ラブぜろ? 九話

 瞬の通う愛和中学校は特にこれといった珍しさはないものの、高校への推薦の多さに惹かれて入学した。別に国家公務員にならずとも、地方公務員でも瞬としては十分良いと考えている。基本的に収入が一定で平穏無事に暮らせれば無問題なのだ。

 風を受けて進む中、登校途中はやはり数多くの生徒の姿を見かける。一学年四組四十人方式が取られているため、単純計算四百八十人、教員を含めても五百と少し。数百もの数の生徒が一様に学校へ向かう様は、小規模なパレードでも見ている気分だった。



 そんな中、見知った後姿が目に入る。同学年の少年と二つ下、一年生の少女だ。少年に何か言われた少女が殴りかかっているが、リーチの差でぎりぎり届いていない、コントのような光景が繰り広げられている。ちなみに少女の身長約百四十、少年とは二十センチ以上離れている。

 瞬は苦笑を漏らしながら、自らも自転車を降りて二人に声をかけた。

「雪尋(ゆきひろ)、沙紀(さき)ちゃん、おはよう」
「瞬かよ、おっす」
「瞬さん、おっす」

 二人は同時に似たような返事をする。さすが兄妹、と瞬は心の中で感嘆の声を上げた。

 兄の雪尋と瞬は、今年の夏ごろからの知り合いで、時折妹である沙紀ともよく話したのでお互い顔見知りだ。

 最初に雪尋と知り合い、その後沙紀も紹介された。当時、知り合いの妹と話すのが互いに気恥ずかしかったが、今では慣れたものだ。家庭のせいで友人を作らない瞬も、この二人とは事情もあって学校で良く話す程度には関係を築いている。年季が長いので友人と言っても良いかもしれないが、そこまでプラスに考えるのはやめている。

「相変わらず仲良いなぁ、二人とも」
「私は縁切りたいんですけどね……あーあ、瞬さんがお兄ちゃんならなー」
「ほうほう、沙紀は瞬みたいなのが好みだと」
「はぁ? なんで今のが私の好みに繋がるんだよ」
「おまえ俺のこと大好きだろう? 周りに兄成分を求める妹の姿……そういう無意識下での行動が実は深層心理に繋がっているってことだ」
「好きじゃねーよ。ならよく私の友達からかうのは、おめーがロリコンだって証拠だな」
「おまえが好きだからロリコンになっちまったんだよ」

 百四十に満たない身長の沙紀を上から下へ眺めながら、雪尋は轟然と言い放った。雪尋にしては精一杯良い声を出して愛を囁いているが、彼の思惑とは別に沙紀は見る見るうちに怒りを漂わせていく。

「あとで体育館裏来い。ここで血を流したら騒ぎになっちゃうから」

 ここだろうが体育館裏だろうが、流血沙汰は十分警察沙汰の大騒ぎである。

「家に帰ったら相手してやんよ、チビ」
「とう!」

 早紀の右フックが雪尋の腹に突き刺さり、体がくの字に曲がる。……最近の女子中学生は格闘が義務教育になっているのだろうか。藍那といい沙紀といい、武闘派な女の子をよく見かけるせいか、変な思考が定着してしまいそうだ。

「て、てめえ覚えてろよ。明日携帯開いたら俺の全裸が待機しると思え。そして周りの視線にさらされ羞恥に耐えるがいい」
「そんなことしたらおまえの携帯ぶっ壊すかんな!」
「実はもうしてるんだけどな」
「え?」

 言われて、沙紀は携帯電話を取り出し……表示された画像を一瞬だけ見てすぐ閉じた。

「死ね! しかもなんでモデルって感じにポーズ作ってるんだよ! すっげーキモい!」
「何言ってんだよ沙紀。兄の愛を分けただけだろうに」
「さっき知らずに藍那に見せちゃった……やだあ、恥ずかしすぎる!」

 藍那の名前が出てきたことに、瞬はぴくっと反応した。きょろきょろ辺りを見回してみるが、彼女の姿は視認できない。瞬はおずおずと沙紀に尋ねる。

「んで、その藍那ちゃんはどこに?」
「あ、クソ兄貴が乱入したから、置いてきちゃった」
「恥ずかしい。いつもお兄ちゃんで頭一杯だなんて」
「何勘違いしてんだよ。ふざけんな。それに、藍那は藍那を追いかけてきたシシーの相手してんだよ」

 冷ややかな視線が雪尋を襲うが、めげずに沙紀いじりを再開する。どことなく高原っぽいなと思いつつ、いないなら好都合と額に浮いた汗を拭く。

「沙紀ちゃん、相変わらず口悪いなあ」
「んな!……人の口調に文句言わないでくださいよ。なんですか、女の子っぽい口調しなきゃ女じゃないとでも言うんですか。可愛くないとでも言うんですか」
「沙紀は可愛いぜ?」
「眼を見て言え兄貴」

 普段は雪尋のことをお兄ちゃんと言うが、兄貴と呼ぶのは機嫌の悪い兆候だ。口よりも手が出る沙紀のことだ、あまりちょっかいかけないほうが良い。

 しかし、そこをさらに踏み込むのは沙紀の兄、黒(くろ)野(の)雪尋である。

「大丈夫。沙紀みたいにちんまいのでも世の中需要があるから」
「人が気にしてることを……っていうか需要とか言うな変態!」
「変態ってどんなやつ?」
「兄貴みたいな奴だよ」
「俺みたいな奴って?」
「人にちょっかいかけたりする奴」
「それは変態とは言わないな。教えてよ沙紀、変態ってなぁに?」
「変態ってのは。その、女の子に手を出したり」
「手を出すってどんなこと?」
「そ、それは…………い、家でたまにやってることとか」
「言ってみなさいよ」
「だ、だから、その」
「その可愛いお口で」 

 沙紀を口先でどんどん追い詰めていく様は紛うことなき変態である。しまいに沙紀は、ううう……と黙ってしまった。流石に助け舟を出さなければ。

「そのへんにしとけって。口聞いてもらえなくなるぞ?」
「瞬が見てないところでしっかりフォローしてんだよ。これくらいじゃ足りねー、もっといじらないと俺の調子がでん。妹分がまだ不足だ」

 俺はシスコンだよと豪語していたが、朝っぱらからお熱いことだ。こうやってちょっかい出すことで沙紀の反応を楽しんでいるのだが何事もやりすぎは注意である。

 充電~とか言いながら沙紀に抱きつく雪尋。白昼堂々、しかも衆人環視の中よくやるものだ。もちろん沙紀が黙っているわけもなく、すぐに引き離して拳を振るう。

 頬と腹にいいパンチをもらい、流石にそれ以上手を出さなかった。

「なんだよ、兄のテンションアップに協力しろよ」
「うるせー、ばーかばーか!」

 喚きながら一年の下駄箱へ走っていく沙紀の後姿を見ながら、外でこれなら家はどうなんだろうと興味を覚える。もちろん、興味を持つだけで踏み込むつもりはないが。

「仲、良いんだよな?」
「良くなきゃシカトするタイプだよ、俺もあいつも。これも一つの愛情表現ってやつだ」
「妹っていうか兄弟がいないからよくわからんな」
「俺も一時期やんちゃしてたしな。そん時構ってやれなかったし」

 少しだけ真面目な横顔を見せながら、雪尋はぞれ以上言葉を続けなかった。

「時期って言えば、おまえも最近良い感じじゃねえ? なんか前よりも少し話しやすくなってる気がするぜ」

「え?」

 その言葉に、思わず足を止めてしまう。呆然としている瞬を尻目に、雪尋は話を続けた。

「知り合ってからつい先日までは、話したら答えるだけだったけど、最近はおまえの方からも話しかけるじゃんよ。ま、良いことだから別に構わないけどな」

 瞬に自覚のないことを言いながら、雪尋は先を歩いていく。瞬はその背中に何か言いかけたが、結局口をつぐんで何も言うことが出来なかった。







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