ラブぜろ? 八話

瞬の家でデザートを食べ終わった恋は、自分の部屋に戻りリビングでくつろいでいた。目の前にはラフな格好をした蛇神が報告書をどう書くか悩んでいる。彼は恋と同居しているのだ。ただ、周りで瞬が作った餌に群がる蛇の集団に囲まれているので、第三者が見たら確実に通報だ。

顔は蛇でなく人間のものである。集金や他の誰かがやってきた時、蛇顔のままだとイロイロと困る。別に人間モードの時でも蛇に似た容貌だというのは深くツッコまないでおく。





全体重をソファーに預けていた恋は、テーブルに置かれた一枚の写真を手に取った。

 実を言うと恋が隣に引っ越してきた真の理由は、未だ継続中の観察を行うためだ。前回で会議の交渉は有利に運んだが、結局現状のまま観察を続けると結論を出した。たった一度ではまだ信用できないようだ。まあこちらが舞台を用意したのだから当然と言えば当然かもしれない。瞬の行動も自分の指示である可能性を疑っているのだ。

 恋に下された指令は、瞬のレフィンに対する態度の報告である。正直、全く問題なくて退屈だったが、レフィンの能力に戸惑いを感じている今なら、イロイロと仕掛けるに都合が良い。

 こっちは選択肢を与えるだけで、結果を出すのは瞬とレフィンに他ならない。どんな結果を出してくれるか、考えるだけで胸の鼓動が高まっていく。先日もそうだが、どうやら自分は思いのほか謀を巡らすのが大好きのようだ。あと、人をからかうことも。

 そういった意味で片乃瀬瞬は非常に好みだ。期待にはだいたい応えてくれるし、料理は上手いしツッコミもきちんとしてる。あれはいい人材だ。

「無理にやらなくてもいいんじゃね? 変に俺らが動くとまた難癖つけられると思うけどあ」
「あんなの屁理屈よ。何も動かないくせに難癖だけは一人前だもん、無視すればいいわ」
「いつの世も苦労するのは現場なんだよなー」
「そしていつの世も上司が役立たずだと苦労するのは部下なのよ」
「そうそう俺って役立たず――ってバカぁ! 上司に向かってその口はなんだねチミィ」
「だったら部下に全部任せないで何か意見だしたら? あと大したショックも受けてないくせに悲しむフリするのはやめてね。意味ないから」
「返す言葉もありません。んで、作戦立案はどうお考えで?」
「私は選択肢を作るだけで、立案も何もないわ。さて、この子はどう動くかしら」

 写真に映る卯花藍那を見やり、恋はそう独りごちた。

「手加減してやれよ? みんながみんな俺やせっちょんとは違うんだからさ」

 どうやら適当に作った瞬の呼び名が蛇神は気に入ったらしい。

「向こうだって怒ったり泣いたりする人間なんだ。それを忘れんなよ」
「わかってるって、ご心配なく」

 心配性ね、と言ってソファーから腰を上げる。冷蔵庫に入れたペットボトルを取り出すと、そのまま一気にあおった。味も何もないミネラルウォーターだが、不思議と美味しく感じた。

「それに、人に甘えるのは悪いことじゃないでしょ?」

 ぷはっ、と喉を潤した恋はベランダに出る。視界の先にある光体を見据えると、唇の端を吊り上げながらつぶやいた。

「役者はちょっと腕を上げたみたい。台本を見なくても話を進めてくれてるわ」








 なんて偶然、と藍那の心は珍しく弾んでいた。

 藍那は無感動なタチだが、それは興味の無いものに対してのことだ。良い映画、良い小説を読めばちゃんと感動するし涙腺だって存在する。まあここ数年、自分の本当の趣味で満足したことがないのは気にしない。

 何せ、十余年の人生の中でもシシーに迫る最大級の興味――あの妖精。知的好奇心とも言うべき衝動が藍那の中を駆け巡り、いてもたってもいられなかった。

 先ほど目撃した翼を生やした小人、妖精とも言うべき存在がどうしても気になり、名前、出身、生態その他諸々、諸々した諸々を調べるべく発見現場まで自転車を走らせている最中、当の本人が夜空を浮いている光景を見てしまったのだ。

 ほのかな燐光を放ちながら浮かぶそれは、眼に見えて落ち込みながら飛行していた。何があったのかわからないが、見ているこっちまで気落ちしてしまうほどの落胆ぶりだった。

 見つけたのはいいものの、ここで問題があった。

 一つは位置。

 目的の少女は空を飛んでいる。ジャンプして届くような低空飛行ではなく、それこそ十数メートルはあり藍那では到底届かない位置にいる。それにこっちは住宅街のせいで右往左往しなければならず、直線で飛ぶ彼女に追いつくのが至難なのだ。

 第二に、接触したとしてもまた逃げられる可能性。捕獲とまではいかないが、最低限こちらの話を聞いてくれる状況を作れるもの。それが藍那の手には無い。

 いざとなれば武力行使、と考えるあたり瞬に武闘派と言われる由縁か。ともあれ、現状ではこちらから接触することができない。

 なんて迂闊。だが迷ったのは一瞬のこと、視界から消えようとする妖精をすぐに追いかけ始める。

 追いかけっこはその後一時間ほど続いた。建物や道に幾度と阻まれたが、そこは地元に住む住人の強み、頭の中で広げた地図で先回りどうにか妖精の後ろに喰らいついていた。

 彼女はただ直線的な飛行をするだけだ。目の前に障害があればそこから右か左か元来た道を戻るか、その三択しかない。後をつけるのは簡単ではないが、苦労もしなかった。

 しかしここで妖精に変化が生じた。

 体を覆っていた燐光が徐々になりをひそめ、夜闇と同化し始めた。とどのつまり、光を失っているのだ。それがどういった意味を持つか知らないが、藍那にとっては目印を失くすようなものだ。

 どうしよう、と口に手を添えて悩み始める藍那だったが、それは一分と続かなかった。

 妖精は藍那の目の前にあるアパートの窓へ入っていったのだ。光が消えたのは羽根を動かしていないからであって、決して妖精を見失ったわけではなかった。

 すぐさま突入しようとしたが、まずは情報収集と頭を切り替える。幸い管理人はまだ起きているようで、藍那は部屋を訪れ目的の場所が何号室かであるかを訪ねた。

「ああ、瞬君さんが住んでる部屋だね。父親と二人暮らしさ。瞬君は若いのにしっかりしててね、うちやマンションに住んでる奥様がたからも好評なのよあの子」

 その後だらだらと自炊やら実質独り暮らしなのにお利巧ねなど藍那にとってあまり関係ない話題が多く出たが、肝心なのは妖精が降り立った場所に住んでいる住人の名前だ。

 片乃瀬瞬。

 よく赴く喫茶店で働くアルバイト従業員で、話の合う年上。男の人では同年代の男子よりも親しい少年だ。

 そして、妖精を共に見かけた。

 今考えると、驚いているように見えて実は冷静だったような気がしなくもない。それに何となくだが、あの妖精のことをまるで何もなかったことのようにしようとしていた節も見られた。

 さらに深く考えようとして、やめた。

 明日の昼休みかどこかで直接訪ねればいい話だ。

 流石に親に黙って飛び出してきたため、これ以上時間を浪費するのは厳しい。あの母相手だと特に。本当に血が繋がっているのか不思議なくらい感激屋で、極端なまでの子煩悩だ。甘えさせてくれる時は逆に悪いくらい甘えさせてくれるし、説教の時は本当に参るくらい話が続く。

 現在時刻は夜の十時。中学生が出歩くにはちょっと遅い時間だ。とりあえず、とため息をつき藍那は自宅に電話するべくポケットから携帯を取り出した。

 そのせいか、藍那は自分を見ていた何者かに気づかなかった。








「――――…………ふああ」

 寝汗の気持ち悪さで思わず目が覚める。

 枕の傍に置かれた目覚し時計を見てみれば、時刻は朝の五時三十分。普段は六時起きの瞬にとって少し早い起床だ。

 二度寝という限りなく贅沢な意見も浮かんだが、横になっているだけに留めた。どうせ六時にはタイマーが鳴る。それまで寝ないようた布団の暖かさを堪能するのも悪くない。

 仰向けのまま、カーテンから漏れた朝日に照らされた天井を見やる。

 ふと、昨日のことを思い返す。

 瞬は、帰宅し何事もなかったようにくつろいでいた恋と口論を起こした。

 内容はもちろん、レフィンを人目に触れさせたことと、藍那の処遇についてだ。

 口論と言っても、喚く瞬を恋が風を受ける柳の葉のように軽く受け流すだけであり、おかげで余計疲れた。

 結局、【手品師】の力で藍那の記憶をいじるという結論に至った。これ以上こちらが頭を悩ませても仕方ない、と諦め作って置いたデザートを食べてその日は就寝した。

 そして今に至るわけだが、どうにも釈然としない気持ちで一杯だった。

 考えているようで何も考えていない、ぼーっとした時間が経過する。やがて目覚まし時計が鳴り響き、瞬はゆっくり眼を開ける。

 悩んでいても仕方ないか、と諦め瞬は朝食の支度をするべくベッドから抜け出した。

 鯖の塩焼きと卵焼き、野菜スープを作り寝ぼけ眼のレフィンと朝食を採ったあと、未だ眠る父親用に朝食の残りをラップでくるんで食器を片付ける。

 その間にレフィンの意識は完全に覚醒していたが、この時間帯は少し厄介だった。言葉こそ未だ理解できないが、ころころ表情を変えて話し掛けてくるのでかしましくてたまらない。

 うざいとまでは感じないが、理解出来ない言葉を延々と言われると流石に堪える。

「レフィン、俺と話すときはジェスチャーにしてくれ。全然わからない」

 レフィンは泣きそうな顔になったが、わからないものは仕方ない。かといって泣かれると厄介なので、瞬は買いだめしておいたキャンディスティックの袋を解きながらレフィンに渡す。

 涙などどこ吹く風か、レフィンは満面の笑みを浮かべてキャンディスティックを舐め始める。体積の小さいレフィンにとって困難な量かとも思ったが、甘いものが別腹という女性の理論は種と世界を越えて通用するらしい。

「じゃあ学校行って来る。九時くらいになれば高原が来るから、お昼になったらあいつに頼んで鍋の中にある野菜スープを注いでもらいなよ。え、高原の分? 知らん。勝手に朝の残りでも食えばいいさ。そんなんどうでもいい、それよか父さんに見つかるなよ」

 念を押してレフィンに言いつけ、瞬は学校へ出発した。俯いていたレフィンの視線が、一枚のカードに向けられていたことに気づかぬまま。





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