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巫女とハーフと唐傘お化け

*1~4話は短編です。ストーリーは5話より開始



 第1話

 妖怪退治のお礼に、魚を人里の人から頂いた。
 いつものことだし、これは仕事なのでお礼は良いんじゃないかとは思うが、目の前にいざ油の乗った現物を見てしまえば、やめられない止められないとばかりに伸びる巫女の両手。
 そんなわけで、魚はありがたくいだたいた。
 博麗の名を持つ巫女は当然だが小傘も協力してくれたので、三人で相談した結果天ぷらにしようと決定。
 巫女に道具を扱わせるわけにはいかないので僕が揚げることになり、いざ台所へ。
 巫女は食器を、小傘はその他のおかずを準備中。僕も負けじと、魚に下味をつけてさっと揚げ、油を切った。
 皿に盛られる、衣美しき魚。
 食欲を刺激され、自然と鳴る僕の喉。
 右を向いて巫女の位置を確認。
 左を向いて小傘の位置を確認。
 ついでに後ろにも向いて確認。
 犯罪とは、立証されなければ罰することが出来ない。……あとはわかるだろう?
 というわけで、塩を振って油の乗った新鮮なお魚をいただくことにする。
 美味い。
 もう一度言う。
 美味い。
 酒は確か……あったあった、これが魚に合うはず。
 僕は食欲のまま、こっそりつまみ食いをしていた。
 ……十分後。
「聞きたいことがあります」
「何でしょうか、巫女様」
「私らが食べる予定の魚は?」
「溶けて消えました」

 胃の中に。

「ハーフさん、せめて口元の油を拭いてからにした言ったほうが良いわよ?」
「ついでに顔も赤い」
「実は巫女のこと考えてたら顔が自然と赤く」
「なんとなんとなななんと!?」
「今素直に話せば一週間から一日に変更してあげるわよ?」

 それは、布団の上で寝る時間的な意味だろう?
 そして折角教えた小傘のおとぼけが全く空気を緩和してくれない。むしろ冷えた。
 というか一口二口ならともかく、隣でつまみ食いをしていれば武術に秀でた巫女なら絶対に途中で気づいていたはずだ。
 つまみ食いした時点で、僕はボコられることが決定事項なのだろう。わざわざ全部食べ終わってから声をかけたとのは、執行猶予のつもりだろうか?

「さ、ハーフ君。お答えください」

 美味しかったです。


――その日、しめ縄で蓑虫状態にされた変人と変妖のハーフの姿が一日中ずっと博麗神社で見掛けられたそうな。




 第2話


 寒い。
 逃げた妖怪を追いかけて魔法の森に入った私を待っていたのは、春先の肌寒い夜の空気だった。
 しかも腹の立つことに、妖怪はまだ見つかっていない。拳をぶち込んだから、そう遠くへは行けないはずだけど……妖怪の生命力はやはり舐めてはいけないと反省する。
 はぁっ、と白いため息が漏れる。
 ああ、それにしてもでも寒い。ついでに眠い。 
 惰眠の気持ちよさというのは好きな食べ物で構成された食事と同等でありさらに言えば興味のないうんちくや話を並べられている時に襲い来る睡魔に負けて寝ることと同じくらい気持ちいい。
 ああでも睡魔の誘惑に耐え切れる自信が――

「博麗の巫女、夢遊病の疑いか。某日、妖怪退治のために魔法の森へ乗り込んだ巫女であったが、魔法の森の瘴気にあてられたせいか生物学的に女に分類されるにもかかわらず、人の前で危ない顔しながら口開いて涎垂らすという行為を行ってる」

 突如割り込み無駄な読み上げを行うハーフ君の声で意識を取り戻す。危ない危ない。

「僕は別に少女が純情可憐派――全ての女性がしおらしく清らかでこんなことしたりなんかしないとか言って夢見てる男ではないので、別に幻滅することはないが良い年した乙女がする表情でないのは皆様にも理解できると思われます」
「うっさーい、眠いものは眠いからしょうがないの」
「だからといって、そのままで寝るのは風邪を引く」
「じゃあどうすればいーのよ」
「僕が番をしよう。その間に仮眠でもすればいい」
「こんな肌寒いのに? まあでも文句は言ってられないか……おやすみ」

 元々眠かったせいか、すぐにやってきた睡魔に襲われ私はそのまままぶたを落とした。



 目が覚めると、周囲が暖かいことに気づいた。まだ時間は夜だけど、気温に変化でも生じているのかしら?
 ふと、自分が何かに包まれているようことに気づく。後ろに何かあるようだ。

「一体何…………」

 そこにいたのは、ハーフ君だった。
 私の体を両手で包み込み、その上に天狗の新聞を毛布代わりに被せられている。……前に教えてもらったこともあったけど、新聞紙は意外と暖かかった。
 非常用と言って持ち歩いているのは知ってたけど、焚き火以外にも使えるものね、その新聞。

「……ん? ああ、起きたのか巫女」
「起きたのか、じゃないわよ。勝手に毛布代わりにしてくれちゃって」
「いや、何。体温の有効活用というやつだ」
「女の子を抱き枕にするなんて、けだものー」
「安心してくれ。どんなに身体を密着させようが仮に全裸であろうが、君には何もピンと来ないから」
「それはそれですげームカつく! 女のプライド的に!」
「いや、君だって逆の立場でもそうだろう?」

 そーだけどさー。何か、説明できない何かが込みあがってくるわけよ。

「とにかく、仮眠は終わりだ。朝には家に戻りたいし、さっさと探そう」
「…………そーね」

 このやり場のない怒りは、妖怪にぶつけることにしましょう。
 そうしようそうしましょう。そもそも、あの妖怪が逃げなければ私はこんな気持ちを抱かずにすんだわけだし。
 本気になった博麗の巫女の直感を見せてあげるわ、妖怪。……宣告通り、それから数分と経たず、私の怒りは発散された。
 
「ま、一応枕になってくれたのは感謝しとくわ。おかげで寒くなかったし、身体も鈍ることなく妖怪倒せたから」
「お礼は口だけかい?」
「朝ごはんにおかず一品追加」
「流石博麗の巫女。懐が深い」

 やれやれ。
 はぁっ、と白いため息がこぼれる。けどそれは、森に入ったときとは違う、憂いを帯びない感情が吐き出されていた。



 第3話


「~♪」
「あら小傘、随分機嫌良さそうね」
「あ、巫女さん」

 以前の事件以降、博麗神社に足しげく通うようになった妖怪、小傘が鼻歌交じり神社の敷居で踊っている。喜びの舞なのか何か知らないけど、知らない人が見ても知ってる人が見ても不気味にしか見えない。いや、小傘的には本懐かしら。

「何してたの?」
「準備をしていたの。ハーフさんが、精神状態を高揚させて、トランス状態がうんたらかんたら」

 実験? 今度は何を企んでることやら。
 河童がカガクとかいう物で同じようなことをしてるのは知ってるけど、ハーフ君のそれは魔術或いはそれに習う魔法。ここ、幻想郷では別に珍しいことじゃないけど……無駄にスキルが高いので、放置しておくと後々問題になるかも。

「ハーフ君はどこに?」
「神社の裏手にある倉庫に」
「おっけい、ありがと。何だかよくわからないけど、頑張ってね」
「はーい♪」

 ああ、この子超純粋。
 私がハーフ君の魔の手から救ってあげないと……!
 変に決意を固めた私が裏手の倉庫へ赴くと、そこにはニヤけた顔をしたハーフ君の姿があった。キモかったのでとりあえず拳を頬に打ち込んでおいた。

「何をするんだ、巫女」
「かっとなってやった。全然反省していない」
「なんて通り魔だ……流石は博麗の巫女」

 私が言うのもなんだけど、褒められる要素、何一つないはずだけど?

「表で小傘が踊ってたけど、何させてんの?」
「そうか。しっかり踊ってくれていたか」

 そう言うと、ハーフ君の表情が濃くなる。いえ、あれは戸惑い……?
 どのみち、ろくなことを考えてなさそうなので額に軽く手刀を打っておいた。

「いつつ、流石だな、巫女。無垢な子がどんどん自分色に染まってくのは何とも言えない感情が湧き上がるな、と思っていたのを読んだのか?」
「そんなの知りたくもなかったわ。とりあえず小傘を心の中で汚すのやめて」
「仕方ない、僕に芽生えかけた淡い感情はそっと胸の中に……」
「それ嗜虐心。恋みたいに甘くも何ともないから。相手の迷惑考えなさい」
「じゃあ次からは瞳の中にそっと……」
「眼で汚してもダメ」
「そんなに見つめないでくれ。恥ずかしいじゃないか」
「睨んでるのよ。勘違いすんな」

 あー、話が進まない。

「ともかく、実験って聞いたけど何させてたの?」
「あめ乞いの儀式さ」
「雨乞い?」
「そう。必要なのは踊りじゃなくて、そう思い続ける精神力だ。その願いが精神エネルギーとなって術式を動かす力となって還元される。巫女もやってくれるのか?」
「無理無理。神社の祭りでもないのに、あんな恥ずかしい真似したくないわ」
「そんなことないよ、巫女ならきっと出来る」

 顔に出てるぞー、無理だって。

「そんなことないよ、巫女ならきっと出来る」

 困った顔してやり直すな! 地の文で表現するの面倒よ!

「でも、なんでまた雨乞いを?」
「僕の実験に必要なことでね、巫女にも迷惑はかけてないつもりだが?」
「勝手に雨降らせて……神様がお怒りにならないといいけど」

 でも、最近の降雨量が少ないのは事実。ここは一つ、任せてみてもいいかな。

「準備は整った。巫女、せっかくだから君も念じてくれ。願掛けが重要なファクターだから」
「了解」

 ハーフ君の地面の下で魔方陣が具現する。
 蒼海の輝きを秘めて発光するそれを横目に、私も一応願掛けをすることにした。




 …………長い。
 いつまで待てばいいのかわからない。かれこれ一時間は経った気がするけど、一向に雨が降る様子はない。
 小腹も空いてきた。そういえばおやつの時間ねー。昨日は渋めのお茶だったけど、今日は甘味でも準備し――

「来たぞ、巫女! 成功だ!」
「え?」

 ゴゴゴゴと擬音でも発さんばかりに、魔方陣から膨れ上がった光が天を貫いたかと思うと、そこに暗雲が立ち込めてきたのだ。
 ホントに成功?! ちょっとハーフ君すごいわね、と感心してしまう。

「やったやった! ハーフさん、成功ね!」
「ああ小傘。これも君の協力があってこそだ」
「えへへ」

 褒めちぎるハーフ君に照れくさそうに笑う小傘。ここだけ見れば問題ないのだけど、心の中で何を考えているのやら……私が目を光らせておけばいか。
 ひゅぅぅぅ……と何かが空気を切って落ちてくる。……? 雨の音にしては、随分質量を持って――
 私の懸念は、肉が潰れるような嫌な音が響いたことで中断された。させられた。

「ぐえ」
「は、ハーフさーん!!」

 降ってきたのは、丸くて大きい玉……ううん、ほのかに匂う甘味……これは飴?

「飴ぇ? なんでー?」

 と、ここで私はハーフ君が言っていたことを思い出す。
 必要なのは願うこと。それが強ければ強いほど、願いを叶えるための力になるのだと。
 つまり何、私のちょこっとした願望が実験を失敗させたうえに飴を降らせたってこと?

「巫女さん、どうしよ……巫女さん、すごい汗よ?」
「え、ああ!? な、何でもないわ。それより、これ…どうしましょう」
「あれ、里の人におすそ分けするんじゃないの?」

 そ、そうなの……? いや、ハーフ君のことだ。この子に躍らせるため、そんな嘘をついた可能性もある。
 ならば私がするべきことは一つ。
 ゴリ押しであった。
 そうと決まれば早速実行、私はハーフ君を押しつぶす巨大な飴を里に運び、自分の手刀と拳で切り分け砕きながらそれを里の人々に配っていった。
 甘味が足りなかったのか、喜んで受け入れられた様子に加え流石博麗の巫女と褒めちぎられた。小傘からも尊敬のまなざしである……痛い、心が痛い!
 ごめんねハーフ君。起きたらやさしくするからー!!


 目覚めると、巫女がおかしくなった。
 具体的には僕のことを凄まじく気遣うのだ。怖いくらいに。
 僕が降らせたあれの成分に、優しさでも混じっていたのだろうか。小傘にそれとなく聞いてみても、特におかしい様子は見当たらない。
 ちゃんと飴を里人に配って回ったというのに、何かおかしいことでもあっただろうか?
 まあいい。これで条件はクリアされた。 
 これで里人の気質は一時的に水になった。周囲一体が水ということはつまり、地面の層を薄くするということ。
 これで落とし穴が作りやすくなる。
 無駄に硬い地面を掘るなど言語道断、その点しばらくすれば薄氷のごとき層に守られた地面が現れる。
 そうすれば、僕の道具一つで簡単に地面に穴が空く。
 ふふ……これで新たな地下工房の前準備ができた。
 今は自分の家と博麗神社、人里へ繋がる道しか開通していないが、いずれ幻想郷中をアリの巣のように張っていこう。
 苦労はするだろうが、達成できたときの開放感はまた格別だろう。
 そんなふうに、僕はこらえきれず夢想に浸っていた。



 ――その後、新たな道の開通はならなかった。いつになく協力的だった巫女が、道が崩れるからやめなさいと途中で道を埋め立てしてしまったのだ。しかも小傘を伴って。……もっと深く掘ればよかった。
 哀れな青年と彼を慰める妖怪少女、そしてため息の増えた巫女の姿がしばらく神社の周りから尽きなかったそうな。





 第4話


「……それにしても、不思議なものだな、付喪神というものは」

 小傘の本体である唐傘の修復を終えた僕は、道具の神秘について考えていた。
 妖怪となっている以上は、精神を確立させることで状態を維持する。傷つけられたと思えば傷つくし、治ると思えば傷は言える。
 この唐傘の場合、修繕とは治療効果の促進だ。
 その証拠に毛布を被って寝ている小傘(傍で見ていると言っていたが、時間が経つに連れて寝てしまったのだ)の肌艶も綺麗になっている。
 驚いたのは、布を張り替えるのでなく、垂れた舌が布を食し消化と同時に傷が癒える……自然と同化していくのだ。糊などでくっつける必要がなく、布を食べるだけで修繕は終わる。
 だがそんなことで修繕完了、なんて僕の矜持が許さないので、徹底的に弄り回して綺麗にさせてもらっている。
 唐傘とは和傘とも呼ばれ、竹を材料として軸と骨を製作し、傘布に柿渋、亜麻仁油、桐油等を塗って防水加工した油紙を使用した物である。防水性には大変優れている反面、耐久性に乏しく重いという欠点がある。
 洋傘の骨が数本程度に対して、和傘の場合サイズにもよるが数十本の骨が用いられる。これは洋傘と傘の展開方法が異なるためで、余った被膜を張力で張るのではなく、竹の力により骨と張られた和紙を支える仕組みとなっているためである。
 窄めた際に和紙の部分が自動的に内側に畳み込まれる性質を持つ。和傘は洋傘のように逆さに傘を立てて保管すると雨水が頭頂部に溜まり、浸水により破損する危険がある。そのため、天井や軒先からつるす様に保管する必要がある。
 また、長期で利用すると素材の特性で色が移り変わる。傘を展開するときには注意が必要で、一般的には下向きにして開けることが多い。これは、上向きに展開するには重量が過大であること、過度な力がろくろや骨にかかることを避けるためである。
 和紙を多用するため、虫食い、湿気による侵食、多雨時の防水性に問題が生じる他、雨傘として使う場合、長期仕様しないと防水用の油がくっつき、展開に手間取る場合がある。
 そのため、傘の手入れというのは非常に面倒なもので普通の人間は使い捨てとして傘を用いてしまう。そんなことをしているから、小傘のような妖怪が生まれてしまうのだ。全く、外の世界の人間は何をしているんだ。
 こんなお手軽な方法で修繕できるあたり、小傘は手入れの方法をあまり知らないのだろう。色々、教える必要があるな。
 しかし、何が一番治療に適しているか調べるために入念に準備して様々な道具を揃えたせいか、材料が余ってしまったな。もったいないし……何か使おうか。



「んう……あ、ハーフさーん。終わっちゃったの?」
「おや、おはよう小傘。随分とぐっすり寝ていたな」
「うん、なんかすごく快眠。……おおー!」

 急に立ち上がった小傘が、腕をぐるぐる回しはじめた。さらにその動きは腰から足へ伝達し、視覚の錯覚効果から軟体動物が踊っているようにも見える。
 唐傘の目玉も喜んでいるようで、ニコニコ顔だ。……こら、嬉しいからって舐めるな。

「調子がすごくいい! 絶好調ってやつ?」
「唐傘は随分痛んでいたからね。全部新調させてもらったよ」
「そのせいかぁ……うわぁ、外ではしゃぎたい気分!」
「別に雨は降ってないが?」
「日傘って使い方もあるわ」
「ふむ。傘としての本懐か」

 唐傘がつけた唾液をハンカチで拭き取りながら、小傘の提案を受けるかどうか悩む。
 正直に言えば作業を終えてくたくただし、眠いから簡便して欲しい。でも、こんなにも喜んでくれてるなら僕も嬉しいし、性能を試す意味でも付き合ってやろう。

「なら巫女さんのトコまで行こっ。そら、れっつらごー!」

 と、意気揚々と出たのはいいが、暑い。かんかん照りのようだ。日本晴れというやつだな。
 道中、小傘狙いなのか何なのか知らないが妖怪が僕らを襲ってきたのだが、絶好調状態の小傘が倒してしまった。服が破れたり体を汚してはいるが、傷はついていないようだ。
 やっぱ私絶好調、とつぶやくのを見やり歩くのを再開したのだが……

「小傘…………」
「え、なぁに?」

 なぁに、と言われても、その、なんだ、困る。
 小傘と僕の身長は頭一つ近く違う。そのため、小傘の唐傘を僕に差すには腕を伸ばす必要がある。
 が、そうすると小傘が日光にさらされる。さらに言えば、彼女は僕のほうへ唐傘の面積を多く取らせているので、直射日光の餌食だ。
 顔は笑顔だし、疲れている様子がないが……僕がなんだかいたたまれない。やれやれ、余った材料で作ったアレが早速役に立つとはね。

「ほら、小傘」
「え?」

 僕が渡したのは、雲を彩るようなもこもことしたキャスケット帽だった。
 曇天は不安を想起させる。傘というキーワードに雲を合わせれば雨を思い浮かべるだろう。
 自然でなく、過ぎたる雨は人にとっては懸念ものだ。暗雲から降る雨と唐傘を使えば、少しでも人を驚かせるのに役立つだろう。
 本来なら黒い染料を使いたかったが、この唐傘……茄子色に合うものとなれば、銀しか思いつかなかった。茄子は見ているだけで黒を想起させるし、問題ないだろう。
 そう説明して手渡したのがいいが、小傘は帽子を受け取ってから微動だにしない。時間が停止してしまったかのようだ。

「小傘?」
「…………うあ」

 目をむいてぎょっとする。
 小傘は身体を震わせたかと思えば、オッドアイからぼろぼろ涙をこぼし始めたのだ。思わぬ展開に僕は何が悪かったのかと慌ててしまう。

「ど、どうした? 帽子は嫌いだったかい?」
「違うの、違うの。こん、こんなに、し、して、くれたの、はじめてだったがら」

 つまり嬉しくて泣いてしまったということか。
 僕にしてみれば、余った材料で帽子を作っただけなんだが……よほど不憫な思いをしてきたのかもしれないな。

「気にしないでくれ。僕もちょっと下心があったんだし」
「え?」
「君(付喪神)をいじる機会なんて、早々あるものじゃないしね」

 言い訳をさせてもらえば、僕はこの言葉を吐きながら唐傘を見ていたのだ。決して、小傘に言っていたわけではない。

「あーほら、よしよし、これで涙を拭いて…………」

 ハンカチを取り出す僕の耳に、何かが落ちる音が聞こえた。目を向けてみれば、呆然としながら目を丸くする巫女がいた。
 巫女の傍らには包みが落ちており、中から海苔の巻かれたおにぎりがころころと転がっている。もったいない。

「ハーフ君? 何してるのかな?」

 心なし、驚き以外に怒りが含まれているような気がする。なんでだ?

「みござん、バーブざんが、バーブざんが……」
「なるほど、事情はわかったわ」
「さすが巫女。一目で理解してくれるとは」

 僕は小傘の涙をハンカチで拭くと、後は任せたと言わんばかりに巫女に押し付ける。
 ほとほと左様に、往々にして、少女の涙とは男にとっては敗北を意味する。面倒だし、悪いことをしていないのに悪いことをした気分になってしまう。
 そんなの関係ない、と言い切ることが出来てしまえば楽であるが、残念だが僕にはそこまで割り切れることが出来なかった。せめて初対面かつどうでもいい相手なら無視できるのだが。

「貴方も妖怪である以前に男だったということね」
「は?」

 巫女が何を言っているのか、今の僕には理解できない。

 何を、と言おうして僕は巫女の視線の中に小傘が含まれている理由に気づく。巫女が彼女を見る目には、憐憫や同情、なんとも言えない哀の感情があった。
 破れた服。汚れた体。泣きじゃくる少女。……ああ、ああ、そういうことか。
 確かに一見すれば獣性でも発揮されたのかと思ってしまうかもしれない一面だ。だがな巫女、それは勘違……

「や、やっぱり、ハーフさんわちきにそういうことしたかったの? だからこんなに優しく?」
「おいちょっと待て。君が間違いを正さず誰が僕の無実を証明するんだ!」
「だって、私をいじるって…………」
「道具としてだ! その唐傘のことだよ!」
「唐傘は私よ!?」
「ハーフ君が道具好きなのは知ってたわ。へんな趣味だと思っていたけど、別に構わないと思ってた。でも、道具でありながら少女でもあるからって小傘を襲うなんて…………」
「待て待て待て。君達は盛大な勘違いをしている!」
「ハーフ君。貴方は良い人だった。けど、貴方の男の部分と半分妖怪なのがいけなかったようね。博麗の巫女として友人として、せめて痛みを知らず安らかに調伏してあげる」
「だからちょっと待っ……!!」
「問答無用!」

 もちろん、何の道具もない僕が巫女に抵抗できるわけもなく、痛みもなく意識を失った。
 翌日、惚れ惚れするくらい見事な土下座をする二人に迎えられたが、機嫌が直るまで僕は彼女らと一切口を聞くことはなかった。が、それも数時間で終わってしまった。
 今回の教訓。
 女の涙は反則だと言うことと……自分は思っていたより、存外甘いということだった。


<了>



支援絵いただきました!
何かさん(つまみ食い)
画像提供:何か

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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