幸せの青い鳥の家出

また十霖鳥の三次創作SS書いてみました。
前回はクオンメインだったので今回は親鳥とのお話を。
バレンタインネタ書いて今日がホワイトデーですが、内容は特に関係ありません。

東方十霖鳥という作品をご存知の方は良ければどうぞ。





「クオンが家出したんです……」

 深々と刺さるような寒気が収まらない睦月も終わりに近づき、あと少しで如月を迎える頃。
 まだまだ肌寒さが浸透する日々を香霖堂に篭もることで耐えていた僕に、そうは問屋が卸さないとばかりに事件が舞い込んだ。
 静かに開かれた扉から香霖堂に入るなり、彼女――幸せの青い鳥の妖怪、その源流である親鳥は開口一番にそう言った。
 長い蒼髪を揺らし、同色の瞳に涙を滲ませた親鳥が訴えるように僕を見つめてくる。

「………………」
「………………」

 え、何?
 カウンターを挟んで見つめ合うこと数秒。何の反応も出来ない僕は心の中でそう思った。

「クオンが家出したんです……」
「いや、それは今聞いた。それが、何?」
「……探してくれないんですか?」
「何でも屋は無事廃業したんだ。もうそういった依頼は受けていないよ」

 あんな面倒な思いも痛みもこりごりだ。そもそもクオンからツケの回収もまだ終わっていない。
 むしろ何か依頼していいのは僕のほうではなかろうか。
 一向に頷かない僕に、親鳥は顔を俯かせる。……何故僕が悪いような雰囲気になっているのだろう。
 しばらく震えていた親鳥であったが、やがてゆっくりと手を動かした。その指先には札が添えられている。……幻想郷の流儀を覚えちゃったかぁ。

「泣くか腕ずくかどっちかにしてくれ」
「では腕ずくで……」
「厄介な……」

 ため息をつきながら額に手を当てる。顔を覆ったら眼鏡に指紋がついてしまうからな。

「それで、お願い出来ませんか?」

 ちらちらと僕を見て、札を振る親鳥。話し方も訴え方も下手すぎる彼女に辟易しつつ、僕は天井を見上げた。
 ああ、何も考えず店を作る壁になりたいなあ。

「ちなみに未来視によると、貴方が依頼を受けることになってます。ちなみに断る未来は見えません、というか辿りつけません」
「断る気満々だ」
「根負けします」
「するのか、僕」
「しちゃいます」
「なんでまた?」
「長期戦だから」
「時間の無駄と」

 多分、徹底抗戦とばかりに居座られたりするんだろうなあ。
 それも根負けって。一体どれほどの長期間親鳥との対話に使ったのだろう。
 しかし何か利益になるような取引しないのか、未来の僕よ。情けない。
 頭痛を堪えるように頭を抑えながら、僕はこちらへ札を投げようとする親鳥の脅迫の手を止めるのであった。

「言っておくけど、後でしっかり対価はもらうぞ?」

 否定はさせない、と目を光らせる僕に親鳥はこくこくと頷く。
 了承した途端に札をしまって静かになるのだから現金なものだ。
 僕は親鳥用に椅子を用意し、カウンターの対面へと座らせる。
 彼女はその間、絶対に売れない非売品であるストーブの位置を調整していた。僕の近くに配置するのは申し訳無さからか。……いや、元々僕の側にあったんだけどね。
 お茶を用意でもしようかと思ったが、正式な客ではないのでやめておく。むしろ協力を要請するなら彼女が僕を気遣うべきだ。
 そんなことを頭の片隅に浮かべながら、僕は改めて親鳥に尋ねる。

「とりあえずそっちの事情を聞こうか。何故クオンは家出を?」
「わかりません」
「即答か。いや、行動には必ず理由がある。クオンが家出したのは昨日辺りかい?」
「はい」
「なら昨日あるいはここ数日、何か変わったことがあったはずだ。それを思い出してくれ」

 あの親鳥大好きっ子が、理由なく彼女の前からいなくなるはずはない。
 確実に何か理由があるはずだ。……ここまで考えて、何故か背筋がゾッとする。
 慌てて周囲を見渡すが、親鳥と僕以外は香霖堂に人影はない。いや、青い鳥達は僕達が認識出来ない層へに入ることも出来るからそうとも言えない。
 言えない、が。親鳥が気づいていないならクオンは居ないはずだ。
 戦慄している僕をよそに、親鳥はうーんうーんと腕を組みながら唸り声を上げ続ける。
 なんだろう、しばらく見ないうちにポンコツになってないかこの子? それともこれが素か? 

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

 沈黙が辛い。 

「何か言ってくれ」
「くるっくくぅー」
「鳴き声をあげろとは言ってない」

 僕の指摘によくわかったわね、と真面目な顔で感心する親鳥。
 ひょっとして鳩かそれ? そういえば青い鳥は鳩とも言われていたような。いや今は後だ。
 待っていても進む気配がないので、直感だよと返し僕は強引に話を展開させることにした。

「なんでもいい、とにかくここ数日のことを教えてくれ。君が気付かなくても、第三者から見れば指摘出来るかもしれないから。ちなみに鳴き声は禁止だからね」
「く…………はい」

 言おうとしたな?
 かぶりを振って考え込む親鳥。
 外見は大人の女性の顔立ちや体なのだが、僕と顔を合わせぬよう目を伏して顔を俯かせる彼女は、行動も相まって怒られるのに怯える子供のように見える。

「え……っと……」

 つぶやきはかすれるような喘ぎにも似た声量で漏れる。さらにチラチラと僕を伺う眼差し。これは……
 浮かんだ疑問を確認するように、少しの罪悪感を抱きながら僕は強めの口調で尋ねた。

「黙っていたらわからない。僕には君達がどう暮らしているのかすら知らないのだから、クオンの家出の理由は君の口から教えてくれ」
「っ…………!」

 予想通り、親鳥はさらに顔を俯かせて僕と目を完全に合わせなくなった。
 考えもみれば当然か。
 周りを拒絶して自ら封印を望みながら、願望通り退治されることなく、今まで先代の博麗の巫女によって十数年封印されて先日解き放たれたばかりだ。
 さらに孤立故に、コミュニケーション能力が上手く育っていないのだろう。
 謝罪し、彼女を落ち着かせる。

「すまない、強くは言ったが怒ってるわけじゃない。だから君が悪いとは考えないでくれ」
「うん…………」

 確認のためといえ怯えさせてしまったか、と反省する。
 家族であり自分を救ってくれた娘であるクオンとは意志疎通が難しくないだろう。
 性格に思うところがあって出ていくなら最初から助けようとも思わないだろうし、何よりクオンが親鳥の不利益になることをすることはないはず。
 そうなるとこの状況、ひょっとしてあの口悪妖怪の掌の上なのか?
 今もどこかで見ているんじゃないだろうな。

「多分だけど……」

 悶々とする僕に、ゆっくりと顔を上げた親鳥がおっかなびっくりといった具合に話しかけてくる。頷き、先を促す。

「幻想郷を巡りましょう、ってクオンから提案されたのを断っちゃったこと、かしら」
「それくらいで出ていくかな?」
「でもあの子を怒らせるような出来事ってそれくらいしか」

 幻想郷巡り、か。
 クオンとしては母子の触れ合いの一環を断られてお冠だろうというのが親鳥の見解だ。
 しかし母に見せない顔、ふてぶてしく目標への僅かな可能性を信じて足掻いていた彼女を知る僕としては一度断られたくらいで家出して、親鳥を悲しませる真似をするとは到底思えない。
 ならその意図は?
 いや、情報が足りない。もう少し意見を聞いてみよう。

「可能性はゼロでないだろうけど、他に理由があるかもしれない。旅行以外に何か、そうだね。普段クオンと何を話しているんだい?」
「普段?」
「そう、普段」

 そうね、と目を閉じる親鳥。クオンとの会話を思い返しているのか、首を上下に振っては独り言を繰り返している。
 やがて内容を整理したのか、ずいっと顔を近づけてくる。なんでだ。

「クオンが私を助けるために頑張ってくれた色々を聞いていたわ。私はずっと貴方の店の下に居たけど、あの子は違うもの。例えば――」

 さっきまでが嘘のように舌が滑らかな親鳥。
 クオンが親鳥のことを好きなように、親鳥もまたクオンのことを愛しているのだろう。似た者同士、いや似た者親子である。
 あの沈黙など知らぬとばかり、敬語も抜けた親鳥の娘トークは続く。距離の詰め方が極端だなぁと思いながら僕は相槌を打つ。

「あと貴方のこととか」
「僕のこと?」
「読んだ未来の中には予言を放置した結果この店が潰れてしまって、私が飛び去ってしまうこともあったとか」
「それは怖いな。その時の僕は一体どうしてたのかな?」
「紅白と白黒の女の子と一緒に呆けていたって。あと、その後は赤い館で執事をしていたとも。それ以降は興味がないから見てないみたい」

 IF世界の僕は中々波乱万丈な人生を送っているようだ。
 今こうして香霖堂に居るこの未来、辿りつけて本当に良かった。

「ま、僕のことより頑張った自分を褒めてくれってことだろうな」
「え、そうなの?」

 きょとんとする親鳥。単に会話の流れから出た言葉なので、それが本当かどうかは僕にはわからない。
 そうなんだ、と噛みしめる彼女はどうやら僕の言うことを素直に信じてしまっているようだ。
 ならここで言うべき言葉は一つ。

「ああ、そうさ。クオンとしてはあれだけ頑張ったのに、褒めてくれないから拗ねて家出してしまったんだろう」
「そ、そうだったの? 気づかなかった……」
「クオンが戻ってきたら、おかえりと言った後に存分に褒め倒してやるといいよ」
「わかった、頑張ってみる。私はあの子の母親だものね」
「ああ、その意気だ」

 胸の前でぐっと両手を握る親鳥。その表情は明るく、先程会話のきっかけに悩んでいた女性と同一人物とは思えない笑顔を見せている。
 クオンの笑顔などあまり見たことないが、目の前の女性と似たようなものになるのだろうか。
 とりあえずこの面倒事への仕返しはこれくらいにして、と。そろそろ真面目にクオンの家出の意図を考えてみるとしよう。
 なんか首筋にチリチリ何かが刺さるとした錯覚もあるしね。

「さて、家では特に問題ないことがわかった。やっぱり、幻想郷巡りというのがネックなんだろうね」
「でしょう?」
「うーん、未来視で道中での危険が見えたから中止にするための一環とか?」
「…………ん?」
「ん?」
「え、と。その、ね」
「……というか自分を未来視していつクオンと会えるか、とかはわからないのかい? 相手でなく自分に使うなら打ち消すことはないだろうが」
「くるっくぅー」
「………………」

 目を閉じ、僕は盛大なため息をつく。
 どうやらこの親鳥、都合が悪くなると鳴いてすっとぼけるという手段を覚えたらしい。
 それが通じるのはクオンのような、気心の知れた仲だけだ。僕にはあいにく通用しないからな?
 半眼と無言で親鳥を見据えていると、根負けしたのか親鳥が目を反らす。

「わ、忘れてたというかなんというか」
「は?」
「ごめんなさい! 慌てていてその可能性思い至ってなかったの! ほら、同じ種族同士だから、同じ相手の未来を読むって考えが中々! あと貴方とどう接しようかなってそのことばっか考えてて!」

 あわあわと両手を振って動揺する親鳥を見て、呆れが過ぎ去り怒りを通り越え一周回って冷静になる。
 敬語が抜けて素を出してぐるぐる目となっている動揺しきった親鳥を落ち着かせながら、なんだか大きい子供を相手にしている気分になってくる。
 息と表情を整えた親鳥が、胸元に手を当てながら瞳を閉じる。さらに、宙を見上げるように首を少し上へ向けている。
 能力の使用に集中しているのだろうが、対面越しといえ僕と彼女の身長差が丁度良い具合であってなんだ、男の前でそんな仕草をされると色々と困る。

「見えたわ。それで……どうかしたの?」
「いや……なんでもない」

 察してくれ。いや忘れてくれ。

「それで、クオンはいつ戻るんだい?」
「大体二日後だったわ」
「なんだ、戻って来るんじゃないか。ならこれで問題はかいけ――」
「でも、結局理由がわかってないわ」
「直接――」
「言ってくれると思う?」
「…………言わないだろうな」
「でしょう? 困った子よね」

 僕の台詞だよ。二つの意味で。

「――あら、これは」
「何か見えたのか?」
「ええ。でも、これは……ねえ、ちょっとお願いしてもいい?」

 もう敬語なんて忘れたのか、やけに気安いというか距離を詰めてくる親鳥に少し顔を引きながら頷く。ここまで来たら毒食わば皿まで、だ。

「どうも、近いうちに貴方がクオンと話す未来が見えたの。そこで、良い感じに話を聞いてもらえない?」

 私は隠れているから、と言って両手を合わせて頭を下げる親鳥。

「君はどうするんだ?」
「隠れて待機しているわ」

 当時の僕が、誰かの依頼を受けるまでクオンには未来がわからないから隠れて待機していた、ということを思い出す。
 この辺りはやはり親子なんだな。

「バレないか?」
「ふふ、こう見えても能力の扱いで言えばクオンより上なのよ?」

 むふー、と言わんばかりのドヤ顔を決める親鳥。調子が戻るのは良いが、とてもそう見えないんだがなぁ……
 不安が顔に出ていたのか、親鳥は焦るようにカウンターに両手を付きながら顔を近づけてくる。

「大丈夫、大丈夫だから! 信じて!」
「とてもそう見えないんだがなぁ……」

 鼻が触れ合いそうなくらい近づく親鳥に目をそらし、しまっていた胸中が言葉に出てしまう。

「だって君が隠れたとして、クオンが僕の未来を見たら君と接触していたことなんてまるわかりだろう?」
「そこは、ほら。クオンに能力を使われないように誘導してもらえない?」
「無茶言うな」

 毒食わば皿までとは言ったが、クオンの未来視を使わないようにするなんてほぼ不可能だろう。あれは僕の目と同様、息をするように使いこなしているはずだ。

「それまで私は香霖堂に隠れてるから」
「勝手に巣作りしないでもらおうかな」

 鳩に三枝の礼あり、というくらいなのだから常識的に振る舞って欲しいものだ。目の前の女性は子ではなく親なのだが。
 ……対価、ちゃんと決めておこうかな。

「わかったわかった、能力の使用はともかく上手く聞き出しておく。それと対価なんだが」
「未来視の提供、でどう?」
「ほう」
「例えば貴方が商品を仕入れに行く時とか、何か判断を迫られた時に未来視で幸運を授ける、というのでは駄目かしら? 仕入れに行くならついていってアドバイスしようかと」
「いや、いい。予想以上にまともでびっくりした」
「まとも、って。一体どんな目で私を見てたの?」

 コミュしょ……いや流石に口には出すまい。
 ごほんと咳払いして間を保ち、別に普通だよと言って言葉を直す。

「強引、ってくらいか。暴力に訴えるのはいただけないぞ?」
「あ、あれはちょっと切羽詰っていたから緊急事態というか」
「それを使うってことは、使われるってことでもある。覚えておくといいよ」
「えーっと、そんな風にならないように未来視を使ってるから心配はないわ」

 未来視って本当卑怯だな。ってことは今までのこの流れ、確信犯じゃないか。
 その思いを込めて睨んでみると、そっぽを向いて口ごもる親鳥。
 人差し指で額を二度叩き、漏らした息に全ての怠惰を込めて吐く。もう考えるのはよそう。

「予想するのはよそう……」

 ぼそっとつぶやかれた言葉にびくりとする。
 突発的な鳴き声といい、親鳥の性格が上手くつかめない。
 だが親鳥もまたそっぽを向いたまま頬を紅潮させていた。これは……
 
「なあ、場を和ませようとしたのかい?」
「わ、わかってるなら言わせないで……」

 俯いて完全に顔を伏せる親鳥。羞恥からか言葉も語尾が段々弱まり、最後のほうは絞りだすような声量だ。
 からかうのはこのくらいにして、そろそろ本題を進めよう。

「それで、クオンはいつころ来るかな?」
「今日中ではないと思うけど……近づいたら手紙を置いておくわ。私達の未来視は、場面が見えるだけで会話まではわからないから。一見すれば貴方が手紙を読んでいるようにしか見えないわ」
「そういうものなのか」

 会話まで見ることが出来たら情報量の負担が半端ない、ということだろう。
 幾重にも枝分かれして分岐した未来の情報を受け取るのだから、そこから会話の一つ一つまで入ってきたら耐え切れないのは自明の理か。
 
「それじゃあ後は任せるわね、店主さん」
「あ、おい。まだ細かい打ち合わせ――」

 言い終えた親鳥が目の前から消える。
 先程まで会話をしていた、誰かが居たという気配すら微塵も感じない。
 層の外へ移った、ということか。
 後はクオンが来た時になるようになれ、か。

(……報酬が未来視って、対価にあってるんだよな?)

 そう思いながら、僕は親鳥の来店後もいつもと変わらぬ香霖堂の日々を過ごすのであった。



 機会が訪れたのは予言通り二日後だった。
 その合間、時折手の中に現れる手紙や備蓄の減った食材(たまに料理がテーブルに置かれていたこともあった)など、至るところでの親鳥の痕跡にため息をこぼしながら過ごしていた僕としては、ようやく彼女を引取りに来てくれたかという思いだった。
 一応こっそりと宿泊の対価とでも言うべき代金が置かれてはいるのだが、紫のように前触れもなく起こる現象には精神的に負担があるのだ。
 だから、クオンが来店した時に鳴り響いたカウベルの音は、祝福の如き福音に聞こえた。

「こんに――なんです? そんな気味の悪い笑顔を浮かべて」
「ああいや、君が訪れてくれたと思ったら嬉しくてつい、ね」
「本当に気色悪いですね。変な物でも食べましたか?」

 この口の悪さ、相変わらずである。
 僕は読んでいた本を裏返しにすると、カウンターに置いて応対した。

「それで、ツケを返しに来てくれたのかな?」
「いいえ、違います。今回は普通に買い物ですよ」

 まさかのお客さんである。
 よくよく考えればクオンが家出したのは親鳥の視点だ。と言っても親鳥が嘘をついているようにも思えないが……
 僕は接客へ意識を切り替え、クオンを歓迎する。

「いらっしゃいませ、ようこそ香霖堂へ」
「今更態度を改められても……」

 ジト目で僕を見るクオンの視線を流し、何をお求めでしょうかと店主として接客する。
 クオンはカウンター越しに僕を半眼で睨めつけていたが、やがて息を一つついて用件を言った。

「あの人、ここに来ましたよね? 何をしていたのか情報をください」

 と、いきなり爆弾を落としてきた。
 呆然とする僕に、追撃の一撃が放たれる。

「貴方を未来視したら、二人が外を一緒に歩く様子が見えたんですよ。そう遠くないうちに。あの人が家族以外の誰かと、それも異性とそんなこといきなり出来るわけないので、事前のきっかけというものが必ず存在するはず。ならそれは、私が不在だった間を置いてほかない。――反論、ありますか?」

 ありません。
 そう言おうとしたが、ふざけてるんですかという言葉が返ってきそうなのでやめた。
 すまない親鳥、未来視を使われないという依頼はクオンが入店した時点でご破産だった。
 さてなんて言おうかなと思案する僕は、ふとクオンの様子が普段と違うことに気づく。
 未だに僕を見る瞳はジト目のまま。それにこちらを威圧するように、押し付けるような物言いはクオンから焦りの感情が窺える。
 ひょっとしたら……

「いやいや、突然なんだなんだ。親鳥を探しているのなら、家に戻ればいいじゃないか。今は二人で暮らしているんだろう?」

 僕は当の本人のことを隠し、探るように尋ねる。
 なんとなく、クオンと親鳥の情報に差異があるように感じたのだ。
 親鳥の言うことを信じるのなら、クオンは家出をしたという。
 本当に家出をしたのなら、こんな風に親鳥を探す素振りを見せるのはおかしい。となると、クオンの主観では何か違うものが見えているのかもしれない。

「それより、答えてください。あの人はここに来たんですね?」
「だから家に――」
「いないんですよ、家には。昨日も戻ってません。何故かわかりませんが、どこかをふらついているようです。未来視での姿を確認した以上、バカなことは考えていないとは思いますが……」

 ふむ、どうやらクオン視点では親鳥こそ家出をしたように見えているらしい。
 となれば、僕に出来るのは意見のすり合わせだ。
 僕はまあ座るといい、と言って椅子を用意しながら、メモ帳の一つに近くにいるか? と速筆を残し読んでいた本を取りその間に挟む。
 第三者から見れば、本を読みながらクオンに応える形だ。
 普通なら怪しまれそうなものだが、よく読書をしながら店をあけている僕なら違和感はない。
 するとメモの下にそばに、とだけ書かれた文字が浮かぶ。続けて任せろと書くと、任せたという返事が記される。
 ちらりとクオンを見るとストーブを自分の近くに置き、僕を胡乱者めと言いたげな目を向けるばかり。よし、気付かれないな。なら準備は万端だ。

「確かに彼女は香霖堂に来たよ。君を探していた」
「やっぱり……」

 溜めるように力を込めてつぶやいた台詞に、クオンはわかりやすく反応を示す。
 続きを催促させるように、眼光に鋭さを持たせたクオンに怖い怖いとあしらい、僕は望み通りの言葉を紡ぐ。

「なんで君の捜索に僕が関わるのかわからないけど」
「貴方はあの人が頼れそうな数少ない例外ですから」
「博麗の巫女である霊夢に頼ればいいと思うんだが」
「能力を使わずとも、御札か針でも投げられる未来が見えます」

 霊夢……
 いや妖怪に頼られた巫女の態度としては正しいのかもしれないが。

「その彼女の言い分によると、君が家出したとのことだったが」
「していませんよ。なんで私が家出しなきゃいけないんですか」
「家に帰らない、ということだったが?」
「…………ちょっと別件での用事が長引いてしまったんです。本当は、その日の内に帰る予定だったのに…………あの野郎…………」

 その用件とやらが今回の騒動の原因だろう。なら、それが何かを探る必要がある。
 メモにも聞いて聞いてと秒単位で書き込まれているし。
 ぶつぶつと小言で怨嗟を漏らすクオンに慄きつつ、僕はおっかなびっくり聞いた。

「それで、その用件って?」
「八幡神の用事です。私は青い鳥でありながら神の遣いですからね」

 そういえば、クオンは武家の神とも称される八幡の遣いだったか。
 早くから仏教と習合していたこともあり、八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)とも称される神様だ。眷属の鳩なんて他にもいるだろうに、クオンを眷属にする武神となると、やはり神格を高める一環だったのかな。
 いや青い鳥自体、鳩から派生して生まれたものだからかな?
 鳩を眷属とする八幡神、なら信仰によって鳩がなんらかの力を持ったとしてもおかしくはない。
 
「神様の用事か。それはサボるわけにはいかないだろうが、それならそれで親鳥に言えばすむことじゃないか。ちゃんと伝言はしたのか?」
「……………」
「まさか、何も言わずに出て行ったのか?」
「ちょっとした意見の食い違いがあって、なんか気まずかったんですよ。そこに神様の用事が来て」
「そのまま仕事へ向かった、と。それなら家出と思われも仕方ないけど、迂闊すぎるぞ。クオンにしては――」
「私にしては、なんです? 私の何を知っているんですか、店主は」
「少なくとも、母親のことが大好きな子供ってことくらいかな」
「……調子に乗るなよ」
「うん、素が出てきたね。そんな風に、親鳥にも本音で言えばいい。少なくとも家族同士でかしこまる必要はないだろうさ。親鳥だって、君のその口の悪い部分を知らないわけじゃないだろう?」

 クオンの威圧が高まる。いくら素の身体能力が弱いと言っても、僕一人相手取るならお釣りが出るくらいに彼女は強い。
 本当に力で来られたら僕に対処する手段はない。あの時は、少女達の力を借りた上での勝利だったしな。
 だから今すぐどこかへ行って欲しい、あと親子の問題に巻き込まないでくれという内心をおくびにも出さず、僕はクオンをなだめる。

「口悪口悪と、言ってくれますね」
「猫を被る必要もないからな。いや、鳥の場合なんだろうね? 羽をかぶる?」
「そんな造語いりません。……まあ、出来るだけ秘密ではいたかったんですよ」
「それは、何故?」
「自分の娘が違う種族になっていたのを悲しむのでは、と。たまに、あの人は私のことを痛ましく見るので」
「自分のために無理をしたことを、重荷に感じていたのかもしれないって考えたわけか」
「まあそれはあまり気にしてないんですが」

 気にしてないのか。ちょっと感情移入した僕に謝れ。

「せっかくの貴重な有給を一日無駄にしてしまっているんです。説得に時間がかかりそうな以上、早く見つけないと……」
「有給?」
「はい。八幡の仕事をいくつか前倒ししてこなしてきて、もぎ取ってきたんですよ。ただでさえあの人の復活のために、前倒しにしていた分もあったというのに……」
「…………ひょっとして、幻想郷巡りのためか? 親鳥とゆっくり過ごしたいから休みをもらってきただけなのか?」
「なっ……! そんなことまで貴方に言っていたんですか!?」
「そうか……そうか……」

 全てを理解した。
 途端にどっ、と親鳥襲来から今まで溜まった疲れが一気に押し寄せてくる。なんてどうでもいいことに巻き込まれたんだ僕は。
 ストレスと疲労を仲良く持ち込んできた親鳥とクオンには本当に、対価を増して貰う必要があると僕は思う。

「なあ、もういいだろ? どうやら君の娘は、君との旅行を満喫するために仕事を頑張ってきただけみたいだから」
「店主、一体何を言って――」

 クオンの台詞は全てを言い切る前に中断される。する他なかった。
 なぜなら、意識の外から現れた親鳥によってクオンはその身を抱きすくめられていたからだ。

「え?」

 間の抜けたクオンの声。
 対して親鳥はほろほろと涙を流しながら、無言でクオンの体をその両の腕の中に閉じ込めている。

「なあっ……んな……あ、え」

 ややあって現状を確認し、僕の呆れるような、疲れたような視線に気がついたのだろう。クオンは母親に抱きしめられているという状況に何か言い訳をしようとするが、上手くまとまらないのか言葉として成立することはなく空気の中へ霧散する。

「まあ、なんだ。家族仲が良好で何よりじゃないか」
「~~~~~~~~~!!!」

 ばたばたと手足を動かして親鳥から逃れようとするクオンだが、身体能力は親鳥のほうが上なのかそれとも先程の言葉でブーストでもかかっているのか。親鳥の力強い抱擁にクオンは抜け出すことが出来ずにいた。
 親鳥が満足するまでこうするしかないことを悟ったのか、声にならない声をあげるクオン。
 母親と仲良くしているところを見られた羞恥心からか、赤面する姿は僕を威圧していた少女と同一人物と思えないほどに幼く見えた。

「ちょ、店主。見ないで」
「おかえり! そしてごめんねクオン。そんなに頑張って旅行を楽しみにしてるなんて思わなかったの。単に未来が見えなくてどこに連れていかれるかわかんなかったから怖くて断っちゃったけど、今なら何も問題ない。私、行くわ」  

 恥ずかしがるクオンなど知らぬと言わんばかりに、親鳥は腕の力を強めている。締め付けられる服が軋んだ音を立てているのが良い証拠だ。
 夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、親子に関しても同じことが言えそうだ。

「店主、聞こえてるんでしょう? ちょっと助けて……」

 そうだ、ちょっと外に美味しいものでも食べに行こう。寒い? 知らん、今のやり取りで体温なんて気にならなくなった。
 そう思い至った僕は、いくつかの資金と防寒服を集めて香霖堂を出ることにする。途中、クオンの静止を求める声が聞こえた全てスルーした。
 お酒もいいな。夜雀の店は今の時間でもやってるかな。

「それじゃあ、ごゆっくり」
「待って、店主、違うの!」

 色々と疲れた僕は、それだけ言い残して香霖堂を後にする。
 今日は貸し切りにでもしてあげよう。そうしよう。だから僕を放っておいてくれ。
 二人の時間を作らせるべく香霖堂の扉をそっと閉める。

 クオンの貴重な絶叫を耳に残しながら、僕は雪景色の中に消えていくのであった。
 
   
<了>

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
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東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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