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巫女とハーフと埋伏の夢

 白。白。白。
 白銀色の雪景色に支配された幻想郷は、深々と降り積もる自然の脅威が訪れていた。
 強い風が吹いたり、強烈な寒波が襲っているわけじゃあない。けど、毎日毎日減少のげの字も見せない降雪量が蓄積されていけば当然、平均気温というのも下がり続けるわけでして。

「…………………ねえ、幻想郷の冬ってどうなってるの?」
「どうなってるって?」

 ガタガタ震えて歯を鳴らす夢美の問いに、炬燵の暖かさに包まれて微睡んでいた私は呑気に答える。

「明らかにおかしいでしょ、雪まったく止まないじゃない!」
「ここは砂漠とかじゃないんだし、雪がまったく降らないってのもそれはそれでおかしいぜ?」
「そういう問題でもないでしょーが! 毎日毎日毎日毎日止む気配もなくどんどん降りよってぇ…………」
「冬だしー」

 だから自然なことなのだ。自然でないといけない。というか寒いから自然のままでいて。動きたくない。

「冬でもおかしいことはあるのよ。見なさい巫女。これ、人里の降雪量データ。去年までと比べると圧倒的に今年が狂ってることがわかるわ」
「調べたのは私だけどなー」

 同じく炬燵の温かみでぬくぬくするちゆりに同意する私の顔に、紙の束が押し付けられる。あー、やめてー。

「博麗の巫女なんだから異変の前触れかもしれない調査を欠かさないっ!」
「寒いんだもん…………」
「岩をも砕く巫女も、寒さには勝てないってか」

 手がかじかむしね。皮膚が割れるとどうしても拳の握りも浅くなるし。
 他にも色々建前な理由はあるけど……まあ、ひっくるめて言ってしまえば寒いのが苦手というので正解だ。水を想起するせいかもしれない。
 まだ人里から依頼もないし、出来る限りはのんびりしましょ。

(それでも今年の冬は確かに異常。というより、雪が降り積もりすぎてる。……雪の妖怪って言えば雪女くらいだけど、まだ出会ったことないし、幻想郷全域に及ばせる力があるとも思えない。……あー、面倒だけど調査した方が早いかなぁ)

 夢美に押し付けられた書類を横目に、私はぼんやりと今後の予定を組み立てる。
 これ以上雪が続けば博麗神社への道のりが困難になって参拝する人が減ってしまうかも、ということに対する危惧もそうだが、何より自分が嫌だった。
 せめてもう五分、という温かみへの欲望を打ち消し、私はゆっくりと炬燵から体を出した。

「仕方ない、少し調査といきますか」
「流石ね巫女。素敵よ」
「けしかけたとしか思えんがな」
「お黙り」

 がみがみとちゆりを叱る夢美をよそに、私は二人に神社から出ないよう一応の指示を出しておく。
 こう見えてこの二人は、以前妖怪の山限定であるが幻想郷を騒がせた異変の首謀者である。その時に拠点を潰された彼女らは、保護観察ということで博麗神社に居候しているのだ。

「なんでよー。私達も連れてきなさいよー」
「ダメなものはダメ。ちゃんと留守番してなさい」

 外の世界から幻想郷を調べるためにやって来た彼女らにとって、幻想郷での事件は自分で調べたいようだ。好奇心という点ではハーフ君にも劣らないだろう。

「おみやげよろしくな」
「そんなもの、ない」

 からかうように声を投げるちゆりに適当な返事を返し、私は自室へと向かい着替えを始める。
 冬ということでハーフ君に新しくこしらえてもらった衣装箱を引っ張り出し、中身の袖を通す。
 デザインは以前着ていたものに似ているが、フリルがついたりインナーに肩リボンがついていたりと、少し洒落た造形となっている。うん、やっぱ飾りがあったほうが可愛いわね、と一人満足する。
 製作はハーフ君だけど、デザイン設計はこの私なのだ、この服は。ついでに、ハーフ君の冬衣装の設計もしてあげたが、気に入ってくれたかな?
 一応もう一着、ハーフ君が独自に作ってくれたものもあるけど、あれを着るのはまた別の機会にしている。理由は簡単、冬というには軽装なので寒いのだ。寒がりな私からすれば、動きやすさよりあったかさを求めたい。冬に脇出しとか凄まじいセンスだと私は思う。いや、冬でなくとも脇出しはすごいと思う。どこからか肩出しはいいのかという声が聞こえた気がしたけど無視した。
 着替えをすまし、草鞋から耐寒装備として番傘を携え黒いブーツに履き替えた私は、靴と体の調子を確かめながらぐっと考える。

(一刻も早く、原因が見つかりますように)

 もし妖怪だったらさっさと殴って終わらそう、と意気込みながら、私は白銀の幻想郷を踏みしめ博麗神社を後にするのだった。




 探索開始から小一時間。
 すでに私のやる気は半分以上下がっていた。
 雪原と言っても過言ではない道を踏みしめるには必要以上に体力を使うし、視界の大半が白に染まっていて面白みも違和感もない。
 地面は言うまでもなく凍結していて滑りやすいし、少しの水気があれば容赦なく氷漬けになっている。
 パキパキと足で氷を割って暇を潰しながら進んでいると、急激に気温の変化が生じた。ただでさえ寒かった周囲をさらに低温化させる原因が、そこにあったのだ。
 それは言うなれば氷で作られた建築物、より正確に言えば祠のような洞窟だった。大きさ自体はそう広くないけど、ヘタをすれば博麗神社の敷地程度の面積はあるかもしれない。
 神社から勘の赴くままに南下を続けていたから、ここは博麗神社の南に位置するだろう。けど、以前にもここは通ったことがある。けど、そこにあったのは何も無い平原のような場所だったはず。
 そこに、洞窟が生まれる?
 広さで言えば確かに突然現れても受け入れるだけの土地はあった。けど、問題はそこじゃない。平原に氷で作られた洞窟が存在していることが異常なのだ。

「どう考えても異変よね……もう少し、防寒具用意してくれば良かった」

 ハーフ君特性の服には多少の耐寒……正確には一定以上の保温を保つ効果があった。五行属性における火がうんぬんとか言ってたけど、暖かくなるなら理屈はどうでもいい。しかし、全てが氷に包まれた建物に入ればいずれは保温の容量を超えて体温は低下を続けることだろう。
 寒いのは嫌だし、風邪を引いてしまいそうだと考えるが、どう見ても異変でしかないものを放置するには博麗の巫女としての挟持が許さない。
 はあ、とため息を一つこぼし私は番傘を閉じて洞窟の入口に立てかけると、意を決してその洞窟へ進んでいった。



 天然迷路は氷で作られているといえ、地面に貼った薄い氷の膜よりも強固に作られており、歩くだけでは割れる気配もない。このくらいの厚さなら、踏み込んだ時に足場が壊れることはないだろう。
 慎重に周囲を探りながら、私はお札メリケンを両手に巻いていく。陽光が直接届くことはなかれど、視界に闇はなく十分に良好だ。もし何かが起こっても十二分に対処は可能である。
 むしろ、早くここから出たいからさっさと原因に出てきてもらいたい。本当に自然でこんな洞窟が出来るはずはないのだから、これを作った何者かがこの中に居るはず。
 入ってしばらくは真っ直ぐ歩き続けるだけだった。進んだ先に十字路もあったけど、左右にはそれぞれ行き止まりしかなかったので結局のところは直進である。
 それを何度か繰り返した先、少し開けた場所に出た。特に目のつくものはないけど、ちょっとした開放感からか私は息をすうっと吸い込み、口を開く。

「博麗の巫女が参ったぞー。さっさと観念して出てきなさーい!」

 さーい………ぃ…………と洞窟に中に虚しく声が響く。反響した声が数秒間ほど広がり、やがて空気の中に溶けていった。

(ま、当然か。逆に反応したら馬鹿みたい――)
「参られましたかー」

 馬鹿が居た。
 想像以上の呆気無さに拍子抜けしつつ、私はすぐさま音源に振り返り戦闘態勢を整える。

「私はレティ・ホワイトロック。冬を生きる妖怪よ。よろしくね」

 そう言って遠く離れたところから現れたのは、白い帽子を被った女性だった。
 青と白を貴重とした服に包まれた体躯は女性らしさを象徴しており、同時に妖怪特有の怪しい瞳で静かに私を射抜いて来る。
 緩やかにウェーブした髪を揺らしながら、レティと名乗ったその女性は気軽に話しかけてくる。

「……聞いたことある。冬にしか顔を出さない、寒気を操る妖怪だって」
「あら、いつの間にそんな人気者になったのかしら」
「この妖怪に注意、って感じだからむしろ指名手配扱いよ」
「そうカッカしないの。周りのように冷たく、クールに話しましょう」
「貴方のような妖怪と違って、人間だから寒すぎるときついの。まともに話したいなら、少しくらい気温を上げて欲しいもの、ね!」

 相手が口を開くより早く、私は真っ直ぐ一直線にかけ出す。目標はすでに見えており、走りこんだ私の間合いの中に入っている。あとは最大威力のお札メリケンでぶっ飛ばしてしまえば――

「…………!」

 跳ねるように突進した全てのエネルギーをその場で止める。急制動によって生じた運動量は全て足元へ流れていき、厚いと判断したはずの氷にひび割れと凹みを残した。

「噂に聞く猪巫女ってわけでもないのね。それとも、勘?」

 口元に手を当てながら微笑するレティ。
 揶揄するようでもあり、賞賛しているようにも見て取れる。私にとってはむかっとする行動でしかないが。
 博麗が私に教えてくれるのよ、と軽口を答えながら私はすっと右手を伸ばす。
 足を止めた理由はとても簡単だ。私と女性の間には壁が存在していたせいだ。それも、一見ではわかり辛いほど薄く、私の突進を止めるほどの何かを発している。
 触れているだけなら、指先に少し力を込めるだけで壊れそうなほど、それこそ水溜りに膜を張った程度の氷にしか見えない。けれど、そのミリ単位であろう薄さの中に秘められた力は、霊力の乏しい私にもひしひしと感じることが出来た。

「何これ…………」
「それが、この建造物の秘密よ。博麗の巫女」
「この壁が?」
「より正確には、これを作った力の一欠片。これを突破できない限り、平原を元に戻すなんて十年経っても不可能よ?」

 笑みを深めるレティへ顔をしかめたものの、先ほど感じた嫌悪感は薄い。多分、出来の悪い子供を相手にした母親のような笑みだったからだろう。純粋に、私のことを心配している様子が見てとれる。
 とは言うが、天下の博麗の巫女が妖怪に心配されるのはいただけない。意趣返しというわけではないけど、度肝を抜かせてあげましょう。

「夢美の船より硬いってことはないでしょ。ぶち抜かせてもらうわ」

 すっと拳を引き、お札メリケンに霊力を溜めていく。
 最大の一撃を最高の威力で放ち、壁を粉砕してみせましょうか。
 渦巻く霊力が螺旋を描いて拳へ吸い込まれていく。湖に垂れる一滴の雫でしかない私の霊力が起爆剤となり、堰き止めていたダムを決壊させるかのように破壊の力が集う。
 久方ぶりの全力の打ち抜き、中々使う機会はないけど使った後の爽快感はかなり後味が良い。さて、この妖怪の余裕の笑みを周囲と同じように凍らせてあげましょう。

「とくと見なさい、博麗の能なしによる一撃を――」
「ああ一つ注意事項なのだけど」

 振りかぶった拳が薄壁に当たる直前、そんなつぶやきが聞こえてきた。
 無視無視、と右から左へ流れるように彼女の言葉をスルーしようとした私であったが、

「この壁、洞窟全域を支える支柱みたいなものに繋がってるから、壊すと洞窟も壊れるわよ?」
「――――――へ?」

 時すでに、遅し。
 最大まで溜め込んだ霊力と拳による加速が加わった一撃は壁を打ち砕き、破壊の余波による振動が洞窟全域へと響き渡る。
 地鳴りのように崩れる足場。上方からは砕けた壁が氷柱のような鋭さや単純な氷塊という打撃力を伴って降ってくる。

「ちょ、攻撃したら洞窟崩壊って冗談じゃ…………ちょっと貴方……いない!?」」
「貴方みたいに、言うことを素直に信じてくれる人は私達妖怪にとってはありがたい存在ね~。それが博麗の巫女ってのがなお面白い」
「…………ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!」

 レティへの罵倒はやがて、洞窟を埋め尽くす雪崩への驚きへの切り替わる。
 まずい。洒落にならない。重みで押し潰されて死ぬかもしれない。考えるよりも早く、私の足は入口へと動いていた。

「今度会ったら問答無用だからね、覚悟してなさい!!」

 いち早く脱出することしか考えていない私の負け惜しみが相手に届いたどうかは、全くわからない。それでも、言わずにはいれなかった。 
 体に当たりそうな氷は手足で砕き、進行方向に盛り上がった障害物は突進で貫いていく。それでもその行動の一つ一つが着実に速さを殺し、脱出への時間を奪っていく。

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 気合を入れているのか絶叫なのか、自分でもよくわからない叫び声をあげながら、私はひたすら駆け抜ける。
 そして見つけた出口に希望を見出し、とうっ、と勢いをつけて外へ飛び出す。ずささー、と多少体を擦ってしまったが、なんとか無事に洞窟を抜けたようだった。

「ふー、まったく、」
「危機一髪だったわね」
「そう、その通…………」

 すぐさま立ち上がり、声のするほうが振り返る。
 そこには、先ほど壁越しに対話した時と変わらぬ佇まいでレティが私を見据えていた。

「さっきはよくも!」

 怒りのままに突進する私だったが、まるでその行動だけを繰り返すように再び足を止める。先ほどと同じことの繰り返し。それは、同じものが私とレティの間に立ち塞がっているからであった。

「嘘ついてたのね。突破すれば良いって言ったのに」
「ただ『壊す』だけじゃ同じことの繰り返し。突破=壊すってわけじゃないのよ?」
「悪かったわね、脳筋で」
「誰もそんなこと言ってないのだけど」

 じゃあハーフ君辺りが言ったのかしら。きっとそう、多分そう、絶対そう。だから後でこの借りを返してもらわないとね。具体的にはあったかい食べ物とか。
 呑気にそんなことを考えていた私は周囲の違和感に気づく。それは、先ほど崩壊した洞窟が、再び私の周りに存在していたからだ。
 まるで過去に遡るように、周囲には何の変化もなく再び薄壁越しに私とレティは対峙していた。

「気づいた? この洞窟、破壊されてもふたたび作り直されるの。だから壊すのは無意味な労力を使うだけ」
「貴方がこの洞窟を作ってるんじゃないの?」
「まさか。むしろこれをなんとかして欲しいのよ」

 思いも寄らぬ発言に、少し言葉を失う。レティ・ホワイトロックと言えば寒気を操って人間を恐怖に陥れる雪女。彼女が現れる日は非常に寒いと相場が決まっており、その場に相対するだけで力が削られていくとのこと。こんな風に氷による異変があるなら、彼女の恐れを助長させるものではないのだろうか?

「寒気を操る貴方が、寒気を生み出す存在を処理して欲しいの?」
「簡単よ。これは自然によって作られたものではないもの。人工の冬なんてナンセンス、冬は冬であるだけで尊く、生命の儚さを告げるものなの。人為的に生み出された自然は、むしろ汚されているとしか思えない」

 かすかな怒気が声に乗って吐かれる。どういう意図かは知らないが、レティもまたこの洞窟形成の繰り返しの現象に憤りを感じているらしい。
 私は意識を切り替えて、尋ねるべき質問を拾い改めて問うた。

「……ひょっとして、力を吸われていたりするの?」

 ぴくりと、レティの眉がかすかに動いた気がした。言葉にも出していないが、雰囲気に変化が生じたことを察し、私は彼女に告げる。

「私に、どうして欲しいの?」

 そこで、初めてレティは嬉しそうに笑う。
 笑み自体は何度も見ていたのに、私にはそれが初めてレティの見せる笑顔のようにも思えた。きっと、感情の込め具合というやつだろう。ただ笑うだけならそういう造形の人形でも出来る。感情が込められることで、きっと初めて笑顔というものになるのだろう。

「さあね。とにかく、異変の解決は任せたわよ博麗の巫女。なんとかしてみて頂戴」
「あ、ちょっと、何かヒントの一つくらい…………!」

 質問を投げた頃にはレティの姿は陽炎のようにゆらめき、消えていた。返事はなく、言葉によって震えた空気が虚しく反響するだけだった。

「もっかい壊しても、多分同じ結果、か。うーん、一旦返って対策を練るべきかな」

 障害物は氷なのだから、ハーフ君の八卦炉で炎を用いて溶かしてもらうという手でもいけるかもしれない。何にせよ今は手段がなさそうね。
 それでも他に何の方法も試さずに去るのはダメダメと気を取り直し、私は少し腑に落ちない気分を抱えながらも再度薄壁の壁を攻略すべく主に体を使って調べるのであった。









「寒すぎる。神社についたらまずは熱燗かお茶を用意してもらわないとな」

 巫女設計僕作成の冬服(アシンメトリーなところが気に入っている)を着込んでいるといえ、季節の暦が冬である以上寒さをなくすことは出来ない。冬に寒くないなんて出来事が起きたら異変以外の何事でもなく、冬が過ぎても寒いままならやっぱりそれも異変である。何が言いたいのかと言えば、寒いのは冬のせいだから仕方ないね、ということだ。
 とはいえ寒いのが好きなんて言うつもりは微塵もない僕からしてみれば、一刻も早く時間が進むのを待つばかりだ。
 身を震わせながら、僕は博麗神社への道のりを歩いていた。夢美達が起こした異変から日々は過ぎ、天候はともかく穏やかな日々が毎日を刻んでいる。僕にとっての毎日は暇を潰したり物を作ったり考察したり、何より巫女にちょっかいをかけることである。
 十年近く続けていることだけあって、その足取りに迷いはない。昨今のように異変で怪我をするのはいただけないが、彼女が博麗の巫女である以上は仕方ないことだろう。
 それにしても、妖怪の山の騒動は僕にとっても巫女にとっても近年稀に見るものだっただろう。幻想郷全体で見れば特に被害はなく、妖怪の山の身内のゴタゴタで処理されているものの、あの技術力が他に飛び散ったとなれば一大騒動であったのは想像に難くない。
 そう考えると飛散せずに妖怪の山の中に留めた天狗の首領を褒めるべきか、そんな展開に持っていった夢美に感嘆するべきか。
 何にせよ、飛び火しないのであれば好きにやればいい。

「おや……?」

 白雪を踏みしめた足が止まる。
 元は森林である現在地も冬積もる雪のせいか一面を白銀に染めているせいか、何らかの異物が侵入してくれば、とても分かりやすく示してくれる。
 異物とは人影であり、僕以外の誰かがこの場にいることを示していた。
 音もなくそこに現れたのは、僕よりも背の高い銀髪の翁だった。老人であることを踏まえると白髪であるかもしれないが、艶のある髪は色が抜け落ちて変色したものとは思えず、生来の地毛の色であろうことを推測させる。
 冬の季節のせいか、長着の上に羽織を加えた上、質の良い襟巻きという重装備。腰に帯びた刀からして老剣客と言った風情だ。
 対面するのは初めてだし、幻想郷で外に出歩いて誰にも会わないということもない。だから単なるすれ違いだろうと僕は無視して歩き出そうとしたのだが、それは他ならぬ翁によって呼び止められる。

「少し、者を訪ねたいのだが」

 低く、厳かな声音は相手を威圧するかのような発声だった。本人にその気はないのかもしれないが、少なくとも僕にとっては一歩下がってしまいそうなプレッシャーを伴った声だった。

「ええ、何でしょうか」

 気圧されながら、無意味であると自分を誤魔化し体に活を入れる。単に質問されているだけなのに、どうしてここまで圧力を感じる必要がある。
 足を止めて、体に芯を入れるように固定する。少しでも気を抜けば、情けない話だが尻餅を着いてしまいそうだったからだ。

「博麗神社へ行こうと思っていてな。存じているか?」
「…………ちょうど僕もそこに行こうとしていたんですよ」
「案内を、頼めるか?」
「…………………ええ」

 そう言うと、翁は僕に先を歩くよう言う。 
 少し歩いてわかったことは、翁が途方もない武術の達人であろうということだった。足運びに隙もなく、雪を踏みしめているというのに音を出すことがない歩法。二人で歩いているというのに、僕一人分の足音しかないと、自分しかいないような錯覚すら起こる。
 翁は黙って僕の背後を着いて来る。ぴったりと、一定の距離を保つ様に揺れはなく、意図的に足を緩めても向こうも同じだけ進む速度を抑えてくる。
 そんな位置関係に気まずくなった僕は、沈黙を回避する意味を込めて質問を投げた。

「そういえば、どうして博麗神社へ? お参りというようには見えませんが」
「何、他愛ない用事だ」
「用事、ですか」
「ああ」

 ここで初めて、翁の足音を発するが僕の耳をつく。僅かな違和感を覚えながら、彼の答えを待った。

「当代の博麗を斬りに行くだけだ」

 自分でも信じがたい反応が僕の体を駆け巡る。左手に霊印を起動させ、振り返りながら八卦炉を取り出した時すでに翁は抜刀し、僕に向けて刀を振り下ろしていた。
 金属が咬み合う重々しい音が響く。八卦炉を盾にすることで初撃は防げたものの、こんなの偶然でしかない。キチキチと刃金によって削られる八卦炉の外壁に戦慄していると、翁の口から言葉にならないつぶやきが漏れる。

「見かけによらず好戦的だな」
「斬りかかっておいて、何を言うやら」
「先手を打って防いだまでだ」
「このっ……!」

 のしかかる力は半端無く、右手を八卦炉の下に添えて両手、いや全身の筋力全てを総動員しても徐々に押され始める。対して向こうは涼し気な顔をしており、まだまだ底を見せていない。鍔迫り合いともろくに言えないこの状況でも、僕を一蹴できる程度の力を持っているはずだ。
 そんな相手であるなら、脇目もふらず逃げの一手を打つのが当然の判断であるはずだ。だが、今の僕はその考えを破棄することしか考えられなかった。……目の前の存在を巫女に合わせてはいけないと、強く思ったからだ。勝てる気はせず、策も何一つ思い浮かばないがなんとかしなければならないという思いだけが胸を支配する。
 蹴りで間合いを伸ばすことも不可能。押し潰されるような上段からの一撃は腕だけでなく足にも負担をかけ、僕が一歩も動けぬ膠着状態を作り上げている。
 この状況を打破する方法は一つ。八卦炉使うことに他ならなかった。
 息切れしそうになる中、炉の蓋が相手に向いていることを確認した僕は相手との距離を取るべく射命丸式による風の力を解き放とうとして――あっさりと、拍子抜けするほど簡単に八卦炉が弾き飛ばされる。

「あ、れ?」

 だから、そんな呆けた声が出た。
 だから――次いで放たれる斬撃に対して、何の反応も出来なかった。
 八卦炉を弾いた横薙ぎの刃は縦の軌道に切り返し、音もなく振り下ろされる。
 一閃。 
 白刃から煌く銀光が、冬の空気をまとった氷刃の軌跡を描く。動けることなど何もなく、僕が出来たことと言えば刀身が白木の鞘に納まっていくのを見ていることだけ。
 ぱちん、と納刀の音が響いた瞬間、それは起きた。
 肩から腰にかけて赤い線が血飛沫を伴って走る。僕の体内という苗床から咲いた鮮血の花が積雪の大地を紅く染める。
 痛みすら感じる間もなく、自然と僕の体は白い白い雪の中へと埋もれていった。
 じわり、じわりと天然のキャンバスに人工の赤が塗られていく。出血による朦朧のせいで意識をはっきりさせることが出来ない。
 ぼうっと、自分に起きた出来事をどこか他人事のように観察することだけが、僕に許された行動だった。

「…………聞いていた話と違ったな。随分と、積極的なことだ」

 翁の声が上から届く。耳はその言葉を聞き入れていたが、頭では何を言っているのか理解できなかった。

「それほどまでに、と言うことか」

 目の前が白く染まっていく。
 紅雪とは違う、白い粒々の何かが視界の端から現れ、急激に辺りを白く塗りつぶしていく。ごぼっ、と口から何かが出た。それを確認しようとしたが、あたり一面が白になっていて何を吐き出したのかわからなかった。

「これなら、告げるまでもない」

 何か、探さなければ。何を? 武器だ、この翁を止める何かが欲しい。
 僕の武器は八卦炉だ。どこに飛ばされた? どこにある? 見つけ、ないと……
 見つ…………………――――…………………―――――

「博麗…………出…………急…………」

 声が、遠い。
 何も、聞こえなく、なって、きた。
 どう、すれ。ば。

「……………巫……………女…………」









 そのつぶやきは、彼のものだったのか。翁のものだったのか。
 認識すら出来ず、世界は反転し黒に染まっているだろう。
 声を出すことも、指先一つ動かすことも叶わぬまま、彼の意識の糸はそこで断ち切れている。
 それでも、虫の息であっても青年はまだ生きていた。
 そんな彼の様子を見やり、翁は先の出来事を反芻する。
 良い反応だった。言葉よりも早く体が動いていたし、動けぬ状況下での判断も知っていたが、翁からしてみれば雛鳥が目の前で歩く様を見ているようでしかない。一手も二手も、その何手先でも読みきることは可能だ。
 青年は良き反応をした。戦に慣れぬ素人と聞き及んでいたし、実質彼の動きは戦う者のそれではない。そんな身でも、青年は確かに速かっただろう。
 けれど、足りない。翁との間に存在する、到底辿りつけぬ圧倒的な実力差を前にしては遥かに遅い。
 とはいえ、精神は肉体を凌駕するとでも言うのか、青年は気を失ってなお弾いた武器へ手を伸ばしていた。
 意識してのことではない。そこにあるのは執念、いや妄執とも言うべきか。翁を博麗の巫女に会わせぬという意志がそこに感じられた。
 この状況になった言葉を顧みれば当然であろう。青年からすれば、翁は博麗の巫女へ敵対と取れる発言をしたのだから。
 だが、翁は動かない。真に博麗の巫女と敵対するのであれば、ここで青年を斬る必要はなかった。
 青年が当代の巫女にとって大事な相手というのは聞き及んでいるが、わざわざそんな相手を斬って巫女を挑発するという戦術は翁の好みではない。本当に敵対するのであれば、真っ向から斬り伏せるのが翁の最も得意とするスタイルだからだ。
 翁が思案している間にも、青年の体からは出血が続いている。溢れ出す血はすでに周囲に血溜まりを作る勢いである。今は全て雪に吸収されているが、季節が冬でなく雪が積もっていなければ、血溜まりを作る程度に流血しているのは明らかだった。
 人間であれば死亡の秒読みであるが、翁は彼が自分と似たような混ざり者であることを存じている。すぐに死ぬことはないだろう。それでもこのまま放置すれば死に至るかもしれない。
 翁は思案を顔に見せぬまま、倒れる青年へ近寄ろうとして――突如発声した横殴りの衝撃によって吹き飛ばされる。
 雪を削り砂利が見えるほどに大地を抉りながらも、翁はすぐに体勢を整え、自分をこのざまにした相手をねめつける。
 乱入者は女だった。
 大人と少女の境目にあるような、妙齢にしてはやや幼さを残す顔立ちの女。
 桃色でセミロングの髪にはシニョンキャップを着けており、冬用に着込んだ厚着の胸元には牡丹が彩られ、その衣をさらに覆う前掛けには茨の刺繍が施されていた。怪我でもしているのか服の裾から覗く右腕には包帯が巻かれており、反転した左の手には鉄の腕輪をはめている。
 翁は怪我という判断をすぐさま撤回する。己の身を苛む痛みは本物であり、仮に傷を負っている状態だとしてもこれほどの攻撃を繰り出したであろう相手を侮ることなど出来なかった。

「白昼堂々と辻斬りに遭遇するとは思いも寄らなかったわね」

 彼女は隙を見せぬままゆっくりと倒れた青年の傍へ歩み寄り、守るように翁と対峙する。知り合いか、という線は浮かんではすぐに消えた。ならば、名を問うておく必要があった。

「…………何者だ?」

 納刀した刀の柄に手を添える。瞬時に抜刀できる体勢、知る者が見れば居合いと評したその姿を見やり、彼女は頬にかかった髪を背後へ流しながら答えた。

「茨華仙――ただの、行者ですよ」








「え、ハーフ君来てないの?」

 結局何の収穫もなくとぼとぼと博麗神社に戻って来た私は、そろそろ来ているであろうハーフ君に知恵を求めることにしていた。
 しかしコタツでぬくぬくしているちゆりから返ってきたのは未だ来訪せずという知らせ。今日辺りに来ると言っていたしとっくに来ていると思ったんだけど、まだ姿を見せていないらしい。

「今日来るって言ってたのか?」
「うん。昼食もゴチになるー、とか言ってたしもう着いてる頃かと思ったんだけどね。何してるのかしら」
「ふーん。ああほれ、これやるよ」
「お、あんがと」

 ちゆりから受け取ったおむすびを一つ頬張りながら、私はあの洞窟をどう攻略するか頭を悩ませる。こういうのは私の専門外だ、誰かに知恵を借りるのが一番良い。博麗の巫女なら一人で解決しろと言われたらそれまでだが、出来ないものは出来ないんだから仕方ない。
 でもハーフ君がいないとなると……うーん……

「案外、妖怪に襲われてるんじゃないか?」

 コタツの台に顎を乗せながらぼそっとつぶやくちゆり。軽い口調だったので話の繋ぎでしかない、冗談交じりのものだろう。事実、私も強く反発することなく、口の中に残っていたおにぎりを飲み込んだ後にのんびりと返す。

「ああ見えて逃げ足早いから大丈夫よ。自分から仕掛けるほど好戦的でもないし」
「それもそうか。戦う理由もないだろうしなー」
「でもどうしよ……ハーフ君がいないなら打つ手が……」

 あ、そうだ。あの子がいるじゃない。
 ハーフ君を待つのも手だけど、なるべく早めに解決したいし、今回は彼女に協力してもらうとしよう。知識も結構あるだろうし。

「そう言えば夢美は?」
「あー、散歩とか言って出かけたまんまだな。すれ違ったんじゃないか?」
「神社の外に出てなければ良いわ。少し気になるけど、まずは目先の異変をなんとかしないとね」

 つまみ程度の昼食で腹を満たしたことだし、また出かけるとしよう。せめて今日中には解決のヒントくらいは手に入れておきたい。

「おーおー熱心なことで」
「仕事はちゃんとしないとね」
「そいつはご立派、巫女の鏡だな。ま、頑張って来いよー」

 ちゆりのやる気のない応援に手を振って返しながら、私は再び博麗神社を後にした。
 さて、あの子はちゃんと家にいるかしら?







 音を発さぬ接近を、翁は自らの鍛え上げた感覚を研ぎ澄ませることで察知する。
 周囲の木々を蹴ってこちらへ高速接近する華仙は、視認すら不可能な速さで翁に到達する。
 瞬時に抜刀し、即座に華仙に対応する翁。迫り来る影を迎撃するはずだった刃は誰にも当たることなく空を切り、影は翁の背後を取っていた。

「ぬっ…………」

 背後を取られた翁は一撃を叩き込まれ大きく吹き飛ばされるが、すんでのところで防御が間に合ったことでまともには入っていなかった。ゆえに影の攻撃は止まらない。
 腰よりもさらに下、足下から伸びる一撃が翁を空へ跳ね上げ、華仙はそれを伝って追走する。白を作り出す木のてっぺんまで飛ばされた翁は体勢を立て直し、強襲を仕掛けてくるはずの華仙を睨み付けた。だが、そこに人影はない。
 戦闘者としての勘か、翁は刀を頭上に掲げた。そしてそれは、文句ナシの正解だった。刀と鍔迫り合う獲物は蹴撃。細くしなやかに長い足の重みが、刀越しにずっしりと入り込んでくる。

「辻斬りが幻想入りしたなら、外は平和になってるのかしら」

 刃で受けたさい、引きを行ったにも関わらず足が切れていないことに眉をひそめる翁をよそに、華仙のもう片方の足が翁の胸元へ伸びる。咄嗟に刀に掛かる重圧をずらして受け止めようとするが、伸びる足は翁の刀をすり抜ける。驚きにほんの少し目を剥いた翁は這い上がる衝撃を押し殺したものの、再度明後日の方角へと蹴り落とされる。
 その合間に華仙は横たわるハーフの傍へ降り立っていた。着地と同時に仙術で大地に干渉し、彼を囲うような陣を描く。下準備を済ませた後、翁への警戒を緩めず素早く上着を脱がして懐から取り出した治療用の薬をさっと傷口に押しこんでいく。止血だけの応急処置だが、しないよりましだ。

(傷は深いし、流血の量も多い。人里の医者に任せるより、百薬枡を飲ませたほうが早そうね。そうと決まれば屋敷に連れ帰って――)

 そんな華仙の一瞬の思案を、唸りを上げる風の鼓動が切り裂いた。
 先ほど翁を吹き飛ばした方角から剣風が飛来し、体を抉る爪となって襲い来る。途中にあったはずの森林が鋭い切断面を残しながら細切れになっていく様子を見やり、華仙は右手から作りだした光球を叩きつけることで相殺する。
 その空隙を縫って翁が迫る。上段から脳天を裂くような軌跡を描いた残光は真っ直ぐに華仙へ振り下ろされ、彼女は左手を盾に刃を受ける。斬入箇所は嵌め込まれた鉄の腕輪ではなく、華仙の細腕では翁の太刀を受け止められるわけがない、はずだった。
 刃と腕が重なった瞬間、そこから異音が生じる。明らかに肌や布から生まれるものでなく、まるで硬質な金属に弾かれたかのような音。先ほど蹴りを受けた時と同じく、全く切れていないのだ。

「意外と重っ」

 そんな結果を生み出した華仙は、真っ向から受け止めたせいか翁の一撃を前に体勢を崩してしまう。腕が斬れぬ状況に瞬き程度の疑問を浮かべながらも、このチャンスを逃す翁ではない。右手に刀の柄を握る力を残し、左の拳を握りしめ斬撃に劣らぬ俊敏さを持って突き出される。だが瞬きする時間は、華仙にとっては十分な防御の時間を生み出していた。
 螺旋を描く左拳は、華仙のしなやかな足のすねによって受け止められていた。
 力の拮抗に、互いの時間が止まる。
 瞬時に反撃へ転じたのは華仙。力の支点を崩し、拳を受け止めていた部分をすねから膝へ移す。
 そこに生まれる一瞬の空隙。
 トンッ、とかすかな音と共に翁の左拳と華仙の右膝が重なり、そこから生まれる膨大なエネルギーが解放される寸前、翁は体を引いた。結果、華仙が接地面より放とうとしてい力の解放は不発に終わる。
 翁が体を引いたことで互いに距離が離れる。しかし、翁にとっては一歩で間合いに踏み込める範囲である。ゆえににらみ合いのような膠着が場を支配していた。

「強いな」
「貴方も」

 漏れるのは互いの技量に対する賞賛。それも、お互いに傷はついておらずいまだ十分に余力を残しているとあっては、その言葉に意義を唱えることはない。

「で、そこまでお強い貴方がどうしてこんな馬鹿げたことをしているの? 強者を求めて彷徨う、武芸者の業ってやつかしら?」
「……………」

 翁は無言。元より返事を期待していなかったのか、華仙は落ち込んだ様子も見せず淡々と語りかける。

「一応聞いておくけど、引く気はない? 私が乱入したからには、彼をこれ以上害するのは難しいと思うけど」

 ちらりと横目でハーフを示す華仙。ぴくりとも動かぬ彼を見れば、翁の目的が単なる辻斬りならここで引くだろう。だが状況は依然として動かない。翁は、去るつもりがないのだ。
 単純に華仙という新たな獲物が現れたからなのか、それとも確実に息の根を止めるためにその場に留まっているのか。様々な思考が華仙の瞳の中に見え隠れしている。けれど翁の目はぶれない。まっすぐに、華仙にかばわれる一人の青年を睨みつけていた。

「まだ、断てておらぬのでな」
「そう。残念」

 華仙が膝を上げ、下ろす。すると、ハーフを囲っていた陣に光が灯り、覆うように半球状の壁が展開されていく。ただそれだけの動作が、彼女の張った結界の起動であった。
 それが十分な堅牢さを誇っていると一瞥して知った翁は、意識していなければわからないほどに微量な疲れの声を滲ませた。

「これはまた、骨が折れそうだ」
「折れるだけで済むとお思い?」

 一歩、翁が足を踏み出す。右手に構えた銀の刃を携えて。
 一歩、華仙が前に進んだ。右手からナニカを溢れさせて。
 二歩。両者は、同時に消えた。
 跳びかかる翁が横から振り抜いた刃を屈んでやり過ごした華仙は、相手の顎に目掛けて掌底を放つ。ミリよりもさらに狭まった範囲でそれを避ける翁。切り返し、がら空きの銅に吸い込まれるように向かう刀の切っ先を、華仙は左の手刀で打ち上げる。
 反動で宙に太刀が舞う。獲物を失ったにも関わらず翁に止まる気配はなく、拳同士の打ち合いを挑むべくさらなる近接距離へと踏み込んだ。
 放たれた矢のように伸びる翁の蹴りを、華仙は体をコマのように回し相手の攻撃の運動エネルギーを利用して背後へ回りこむ。勢いのままに繰り出された裏拳は跳躍によって避けられる。
 翁は跳躍と同時に反転し、宙を回転していた太刀を己の手に戻す。握られた柄から鈍い音が発すると同時、翁はそれを振り下ろした。後方へ下がることで刃の範囲から逃れた華仙だったが、翁は着地と同時に反転させた刀の切っ先を積雪の大地へと埋め込んだ。

「ぬんっ!」

 それは膂力か、それとも技術が可能にするのか。
 刀という鉄塊一つが地面を押し上げ、隆起していく。抵抗らしい抵抗もなく刀を振り抜いた先には、ひっくり返された雪地の一部が華仙へ向けて襲いかかる。
 迫る雪塊を前に華仙は息を吸い込み、仙気を含めて吐き出した。

「馬鹿者っ!」
 
 大気を、木々を根元から揺らすほどの音響と破砕を伴う振動を放つ咆哮は、その一声だけで翁が隆起させた地面返しの一撃を相殺する。
 砕け、溶け消える雪が両者の間に降り注ぐ間に華仙が疾走する。迎撃に備える翁が両手に携えた刀を正眼に構えると、途端に大量の妖力が太刀に集まっていく。
 翁は形成された巨大な光の刀身を大上段に掲げ、振り下ろす。

「甘い」

 華仙目掛けて放たれた斬光はしかし、彼女の両手によって阻まれる。翁は華仙の白刃取りによって微動だにしない己の獲物を見やり、さらに妖力を込めていく。
 白刃をその華奢な手で受け止めている華仙は、両手の中で物理と精神の圧力を強めていく刃に対し仙術で対抗しようとしたその瞬間、ざわりと髪が総毛立つ。
 上を向く。そこには、翁と瓜二つの姿をした何者かが白刃を華仙の華奢な首元へ振り抜いていた。
 上空に気取られたからか、華仙に隙が生まれる。翁は力の均衡が崩れたことを確信し白刃取っていた刀を押し込んだ。華仙の手を離れ振り抜かれた光をまとう鉄塊は――誰に当たることなく、空振った。
 驚愕に目を剥く翁。回避は不可能な間合いであり、自分が相手を見失うことなどありえなかったからだ。だが現に華仙の姿はなく、視界から消えていた。
 はっと、何かに気づいたように翁が上を向くと、そこへ降ってくるのは驚愕の声。
 防御こそ間に合っていたものの、華仙の右腕を打ち込まれた二人目の翁がそこにいた。

「分身、にしては些か気配が同一に過ぎる。それに、この手応え……貴方、幽霊かしら。それにしては人間としての体もあるようだけど、不思議な種族もいるものね」

 右腕を打ち込まれてよろめく二人目の翁を、今まで対峙していた翁の足元へ蹴り落とす華仙。二人目の翁はすぐさま立ち上がろうとするが、それは叶わず呻くばかりであった。

「何を、した?」
「触っただけよ」

 そっちの貴方にはよく効くみたいだけど、と呻いている翁へぼやきながら着地する華仙。眼差しの中には初めに対峙した時に見た行者というには程遠く、とてつもなく強大な力を秘めた妖怪としての眼光が伺える。
 翁はそれを見てなお、唇の端を吊り上げた。

「藪をつついて蛇を、いや『鬼』を出したか?」
「……その割には残念な顔をしていないようだけど」
「気乗らぬ作業に、一つ楽しみを見出したのでな」

 そう、と華仙はつぶやく。
 素っ気なさとは裏腹に、苛烈なまでの闘気を舌に乗せて。

「貴方の特性は理解した。怨霊とは少し勝手が違うようだけど、それも些細なこと」

 右手を開き、包帯から漏れるナニカを見せつけるように翁へ突き出し、握る。

「次は、潰す」

 宣言と同時に、二人目の翁の姿が消える。始まりと同じ、一対一の空間。風の音が悲鳴と錯覚してしまいそうなほど、両者の間にある空気は張り詰めていた。
 それが爆発する直前、他ならぬ翁から否定の声が上がった。

「いや、次はないようだ」
「何?」

 そこに響く、ひび割れたガラスが砕けるような音が耳をつんざく。並大抵の妖怪、たとえ目の前に居る翁の斬撃であっても防ぐであろう障壁が壊れたことに華仙は驚愕を禁じ得なかった。
 新手!? と声を荒げる華仙をよそに、翁以外の乱入者は現れない。しかし、この場には華仙と翁の他にも存在している人物は居た。

「う……………」

 そう、他ならぬ仙術結界によって守られていたハーフその人である。守ろうとしていた人物は、何故か結界を壊し出てきてしまったのだ。
 二重の驚きに目を剥く華仙をよそに、翁が跳ぶ。一瞬遅れて華仙もまたハーフの元へ殺到するが、来るであろう翁の姿は視認できない。当の本人は華仙の予想と異なり、後退することで引いていたのだった。

「退くの?」
「無理をする時分でもない故、そうさせてもらおう」

 そう語る翁からは先程まで滾らせていた戦意は微塵も感じられない。二人目の翁が不意打ちを仕掛けてくる様子もない。どうやら、本当に退くつもりのようだ。
 だからこそ、華仙には解せなかった。

「待ちなさい。どうして貴方は彼を狙うの?」

 口では冗談で言っていたものの、華仙は目の前の翁を辻斬りとは思っていなかった。内容こそ不明瞭だが、何らかの目的を持って動いているように見える。
 それがあの青年を斬ることとどう関係しているのか、それが華仙にはわからなかった。

「……………………」

 返答は、無言の一閃。
 間に線を引くように伸びる斬線は強烈な颶風を伴い、華仙の接近を妨げ十分な逃走の時間を稼ぐことに成功する。彼女が目を開けた時にはすでに翁の姿はなく、戦闘によって破壊された環境の名残だけがそこにあった。
 あの翁は戦闘力を減衰させても、まだ闘志を残していた。なのに退いたとなれば、先の推測が正解である可能性が高い。

「気にはなるけど、今は――」

 言いながら、這いずるように移動していたハーフの元へ走る華仙。近寄ったさい、左手に持っていた道具をこちらに向けようとして叶わない様子を見やり、華仙はやんわりと彼の手を退けながら膝を下ろす。
 触れた道具から粘着性のある体液が付着する。鉄分を含んだ血の臭い。止血したはずの傷口から赤みが滲んでいた。無理に動いたツケか、再度出血しているようだ。それが道具にまで伝うとなると、最初に流した分と合わせて相当血を失っているだろう。早く処置しなければ、と華仙は思った。

「大丈夫。もう貴方を害する相手はいません」

 どれほど通じるかわからないが、安堵を与えるために言葉を投げる。血の滲む箇所に再び薬で止血を行いながら、器用に応急処理を続けていった。

「……それ…………より……み……………こ…………」
「巫女? 襲われたから巫女に解決を依頼するってこと?」
「…………………………………」
「気絶した? うーん、狙われてるのは確かなようだし、とりあえず家で治療を済ませてから神社に――」

 全てを言い切る前に、華仙は言葉を止めた。おそらく無意識であろう、ハーフが華仙の右手を掴んだからだ。さらに言えば、包帯ごと握りつぶされていた。まるで、中身など最初からなかったかのように。
 だが今の彼にそれを気に留める余裕などないようで、右腕の違和感を唱える前に切羽詰まった声を華仙に訴えてくる。

「みこ、には…………しらせ……ないで…………………」

 華仙は自分の耳がおかしくなったのかと思った。
 襲われたことを知らせるな、なんておかしすぎるからだ。
 当然、華仙としてはそんな願いを叶えるわけにはいかない。

「何を言って」
「おねがい――します」
「……――……――……」

 一瞬、華仙は絶句した。
 彼の瞳の中にあるもの――悲愴なまでの懇願を見て、そのあまりにもまっすぐに向けられた感情に戸惑ってしまったのだ。
 その真意を確かめるにはすでに遅く、ハーフは今度こそ本当に意識を失っていた。
 今しがた彼が言った言葉がが、どれほど切なる願いであったのか。深さはわからないが、自分の体より優先することではあるらしい。
 普通なら襲われたことを黙っていろと言われて従うはずないのだが、華仙は単純に切り替えることが出来ず、悩みの沼へ沈むことになってしまった。

「……どうしよう」

 右腕を見やる。気絶して握力など込められていないだろうに、懇願するように伸ばした手は華仙の右腕を掴んで離さない。気絶してなお、ということだろう。
 華仙の中で様々な感情が天秤にかかる。常識人としての自分が博麗の巫女に知らせることを意見していたが、瀕死の状態から言った言葉を無碍に一蹴することは、考えられなかった。
 悩んだ結果、治療して改めて話を聞くことにした華仙はまず自分の屋敷へ戻ることにした。
 ハーフの体を抱えて立ち上がり、一瞬だけ右腕を掲げようとして、やめる。彼が未だに右腕を掴んでいるからだ。
 代わりに口笛を吹いた。程なくして、巨大な体躯と翼を併せ持つ大鵬(たいほう)が華仙の下へ降り立つ。自らのペットである大鵬を使役し、自分と彼を運ぼうと考えていたのだ。
 しかし彼の傷口にばかり注意を向けていたせいか、ハーフの左手に抱えていた血まみれの道具――八卦炉が彼の手からこぼれ落ちたことを、華仙は見落としていた。
 そのことに気づかぬまま大鵬の背に乗った華仙は指示を出し、自分の住処へと飛んで行くのだった。








 博麗神社に深々と降り積もる厚い積雪に足跡を残し、岡崎夢美は一人誰もいない敷地を歩いていた。周囲一面が白雪の中、赤い髪と普段より厚みのある紅の衣は鮮明に映え彼女の姿を必要以上に目立たせている。
 散歩と称した見回りはしかし、言葉通りのものではない。夢美の表情はどこか険しく、まるで見知らぬ襲撃者に対して警戒を取っているようにも見て取れた。
 しばらく止まらなかった歩みは、神社の裏庭で止まる。境内からは無論見えず、大声を上げたとしても中にいるちゆりに届くことはない、離れの地。
 そこで夢美はつぶやくように声を漏らした。

「そろそろ出てきても良いんじゃない?」
 呼びかけに答える声はない。それでも、夢美はまるで相手がそこに居ると確信しているように言葉を続けた。

「貴方でしょう? 私達が神社に――ううん、幻想郷に来てからずうっと観察していたのは。最初こそ気づかなかったけど、妖怪の山に居た頃からあった違和感が神社に来てから顕著だった。妖怪の山じゃ出来なかった話、したいんでしょう? 要望に答えてあげたんだから、顔を見せるくらいしてもいいのでなくて?」

 言葉と共に吐き出される白い息が尾を引いて大気に霧散する。それが完全に空気に溶け込み視認することが不可能になるかならないかの瞬間。それは消えゆく吐息と入れ替わるように現れた。
 空間に亀裂が生じる。裂かれるように割られた虚空から現れたのは、無数の目玉だった。百眼という妖怪を知識として知っていた夢美は最初にそれを想起したものの、すぐに違うと判断する。
 それを証拠付けるように、中空に生じた無数の目が浮かぶ空間の裂け目から何かがゆっくりと浮かび上がってくる。
 目に入り込んだのは、金糸を束ねて編まれた織物のように美彩な髪に蝶の羽を連想させる装飾を施された帽子を乗せた、夢美よりも年若い傘を携えた少女だった。
 夢美はすぐに少女の姿をした妖怪なのだと直感で判断を下す。彼女の持つ瞳が、妖怪特有の怪しい色を秘めていたからだ。
 大陸風の服にフリルをあしらえさらに独特に改良したような、和洋曖昧の見られぬ混沌然とした装束に身を包む彼女の姿があらわになる。
 幻想郷の妖怪は人の形を模した者が多いように、彼女もまた例外ではないようだ。しかしそれが単純に擬態として普通に人間としての形を取っているのか、そういう形の妖怪なのか夢美には一見して判断がつかなかった。

「こんにちは、妖怪です」

 耳に届くその声に、夢美はわずかに眉をひそめながら答えた。

「一方的だけどそっちが知ってるようだけど、初めまして。気づいてくださいと言わんばかりに向けていたあの怪しい気配、気づかないほうがどうかしてるわ」
「貴方の助手は気づかなかったようですけど?」
「よく言うわ。私だけピンポイントに狙っていた癖に」
「それが理解出来ているなら嬉しい限りですわね」

 右手に握った扇子を口に当て、優雅な笑みを浮かべる少女。外見だけ見れば育ちの良い淑女のような上品さが窺える。反面、その表情を見る夢美は内から湧き上がる二つの衝動を抑えるのに必死だった。
 目の前の少女の形をした妖怪を調べたいという欲求と、その欲求すら即座に捨てて逃げろという相反する感情が、夢美の中でひしめき合っている。常に探究心が上回っていた夢美が慎重になるのは、天狗の棟梁との対話以来だった。
 すう、と息を整える。感情のままに湧き上がる欲求を原動力に、冷静に頭の中を整理していく。そうして、夢美は少女との対話に望んだ。

「知っているだろうけど、改めて自己紹介するわね。私は岡崎夢美。貴方は?」

 自分の口から漏れているとは思えない、慎重な判断ねと思いつつ夢美は会話を要求する。応えてくれるかは不明だが、何よりも相手の意図を知るのが先決と考えた。

「ご丁寧に。私は八雲紫と申します」
「それで、用件は何?」
「あら、私とのおしゃべりを希望されているのではなくて? 雑談を交えてから質問攻めにされる覚悟をしていたのですけど」
「観察だけじゃ私の全ては理解出来ないってことよ。貴方は格別に素敵と思う反面、あっという間に喰われてしまいそうな怖さがある。でも、それってとても素敵なことだと思うわ」
「お褒めにお預かり光栄です。不安を募らせているのが、なおいい」

 照れるように目を細める紫。実際に賞賛に気分を良くしているのかもしれないが、そう見えない胡散臭さが見て取れた。つまり演技だと判断した夢美は、紫のそれを流すことにする。

「あまり時間が経つと、巫女かちゆり、それに唐突な来訪者が来るかもしれないわよ。ハーフなんて、すぐ気づいて来るかもね」
「ああ、それはないのでご安心を。彼女はお供を連れて異変とも言えない小さな事象を調査していますし、貴方の助手がここに気づくこともない。それに、彼が今日に神社の鳥居をくぐることはありません」
「どういうこと?」
「さあ、どういうことでしょう」

 夢美の意識が手持ちの武器の確認と懐の銃に向く。神社での武装は禁止されているものの、非常用に作った武器の隠し場所まで知られたわけではない。そこから持てる限りの武装を仕込んで来たが、目の前の存在とやりあうには圧倒的に不足している。
 体に積もった雪を払う仕草を擬態に、服の下に着込んだ軽量パワードスーツのレベルを最大限まで上げる。それでも不安は拭えない。

「ですが、時間に余裕があっても早めに会話を終わらせたいのはお互い様。私も色々と歩き回らなくてはならなくなったので、手早く用事を済ませることと致しましょう」
「それは何よりね。さて、聞きましょうか」
「はい、聞かせましょう。私は、あなた達が速やかに幻想郷から出ていって欲しいと望んでいます」

 何を気負うことなく、世間話のような気軽さで紫はそう言った。その変哲のなさが、夢美の紫に対する警戒をさらに高める。
 慎重に言葉を選びながら夢美は言った。

「妖怪らしくて素敵な物言いね。でも、私達がここに来たのに使った可能性空間移動船、壊れちゃってるの」
「存じております。天狗にも困ったものね。私としては廃棄して欲しい、統一原理なる新たな技術に目を奪われている。好奇心と言ってしまえばそれまでですが、それが自分達を殺す科学であると知りながら手を出すのだから性質が悪い」
「好奇心は何者にも勝る素敵な感情じゃない。でも廃棄されるのは困るわ。妖怪を、魔力を調べることも出来ないし元いた世界に帰ることも出来なくなる」
「妖怪の資料は幻想郷縁起で間に合っております。あと、元の世界に帰れないなんてホラを吹く必要はありません。可能性空間を検出するコア自体がまだ残っていることは存じておりますので。本当、彼女には困ったものです。もう少し幻想郷のパワーバランスの一角を担っている意識を持って欲しいわ」

 その発言が、いや紫が夢美を見やる瞳が僅かに伏せられる。それが、空気を変えた。
 夢美は即座に銃を抜き放つ。探るような気配は一瞬にして消えさり、紫の挙動を伺う完全な戦闘態勢へ移行する。
 超人化原理――パワードスーツの一時的な使用の不能と引き換えに、人間の枠を超えた超人的な力を己に与える夢美の切り札――を切るか否か。秒よりも短い単位の時間の中、目まぐるしく動く夢美の思考はいかに目の前の相手から振り切ることにのみ費やされていた。

「そんなに急く必要はないわ」

 夢美がそう逡巡する中でも、紫に動く様子はない。ただ、悠然と携えていた扇子で神社の一角を指した。パワードスーツが持つ知覚能力から送られた情報では、そこには一匹の鴉が木の枝に止まっているらしい。その意図を探る前に、紫がその疑念に答える。

「あれは天狗の目。それも、その棟梁たる天魔特製のもの。貴方との取引通り、きちんと護衛を果たしているようね。まったく、その律儀さを他のところに回して欲しいのに」
「…………」

 どこか拗ねるようにも見える言葉はしかし、夢美の警戒を解く理由にはならない。むしろ、秘密裏に結ばれた道具提供を対価にした護衛の契約を知り得る八雲紫への認識をより危険なものへ高めるものでしかない。
 だがその内面をおくびにも出さず、夢美は問いかける。

「それを承知で、どうして私達を排除するなんて宣言を?」
「貴方がどれくらい天魔に頼っているかわからないですが、その『軽さ』を知っておいて欲しいと思いまして」

 そう言って目の前にいたはずの紫が、背後から夢美の肩を軽く扇子で叩いた。
 刹那、パワードスーツが最速を伴って駆動する。いつの間に、なんて言葉はない。ただ背後に回られたという結果だけが夢美を振り返らせる。
 最大威力のビームガンが紫の脳天へ撃ち込まれる。エネルギー残量への配慮すら忘れ、一撃の元に消し飛ばす気迫を乗せて放たれたビームガンは、避ける間もなく命中した。
 紫は直撃の勢いのままに地面へ倒れ――

「そう、『軽い』。妖怪への認識が軽いのよ。彼女も、貴方も」

 なかった。
 その声の主は紛れも無い、八雲紫のもの。先程夢美が頭へビームガンを撃ち込んだはずの妖怪は、夢美から顔が見えない程度に仰け反った姿勢のまま言葉を重ねる。

「名の通り、貴方は夢を美しく語る心の持ち主なのでしょう。それは幻想を幻想たらしめる人の想像力。素晴らしいものです。けれど、貴方達の夢は妖怪の本質を見抜けない。上書きでしか中身を見ることが叶わない」

 ゆっくりと体を起こしていく紫。ビームガンの威力を考えれば、首から上がなくなっているはずの熱量のはずだった。
 だが、現実は違う。
 再び夢美の瞳に八雲紫の姿が映る。そして、彼女は息を呑んだ。
 紫の顔に傷はない。熱量による火傷の後すら見当たらない。けれど、今までと決定的な違いがあった。
 紫が現れた時にも見た空間の裂け目、スキマとも言うべき亀裂が彼女の右目に重なって生じていた。位置と相まって、まぶたや目元の皮膚が剥がされて眼球が浮き出ているような奇怪さがにじみ出るスキマの中の右目と、正常な左目。異なっているはずなのに同一にも見える双眸が夢美をねめつける。ビームガンの銃撃は、あのスキマの中に消えたのだと夢美は漠然とそう思った。

「想像で押し潰せるほど、目の前の幻想は儚くない」

 その光景に目を奪われたいたせいか、夢美はようやく自身に傘の穂先が添えられていることに気づく。
 球状の光が傘の穂先に集う。避けなければ、先の紫にそうしたように今度は自分がそれを直撃する。それがわかっているはずなのに、夢美は紫から視線を外すことが出来なかった。

「人生の大病はただこれ一の傲の字なり。培った歴史が幻想を追い立てても、その萃夢なる泡が現実を包めないことはない。統一原理の恩恵を受け未来の知識を培った身なら、幻想を理解できるとでも思った?」

 内包する感情が見えない紫の台詞に、夢美は――

「素敵ね」

 そう、返した。
 傘の穂先に集まる妖力に対し夢美はビームガンを懐に収め、代わりに掌から浮かび上がる光子が形成する十字架――ストロベリークロスを取り出す。手の中にあるそれを一振りすると、十字光は彼女の身長ほどの巨大さへと増大した。夢美はそれを携え紫に応える。

「私がここに来たのは、可能性を求めてのこと」

 統一原理が、夢美の持つ力が実体を持たぬ十字架に収束していく。束ねられる熱量は、紫が放出せんとする妖力に劣らぬエネルギーを秘めていた。

「貴方達が統一原理の範疇外であるなら、喜びこそすれ落胆なんてもったいない。上書きなんてナンセンス、しっかり別々に保存して研究した後に一つに組み込んであげる。素敵でしょ!」

 宣言と共に、十字光の中に集められた光子が解放される。
 科学と幻想、対立する二つの異なる力がぶつかり合い周囲が光に包まれる中、夢美は続けざまにパワードスーツの動きに導かれるままにストロベリークロスを紫へ放った。が、それは傘の一振りによってかき消される。
 ようやく紫の位置を視認した夢美は、彼女が目の前から消えていることに気づく。すぐに知覚情報を頼りに周囲に首を巡らせると、紫は天魔の目と称した鴉の傍に佇んでいた。

「全く、貴女が気に入りそうな人間ね。破滅的というか刹那的というか、見事に突き抜けた欲(ゆめ)を持っている。案外、貴女が取り込まれてしまうかも。それはそれとして、例の件はお願いしますわ」

 夢美には紫が語る内容を理解することが出来なかったが、代わりに初見から感じていた不気味さが少し弱まっているように思えた。

「さて。私は他に行くところがあるのでここで失礼させていただきます」
「煽るだけ煽って帰る気? 素敵な性格してるのね」

 押しこむなら今か、と思案する夢美をよそに紫が扇子を振るうと、そこにスキマが現れる。夢美は迎撃に意識を切り替え、来るべき攻撃に備えた。

「これは返しておきますわね」

 そう言って、紫は左目を閉じて目配せした。つまり、ウインクである。その行動に意表をつかれる形となった夢美は、ほんの少しだけ注意が紫の左目に傾けられた。
 その空白を埋めるように、ウインクした目と対となるスキマの右目より光線が――夢美が紫に撃ち込んだはずのビームガンが放たれる。それに対し、夢美は後手をとらざるを得なくなった。
 反射的にストロベリークロスで相殺を図ったものの、完全に光線を消し切ることが出来なかった。夢美は即座に後方へ転がり、回避を試みた。
 パワードスーツのレベルを最大値にしていたおかげか、光線を受けることなく避けきった代わりに、紫はもうこの場から消えていた。パワードスーツに搭載されたレーダーでも知覚できぬ範囲に居ないことを確認し、夢美は受け続けていたプレッシャーを吐息に変え、長く長く溜め込んでいた空気を吐いた。

「流石幻想郷、私にもわからない未知がうようよして何よりね。でも……はあ、なんとか生き延びたー。こりゃバージョンアップ早めに済ませないと」

 改めて先程紫が居た空間を見やるが、そこには何もない。天魔の目も同様である。近々天魔の所にも顔を出さないと行けないかな、とスケジュールを組み立てていく夢美。だが今は無事なことに安堵するのが最善であると判断し、夢美は疲れを預けるように盛大に体を地面へ投げ出していた。







「うーん、随分と中身が薄いわね。残滓が散っては集まってを繰り返している。どんなに破壊してもこの風景が崩れることはない。ううん、この空間内に限定して、再現し直して固定しているといったもの……かしら?」

 可愛らしく首傾げられてもそれ以上にこっちはまるで意味がわかりません。
 引き連れた助っ人と共に私は再びレティが居た洞窟へ戻っていた。助っ人は件の事象を確認するなり思案に暮れてしまい、私の声が聞こえないほど没頭してしまっている。
 そんな少女の背に私は応援の念を飛ばす。両手から何かを飛ばすように念じたそれを一心に込め続けるくらいしか、自分に出来ることがないとも言える。
 生地の厚いブラウスにストールを巻きつけ、普段青いリボンをつけている頭部には代わりにファーの帽子が載せられた冬仕様の防寒具だ。腰にはしっかりと紐で閉じられたグリモワールが大事そうに留められている。私も厚着に加えてマフラーとかしているけれど、なんだか彼女のほうが暖かく見えた。
 私が洞窟攻略のために呼んだ応援は、小さな魔法使いの少女アリスだ。以前のごたごた以降、たまに遊びに(とある誰かさんに連れだされているらしい)来ることもあり、邪見にされず対応してくれたのは感謝である。
 それでもアリス自身はこの現象に魔法使いとしての好奇心が刺激されたようで、先程から熱心にグリモワールと見えない壁に向けて視線を彷徨わせている。
 物理的に破壊出来ないものならばお手上げな私としては、彼女が何らかの解決策を見出すまで言ってはなんだがとても暇だった。だから、応援の念をさっきから送り続けているのだけど……

「あの、ちょっと」

 振り返り、言いにくそうに口を濁すアリス。どうかした?

「すごく、気が散る」
「そーよねー。かと言って何もしないのはね」
「むしろ大人しくしていて欲しいのだけど」
「いや、手持ち無沙汰なのよ。かといって後よろしくとか言って帰るのは無責任でしょ? 私にやれることもなさそうだし、どうしたらいいやら」

 はあ、とため息をつくアリス。小さな子供にその所作はどうかと思うが存外似合っていると思った私は感性がずれているのかもしれない。

「変に生真面目ね。まあ整理って意味で、この現象について説明するわ」
「わかったの?」
「ある程度は」
「流石魔法使い! 頼りになるわ」
「こういう術は巫女さんのほうが専門じゃない?」
「私はそういうのまるで使えないから。私から霊力を感じたと思うなら、それは全部ハーフ君の道具から漏れてるのよ、きっと」
「言い切るにもどうかと思うけど」
「事実だしね。割り切るのは難しいけど、理解するしかないわ」

 そう、とアリスは小さくこぼす。術に関してはもうどうしようもないので仕方ない。
 かといって話してて良い気分でもないので、私は先を促した。

「それで、現象がわかったんだっけ?」
「ええ。簡単に言ってしまえば、これは夢のようなものね」
「夢?」

 思わぬ言葉に首をかしげる。
 夢と言えば、あれだ。寝る時に見る、あれのこと?

「他にも目標を夢に例えることもあるけど、概ね巫女さんの言い分で合っているわ。ただ、私が夢と称したのは、そういう儚さを内包した世界だからなの」
「世界?」
「そう。結界と言っても良いかもしれないわね。すでにこの洞窟だけが完成された造形物でもある。ううん、元は夢ですらなかったものが件の雪女に触れて形を得た、ってところかしら」
「先生、さっぱり意味がわかりません」
「先生なんて言われるほど知識を蓄えているわけじゃないのだけど……詳細な説明は省くから簡単に言うと、この現象は雪女が見ている夢が現実に起きている、って覚えていればいいと思う」
「夢の世界が現実に現れる、か」

 そうは言われてもねえ、と私は口に出さずに腕を組む。
 レティが見ている夢とかどういうことなのか。言葉通りに受け取るならば、それはレティがこの現象を望んでいるとも取れる。
 でも彼女はこの再現を止めて欲しいと私に頼んだ。レティが見ている夢、つまり望んでいることならば私の協力を当てにする理由はない。

「雪女が見ている夢なら、そいつを倒せばいいと思うけど」
「うーん、それはそれで違う気がするのよね。その前に、この壁を突破しないといけないし」

 言いながら、アリスに見せるように氷の壁を軽く叩く。洞窟の侵入を妨げる門番にして、この現象の原因の一旦とレティが称した謎の氷壁。
 アリスの推測で進めるなら、いわゆるレティの夢の一部らしい。しかし当の本人がこれを壊して欲しいのだと望んでいる。以上のことから考えるに、これは彼女の手によるものではないと私は思う。

「巫女さんがいくら壊しても先に入れず、元に戻るなら正しい手順で侵入する方法があるんじゃないかって私は思う」
「やっぱり? となると、何者かがレティに干渉してこれを作り出したってことになるわね。レティはやっぱ、それを私に倒してくれって依頼したってことかな」
「改めて、妖怪を退治するべき側の人間が請け負う仕事じゃないと思う」
「そう言わないの。ほら、人間も妖怪も幻想鏡の住人に変わりないんだし」
「はあ、貴女にそう言っても今更か。……ちょっと強引な手段になるけど、壁を突破する方法がないわけじゃないわ」
「ほんと!」
「うん、正規ルートじゃないからスマートじゃないんだけいたぁ!」

 私にとっての希望の声をつぶやくアリスに向き直り、その小さな肩をぐっと掴む。やや力が入りすぎていたのか、アリスは苦悶の声を上げた。

「もう、手加減してよね。ハーフさんは精神的に面倒だけど、貴女は肉体的に面倒だわ」
「ごめんごめん。それで、手段っていうのは?」

 私よりも一回りは年下の少女に情けなく謝りつつ私は意見を促す。アリスは痛みを紛らわすように両肩を回し、ひとしきり痛みが引いたのか体を動かすのを止める。そうしてゆっくりと紐を解いてグリモワールを取り出しながら、その手段を語りだす。

「グリモワールの魔法の一つに、空間の矯正みたいなのがあってね。本来は幻とか視界の効かない場所を正しく正常な空間に戻すものだけど……この夢空間は幻想郷全域に広がってるわけじゃなく、一部にしか適応されてない。だから、この魔法で強引に元に戻すってことよ」

 なるほど、確かに正規ルートではない。原因を解析するのでなく、無理やり元に戻すという手法も確かにスマートとは言わない。でも私からすれば元通りになるなら過程は別に気にしないでいいんじゃ? とは思う。

「解決する側としてはそう思うのも無理はないわね。でも私達魔法使い……見習いだけど、魔導に携わる者からすれば過程は非常に重要よ。何がどうして、どうなって結果を作り上げるのか。それは研究に置いてとても大切なことなの」
「科学者みたいな言い分ね。ハーフ君や夢美もそうだけど、学術に没頭する人ってみんなそうなの?」
「没頭するほど熱中出来るから、その職業に就くと言ったほうがいいかも。とにかく、その魔法を試してみようと思う」
「うん、私に止める理由はないわ。アリス、お願い」
「あっさり言うのね……まあ、それが巫女さんよね。わかった、やってみるから少し離れてて」

 軽く返事をしながら、私はアリスの邪魔にならぬよう後ろへ下がる。
 十分に位置が離れたことを見図らい、アリスが詠唱を始める。私にはまるでわからない呪文の羅列が並ぶにつれて、グリモワールに記された文字が光を帯びていく。
 以前ハーフ君が所有していたなぞるだけで魔法が使える本があったけど、あれがあくまで異端でありアリスのやり方こそが正当な魔法の使い方なのだろう。これからどんな幻想が起こるのか、そう考えるだけで期待に胸が高鳴っていく。
 それを助長するように、アリスの足元に白色で作られた六芒星の魔法陣が展開していく。小さな彼女の全身を包み込む円形の中に浮かんだ六芒星は螺旋を描くように回転を続けて二重三重に交わり、十分に練られた魔力がグリモワールを起動させる。
 グリモワールはアリスの手から離れ、ひとりでに浮かび上がるように中空にあった。呪文が紡がれるたびに魔力の紫電をほとばしらせるそれは、今か今かと主の声を待ち続ける従者のようにも見えた。
 綺麗、と漏れた台詞がきっかけだったのか。はたまたタイミングが良かっただけなのか、ともかく私のつぶやきを合図にするように、魔法が起動する。

「リフォーム」

 それが発動の合図なのだと認識したのは、グリモワールから空間全域に広がっていく光が発生してからだった。
 光は魔法陣の領域を増やすように洞窟全体へ広がり、入口は勿論あの見えない壁を覆うように伝っていく。
 魔法陣が一回りするたびに伝う光の数が増えていく。一条が二条に、二条が四条に、四条が八条へ倍々ゲームのように増えては覆いを繰り返していく。
 やがて光は集束していくように壁を密接し、一つの幾何学模様を描く。六芒星でもない、どういった意味を示しているのかは把握出来ないものの、あれがこの魔法の本領なのだと漠然と思った。
 疑問に応えるように、幾何学模様が形を変える。意図の読めぬ記号と文字の羅列から意味のある単語、門へと成り代わった。
 アリスの足元から、水中から水面へ跳ねる魚のように何かが飛び出してきた。魔力の塊にも見えたそれは、やがて鍵のようなものへと変化する。

「巫女さん」
「あ、はい」

 ハーフ君のものと違い、魔法らしい魔法が見れたことに感動して思わず敬語で返してしまう。アリスがその様子に呆れながら右手を振るうと、鍵が私の手元へと落ちてくる。これは? と視線で問う私に、アリスはこう言った。

「頼まれたのは貴女でしょう。なら、最後はよろしく頼むわ」

 やだ、この子律儀可愛い。
 私は喜色の笑みを浮かべながら礼を言い、頼もしき魔女見習いから受け取った鍵を門の中へと押し入れる。
 その時、私は一つの館を幻視する。日本にある幻想郷に文化である和風住宅でなく、西洋建築における貴族が住まう、チェック柄が印象的な大きな館だった。
 はっとして、意識を取り戻す。
 ほんの一瞬だけ意識が途切れていたらしい。途切れた合間に見た見たあれは一体……?
ぶんぶん首を振ってあの脳裏の景色を散らす。今するべきことは違うでしょ、私。と気合を入れ直す。
 そして差し込まれた鍵に呼応するように門が開かれる。途端、洞窟全体を覆っていた光が鍵の中に殺到していき、その鍵も私の手を離れ中空のグリモワールの中へと吸い込まれていった。
 光が消えたことを確認したアリスは改めてグリモワールを手に取り、ページに目を落とす。すると、彼女は怪訝な顔を浮かべて私のほうに振り向いた。

「ねえ巫女さん、改めて聞くけど貴女は結界術……境界操作って出来ないのよね?」
「いやいやいや、事前に言ったでしょ。無理だって。何かあったの?」
「気にするほどのものじゃないかもしれないのだけど……この空間自体がおかしいから、かな。ううん、私の気のせいだったかも。気にしないで」
「そう言われたら気になるのが人間なんだけど」
「いいから、先に進みましょうよ」
「まあ、それもそうね」

 過程はまるでわからないけど壁を突破したようだし、先に進まなきゃアリスに申し訳が立たない。

「一応聞くけど、まだついてくる? 協力要請はここまでだったけど」
「意地の悪い巫女さん。ここまで好奇心を刺激させておいて、放り出す気だったの?」
「言ったでしょ、一応だって」

 くすくす笑いながら、憮然とするアリスを眺める。帰ると言えばそのまま見送るつもりだったけど、正直アリスがこのまま去るとは思っていなかった。アリスもそれがわかっていたからこその反応だけど、これくらいしても良いかなーと思い実行させてもらった。
 仲良し、ってわけではないけどこれくらいなら許してもらえる気配があったのだ。徐々に心の距離が近づければいいなと私は思う。

「それじゃ、先に進みましょうか」

 レティはこの先にいるのかなーと呑気なことを考えていた私だったが、壁を超えた先にあった光が漏れていることにおや? と頭を捻った。

(洞窟なのに光源があるってことは、開けた場所なのかしら)

 何があるかわからない。私はいつでもアリスを抱えて後退出来るように位置を調整しながら進んでいく。
 その先、光が見える空間へと足を運んだのだけど――その先の光景に、思わず言葉を失った。
 そこにあったのは大きな湖だった。円形の大きな湖の周りには注連縄が巻かれた岩が並んでいるのが見えるが、他に注目すべきところは見当たらない。しいて言えば、湖から溢れるほどに水が多いくらいか。
 洞窟を抜けたら湖でした、と言ってしまえばそれまでだけど、氷の洞窟が続くと思っていた私はどう反応すればいいかわからず、放心するように湖を見やる他なかった。

「でもおかしいわね、氷の洞窟が出来る前は平原だったのに湖があるなんて……」

 位置的には神社の裏側に位置する現在地だが、元々あの洞窟は唐突に生まれたものだった。地底湖のように、洞窟から続いて湖を発見するならまだしも冬の季節でもさんさんと輝ける太陽は健在だ。だからここは外であり、平原に洞窟が生えたと思ったら今度は湖になったということになる。

「リフォーム失敗したかも……」

 んん?

 思案する私の耳に、アリスのつぶやきが届く。
 確かグリモワールの魔法を使うさいにリフォームを言っていた気がするけど、まさかこの状況に関連しているの?
 疑惑の視線に気づいたのか、頬を掻きながらアリスは照れるようにぽそぽそとこの湖の現状を語りだす。

「空間の矯正って言ったでしょ? 本来ならグリモワールの魔力で空間ごと再構成するんだけど、今の私じゃそこまでの力は引き出せなかった。だから今回は消去じゃなく変化させたってわけ。質量保存の法則からして洞窟を構成する固体を変化させたってわけだから、ひょっとしたらひょっとすると、あの洞窟の氷全てが水になった可能性があるわけで」
「いやいやいやいや、それならこれ矯正じゃなくて正すでもなくて、押し潰すって言ったほうが正解じゃ……」
「だからスマートじゃないって言ったのよ……」

 ぶんぶん手を振って否定する私の傍らで、恥ずかしそうにそっぽを向くアリス。視線を向けても目を合わせてくれないあたり、相当な羞恥心があるみたい。可愛い。もう一度言う、可愛い。

「でもそうなるとあの注連縄は元から洞窟にあったってことかしら」
「注連縄って?」
「神前とか神事の場に不浄なもの、神社なら幽霊とか妖怪かな。そういったものの侵入を禁じる印みたいなもので、境界を利用した結界の一種ね」
「ってことは、あの湖の中に何かが封じてある、ってこと?」
「その可能性は高いと思うわ。本来なら多分、洞窟の中だったんだろうけど」

 そして、それこそがレティが本当に解決して欲しい問題だと私は考えている。
 と言っても、湖の中にあるとしたら潜らないといけないのかな……冬の寒中水泳とか死ねる。想像するだけで億劫するものの、動かなければ仕方がないと私は意を決して湖へと近づいていく。
 水場へと近づいた私はさっそく湖の水に手を差し入れる。途端、全身に低温による刺激が走り咄嗟に手を引いた。
 この冷たさは洒落にならない。動きが阻害されるからあまり着衣水泳したくないし、動きやすい水着に着替え直したとしてもこの水温ではどのみち体が固まってしまいそう。氷でも張っているんじゃないの? ってくらい冷たい。
 アリスの説明通りなら、氷の洞窟から湖へ姿を変えただけらしいし、氷水みたいなものなのかしら。入りたくないわーホント。
 まあそれ以前に、私は水が苦手って大前提があるから入りたくないんだけど……

「ねえアリス、体を保温してなおかつ水の中でも地上と変わらない動きが出来るようになる魔法とか……」

 ふと、ここでアリスがいないことに気づく。振り返れば、膝に手を置いて息を荒げるアリスの姿が目に映った。私はすぐさま彼女に近寄り状況を尋ねる。

「アリス、突然どうしたの? 大丈夫?」
「……っ、はー、はー……」

 空気を求めてあえぐアリスからの返事はない。発汗で顔を濡らしていることからよほどの疲労が窺えるが、先ほどまで問題なく受け答えしていたはず。一体何が原因なの?

「……めん、な、さい。ちょ、……休ませて」
「…………ううん、今日はここまでにして帰りましょう。貴女の状態、ただごとじゃないわよ」
「私は……だい、じょぶ、だか……ら。た、だ。ま、りょく。切れ……た、だけ……少し、休……めば……」
「なら尚更休むべきだし、そんなことを言う子は信用できません、っと」

 どう見ても大丈夫に見えないアリスを背負い、私は負担を掛けぬようなるべく注意を払いながら元の道を引き返していく。
 レティには悪いけど異変解決は後回しだ。現状、湖の中へ入る方法は不明だしアリスを放置するわけにもいかない。
 魔力の枯渇というなら、あのグリモワールの行使が原因に他ならない。まだアリスが扱うには早い魔法だと聞くし、少しくらい受け答えしただけといえアリスの体調に配慮しなかった私のせいだ。
 単純な疲れなら休ませればいいけど、魔法の行使による負担は疲労だけで済むかは私にはわからない。ハーフ君ならその辺詳しいだろうし、彼の家に行ってアリスを診てもらうのが一番だろう。いなければベッドだけ借りて神社に行けばいるだろうし。

「それじゃ、ハーフ君の家に向かうからそれまでは背中で休んでなさい」
「……待……て。行くなら……わた、しの……家に」
「アリスの家? 診てもらわなくていい?」
「くすり……あるから……」
「そう。それなら目的地変更ね。何かおかしなことが起きたらすぐ言って」

 返事はない。頷くのすら体力が消耗するのだろう。
 このとても軽く小さな少女にどれほどの負担をかけてしまったのか、と反省しながら私は急ぎ魔法の森へ疾走していく。

(アリスの手を借りるのを控えるなら、湖に入るならにとりに協力してもらうべき? でも協力してもらって倒れた子がいるのにすぐ頼るのは駄目か。かと言って私一人で潜水するにも難しいだろうし、素直に頼むべきかなぁ。ううん、今は考えるのは後。アリスの看病に専念しましょう)

 情けない博麗の巫女だこと、と自嘲しながら、私はアリスの家に進んでいった。






 目が覚めた場所は、どこかの建物の中だった。
 木造の天井が見えるそこから首を横に向けると、丸い形に造られた窓がある。外の景色は森の中のようだが、周囲一面が闇に包まれているところを見ると現在の時刻は夜のようだ。
 時間が夜だと意識すると、部屋に明かりが灯っていることにも気づく。近くの台には水が張られた洗面器が置かれている。ゆっくりと体を起こせば、額の上に乗っていたタオルが腹に落ちた。
 どうやら、僕はベッドの上に寝かされていたようだ。上半身には何も着ていなかったが、代わりに丁寧なやり方で包帯が巻かれている。
 開かれた窓から風が入り込んでくる。夜風は季節のせいもあって体を寒さで震わせるに十分で、僕は慌てて布団を引き寄せた。

「いづっ……」

 暖かさと同時に、胸に痛みが走る。なんで痛みが――……!!

「そうだ、巫女……っ」

 痛む胸を押さえて苦悶の声を押し殺す。痛みに身悶えながら、現状を整理すべく僕はあの時の状況を回想していく。
 脳裏に浮かぶのは、当代の博麗を斬るといった老剣客。八卦炉を手に刀を防いだことまでは覚えているが、その後斬られてからがまるで思い出せない。
 いや思い出せないのは放置だ。早く神社に行って巫女の安否を確認しなければならない。もう遅いかもしれないが、それでも行くしかない。
 ベッドからすぐに出ようとするが、痛みが邪魔をして思い切り転倒してしまう。洗面器が置かれた台を巻き込んでしまい、派手な音を立てながら新たな鈍痛と体を濡らしてしまった。同じくして普段後ろに結っていた紐はなく、無造作に垂らされた長髪が水を含んで皮膚に付着していたがそんなのはどうでもいい。早く、早く巫女のところにいかなければ。

「何事で……大丈夫!?」

 転倒から体を起こすのと同時に、何者かが入室してくる。水差しなどを乗せたお盆を持った誰かは年若い女性だった。桃色の髪に二つのシニョンキャップを被せ、真紅の瞳は驚きに眼を瞬かせている。
 驚愕は一瞬、すぐに落ち着きを取り戻した彼女はお盆を適当な所に置き床に倒れる僕の肩を取ってベッドへ押し戻す。立たせてくれるのはありがたいが、戻るべきはここではない。

「すまないが、博麗神社はどこか教えてくれないか?」
「何、何を言って…………」
「早く行かないと、巫女が危ないんだ」

 懸命に僕は介抱の手から逃れようとするが、悲しいかな彼女の体がびくともしない。怪我のせいで力が出ないといえ、女性一人振りほどけないなんて情けない体だ。
 それでも止まるわけにはいかずなおも足掻いていたのだが、彼女のひと言が僕の動きを止めた。

「あの老人のことなら私が追い払っておきました。博麗の巫女にはこのことは何も伝えていない。怪我をした貴方を治療するために、私に家に連れてきた……説明はこれで良い?」
「君は、一体……」
「茨華仙。行者よ」
「馬鹿な。あの相手はとても強かった。追い払うなんて真似、そうやすやすと出来るはずがない」
「そうは言われても。貴方がこの場にいることが証拠と言う他ないわ」
「………………それも、そうか。助けてくれた相手に失礼なことを言ってしまってすまな……すみません。僕に名前はなく、でも周りからはハーフと呼ばれていました。助けてくれたみたいですね、ありがとうございます」
「物分かりがよくて結構。あと素でないなら、敬語はいいですよ」

 色々考えることはあるものの、助けてくれたことに違いはなさそうなので僕は華仙と名乗った女性に礼を言う。行者と言うからには何かの修行をしているようだが、あれを追い払うと言っている辺り武芸者の類だろうか。あの老剣客を退かせるなんて、よほどの腕でなければならないと思う。一体何者なんだ?

「落ち着いたなら、まだ安静にしていて。真っ二つにされてないだけ御の字な傷口だったんですよ」

 平行線を続ける気もなく、抵抗するのを止めた僕は華仙に導かれるままベッドへ戻される。寝台に体が沈み込むのを感じていると、突然華仙の手が伸びて口を開けられる。何を、と言おうとするとなみなみと酒の注がれた升を渡される。

「酒なんて飲んでる場合じゃ……」
「それは茨木の百薬枡と言って、飲めば傷を癒す効能があるんです。多少乱暴になるというデメリットもありますが、その傷口を治したいのならずっと飲んじゃってください」

 ……信用、していいのだろうか。とはいえ助けられたのも事実。僕には毒物はあまり効かない体質だし、飲んでから判断しよう。デメリットと言うのが気になるが、今は治るかもしれない傷を癒すほうが先決だ。
 するとどうだ。
 口に含み、中身を呑んだ途端体の痛みが嘘のように収まる。慌てて包帯を解いて体を見てみると、両断されかけた痕はすでになく、傷のない元の体に戻っているではないか。

「デメリットで乱暴になると思いますので、まあ傷を負ったままよりはマシでしょう」
「……すまない、今まで疑ってしまっていた」
「あ、いえ。見知らぬ相手に警戒するのは悪いことではありませんし」

 何度か謝罪のやり取りをしてようやく落ち着きを取り戻した僕がどうにかしてここから出なければと思案していると、椅子を寝台に寄せて座る華仙のほうから質問を投げてくる。

「聞きたいのですけど、貴方は当代の博麗の巫女とどんな関係? 随分と固執しているように思えたけど」

 巫女との関係、か。
 しばし逡巡してから、僕は理由を語ることにする。

「今の博麗の巫女とはもう十年くらい前に知り合ってね。色々あって、ずっとつるんでいる。固執というのは語弊があるな。あの相手は、博麗の巫女を狙っているらしいんだ。心配するのは当然だろう?」
「なるほど。それでは次。危機が迫っているというなら、どうしてそのことを巫女に知らせないのです? 見たところあの老人は人間じゃなかった。なら博麗の巫女なら退治の範疇のはず」
「駄目だ。あれは危険すぎる。巫女と会わせるわけにはいかない。……叶うなら、彼女には何も知らせずにいたい」
「どうして? 妖怪退治が博麗の巫女の勤めでしょう」
「あれは、巫女が関わるべき相手じゃない」

 あれを巫女に対峙させてはいけない。
 巫女とあの老剣客を戦わせるのは危険だ。おそらく、老剣客が巫女を狙っていると知れば彼女は戦いに赴くだろう。
 だがあれは今までの妖怪は無論、強力な妖怪である天狗の文や外の世界の技術を使う夢美達よりも危険だ。遊びがない。博麗の巫女とか、そういう肩書きなど無縁に敵を斬れるタイプだ。だからこそ、巫女の幻想など斬り伏せられる。相対すれば、そうなれば、――されてしまう。だから――

「危険なんて博麗の巫女なら避けては通れない道。貴方のさじ加減で判断するものではないわ」
「違う。僕だって、妖怪退治を止めるつもりは微塵もない。けど、あいつは駄目だ。あの老人には遊びがない。今まで巫女が倒してきたものとは一線を画する存在なんだ」
「要約すると、強すぎるから戦わせたくないって聞こえるんだけど」
「そう、言っている」
「貴方が無意識のうちに私の結界を破ったり、伝言を残すくらい博麗の巫女を心配していることはわかっています。ですが先程と矛盾しています。妖怪退治を止める気がないのに――」
「巫女に」

 強く、会話を区切るように言葉を言い放つ。華仙も強調に気づいたのか、僕の発言の続きを待ってくれた。

「巫女に、ただの人間に戦わせるべきタイプじゃないんだ。戦わせたらきっと、彼女の『在り方』が壊れてしまう。それじゃ駄目なんだ」
「『在り方』?」
「とにかく、僕はあの相手を巫女に関わらせたくはないんだ」
「遠まわしに、博麗の巫女ではあの老人に勝てないと?」
「……………………………そうだ。そして勝てないからと言って、彼女は逃げることをしない。力量差とかそんなのを差し置いて、博麗の巫女であらんとする強烈な意志が巫女から後退を奪う。――僕は、巫女を殺されたくない」
「なるほど、ね。でも、私はやはり言うべきだと思うわ。狙われているのが彼女なら、そのことだけでも伝えるべきだと思う」

 僕はそれに返す言葉はなく、それきり沈黙が場を支配する。
 華仙はしきりに頷いて何かを思案し、僕はと言えば巫女への強烈な罪悪感にうなだれていた。何かを裏切ったわけではないが、素直に巫女の力を信じきることが出来なかったことに対するものである。
 本来なら狙われていることを告げ、十二分に彼女をバックアップして戦いに臨むのが筋だろう。けれど僕はそうしなかった。
 勝てないと華仙には言ったが、実際のところはわからない。彼女は術が使えないことを体術という名の努力で補ってきた。それだけで妖怪と渡り合ってきた。そこは僕も知っているし、そこまで鍛えた彼女の鍛錬を褒めるべきだろう。
 だが、僕は彼女の努力の根っこを知っている。そうすべき理由があるから、巫女は今まで頑張ってきた。
 しかし、今回は違う。巫女の抱く幻想への憧れをあの老剣客は躊躇なく変えてしまうと危惧する。会話らしい会話もないし、一方的に斬り伏せられただけの直感みたいな判断だが……どうしようもない不安が、こびりついて離れないのだ。
 ゆえにこの件については水面下で処理しなければならない。自分があの老剣客を倒せない以上、人に頼るのが一番なのだが……
 僕は横目で華仙を見やる。
 流れで華仙に協力してもらうよう頼むのは簡単だ。僕に治療を施してくれているのだから、悪い人物ではないだろう。しかし僕と彼女では結果は同じでも過程が違う。
 巫女に知られずにあの老剣客をなんとかしたい僕と、巫女に危険を告げた上で対応するという華仙。
 仮に協力が叶ったとしても、僕に秘密で巫女にそのことを打ち明けてしまったらそれこそご破算だ。だから頼み込むのに躊躇してしまう。
 あれこれ考えて脳が疲れたのか、強烈な睡魔が襲いかかってくる。酒を呑んだからなのか体が睡眠を欲しているかわからないが、そのまどろみに抗えず意識が闇の底に沈んでいく。

「考えるのは後でもできます。今はゆっくりおやすみなさい」

 布団をかけ直してくれることに華仙に何か言おうとするが、声は言葉にならずかすれた息をもらすだけ。そうして、僕はまぶたが眠気によって垂れ下がってくるのを実感しつつ、巫女のことを強く思いながら眠りに落ちていった。
 





 寝息を立て始めたハーフを眺めながら、華仙はこれからのことを考える。
 治療のために連れてきた彼のことは気になるが、それ以上に気がかりなのは老人とその背後にいる存在だ。
 あの老人の目的はハーフの言質によると博麗の巫女を斬ることらしいが、そうすると華仙に対して放たれた言葉に相違点がある。確かにあの老人には何らかの目的があることには間違いなさそうだが、本当に博麗の巫女に用事があるならハーフを斬る必要はない。
 博麗の巫女に対する人質とも考えるも、そういう策謀をするタイプではないと華仙は思った。お互いに知り合い、という線もあるが老人のほうが一方的にハーフのことを知っていたフシがあることからおそらくは違うだろう。
 ハーフを斬ることを気乗らぬ作業と称していたことから、自分の意志で行った所業ではない。あの老人に命令できる何者かが背後にいるはず。  あれほどの強さを持った人物と後ろ盾、これは何らかの陰謀を感じる。
 この青年が巻き込まれたのは単純な偶然か、それとも博麗の巫女への挑発か。実際に華仙が通りすがらなければハーフは死んでいたかもしれないが、実はギリギリのところで生かす予定だったのかもしれない。
 浮かんでは消える予測に、こめかみをぐりぐりと指を押し込んで整理をつける。
 情報が足りない。あそこで乱入したのは人道的に間違っていないだろうし、助かったことには変わりないはずだ。華仙は己の行動に間違いなどない、と気持ちを奮い立たせて悪い予想を消していく。
 それよりもこれからのことね、と華仙は独りごちて頬に手を当てる。
 博麗の巫女に知られずに対処すると言っても、あの老人がいつまたやってくるかわからないということもある。直接神社へ乗り込まれたら誤魔化しも何もないだろう。
 とりあえずあの幽体のような特性に関しては『腕』の力が効いているだろう。本来なら消滅させるはずだったが、少し勝手が違いそこまでには至らなかったが多少なりとも被害はあるはずだった。

「どうしたものかしら。協力するのもやぶさかではないんだけど」

 博麗の巫女へ忍び寄る悪意を人知れず排除するというのは人間の味方をする仙人としての格も上がるだろうし、死神への牽制にもなるはずだ。
 個人的に巫女を助けたいというハーフの心意気に共感するということもあるが、あまり派手に動いて目立つこともしたくはない。
 そんな心の天秤が揺れる華仙だったが、突然椅子から立ち上がったと思うと部屋の中央を睨みつける。そこには虚空しかなく、誰も存在してはいない。
 だが華仙には見えていた。いや、感じていた。上手く消しているように見えて、隠し切れない強力な妖怪の気配を。
 その様子から居場所がバレたと観念したのか、中空からそれが現れる。老剣客以上のプレッシャーを受け、華仙は右腕から漏れるもやのようなものを侍らせ対峙する。
 そうして、何かは現れた。

「こんばんは、妖怪です」





<了>



支援絵いただきました!
じゅらきんさん(異変解決後の三人)
画像提供:じゅらきん

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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