逆しまの宙

 月都万象展というものをご存知だろうか。
 月のことならなんでもわかると文々。新聞で掲載された、永遠亭の主にしてあの竹取物語で有名なかぐや姫こと蓬莱山輝夜が主催した企画のことだ。
 開催された初日から人妖問わず多くの者が来場したこの展覧会。僕も当然、月の道具が見られると思い意気揚々と参加した。
 だが一日だけのイベントではないといえ、展示された全ての道具を満足に見ることは叶わなかった。
 正確に言えば、見るだけなら問題なかったのだが道具一つ一つに対しての考察、知っている者への質問などに時間を取り過ぎてしまったのだ。主催者側はイベントで忙しく、道具の正しい知識を保有している兎や相手を見つけることにも難航し、結果として全ての展示品を鑑賞することが出来ずに僕の万象展は終わった。
 不幸中の幸いとも言うべきか大好評の企画だったため、月都万象展はその翌年も開催することとなった。そしてその二回目である今回のイベントに向けて、僕は香霖堂を臨時休業して永遠亭へ向かっているというわけだ。
 開催場所である永遠亭へは藤原妹紅という少女の案内に従って向かうべきなのだが、一足先に別の誰かを案内しているのか竹林の入口にはそこに滞在しているはずの少女の姿は見当たらない。
 ひと通り周囲に視線を巡らせたり足を動かしたりしてみるが、やはり以前見た銀髪の少女を見つけることは叶わなかった。
 月都万象展の期間限定で永遠亭から派遣された兎が案内をする、という方法を取っていると聞いていたが一羽も見当たらない。人里の人間の数が予想以上に多かったのだろうか。
 ちなみに人里の人間達は永遠亭から派遣された兎がガイドとして人里へ赴き、そのまま永遠亭へ案内するという流れだ。稗田家が編纂する幻想郷縁起に永遠亭へたどり着く者が少ないと紹介されたことで一計を案じ、案内人を用意するようにしたとのこと。
 人間達の団体に紛れての移動を億劫に思い一人で来たことが仇となるなら、素直に人里でのガイドツアーに混じっておけばよかった。

「参ったな、戻ってくるのを待つしかないが時間のロスは惜しい」

 そう愚痴を零すも、言葉は空気に溶けて返答もなく消えていく。
 はずだった。

「なら、飛んで行けばいいじゃないか」

 反応のないはずだったつぶやきを拾う声へ首を向け、驚きに目を開く。
 そこには香霖堂のお得意様である紅魔館の主、レミリア・スカーレットとそのメイド十六夜咲夜の姿があった。
 昼間ということもあり、咲夜の手には黒い日傘が握られている。以前の桜色のものや花の蕾のようなものと違い、今回の催しに合わせているのかその裏地には月や星といった刺繍が施されている。どうやら太陽のない宇宙をモチーフにしているようだ。
 不意の出会いといえお得意様。ここはしっかり挨拶を返しておくとしよう。

「永遠亭に飛んで行ったことはないが、迷いの竹林の竹は家屋より育ったものが多い。上空から見つけられるならあの異変の前からとっくに存在を知られているだろう。と、いうわけでご忠告はありがたいがお断りしておくよ」
「長い長い。もっと短くわかりやすく伝えるのも店員の義務だと思うけどね」
「今の僕はただの森近霖之助、プライベートだよ」
「咲夜、今後の買物は人里でお願いね」
「面倒だ」
「素直でよろしい」

 レミリアは呆れるような声と共に細めた猫目を竹林へ向ける。そして先ほどの僕と同じように首をぐるりと回して周囲を見やった。

「案内の一つもよこさないなんて不出来ね」
「時間分けしてるんじゃないか? 人里からの来訪者も多いし」
「だからと言って誰一人居ないってのは怠慢だわ。文句言ってやろうかしら」

 心情的には同意したいところだが、実際に文句を言うつもりはない。皮肉の一つでも言えばいいし、つまらないことで時間を潰すのは非常にもったいない。

「ここに居るってことは、二人も月都万象展に?」
「ええ。月にはそう簡単に行けるものではないけど、ここなら手軽だしね。ま、いずれ月には行くつもりだけど」
「お嬢様は今回、宇宙服というものを手に入れようとしているんですよ」
「宇宙服? ああ、文々。新聞でも文が着ていたあれか」
「はい。掲載された写真を見て、来年行ったらあれをもらうと意気込んでいます」
「咲夜。そういうのは普通私達が永遠亭へ行く理由を聞かれてからもったいぶった後に言うものでしょう? 何いきなり暴露しているのよ」

 月都万象展へ行く理由あっさりバラした従者に、レミリアはつまらなそうに口を尖らせる。心なし背中の羽もしょんぼりしているように見えた。
 そんな主の意気消沈など気に留めず、咲夜は僕やレミリアと同じように周囲の探索をしている。その行動が僕らと違ったのは、彼女が成果を伴っていたところだ。

「店主さん、少し退いてもらえませんか? 後ろに何か見えます」
「んん?」

 言われるがままに体をどかすと、咲夜はレミリアを主導しながら地面を指した。釣られて僕も目を向けると、そこには三時間待ちと書かれた小さな立て札が落ちていた。
 立て札の下部に付いている土と盛り上がった地面を見るに、ここに差しておいた案内の看板がなんらかの理由で外れてしまったということだろう。人を探していた僕とレミリアはそもそも地面を見ることなく気が付かなかったというわけだ。

「土で汚れているわね」
「少しお待ちを――」
「ああ、いい。僕が払おう」

 動きやすい服ではなく出先へ赴くための服装、言ってしまえばよそ行きの服に着込んだレミリアと咲夜の手には貴族とその従僕らしいと言うべきか手袋がはめられている。レース生地で編まれたシミ一つないそれを無粋に土で汚すのは惜しい。出来の良い服にはやはり綺麗であって欲しいのだ。

「これくらいで買う物を増やすとか考えてたら浅ましいわよ、店主」
「お嬢様、単に顧客サービスのつもりかもしれませんよ」
「君達には個人の善意というものが届かない体質なのか?」

 別に見返りを求めているわけではないが、下心を持って行動したと思われるのもなんとも言えないものがあった。個人的な価値観による観賞に浸りたい、という意味では下心がある、と指摘されてしまえばそれまでなのだが。

「冗談だって。何せ悪魔だもの、ちょっとひねくれて届いちゃうのよ」

 陽気に笑う主の傍でそうですわ、と悪魔ではない人間のメイドがしれっと答える。彼女は彼女で他とどこか歯車がズレているので結果的にそれが悪魔と同じような届き方をしているのかもしれない。

「とはいえ、手を拭く手間をなくしてくれたのは感謝致します」
「どういたしまして」

 その礼が形式的のように思えてつい投げやりで答える。慰めにこれくらいはさせて欲しい。咲夜はそんな僕の態度を気にする素振りすら見せず、言葉を続けた。

「では改めて。立て札が倒れていた理由は存じませんが、それにはなんと書いているの?」
「ただいま三時間待ち、だそうだ」
「えー、三時間経たないと案内が来ないってこと?」
「そのようですわね」

 ぐずり出すレミリアの甲高い声に辟易しつつも同意する。月都万象展は今日一日だけではないといえ、ここから永遠亭へ向かうだけでもそれなりに時間がかかるのだ。それなのに三時間を無為にすごさなければならないのは暇を持て余すどころかちょっとした罰ゲームである。
 ちなみに三と書かれた文字の上下の線が微妙に真新しいのは気のせいだろうか。まるで元々一と書かれていたところに急遽追加されたようにも見える。予想よりも案内の数が多くて書き足したのかもしれないな。

「去年好評とのことでしたし、予想以上に参加者が多いのかもしれませんね」
「あいつらなら咲夜みたいに空間を広げて場所を確保するなんて楽勝だろう」
「さあ? 場所を隠すことと広げることは違いますからね。出来ないのかも」
「だとしても、ここでずっと待ってるなんて私はごめんだわ。そうでしょ?」

 せっかくお洒落をして出かけたのにこの仕打ち、となればレミリアでなくとも文句を言いたくなるだろう。
 しばらくぎゃあぎゃあと声が収まる様子は見せなかったが、ひとしきり騒いで気が済んだのかレミリアはこんなことを言い出した。

「私は待つ気ないから、直接永遠亭へ行くわ」
「構いませんが、道は覚えておいでですか?」
「こういうのは適当に歩いて行けば着くわよ」

 絶対無理だよ。
 直接言うと面倒なことになりそうなので口には出さないが、迷いの竹林と呼ばれるここを案内なしに歩きまわるのは困難と言える。
 迷ってもいざとなれば空を飛んで森を抜ければ家には着けるだろうが、肝心の目的を果たすことは叶わない。
 だから永遠亭へ向かうのは不可能だ。――それが、レミリア主導の移動ならば。

「咲夜。不躾なことを言うが、確か君は竹の花を集めたりしていただろう? ひょっとして、ここにも何度か足を運んでいるんじゃないか?」
「なんだ、そうなの?」

 僕の質問とレミリアの視線に、咲夜はため息を一つこぼした。

「もう、店主さん。こういうのはいかに永遠亭への到着が難しいかを諭した後にもったいぶった後に言うものですよ? 気の早い殿方は嫌われますわ」

 何故かお叱りの言葉を受けた。とんだ似たもの主従である。
 はばかることなく面と向かって主をからかうつもりだった咲夜に、レミリアはなんとも言えない表情を作っていた。こういう一面を見ると、吸血鬼の館である紅魔館の常識人は意外にも当主その人なのかもな、と同情の念を送った。

「暴露されてしまいましたが、確かに私は竹の花を探しにここへ来ることもあるので永遠亭の案内自体は出来ると思います。もっとも、竹の花の件がなくても私が案内することは可能ですが」
「そうなのかい?」

 一体どういうことだろうかと考える僕に、咲夜はなんでもなさげにこう言った。

「時間を止めたり空間を弄れば、探索なんてやりたい放題ですからね」

 その発言に、宇宙服は交渉でなくこの力で盗み出すつもりなのだろうかと思う僕だった。



「とうちゃーく♪」

 機嫌の良いレミリアが言葉通り永遠亭への到着を告げる。
 猫目の瞳を輝かせ、竹やぶの奥に見える古き良き日本家屋の建造物を前に羽もぴんと立ってご機嫌を示している。
 竹林の中では陽の光が届きづらいようで、咲夜の手に傘はもう持たれていない。傘自体をどこかに収納したそうだが、彼女の能力にかかればポケット一つが無限の容量を持つ収納物の出来上がりだ。
 開催の時間には間に合ったようで、永遠亭の傍にはまばらに人が集まっている。兎と人間達の集団が遠くに見えたが、おそらくツアーの参加者なのだろう。
 気の向くままの開催時間だから朝からだったり昼前からだったりしたこともあったが、今回は無事に開始前に到着出来て何よりだ。

「パンフレットは……あそこで配っているな」
「この数だと取りに行くのは流石に面倒ね。咲夜」
「はい」

 レミリアが告げると、一瞬の後に咲夜の手元には3つのパンフレットが握られている。手品のように現れたそれに軽い驚きを残しながら、手渡されたパンフレットを受け取る。

「本当に便利な能力だね」
「こういう時には本当に助かりますわ」

 時間を止めるという非常に強力な能力も、行列を無視する程度の能力と言い換えると妙に凄みが消えるのはきっと気のせいでありたい。
 来訪者には妖怪も数多く来ている。人里の人間達と分けるために区分で境目を作っているが、中にはその境界を超えて談笑する人妖も居た。人型であることが幸いした好例だが、完全に馴染むのは人と妖怪の関係を考えるとまだまだ難しいだろう。
 そうでなくてはならないのだが、そのどちらも迎える月都万象展は月の展示会というだけで終わらない珍しいイベントと言えた。

「今年の万象展は去年とどう違うんだろうねえ」
「去年ひと通り見てもまだまだ隠し球はありそうでした。少なくとも新規に追加されているのは確実かと」
「へえ。一応全部見終わっているのか。僕は全部見られなかったから羨ましい」
「譲ってくれ、頼むって交渉でもしてたの?」
「それをしたいのは山々だが、中々にガードが硬くてね。だが今回はひと味違う、なんとしても月の道具の一つは交換したいところだ」
「展示会ってそういう趣向の催しじゃないと思うのですけどね……」

 気にするな。

「しかし、去年よりも人が多いな。好評とは聞いていたが、来訪者の急増はあちらには嬉しくこちらには厳しい」
「移動の手間とかありますからね」
「二人共何を言っているの、展覧会の醍醐味って待ち時間でもあるでしょう? 行列に並んでいる間に想像を膨らませるのも楽しみの一つなのよ」
「ただし自分の許容範囲に限る、と。だが意外だな、君は待ち時間が嫌いなタイプかと思っていたが」
「何もしないでいるのが嫌なだけよ? それに、月関連となればまた待つ時間も楽しくなるわ。こう、ワクワクさが他の比じゃないよ」

 これは、本当に驚いた。
 外見も精神も子供かと思っていたことを修正しなければならないようだ。本人も月関連だから、と言っているが未知への探究心を楽しむその心意気は素晴らしいものである。
 わくわくしながら開催を今か今かと待つレミリアに声をかけるのは憚られ、僕は咲夜の耳元へ口を寄せる。

「レミリアは月に何か特別な思い入れでも?」
「ええ。吸血鬼にとっても月は大きな存在ですし、夢膨らむものがあるのだと思いますよ。店主さんは……言うまでもないか」
「当然だね。君はそうでもないのかな?」
「まさか」
「それは何より。せっかくの機会だ、存分に楽しもう」
「それは元よりです」

 そうやって咲夜と、たまに話に混ざるレミリアと談笑しながら待機していると、しばらくして竹林の中に人の声とは違う、耳鳴りにも似た音が辺り一面に響いた。
 何事かと騒ぐ群衆の中、音の後に聞こえてくるのは鈴の音のような少女の声だった。

『あー、マイクテスマイクテス。月都万象展にお集まりの皆様、誠にありがとうございます。私、このたびの催しを企画させていただいた蓬莱山輝夜と申します』

 主催者である永遠亭の姫の声が木霊する。月都万象展の企画者であり、ここ最近でその存在が明らかになった月人だ。
 実は以前彼女は香霖堂へ訪れたことがあるのだが、何故か牛車で扉を粉砕して入店するという月ならでは(もちろん皮肉である)の方法で来店したことがあるので少し身をすくめてしまうのは仕方のないことだった。
 声だけでその存在を認められない周囲をよそに、声の主は説明を続けていく。

『今回の催しも人妖問わず平等に楽しんでいただく趣向を凝らしてあります。人間だから、妖怪だからと諍いを起こす方にはもれなく警備隊との逢引きが約束されますので、兎達と戯れたい、竹林で一生を過ごしたい方は奮って暴れてください。そのさいは周りの方に被害が出ることはありませんのでご安心を。……さて、長々とした挨拶なんて時間の無駄なので、早速第百二十一季の月都万象展を開始したいと思います。皆様、まずは永遠亭の敷地へお入りください』

 その言葉で移動を始める人妖達。
 去年誰かが暴れたという話は聞かないが、騒ぎになっていなかっただけで少なからずそういうのはあったのかもしれない。
 とはいえお姫様の言うとおりここで暴れた者は永遠亭のみならずこのイベントを楽しみにしているレミリアの機嫌を損ねることでもあるので、抑止力にはなることだろう。
 月都万象展を楽しみにしているレミリアが暴れることはないと思うし、あとは流れのままに、だ。

「今回はいきなり趣向が違うな。去年は普通に中に入って道具を見ていたが、今回は入口から指示があるとは」
「前回は模索の意味もあったのでしょう。適当に道具を置いた展示会と計画段階から進めているイベントでは密度が違いますわ」
「実感篭っているね」
「慣れていますので」

 紅魔館では日常的に何らかの催しがあるそうだから、咲夜の口から漏れる内容には説得力があった。
 先導するレミリアの後ろを着いて行くように足を進めて永遠亭の門をくぐり、屋敷の敷地内へ移動する。広大な庭の敷地を埋め尽くす人妖の群れの中に佇む僕らは、位置的にだいたい真ん中辺りを陣取っていた。その様子を少し宙に浮いて自分の位置を確認していたレミリアは、場所に意味はないと思うのだが中央に陣取ったという事実にご満悦のようだ。

『大体敷地の中に入っていただけたことを確認しました。そのまま少しお待ちください』

 一体何が待っているのかと一同がざわめく。
 この行動の意味を考える僕に、からかうようなレミリアの言葉が飛んだ。

「なーにいちいち考えているのよ。こういうのは、考えるような頭空っぽにして与えられるものを楽しむべきでしょう」
「一理あるが、人の好みが十人十色なように楽しみ方は人それぞれさ」
「固い考えねー。考えるのは後でも出来るけど、体感は今この時しかないのよ? なら精一杯それに時間と体力を使うべきじゃない」
「別に君の考えを否定しているわけじゃないんだが……」

 腕を組んでイベントの楽しみ方のなんたるかを語りそうなレミリア。なんとかしてくれないかと目線で咲夜に助けを求めるが、当のメイドは無言で口元緩めるだけで特に何もしてくれない。せめて言葉で言ってくれたら幾分か気分も晴れるものを。
 そうこうしているうちに、場に変化が起きる。
 まず最初に足元の景色が水面のように揺れた。しかと地に足をつけているはずの地面は水鏡のように容易く姿を変えていき、やがてせり上がってくるように会場の皆々を包み込んでいく。
 現状を認識するより早くその変化は終了し、気づけば僕達は中庭から別の空間――月都万象展の会場へと移動していた。
 透き通った青を周囲が包み、天を見上げれば太陽が水上に遮らさながらも確かな光を届けて明るさを生み出している。まるで水の中に居るような錯覚が湧く。溺れると思う間もなく水面は消え失せ、まるで先程の光景が幻だったのではないかと疑ってしまうほどだ。
 輝夜がこの現象に対しての説明を行っているようだが、それ以上に声が騒がしくて聞き取りにくい。渋面を作る僕だったが、理解は思わぬ形で果たされた。

「へえ、中々凝った趣向じゃない。海を潜ればそこは月の都でした、って? 今回の幻は中々に凝ってるわね」
「上でなく下へ潜って行く辺りがにくいですね。見た目にインパクトを与える演出を追加したことで、イベントとしての盛り上がりを兼ねているんだと思いますよ。あと、これはあの時の気配は感じないので使用者は別かもですね」

 月の兎は器用なものね、とのんびりとつぶやく咲夜。レミリアの解釈への訂正かと思うが、聞けるなら彼女の胸中がどちらでも構いはしない。
 咲夜が解説したように、水に呑まれた焦燥で生んだ驚きを感動に変えた方式は成功のようで、会場の客は声を張って喜んでいる。
 そうこうしているうちに解散となり、一目散に人々は散っていった。随分と行動が早い。僕も色々回らないとな。
 
「そういえばレミリア、君は大丈夫なのか?」
「何が?」
「吸血鬼はこういう水に囲まれた場所は苦手なんじゃないのか?」
「本物の流れる川ならともかく、子供とはいえ仮にも吸血鬼がこんな『記憶騙し』でやられるほどやわじゃないわよ」

 と、ここで僕とレミリアの会話に咲夜ではない第三者の声が混ざった。三人揃ってそこへ目を向けると、そこには長い銀髪のおさげを揺らした女性が佇んでいた。
 永遠亭で薬師として活動している、蓬莱山輝夜の従者である八意永琳である。前に永遠亭へ行った時に話す機会があったので、その存在は知っていた。だが主催者側であるはずの彼女が、どうしてこんな会場入口に居るのだろうか。

「あら、確か貴女は薬師さん」
「そういう貴女はメイドさん」

 天然なのか咲夜が開口一番に流れを変えそうな予感がした僕は、即座に先ほどの話題を戻す。彼女の言う記憶騙しという言葉が気になるのだ。

「『記憶騙し』というのは一体?」
「これ自体は映像よ、幻。特殊な映写機みたいなので空間全体の景色を塗り替えているの。いわゆる記憶の映像化。今回はうどんげの力を借りて達成してるの。と言ってもあの子は今日も明日も明後日も餅つきがあるから、記憶の波長を測ってもらっただけなんだけど。ま、当時と違うだろうし多少脚色もしているから、完全な模倣ってわけじゃないけどね」

 波長に色を、映像を与えると永琳は言う。容易く紡ぐその言葉に、計り知れない月の技術――いや、八意永琳の知識の一旦を垣間見た気がした。以前立体の写真を撮る方法を魔理沙に教えたことがあったが、これは写真という枠に収まるものではない。
 この知識すらなんでもないように語る賢者を見ていると、自分はまだまだ考える力が足りないことを痛感するな。月はおろか外の世界の技術にも追いついていないのだから、当然と言えば当然だがなんだか悔しい。
 それでもなけなしのプライドが悔しさを顔に出すことを極力抑え、僕は表向きその話に納得するように頷く。

「彼女の力は波長を操るだけじゃなくて、こんなことも出来るのか」
「外には人間の体を波長として捉えて映像化させる機械もあるからね。月の文明ならそれを景色に映し出すくらい簡単なことなんでしょ」

 そうやって考察するレミリアを見ていると、脳を空っぽにして楽しむという先ほどの発言はなんだったのかと思えてくる。いや、楽しんだ後にこれはなんだと騒ぐのも当然か。少し邪推が過ぎたようだ。

「それより、どうしてアンタがここに居るの? どう見ても運営側でしょうに」
「今日は患者も居ないから薬師の仕事もないわ。非常時でも私の手が必要でない限りうどんげ達が張り切ってるから出番がないのよ。そうお伝えしたら姫様ったら、なら貴女も客として楽しんで来なさい、って。今年はどんな催しなのか私も知らないから、お言葉に甘えて参加させていただいているわ」

 ほう、と思わず感心する。蓬莱山輝夜のことはかぐや姫という噂と香霖堂に牛車で突っ込んでくるというお転婆姫という困ったイメージしかなかったが、従者のことを考える良い主ではあるようだ。
 ちらりとレミリアを見てみると、早速どこから回ろうかと考えているのか羽をパタパタさせて忙しく首を巡らせている。そんなレミリアを、咲夜は変わらぬ微笑を浮かべて傍に控えていた。
 声だけとはいえ、楽しそうな雰囲気で話す輝夜の様子を見るとこの差は人生経験なのか外見の差なのか知らないが、主従共に楽しそうで何よりだった。

「慣れもありますが、どうせなら乗っかるほうが良いですしね」

 僕の内面を察したのか、どうとでも取れる台詞をつぶやく咲夜。不満がないのなら、それは楽しんでいると言い換えても良いのかもしれない。

「咲夜、何しているの。行くわよ」
「呼ばれしてしまったようですわ」
「おっと、引き止めてすまないね」
「いえ、構いませんよ。それでは店主さんに薬師さん、縁があったらまた」
「ああ、ちょっと待って。どうせならご同行してもいい?」
「同行?」

 解せぬと言わんばかりに首を傾げるレミリア。永琳は頷きながら、困ったような顔をしながら頬に手を当てた。

「楽しんで来なさい、って言われても逆にすることが思いつかなくて。せっかく姫様がくれた休暇だし何もしないのは申し訳ないの。その点、貴女は何でも楽しみそうだし、その雰囲気にあやかりたいのよ」
「それでアンタ楽しめるの?」
「場酔いって言葉があるように、雰囲気っていうのは決して馬鹿にはならないわ」
「医学的には、プラシーボ効果っていうのもありますしね」
「妖怪なら尚更、か」
「私は人間だけどね」
(嘘だ………………)

 人と半妖と妖怪、バラバラな3つの心が一つになった瞬間だった。

「何か道具を見たら補足の説明もできるし、ガイドを雇うつもりで一つどう?」
「ふむ。まあいい。来る者は拒まず、私に着いてきなさい」
「ありがとう、期待には応えるわ」
「そういうことなら、僕も着いて行っていいかな?」
「店主さん?」

 意気揚々と歩き出そうとするレミリアの背にそう言うと、何故か一番驚いたのは咲夜だった。なぜだ。

「僕の目的は話しただろう? 彼女について行けば自然とその恩恵に預かれそうだしね。僕もあやかりたい」
「珍しいわね…………」

 まだ言うか咲夜。普段の君から見た僕がどういう人物なのかこの機会に聞いてみたいところである。

「ふふ、これも私の威光というやつかな? いいわ、まとめて面倒見てあげる」

 やはり機嫌が良さそうにレミリアは満足気な表情を浮かべて腕を組んでいる。レミリアが見たい物が優先されるだろうが、そこに永琳が居るならたとえ去年と同じ物を見たとしても違う展開が待っているはずだ。

「それじゃ、改めて出発!」

 頼もしいレミリアの号令の後に続き、僕達はその小さな背を追いかけていった。



 月の頭脳と称される永琳のガイドを得た僕達は、おそらく一番月都万象展を楽しめていると言っても過言ではないと思う。
 文々。新聞にも掲載されていた宙を飛んだ牛車や今なお輝き続ける着物と言った、去年好評だった展示品は今年も置かれている。勿論新規に追加されたものも多く、レミリアが楽しんでいる合間に僕は永琳から月の道具の数々を解説してもらっていた。
 展示品、つまり見世物の道具のため実用性というよりは見栄えや一時の驚きを提供するものが多く、幻想郷の生活に必要なものかと言われたらそうでもない物が多い。その辺りは僕が扱う外の世界の道具と似通っている部分があった。

「んー、うまうま。兎は餅つきが本業ってホントだったのね。てっきり人を狂わせることしか出来ないと思っていたよ」
「普段と戦闘時とではやることも違うだろうさ。君達が月都万象展に向けて着飾っているように、常に異変の時と同じわけじゃない」
「私はいつでもどこでもメイドの心得を忘れませんよ」
「プライベートも仕事もメイドって、君はいつ素に戻るんだ」
「メイドと言えば私、私と言えばメイドというものなので寝る時くらいしか素にはなりません」
「それは、大層なことで。それでは、メイドから見た月兎のお餅はどうだい?」
「美味しいですよ」
「……良いことだ」

 月の兎、鈴仙・優曇華院・イナバが作ったという餅を頬張りながら僕達は昼食を取っていた。去年作っているのが鈴仙だけだったため需要に供給が追いつかず、今年は因幡てゐ主導の元に永遠亭の兎達も餅つきに参加していた。
 その中で鈴仙、というより月の兎が作った餅を食すことが出来たら幸運、というおみくじのような扱いにもなっている。判別法は食した歯ごたえでわかるらしいが、両方食べないと差異がわからないのではと思う。
 ちなみに僕達はガイド特典で月の兎餅をいただけた。月と地上の兎餅の違いは、外で楽しむか中で楽しむか――ようは見かけと中身の差であった。どちらか美味しかったのかはコメントを控えておくが、両方美味だったと追記しておく。
 そのさい、せっかく食事をするのだから昼食にしようという咲夜の言に従い、今に至るのである。
 普段は兎達の食堂だが、月都万象展の期間中は昼食の場として開放されている場所での昼食だ。と言っても月都万象展での食事はお餅がメインなので、ここには人里からの飲食店が出店している。
 蕎麦に団子といった月に合う風情なものから筍を使った料理など、場所に合わせての材料が使われたものも多い。基本的に月都万象展は観賞のためのイベントで、がっつりしたボリュームのある料理は置いていない。そのため軽食がメインであるが、持ち込みも可能なので自作の弁当で腹を満たす人間も居た。
 妖怪も一緒になって食事をするという博麗神社などではお馴染みの、里の外では一種異様な光景だが、基本的にこういうイベントを楽しめる妖怪は知性が高いので無駄な争いは起こるはずもない。それこそ泥棒でも出ない限り、鉄壁とされる警備隊の出番はないだろう。

「さーて、午後は何を周りましょうかね」

 満面の笑みを浮かべながらレミリアが咲夜手製のサンドイッチをぱくついている。中身はパンからはみ出る肉厚のステーキである。血の滴るといった具合から人でも吸血鬼でも食べられそうだ。
 夜型の吸血鬼なんてなんのその、月都万象展への期待で眠気などまるで見せていない。レミリア自身、よく博麗神社へ遊びに行っているので昼に活動することにも慣れているのだろう。

「店主さんは食事を持ち込んで来なかったんですか?」
「食べなくてもいい体質だからね。適当に餅とかを摘んで回る予定だった」
「なら居なくなる前に確保出来て良かったですわ」
「僕は他にも見まわってみたかったんだが……」
「焦らなくても、まだ一日目すら終わってないじゃない」
「好奇心は食欲より優先されるのさ」
「お誘いは好奇心より優先されます」

 という謎の駆け引きによって昼食の場に誘われた僕である。本来ならそれを断って月都万象展を回ろうとしたのだが、ガイド役の永琳が寝返ったことにより降伏の旗を上げる手段しか残されていなかった。入場から今まで永琳のガイドに味を締め、それを手放せなかった僕の敗北である。

「第一、僕なんか無理に誘う必要があったのか?」
「こんな良い気分なんだ、騒がずにはいられない」

 まだ一日が終わっていないのに、すでに満足気味なレミリアはよほど月都万象展がお気に入りのようだ。

「すみませーん、十番の引換券をお持ちの方―!」
「おっと、出来たようだな」

 出店した店員の呼びかけに応え、事前に受け取っていた引換券を渡し板に乗せられた月見そばと交換する。事前に卵は別でと言っていたので、生卵は未だ割られていない。
 席に戻って箸に手を添えたところで、レミリアが卵に手を伸ばしていたことに気づいてすぐ呼び止めた。

「何してるんだ」
「私が月を作ってやろうと言うんだ。感謝なさい」
「いやいや、なんのためにわざわざ卵を分けたと思っているんだ。僕が自分でするよ」
「いいじゃない、こういうのって運命試しみたいで面白いのよ」
「なら自分で頼めばいいじゃないか」
「目の前にあるじゃない」
「それは僕のだ」
「お嬢様、何なら買ってきますが?」
「えー、こういうのは人のを試すから良いんじゃない」
「子供ねえ」

 永琳の最後のひと言が効いたのか、ちぇと唇を尖らせるレミリア。僕はその隙にさっさと生卵を取って手元に引き寄せる。体格の都合上、レミリアは大きく手をこちらへ伸ばさなければならないため、その時間のロスがあれば手を背後へ伸ばして生卵を守ることが出来るというわけだ。ちなみに僕の隣に永琳、正面にレミリアでその隣が咲夜という位置関係だった。
 改めて卵を割ろうとすると、永琳がその様子を見ながら言った。

「そういえば月見そばってどう食べる?」
「私は満月を作って、そこから食べるわ」
「私は卵を麺に絡ませながら食べますね」
「僕は卵をさっさと割って混ぜて食べる」
「えー、最初に割っちゃうの? それに混ぜると味薄くならない?」
「卵の黄身入りそばつゆ、というお考えでは?」
「卵の量に反してめんつゆの比率が圧倒的なんだからそのうち味が消えちゃうわよ。咲夜だって前にお鍋にプリン入れたら完全に溶けてその味がまるでしない、って失敗を嘆いてたじゃない。あんたは半妖だから混ぜたほうが好みなの?」
「別に種族は関係ないと思うがね。良いとこどりはしたいけど」
「食事が不要な体というのは良いとこどりだとは思いますが。そういう薬師さんは?」
「私は蕎麦の熱さで卵を半ナマにするわね。割りたてと違ってトロリとして風味が増した黄身を麺に絡ませるの」
「へえ、そういうやり方で食べるのか」

 話半分に聞きながら生卵を見やる。確かに半熟の食感には抗いがたい誘惑がある。けどとろりとした割立ての卵を月に見立てることで、決して届かない月を水辺に見て掴む朧のような存在に月見そばが見立てているわけだ。
 月とは狂気であり、狂気自体が目に見えるものではない。狂気をまとった人妖が代弁者となる。それに決まった姿はなく、だからこそ月も溶けるようにつゆの中に溶けこんで……

「ほら、こうして卵を割った後に白身と黄身を分けるのよ。あとはめんつゆの熱さで半熟にするの。その間は蕎麦をすすって、半分くらい食べた頃に中身を割れば出来上がりってわけ」

 横合いから伸びた永琳の手が器用に片手で卵を割り、僕の思考などつゆ知らず月見そばは完成する。何が起きているのかは理解しているが、そこからの反応が体の外に出ることのない僕は呆然とそれを見送るばかり。
 いつの間にか人数分のレンゲが用意され、当然のようにその中に小さな月見そばを作っている女性三人の姿にようやく我に返った。

「お、おい。人の食事を勝手に取らないでくれ」
「レンゲ一つ分じゃない。それに、タダで取ろうってわけじゃないわ。咲夜」
「はい、お嬢様」

 主の言葉に頷き、同じくいつの間にやら台の上に置かれた小皿に、切り分けられたサンドイッチを差し出される。中身は先程レミリアが食べていたステーキと新たにレタスなどの野菜が挟まれたものであった。

「これと交換ってことで。野菜は咲夜の分ってことで増して置いたわ」
「じゃあ私はこれで」
 
 そっとサンドイッチの横に置かれるのは、兎の絵が描かれた月見団子。永琳が月の兎餅とはまた別に食べていたものである。食べていたものと言っても当然食べかけではない。
 どれもレンゲ一杯……いや、わざわざ半熟卵を作ったことを考えると二杯分の代金というわけだろう。僕はおかずが増えたと割り切り、大人しく交換を了承する。サンドイッチも月見団子も美味いのがなんだか悔しい。

「そうだ、文々。新聞に載っていたあれ、宇宙服だっけ? あれはないの?」
「あの古い置物? 飾られているかしら。ちょっと待っていて」

 もぐもぐと手に残っていた小さな餅を飲み込み、永琳は失礼と頭を下げて席を立つと近くに居た兎に声をかける。ニ、三のやり取りの後に兎へ手を振って礼を告げた永琳は、人波を避けながらゆっくりと戻ってくる。

「試着会としてあるそうよ。区画は……ここから少し離れているわね」

 ポケットから取り出したパンフレットを覗き込み、場所を確認する永琳に頷くレミリア。宇宙服がなかったら永遠亭の本邸へ殴りこみをかける意気込みだったので、展示されているのは救いだ。
 しかしかくいう僕も期待している一人だ。天龍のおわす世界、宇宙は極端に寒さが厳しい場所と聞く。居るだけで体が凍り空気もなくとても人間が住まう場所ではないと外の世界の本には載っていたが、そう言われているにも関わらず宇宙へ進出した人間の文明は進化の一言であろう。
 機会があれば僕も着ようと期待に胸を膨らませ、僕達は昼食を済ませた。ちなみに半熟の月見そばは美味かった。今度自分で試してみよう。
 パンフレットを確認しながら訪れた部屋は、予想を超えて閑散としたものだった。
 まず目に映るのは、日本家屋の永遠亭の中にあるとは思えない無機質な壁。家屋らしいものはなく、まるで牢獄のような印象すら覚える別世界だった。
 一つ隣の部屋からは誰かの声が聞こえてくるというのに、ここは案内の兎が一匹と目的のものである大小サイズの宇宙服がぽつんと置かれているのみである。期待とは裏腹に、随分と寂しい雰囲気の部屋だった。

「こんにちは、試着をご希望ですか?」
「貴女一人だけ? 他の兎はいないの?」
「いえ、裏に居ますよー。この部屋、ちょっと他と比べて特別なんですよ」
「へえ。見た目とは裏腹に期待できそうじゃないか」
「着たいの? うーん、ちょっとこれだと大きいわねー。子供用ってサイズあるかなー」

 受付の兎はレミリアを見やり、その体躯にあったサイズの服を探していく。子供扱いされたレミリアは猫目を細めてむっとしていたが、兎が宇宙服のパーツを用意するたびに目に見えて口元を緩めていた。 咲夜に言って中の空間を弄れば着ることは可能だろうが、それでは雰囲気が損なわれるとレミリアは考えているのだろう。だから文句を言わないのだ。口には出さないが、その態度はまさに子供のそれである。微笑ましい。

「単に思いついてないだけかと思いますわ」

 咲夜の察しが良いのも困りものだ。
 今後の紅魔館との取引は良好なものでいたい僕としては、胸中を明かさぬよう口元に指を立てて黙ってもらうように言うのが精一杯である。

「あったあった。これなら着れるよ。てゐさんが試着したことあって助かったわー」

 そう言って引きずり出してきたのは、部屋に置かれているものより一回り小さな宇宙服だった。
 ヘルメットタイプの帽子、いや頭をすっぽりと覆う兜とも言うべきそれは金属で出来た一つ目の妖怪を想起させるデザインだ。
 加えて胴体部分はまるで鍋のように丸くて太い。最初に提示されていたものだけで、レミリアの手足まですっぽり覆いそうだ。
 腕の部分は肘を境にパーツが分かれている。あの硬さと太さだ、関節を考慮せずに腕の部分だけを作ってしまえば肘を痛めてしまうため、そのための配慮と予想する。この辺りは普通の服装の構造と大差はない。
 下半身の部分も、至って普通のズボンタイプだ。全体的な線の太さを除けば、だが。
 そう、宇宙服とやらは全体的に分厚い。
 幾重もの層で構成されているのか、ぱっと見だけで五層以上の素材が重ねられている。どういうことだと永琳に説明を求めれば、あれは主に断熱や冷却のための層だと言う。

「断熱? 宇宙は寒いと聞くが、熱量があるのか?」
「見た目の情報に惑わされすぎ。あるでしょう、とっておきの熱が」
「とっておきの熱?」
「店主さん、お嬢様はお昼にどうして傘を差すのでしょう?」
「どうしてって、太陽の光――あ」
「そういうこと。まったく、頭硬いわよ店主。もう少し柔らかくしないと」

 まさかレミリアに窘められてしまうとは。
 何も考えないのは違うが、柔軟を取り入れるという意味で頭を空っぽにする、というのは確かに大事なことだな。

「宇宙では太陽にさらされると数百度の熱が体を襲い、逆に光が届かない場合は貴方が最初に言った通りマイナス百度を超える世界が体を包む。だから両方の素材が必要なのよ。スペースデブリとか微隕石対策に防護も固める必要あるし、それ以外にも必須なのがたくさんあるわ。そんなものを用意しないと行けないって考えると不便よねえ」
「百年二百年も経てば、その問題も解決されるだろうさ。人間は驚くべき速さで成長するからね。それよりそこの兎、さっさと着方を教えなさい」
「はーい。羽ってしまえますか?」
「畳めるから邪魔にはならないわ」
「すみません、よろしければ着方を教授願えないでしょうか?」
「貴女は着替えないんですかー?」
「少し興味がありまして。私は後ほど……」

 着替えにあくせくするレミリアと兎、そして宇宙服の着替え方を学ぶ咲夜を見やり、僕も空いた宇宙服に着替えたいという気持ちが湧き上がる。だが兎はレミリアにかかりきりだし、勝手に着てもいいものだろうか。

「別に着てもいいと思うわ。もし良ければ手伝ってあげましょうか?」

 そんな僕に声をかけたのは永琳だった。同行者の僕達が宇宙服に興味津々の中、自分一人だけ手持ち無沙汰だったのだろう。先程までは兎と何やら話し合いをしていたようだが、僕としては非常にありがたい。

「それは助かる。どう着るんだいこれ?」
「それは着方の難しいタイプじゃないから簡単よ」
「着方が難しいのもあるのか。ぜひ拝見してみたいな」
「生憎うちにはないから諦めて」
「それは残念」

 無縁塚や博麗神社、妖怪の山といった外の道具が流れ着く場所で気長に待つしかないか。
 言われた通りに宇宙服を身につけていくが、思いのほか重量があって別の意味で面倒だ。
 僕は半分とはいえ妖怪混じりなので普通の人間よりも力があるから問題ないが、今日ここへ来ている人里の人間達は面倒に思うかもしれない。だが一番の問題は、ヘルメットのサイズに余裕がないと眼鏡をつけたまま被れないということだった。
 ちらりと咲夜を見れば、いつの間にか彼女も宇宙服に身を包んでいた。さらに抱えたヘルメットにヘッドドレスをつける凝りようである。彼女は人間の少女だが、霊夢や魔理沙と同様に異変を解決した実績もある実力者。ただの人間として扱うのはおかしかった。

「まずは上の部分から着て、下のズボンを上げて嵌めてね。ヘルメットは最後よ」
「了解、と」

 永琳の指示に従い、各部連結部分がしっかり嵌めこまれているかを確認しながら宇宙服に身を包んでいく。着替えが済んだ頃、同じく宇宙服を着込んだレミリアが自分と咲夜の姿を見て笑っていた。

「お嬢様、何か楽しいことがありました?」
「そうだね、思っているよりもずっと自分は月に行きたいんだな、ってことを実感した。今すぐに空を飛んであの黒い世界へ飛んでいきたい気分だわ」
「いくら吸血鬼でも生身で成層圏を超えるのはちょっと。それ以前に太陽に焼かれてしまいます」
「その辺を真面目に答えなくていい」
「いや、君の本気に対して真面目なんだからそれはひどいだろう」
「もっとこう、ロマンというか同調というかさ、そうですねって一言あるだけでいいのよ。全く融通が聞かないんだから」
「それは申し訳ありません」

 スカートを摘んで頭を下げようとしたのか、一瞬だけ手が泳ぐ咲夜。幸いレミリアはそれに気づいていなかったようだが、ばっちり見てしまった僕はとりあえずこっちを向いた咲夜と目を合わせたくなかったのでそっぽを向いた。ここは黙って見逃すのが大人の対応だろう。
 やがて永琳も着替えを済ませたのを確認した兎が、見計らったように話しかけてくる。

「準備は済みましたね。それでは皆様、箱庭の宇宙をお楽しみください」

 兎が言葉を終えると、無機質な部屋が暗黒に染まる。
 同時に浮かび上がる体。
 空を飛ぼうとした意志などないはずなのに、勝手に僕らは宙へ浮いている。これは、話に聞く無重力というものか?
 咄嗟に空中での姿勢制御をしようとしたが、普段飛び慣れていない僕には難関だったようでくるくると体を回転させてしまうという結果に至った。それを見て大笑いしているレミリアの声が上から下から右から左から、部屋中を反響するように聞こえてくる。
 部屋の変化を見る前になんて難題だ。
 四苦八苦しながら回転運動を続けていた僕だったが、唐突にその動きが止まる。回った目が元に戻り感覚を取り戻した頃、背中に誰かの手が添えられていることに気づいた。

「慣れないのに動こうとするからそうなるのよ。無理に逆らわずただ漂えばいいわ」

 そう言ってくれたのは永琳だった。
 彼女のおかげでようやく平衡感覚を取り戻した僕は、礼を言ってから改めて変化した部屋を眺めた。
 そこは広大な暗黒の空。宇を馳せる天龍のおわす世界。
 太陽によって巨躯を覆う鱗が光を帯び、星となって周囲を照らすそこは、紛れも無い天空を超えた宇宙の景色だった。

「これは君の仕込みかい?」
「今回私は運営に関わってないって言ったでしょう? でも、本来はこの時間では体験出来ないアトラクションよ。姫から連絡でもあったのか、私が居るから特別に、だって」
「それは嬉しい誤算だ。なら、これも誰かの記憶の光景ってことか」
「ああ、薬師さんは自分の歴史で私達の歴史を割れば零でしたっけ」
「私だけじゃなくて、姫も似たようなものだけどね。とすると、これは姫の記憶かしら」
「単純に夜の空模様を描いただけ、ってことかもしれませんね」
「そうすると重力がなくなった説明がつかないな。この部屋は殺風景な見た目に反して実は一番凝っている可能性がある。映写機があるとしたらどこに――」
「ええい、あんたらゴチャゴチャ細かいこと気にしてないでおとなしく宇宙遊泳してなさい!」

 うがー、と両手を上げて憤るレミリア。揃いも揃って目の前の光景を素直に楽しめないことにご立腹のようだ。子供が楽しんでいる傍で原理とか理屈を暴こうとしている大人が傍に居たら相手からすれば鬱陶しいか。だが元々僕はそういった楽しみを見出して月都万象展に来たので、レミリアの世話は従者に任せるとしよう。
 レミリアの手前少し黙り、無言のまま遊泳を続けている中で気づいたことがある。それは、最初に入室した時と比べて明らかに部屋の大きさ違う。
 空間を広げているのか、星の向くまま気のままに流され続けていると、レミリア達との距離がどんどん離れていくのだ。部屋自体の大きさは数十メートル四方だったというのに、ゆうに百メートル近くは差が生まれていた。
 僕は両手を動かし、感覚的に上と思われる方向へ泳ぐ。すると天井も広がっているようで、十メートルは移動したと思うがそれでも壁に到達することはない。一種の隔離された異次元空間に迷い込んだ気分であった。宇宙という別次元、と思えばその理屈も正解かもしれないが。
 もっと、もっとこの部屋について調べてみたい。夜の香霖堂をこんな風景に変えることが出来たら、また別の発見が出来そうな気がするから。
 そう思い、僕は己の能力を使う。視界の中に道具が移れば、きっと名称が浮かんでくるはず――

「――――ん?」

 音が、消えた。
 今まで聞こえていてレミリアや咲夜、永琳の声が消失したかのように途絶えたのだ。
 周囲をぐるりと見ても、そこに広がるのは黒と白しかない。一人だけこの広大な幻の中に取り残されてしまったような錯覚を覚えた。
 錯覚はやがて感化する。
 宇宙の中に僕が居るのか、僕の中に宇宙があるのか。いや、宇宙の一部が僕なのかもしれない。そう思うと、目の前にある色がやがて黒一色に染まってくるような気がした。
 軽い孤独感が全身を包むが、思考で霧散させる。逆に周囲が静かになって考えもまとめやすいと言うものだ。大声で助けを呼ぶのは身の危険があってからでいい。本当に何らかの事故でこんな状況が起きているのなら、すぐに永琳が反応するだろう。永遠亭、あるいは主の恥になるようなものを放置しておくとは思えない。

「――トリップのお邪魔だった?」

 ほうら。
 視界に新たな色が入り込む。ヘルメット越しに見える永琳の顔はどこか呆れたような顔をしている。

「トリップとは失礼な。それに、君が反応するってことは事故か何かだったんじゃないのか?」
「事故と言えば事故だけど、それは貴方のせいね」
「僕の?」

 頷く永琳。
 とりあえず下へ、と言われ永琳の指す方角へ向かう。下と言っていたが彼女が上を指していた様子から、どうやら逆さまに遊泳していたらしい。

「重度の移入症って言えばいいかしら。そういう体験を一度したことある? 何かをのめり込むように考えるあまり、精神がどこかへ飛んでいってしまう体験が」
「さて、考えこむことはよくあるから覚えてないな」
「あるいは、体と精神が別離してしまうような場所に定期的に訪れてたりする? 何らかの力場の中でそういう行動は謹んだほうがいいわ。今回は幻の波長の中に入り込んでいたもの。全く、波長が貴方に入るんじゃなくて貴方が波長に入っていくなんて珍しいケースだわ」

 原因はよくわからないが、永琳曰く僕はこの幻の中へと入り込んでしまったらしい。ウイルスみたいな人ねーと呑気そうに言う永琳だが、そんな呪いを与える存在になった覚えは一切合切ないのでひどい風評被害であった。

「そっちの不備ならそれにかこつけて色々頼もうと思っていたから残念だ」
「あらお太い神経。心象を悪くするとは思わないの?」
「そんな狭量と思っていないからこそだよ。わざわざ口に出している時点でわかるだろう?」
「まあ多少のやんちゃくらいで目くじら立てるほど幼くはないつもりだけど」
「何、加減は理解している。香霖堂を牛車で破壊する姫が主だ、大抵のことでは許容するだろうと判断してのことさ」
「やんちゃなものじゃない」

 あれをやんちゃで済ませる辺り懐が深いのか身内に甘いだけなのかまだ察しはつかなかった。そうこうしているうちに、永琳が指した場所へ降り立つ。
 そこは巨大な月面だった。
 確実に部屋よりも大きな面積を持つ月の大地へ着地。感触を実感出来る辺り、本当にどういう仕掛けなのか気になるところだ。
 地面は大抵が砂であり、足を取られぬようゆっくりと移動すると砂の他にも細かな石などが見受けられた。あれが月を産地にした月の石か。隕鉄とかも落ちていたりしないかな。
 無縁塚での癖か、自然と目立つものを探そうと探索していると、正面にレミリアと咲夜の姿を見つけた。彼女らの傍には、車輪のついた長方形の何かが鎮座している。
 それが何なのか気になって距離を詰めていくと、レミリアが僕を見やってにやりと笑みを浮かべていた。

「来たわね運転手」
「運転手?」
「そうよ、光栄に思いなさい店主。貴方にこの車を動かす権利をあげるわ」
「待て待て、その前にこれは一体なんなんだ?」
「月面探査車よ」
「へえ、今回は展示じゃなくて実際に動かす仕様にしたのね。先日河童が居たから何事かと思ったけど、こういうことか」
「ってことは外の世界の道具なのか!」

 感心しながら僕は月面探査車とやらに触れる。
 名称、月都ライド。用途、レミリア・スカーレットを楽しませ……

「おい」

 なんだこの名称と用途は、と思わず声が上がる。
 月面探査車なら外の世界の道具のはずなのに、どうしてレミリアを楽しませる用途として浮かんだのか。
 レミリアがこれを寄贈した、ということなら問題ないかもしれないが、彼女自身これを見て楽しそうにしているところを見ると初対面だろう。なのにどうしてこんな名称と用途なんだ?

「レミリア、これいつ見つけたんだい?」
「さっきよ。たまには優雅に車で移動するのも悪くないし、これで月をぐるーっと回ろうと思ったってわけ」
「お嬢様ではちょっと体格的に動かすのが厳しかったので。ただでさえ宇宙服で制限がありますもの」
「咲夜、そういうのは黙って胸に秘めて置くのが従者の努めよ」
「自分で動かすことを諦めきれないお嬢『咲夜』様は魔力を流して遠隔操作しようとしたり、最終的に霧化『咲夜』して動かそうとしましたが、最後の最後でキーがないことに気『咲夜』づき薬師さんにそれをもらった後、結局理性が恥を隠そうと店主さんを待つことに『咲夜』」

 仲の良い主従をよそに、僕は名称と用途が変化した理由を察する。
 霧化したレミリアがこの車に取り付いたということなら、吸血鬼が血液を取り込むようにこの月面探査車を支配下に置いたということだろう。実際にこれを意のままに動かす、ということは出来なかったようだが、それでも名称と用途を屈服させた辺り流石の吸血鬼というべきか、才能の無駄遣いと言うべきか。
 実際外の道具の中には、馬車から進化した鉄の車、自動車もたまに見かけることがある。生憎と動かすことは叶わなかったが、同じように拾った雑誌の中には自動車について書かれた本もあったので、その存在は知っていた。どんな経緯であれ、動かしてもいいというお墨付きをもらったのなら挑戦させてもらおう。
 レミリアから鍵を受け取り、早速差込口へと入れる。動かし方は……河童も外の世界の自動車を参考したのか、僕が知っているやり方と同じだった。車の汎用性を考えると、下手に改造するとわかりにくいと判断されて製作されたのかもしれない。
 鉄の車が鳴き声を上げると、自然と高揚感に包まれる。戦場の兵士が鬨の声を上げて士気を高めるとは聞くが、同じように道具の産声が僕の思考をクリアにしていった。

「よし、とりあえず月面一周と洒落こもうじゃない」
「これが噂の月旅行ですか。本当に凝っていますね」
「幻って便利な言葉と能力だとつくづく実感出来る」
「好き勝手言うわねえ。楽しんでいるならいいけど」

 車内、と言うにはオープンカーと呼ばれるタイプなので内も外もないかもしれないが、中に三人が乗り込んだことを確認した僕は本に書かれていた自動車の操縦法を思い出していく。確か、座席の傍にあるシフトレバーを切り替えて、アクセルをゆっくりと踏み込めばいいんだっけ。
 すると、僕の手に応えるように月面探査車は微速前進を始めていく。初めて動かすが、問題なく稼働したようでほっと一息つく。スピードを出すと楽しめないと思い、僕は微速のまま彼女らを乗せて走り続けた。

「そういえば結局、ここはどういう趣向の部屋なんだ?」
「宇宙体験ってことでいいのでは? 難しく考える必要はないと思われますわ」
「これだけでメインの企画にしても十分だろうに。今から他のも楽しみになる」
「確かに、まさか月を走ることが出来るなんて思わなかったしね。今年の月都万象展、やけに力が入っていて好きよ、私」
「去年当たった企画に力を入れるのは当然とお考えなんでしょうね、姫は。中には去年だけだった、って場合でコケることもあるけど、幻想郷、ううん妖怪からしたら月っていうのは憧れもあるみたいだしね」
「そりゃあ妖怪からすれば月の影響力は強大さ。だからこそ、あの夜が明けない異変は大騒ぎだったんだ」

 ちなみに僕はと言えば月見酒を堪能していた。
 今日は満月が長いなとのんびりしていたのだが、後日に真相を知ってへえと驚いたものだ。

「けど人間は何を考えてこんな車作ったんだろうな、速く走れるわけでもないし、月への物見遊山でもしようと思っていたのかしら」
「間違ってはいないかもしれないわね。人間が月へ行った理由なんて考えるだけ無駄だろうけど、そういう無謀な真似をするのって人間の特権だもの」
「単に月を支配下に置きたかったのでは? 戦争は絶えませんし」
「純粋に月へ行きたいっていう好奇心からじゃないか? レミリアがそう考えたように、月は今も昔も変わらず天にあった。一体そこはどうなっているのか、って考えた人間はきっと数多く居るだろう。それこそ、君の歴史の長さくらいあるかもしれないよ」
「私の歴史に対抗するには、確かに数じゃないと難しいからね」
「ははっ、一人を一年と考えるわけか。でもたかが五百人程度で私に並ぼうなんて浅い考えだ」
「ですがお嬢様、その一人が霊夢や魔理沙のような人間なら並ぶどころではないと思いますよ」
「あんな人間達は一人ずつで十分」

 完全に同意だ。

「まあ、月へ来た理由が物見遊山なのは案外違わないかもしれないね」
「その心は?」

 咲夜のつぶやきに応じるように、僕は月面探査車を止める。怪訝な顔をする乗客達に、僕はその心を示すものを指した。
 そこに見えるのは、白雲に覆われ青みがかった丸い球体。
 僕達の住む幻想郷、いや世界をその身に抱え込んだ惑星。
 地球――そう呼ばれる、一つの大きな天体がそこにある。
 遠近法によって手を掲げれば、包み込めてしまいそうだ。
 レミリアは己の小さな手に地球を包んで笑みを浮かべる。
 咲夜は感情を外に出さず、瞳の中で表現して目を広げた
 永琳の胸中は不明だ。その表情からは何も読み取れない。
 僕は、沈んだ先で辿り着いた竜宮城の姿に感動していた。
 幻でも、綺麗なものは綺麗だ。あれは地球なのかもしれないが、正式な手段ではなく月都万象展における逆しまの入場を経た僕からすれば、ここは深海の底で見つけた幻想の地なのだから。

「うーん、残念だ。この車が飛べることが出来れば、あの竜宮城へ行けるのに」
「竜宮城~? どう見ても地球でしょ、あれは」
「深海も月天も、届かないという意味では同じような場所ってことですね」
「この車がゆっくりなのは、亀だった、と。……なんとも、奇妙な一致を」
「ふーん。なら私は浦島太郎ってわけ? 助けてないけど誘った店主に連れられて、ここに着いたと。咲夜達は何になるのかしら」
「では私は竿になりましょう」
「じゃあ私は釣った魚を入れる魚籠(びく)でいいわ」
「今度演劇でも開こうかしら。確か人形遣いが人里で演劇していたわよね。薬師、言ったからにはあんたも出なさいよ」
「しがみついて離れなければいいのね、簡単そう」
「着ぐるみ作っておきましょうか?」

 余韻がぶち壊しである。
 永琳のノリが意外と良かったのが敗因だろう。原因もわかったことだし、これ以上話を続けられると僕が亀役で出演されそうな勢いなので再び月面探査車を動かす。せっかちねえ、という声が聞こえたが無視である。明日一人で来て、改めて余韻を堪能するとしよう。
 なお、その願いはこの部屋での体験を吹聴したレミリアにより、行列が出来るほどに人が詰めかけてしまったため叶うことはなかった。
 そんな未来になるなどつゆ知らず、僕は月面探査車を走らせるのであった。

(了)

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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