懐きすぎて学校に来ることもしばしばであるし、以前交差点の角で藍那とぶつかって彼女を倒した時、その犬に噛まれ痛みと狂犬病になるのではないかという焦燥を味わったこともある。まあそれ以前に、そのペットには凄まじい問題があるのだが。

 その武勇伝を恐れているのか、学校でも喫茶店でも一人でいるところをよく見る。多分、根本的な原因は別にあると瞬は踏んでいた。

「何変な顔してるんですか」
「や、別になんでもないよ」
「私を不良呼ばわりする前に自分の態度を考えてください。アルバイトとはいえ店を任される従業員なんですから、何もしないでぼーっとするのは給料泥棒です。それじゃ公務員になれませんよ」
「ただいまお客様にトークのサービス中ですけど」
「そんなのファーストフードのスマイル並の価値しかありません」
「じゃあ具体的に何をすれば?」
「掃除とかコーヒー、紅茶の淹れ方とか喫茶店ならではの勉強があるでしょう。その辺詳しくやったらタメになります。苦労なくして人間は育たないとも言いますし、若いうちに苦労しといたほうが後々役に立つはずです。知り合いのよしみで、無料で施術しますよ?」
「絶対やだ」

 くどくどと、藍那は説教じみた物言いでバイト内容に口を出す。それはまだいい。問題は言葉の最後、施術という単語だ。

 瞬が予想する、藍那が一人でいる理由の根本的問題、それは生真面目すぎる態度と無感動さ、何より幼いながらマッドサイエンティストの思考を持つ知力にある。

 珍しい生き物を見ればすぐ採集、それが他人の所有物であっても説得して譲ってもらうこともしばしば。それらを放逐してどこかに飼っているという話もある。

 人付き合いが上手ければ良いのだが、生憎と知り合いではない相手の話や興味ない話はスルーがデフォルトな彼女に人付き合いは難しい。

 藍那は基本的に無愛想で、興味対象外には無感動を貫いている。

 年に似合わないこの堅さを和らげ、迷惑にならない程度の節度があればもう少し付き合いやすいのに勿体無い、としみじみ思う。

「それだと藍那ちゃんが暇にならない?」
「私は本を読んでるので気にしないでください。先週くらいまでは素直に動いてたのに、最近はほんとだらけてますね」
「……そう、かな」
「はい。笑顔は増えたんですけど、その分不真面目になったというか、今まで入りすぎていた力が抜けた感じです」
「うーむ…………」

 影響が、出たのだろうか。レフィンの、恋の影響が。……レフィンはともかく、恋の影響が出ているのは願い下げたい。ああいった手合いは自らトラブルを呼び込む。平穏な暮らしを望む瞬としてはトラブルメーカーなどなりたくもない。

「でもコーヒーとかはまだ未熟だから淹れさせてもらえないんだよ。料理なら店長も認めてくれるんだけどなあ……」
「確かに、あの変人と出不精を丸め込ませる片乃瀬さんの食事は美味のひと言に尽きます。飼ってるペット達からも評判良いですし。今時貴重ですよ、料理の出来る男の人は。主夫にもなれます。いっそ脳みそ保存したいくらいです。あとまた遠出するかもしれないのでその時はお願いします」

 また、というのは未確認生物探索のために北海道やら沖縄やらを巡ることである。お願いします、と言うのは弁当のことだ。流石に一緒に旅行を満喫するほど暇ではないし、正直面倒だ。

一度だけ旅行という名目で知り合いと共に連れ出されたことがあったが、あのサバイバル生活は思い出したくないので心の宝石箱に厳重に保管されている。

「言っておくと、脳みそ保存って一般的に褒め言葉じゃないからね。まあ元を辿ると、必要にかられて覚えただけなんだけど。人生わからんもんだよ」

 離界人なんて存在と関わるハメになった瞬は、しみじみと語る。やけに情感に溢れた意見に藍那が首を傾げているが、素直に教えるわけにはいかないので黙っておく。

「なんか上手い具合に話逸らして、だらけようとしてますね」

「んなこたぁない」

 なんだかんだで雑談が続き、結局閉店時間まで瞬は何もしなかった。話しているだけで時給八百円というのだからおいしいものだ。

 壁に立てかけられた時計が夜の八時を知らせる。閉店であり瞬のバイト終了時間だ。普段七時が夕食の時間だった片乃瀬家だが、今日はバイトのため作ることができない。一応昨日の残りを用意しておいたから心配ないと思うが、多分レフィンは満足していないだろう。何か夜食の材料でも買っていくか。 

「ありがとうございましたー」

 一応店の礼儀として藍那に挨拶をする。藍那も藍那でわかっているのか、ぺこりと頭を下げて店を出て行った。

 学校帰りのため制服に着替えた瞬は、店長に挨拶をして裏口から出る。そこには先日蛇神に破壊された自転車が新品同然の姿で停めてあった。恋の【手品師】によって修理されたのだ。生まれ変わった自転車に跨り店の入り口まで回ると、藍那が自転車を支えながらぼんやり夜空を見上げていた。

「お待たせ。にしても珍しいね、今日は一緒にいないんだ」

 普段なら喫茶店の中にまで入ってくるはずのペットの存在がいないことに気づき、瞬は思わず疑問を口にした。

「今日は七時まで親が戻らないそうなので、留守番してもらってます」

 そっか、と言いながら自転車を並べると、揃って同時に走り出す。流石に夜遅くまで喫茶店に残っている時は送ってやるよう店長に言われている。

 別にそんな警戒しなくても大丈夫だろうという楽観は、離界人の存在を知った時からすっかり消えた。また現れるとは限らないという油断はしないようにしているのだ。思い過ごしで終わってくれれば全く問題ないのだが。

 制服のポケットに入れた携帯を開くと、受信メールが一件あった。ちょうど赤信号で止まらなければならなかったので都合が良い。

 ちなみにこの携帯電話は恋から譲渡されたものである。レフィンに何かあったさい、すぐに連絡取れるようにと渡されたのだ。折角なので生活の中で有効利用させてもらっている。

 メールを開いて見ると、タイトルにはラブでーすと書かれていた。内容は、レフィンがヘ~ゲンダッツ欲しいってーと簡潔なものだった。……まあ向こう払いだからいいけど。

 少し時間いい? と藍那に言って二十四時間営業のスーパーへ赴き、ヘ~ゲンダッツと簡単な夜食を購入する。おまけもいるので余分に買い足しておく。でないと自分の分がなくなる可能性があるのだ。

 無事デザートを購入し、ハンドルにスーパーの袋を引っさげ今度は藍那の家へ向かう。普段なら本の話の一つでもするのだが、今日は家のことが気になって無言の空気が続いていた。

「珍しいですね。考え事ですか?」
「ん、あ、ごめん、ちょっとぼけっとしてた」
「別に構いませんよ、珍しいなって思っただけですので。……何考えてたんですか?」
「なんでもないよ、なんでもない」
「そんな風に言う人ほど怪しいで…………」

 キキィ、と藍那の自転車にブレーキがかけられる。停止したことを訝しく思いながら瞬も自転車を止め、どうかした? と返す。藍那にしては珍しく、息を呑むような面持ちでそれを指さした。

 つられて目を向けて、瞬は絶句した。

 そこには、やあ、と元気よく手を上げてこちらに挨拶している誰かがいた。尖った耳と背に携えた翼、黄金の髪はしなやかな肢体にかかり、愛らしくつぶらな琥珀の瞳は無垢な輝きを帯びている。もしかしなくてもレフィンである。しかもこちらに向かって飛んできていた。

「あ……え……は……」

 突然すぎる出現に、瞬は陸に投げ出された魚のように口を開閉する。隣の藍那は目を見開いてレフィンを凝視している。

 瞬はいち早く冷静に戻り、周囲に誰もいないことを確認する。確認完了、居るのは瞬とレフィン、そして藍那だけだ。つまり彼女さえ誤魔化してしまえばいい。

 瞬はわあ! と声を荒げ両手を大きく広げた。レフィンはぱっと花が咲くような笑みを浮かべ、嬉しそうに放電現象を起こした。

 夜の白く塗り潰す閃光が世界を照らす。瞬は藍那が目を覆っている隙に自分のカバンにレフィンを詰め込み口にチャックするよう指示。そして光が収まったのを見計らっていたかのように、藍那へ向けて何かが飛来した。

 とん、と藍那の体に当たったそれは煌きを残して闇に消える。直感的に恋のカードだと確信し、地面に倒れる前に藍那を支えた。案の定、彼女は気を失っている。

「ナイステイマー」

 妙な言い回しで現れたのは、予想通り恋だった。サムズアップする彼女の後ろで
は、蛇神が片手で何かを引きずっている。

「それ何です?」
「ああ、これ熊」

 数秒間沈黙の妖精が頭の上を踊る。腕一つとっても恋の腰ほどあるし、足はもっと肉厚がある。見かけだけでも三メートルに迫り、体重も二百キロを余裕でオーバーしているだろう。それを片手で引きずる蛇神の筋力にぞっとする。

「もちろん離界産だけどな。俺の世界の離界犯罪者だ」

 その言葉で、二人が離界管理局という離界人を取り締まる仕事を生業としていることを思い出す。

「近くに侵入してたんでな。ラブに頼んで人払いしながら狩ってたってわけだ。仕留めて移動してたら、一緒に着いてきたレフィンがいなくなってな。追ってみればここに来たってわけだ」

「【手品師】様々ね」

 瞬がいないときのレフィンの世話は、基本的に恋達がしている。ずっと家に引きこもって退屈だというレフィンのため、夜間のみ外の飛行を許可しているのだ。しかし、いわゆる犯罪者の掃討にレフィンを連れ出すのは色々問題がある気がする。

 それでもきちんと仕事してるのか、と関心していると、

「せっちょん、これ捌いてくんね?」
「無理」

 即答した。一瞬だった。無理なもんは無理です。つかせっちょんて恋が適当に作ったやつなんですけど。 

「肉喰いてえんだよぅ~」

 聞いちゃいない。

「つか、犯罪者なら本部とかそういうトコに突き出したりしないんですか?」
「だって動物タイプだから、つい食欲を刺激されて…………」

 物欲しそうな声で唇に指を当てる恋。涎でも垂らしそうな雰囲気だが、仮にも美少女のカテゴリーに分類する外見でそんなことされたら反応に困る。

「一定の権限持てば、離界犯罪者の処理はある程度俺らでも可能なんだ。んで今回は地球でも通用する熊ときた。中身は俺らで処理し、毛皮はどっかで売ればかなりの儲けになるって寸法よ」

 その行為は果たして、秩序を守る離界管理局としてどうなのだろうか。動物愛護保護団体に知られたら全面戦争で裁判でも起こされそうな話である。

「いいじゃんか、よく料理してるんだし、その延長ってことで」
「だからって熊捌きを一緒にしないでください。つか、こっちだってそれなりに譲歩して手伝ってるんですし、俺を巻き込むのはやめてください。これ以上変に関わるのは御免なので」
「あらいけず。仮にも知り合いが困ってるのに無視するの?」
「俺は極力、面倒事には関わらないって決めてるんだよ。他人のことに気をかけて苦労する人を間近で見てきたからな」

 父さんとか父さんとか父さんとか。

 ただでさえ生活水準の差が激しいのに、他人の面倒まで見ているせいで落差がさらに激しくなっているのだ。金がある時だろうがない時だろうが、父親は他人の面倒事をよく背負う。

 そのせいで詐欺に会うこともあった。それでも一時とはいえ借金を全て返し、上流家庭並の生活を手に入れる手腕は尊敬に値する。

 だが、能力と人格は決してイコールではない。あくまで憧れているのは父親の能力であって、不幸を背負込む性格ではない。自分は堅実に生きるのだ。

「小さいお嬢ちゃんやその子の送り届け、俺の蛇の餌は面倒事じゃないのか?」
「それは期間限定の話だし、藍那ちゃんは帰り道に時間がかかるだけで、面倒事にはならないですよ」
「基準がわかりにくいわ」
「後々尾を引きそうなのには関わらないんだよ」
「小さいお嬢ちゃんは結構尾を引きそうだけどな」

 ぽつりとつぶやき、蛇神は諦めたように手を振って降参する。

「わーったわーった。無理して頼まねーって。行くぞ、ラブ」
「……ええ」

 しゅたっっと跳躍した二人は、住宅街の屋根伝いに飛び移って移動していった。カバンの中からレフィンが顔を出し、おろおろと困惑した表情で瞬を見上げている。

「バカ、入ってろって」

 すぐにレフィンをカバンに押し込み、藍那を起こすべく体を揺する。幸いにも彼女はすぐに起きてくれた。

「藍那ちゃん、大丈夫?」
「はい」

 心なし驚いているような藍那を落ち着かせ、瞬はさも動揺している様を見せながらうそぶいた。

「……誰もいない。なんだったんだ今の。幻か?」
「私はしっかり見ました」
「でも周りには何もない」
「確かに……そうですね」
 藍那にしては歯切れの悪い返事だった。一応誤魔化せたか、とほっと一息つく。
「多分知らない内に体に疲れが溜まってるんだって。今度来店した時なんかサービスするよ」
「結構です。……ここにいるのも時間の無駄ですし、行きましょう」

 何か考え込むように口に手を添えていた藍那は、普段半眼しか開かない目を標準サイズに戻して自転車を走らせる。その間ずっと瞬はカバンに注意を向けていたせいで、藍那が話しかけてきても適当に「ああ」やら「うん」やら生返事を繰り返すだけだった。

 やがて藍那の家へ到着する。家の百メートル手前くらいで藍那が一番可愛がっている黒い大型犬、シシーがこちらへ駆けて来る。

 瞬はものすごく逃げ出したい気分に狩られる。大型犬は大型犬でも、シシーは立てば長身の人間以上、二メートルを超える大きさなのである。

 テレビでも話題になったが、そんなことよりも重要なのは飼い主の危機にはその牙が容赦なく襲い掛かるというところだ。あんな巨大な犬に噛まれたら命が危うい。

 不安が的中し、藍那と寄り添うように隣に並ぶ瞬を見るなり噛みつかれそうになったが、飼い主を差し出すことで怒りを霧散し心配への比率を押し上げることで難を逃れた。それでも腹の虫がおさまらなかったのか、圧し掛かられて息が詰まり骨が軋んだが。

「どうも、毎回ありがとうございます」
「ああ、気にしなくていいよ。それじゃ」

 まだ何か言いかけていたようだが、瞬は逃げるようにして卯花宅から離れ、自宅へ真っ直ぐ走っていった。

 自宅のドアを開けてリビングに到着するとカバンからレフィンを取り出し、開口一番に瞬は怒鳴った。

「レフィン! あれだけ許可なく外に出ちゃダメだって言っただろ! バレるとこだったじゃないか!」

 心を鬼にして説教を始める。少しでも早くやっていいことと悪いことの区別を付けさせなくてはならない。

 レフィンは怒られてしゅんとしているが、体が小刻みに揺れている。子供なのだから怒ったらすぐ泣くのは当然。泣くということは哀の感情が昂っている証拠で、感情が高まるその様子を見たらなんだか怒る気が失せて……

「ほいさっ」

 変な掛け声と共に背中を叩かれる。その衝撃で消えかけた感情が一時的に戻る。後ろを振り返ってみれば、部屋着姿の恋がいた。その手には自転車のハンドルに放置していたスーパーの袋。いつの間に。

「レフィンだって片乃瀬君に早く会いたいがための行動だったんだし、頭ごなしに怒っちゃダメでしょ?」
「けど、だからって……バレちゃ元も子もないし。つか俺がいないときはおまえがレフィンを見てるんじゃなかったのか」
「仕事で仕方なく出かけてたのよ」

 納得していない瞬を無視し、恋はレフィンを慰める。

「はいはい、強い子だから涙こらえてね? おかーさんは決してレフィンを嫌いになったわけじゃないから心配しないで」
「誰がおかーさんだ、誰が。……あのな、ここじゃレフィンを見ると騒ぐ人たちが多いんだ。ひょっとすると、騒いだあげくレフィンを見世物か何かにするかもしれない。俺はそんなことされたくないんだ。だから、な? わかってくれないか?」
「わかってくれろ」

 恋の余計な追言を軽くスルーし、瞬はレフィンになるべく強い物言いで諭す。優しく諭すというのも一つの方法だが、子供には分かりやすく怒鳴ったほうが効果的だ。泣かれた、だから許す、それではダメなのだ。

 許せば、子供は泣けば許してくれると意識的か無意識的かはともかくそう覚えてしまう。よって分かりやすい怒りの現れとして怒鳴り散らすのが適切なのだが……

(なんでだ、また強制的に気分が穏やかに……)

 レフィンに対しては、そう出られない。それでも気を確かに持って声を荒げようとするが、その抵抗さえも無意味に消されてしまう。

「……まあ、いいよ。次は気をつけような」

 最後には、憮然としながらも許してしまった。頭の奥底ではこれではいけないと叫んでいるのに、抗うことができない。瞬にはそれが無性に悲しくなった。

「別にいいんじゃない? バレてもレフィンの能力なら結果的に騒ぎなんてなくなるわよ」
「能力?」
「気づいてなかったの? 彼女、一種の感情操作の力持ってるわよ。片乃瀬君、レフィンを本気で怒れないでしょ?」
 瞬は眼を丸くした。なぜ恋がそのことを知っているのだろう?
「…………そうだけど、それは――」
「プラント人というよりレフィン特有の力かな。感情が揺れ動くと無意識的に力を発揮させるみたい。強制的に気分を穏やかに……ううん、感情を消しているのかしら?」

 恋の推測を聞いて、背中がぞっとなる。もし、その力を意識的に使えるようになったら、誰もレフィンに逆らえない。

「……それじゃダメだろ。感情の昂りで能力が出るなら、誰かと一緒に楽しんだり悲しんだりできなくなる。そんなのレフィンにさせたくない」
「随分な入れ込みようね。ひょっとしてその感情も実はレフィンの能力の結果かもしれないわよ? 一応、一番彼女の能力を間近で浴びてるのはあなたなんだから」
「そんなことは……ない」
「その間がある限り、絶対とは言えないわね」
「うるさい」

 怒りを紛らわすようにブレザーを乱暴に脱いでリビングに投げ捨てる。部屋で脱げばよかったと投げた後に後悔したが、後で戻せばいいやと結局そのままにしておく。

 着替えようか迷ったが、結局ワイシャツの上からエプロンをつけることにする。今は食事でも作ったほうが気が晴れる気がした。

 スーパーの袋を恋から受け取ると、彼女はじろじろと瞬を眺めてきた。わけもなく視線にさらされ居心地が悪くなる。

「うーん、男からすれば女の子が制服エプロンするのが良いんだろうけど、女から見れば男の制服エプロンってのもなかなか新鮮ね。そう思わない?」

 知るか。

「…………ん?」

 袋の中身を冷蔵庫に詰める合間に調理道具を用意していると、レフィンが手伝いのためか食器棚から皿や箸などを持ってテーブルに並べ始めた。根は良いんだけどな、と何とも言えない気持ちが沸いた。

 瞬は無言でレフィンの頭に指を置く。手だと大きすぎてレフィンの首に負担がかかるからだ。

「高原」
「何?」
「あのさ…………」

 言葉を紡ごうとしたが、それから先が出なかった。

 瞬が今言おうとしているのは、面倒ごとを呼び込むことに他ならない。わざわざ、むざむざ、自らトラブルに首を突っ込もうとしている自分に驚いた。

「片乃瀬君?」
「…………いや、なんでもない」

 瞬は言葉を飲み込んだ。撫でていた指の動きが止まったことにきょとんとしていたレフィンの顔を、まともに見ることができない。

 結局、夜食を作った後も何も言えず、その日はレフィンと目を合わせることをせず就寝した。










コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
noblenova☆gmail.com←☆を@に変えて送信お願いします。
バナーは目次の中にあります。

web拍手

      ↑
  お礼画像はこちらです。
  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。