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巫女ハー18-3

 都合何度の交差を続けたか。
 純粋な体術なら私に分はあるけど、門扉や鎌を使うエリー独特の技術に翻弄されて私と彼女の戦いはやや硬直状態にあった。
 それでも門扉の放つ鉄柱などを思い切り殴り続けたおかげでストレスも和らぎ、思考も段々と冷静になってくる。
そこで状況を動かす一手を、私は選択した。

 お札メリケンの解放レベルを上げ、少し強めに打ち込まれた左拳。それを大鎌で受け止めたエリーは大きく体を揺らす。
 威力が想定外なのか、涙目のままエリーは体勢を崩しながらも大鎌の柄を大地へ突き刺すことで衝撃を上手く逃がし、めり込んだ柄を支店に体を回し、蹴りを叩き込んでくる。
 それを右手で軽くいなし、一歩踏み込み。至近距離に迫った私のアッパーは、エリーの帽子を吹き飛ばして終わる。
 仕切り直しかと思ったけど、打ち上げられた帽子にエリーは視線を投げていた。割と大事なものだったのだろうか?
 私はそちらに視線を向け、ぐっと足に力を込めて帽子へ飛びかかろうとする、といったフェイントを入れた。
 効果は抜群だったようで、エリーは私の動きを阻止せんと帽子へ向かってダイブを敢行していた。――今ね!
 お札メリケンの霊力を溜められるだけ溜める。
 青白く光る拳を携えて疾走する先は、謎の館の門扉。意志を持ったそれを前に、私はぎゅっと拳を握りこんだ。夢美の時よりもさらに上がった霊力の充填速度により、パワーは十分。それを、解放する。
 可能性空間移動船の外壁を破壊したものだ、たかが門扉一つ打ち抜けないわけがない。それを証明するように、私のお札メリケンは館の門扉の抵抗ごとそれを蹂躙した。

「きゃー! 幽香ちゃんに怒られるー!」
 
 倒壊する門扉に、エリーの悲鳴じみた絶叫が木霊する。それをBGMに、私は謎の館の中へ侵入していった。
 入り口に入ってすぐ私は誰もいないことを確認し、適当な部屋を見繕い隠れることにする。少々の会話とある程度戦ったに過ぎないけど、わかりやすいエリーの性格ならきっと……

「待て待てー! お願いだから待ってねー!」

 と、エコーするように声を伸ばしてエリーは館の中へ走り去っていく。のんびりした性格だとは思っていたけど、予想以上に簡単で少し拍子抜けもしてしまう。
 落ち着いたところで、私は今の状況を考える。 
 夢美達と探索していた湖の先――それが多分、この館なんじゃないかと思っている。まあでっちあげにも近い推論なんだけど。
 そしてエリーの言うこの館の主である『幽香ちゃん』。冬を彩るべく何かした、ってことだけど、この状況と無関係とは到底思えない。
 希望的観測ではあるけど、その幽香という人物に話を聞く必要はあった。と言ってもアポもなくエリーという門番を乗り越えて不法侵入した身なので敵対は避けられないと思う。
 でも仕方ないじゃない、なんか流されるままに動いちゃったんだからと脳内で言い訳をしながら私は改めて館内を探索することにした。
 館は広くはあるものの、そうやたらめったら大きいというわけではなさそうだった。視界の先に行き止まりを示す通路も見えるしね。
 外観で言えば三階程度だったし、地下でもなければすぐに探索を終えられそうだ。逆に言えばエリーに見つかる可能性も高いのだけど。

「館の主と言えば、やっぱり最上階」

 ひとりごち、私は階段をまず探す。赤いチェック模様の通路は思ったより長かった。
 幸運にも一回の中央とも言うべきホールに出ると、螺旋階段による二階への通路を見つける。時折エリーの声も聞こえてくるけど、まだ遠い。
 私は自慢の体術を駆使して疾走し、ものの数秒で二階へと上がる。

(上がれちゃった)

 何の妨害もないことに違和感を覚える。
 門番が居るということはそれなりに住んでいる者も多い、裕福な家なのだと思っていたけどそんなことはなく、割とがらんとしていた。
 ひょっとしてエリーと幽香という人の二人暮らしだったりするのだろうか。エリーがメイド件門番であるってこともあるわけだし。
 そんな考えをしながら進む私は、これまたあっさり三階への階段を見つける。誘導でもされてるんじゃないか、というくらい順調だ。
 おそらく最上階であろう三階へ登り、青いチェック模様に彩られた十字路の正面、まっすぐ伸びた通路の先にある一つの部屋を注視する。幽香という人物がひねくれた性格でなければ、あれが主の部屋だろう。
 無人だとわかっていながらも周囲への警戒を怠らず、私はその部屋へ向かう。途中、エリーの声も聞こえなかった。
まだ一階や二階を探してるの? 真っ先に三階へ、幽香って人の元へ行ったのだと思ったけど……
 予想以上のおばもとい天然なのかもしれない反面、それでもそういう指示なのかもという疑問も持ちながら私は通路の先、一際大きな扉のある部屋へとたどり着く。
 ご丁寧に建てられたネームプレートにはこれまた丁寧に幽香ちゃんのおへやと書かれていた。多分、エリーの手作りなんだろうなあ。
 それにしても字がその、なんというか幼い。エリーは私より少し年上くらいの外見ながら多分妖怪だと思うのでそれなりに生きていると思うのだけど、まるで覚えたての字を習った子供のようだった。
 そういえば人里には学校といった教育機関はなかったっけ。基本的に生きてるのが精一杯だから、そういう余裕がないのよね。私はハーフ君に色々教わったから学はあるけど、やっぱり子供からすると教育者っていうのは欲しい。
 っと、思考が逸れてしまった。まずいまずい。
 ふー、と息を吐き、整える。私のことはもうバレているだろう。なのに何も仕掛けて来ないってことは、誘ってる?
 それならそれでいい。博麗の巫女は前進あるのみ!
 いざ、と私はドアノブに手をかけ、開く。不意打ちされても対応出来るように神経を尖らせながら部屋へ入った。
 そこに飛び込んできた光景に、私は一瞬目を疑った。絶句も加えた。
 なぜなら、大きめの部屋の中央に設置されたこれまた大きめなベッドには、一人の少女がすやすやと寝入っていたからだ。
 腰まで届く緑髪に星柄のナイトキャップを乗せ、ネグリジェ姿の彼女はどう見てお休み中だった。これじゃあ私が寝てるところに侵入した強盗である。相違ないって言うな。
 そんな風に足を止めていると、少女がむくりと起き上がった。そして寝ぼけ眼のまま私をじっと見据えてくる。
 何の前触れもなく起き上がったため、虚を突かれた私はさっきまで張り詰めていた空気が強制的に霧散していく感覚を覚えた。長い髪で片目の隠れた、ぽやんとした少女の目つきが私から闘志とも言うべきものを散らしていく。

「んー…………?」
「えと、おはよう」
「あー、おはよー」

 エリーともこんなやり取りしたなあ、となどとぼんやり考えながら私は少女に挨拶をかわす。

「じゃあおやすみ……」
「寝るな!」

 まさに寝起きのやりとりだった。私としては調子が狂う。

「起きてます?」
「えー、寝てないわよぉ」
「いや寝てたし」
「もー、でー?」

 もーでー? ああ、促してるのね。

「貴女が幽香?」
「そうよー。なんで人間が私の名前を知ってるの?」

 一応、私を普通に人間とわかる判断力は残っているようだ。妖怪から見れば人型であっても人間と判断出来るのかもしれないけど。
 質問を続けようとする私だったが、それより早く幽香が口を開く。

「ああ、赤いの。くるみにしては早く仕事をこなしたわね」
「あ、赤いの? そりゃあスカートは赤いけど私はどっちかと言えば紅白よ?」

 色呼ばわりに反論しつつ、私は幽香の突然の言葉に眉をひそめる。赤いの……って、確か私をここに連れてきた誰かがそんなことを言っていたような。
 とすると、幽香は私に要件があったってこと?

「確かに白い。苦労してるのね」
「白髪じゃないから! 銀髪だったらどーすんのよ」
「どちらにしろ白いわ」
「白だけに、って?」
「別に狙ってなかったけど」
「うわー恥ずかしい、今私自分がここにいることが恥ずかしい」
「じゃあ恥ずかしい赤いの、貴女が夢美って子ね? 会いたかったわー」
「え?」

 ひゃー、と赤くなりそうな顔を一瞬で元に戻したのは、幽香の思わぬ言葉。
 夢美、ですって?

「確か天狗に喧嘩売って生きていたんでしょう? しかも魔法とかじゃない力で。それに興味があったのよ。ねえ、一体どんなものか教えてくれない?」

 徐々に眠気も覚めてきたのか、幽香の口調がまともになっていくに連れて私は冷や汗をかかずにはいられない。
 敵意も害意なくこちらを威圧しているでもない、至って普通に話しかけているだけのネグリジェ姿の少女。
ただそれだけなのに、噴き出る汗や鳥肌が立つのが抑えられない。

「生意気な人間が手にした魔法ではない、別の進化を遂げた持ち得たもの。そんな力を持っているだなんて、興味湧かないはずないもの」
「私は貴女の言う夢美じゃないわ」
「えー?」

 じろじろと私の否定に対して疑わしげな視線を向ける幽香。
 だからはっきりと宣言する。

「私は博麗の巫女。貴女の言う夢美とは違う、別人なの」
「あら、貴女が当代の巫女なの? 本当? 嘘ついてない?」

 驚きの感情に合う、眉そひそめた姿。寝ぼけ眼と言ってしまえば可愛いものだが、そこから発する、いや私が一方的に感じるものは底冷えの空気。
 まるで水の中で溺れている感覚。
 環境適応剤が効いているはずなのに、巫女として……ううん、私自身の勘が彼女に暗く沈みゆく海底を感じるのだ。

「だって貴女のような『弱い人間』が博麗の巫女だなんて信じられないわ」

 鼻が白む。
 怒気を発するのは簡単、けど冷水を被せられるようにそれは霧散していく。
 マッチ程度に灯った火が水に浸けずとも吹かれて消えてしまうかのように、私の生殺与奪は紛れも無く目の前の少女に握られている。

「くるみったら間違えて連れて来たのねー。後で言っておかなきゃ。……さて、この人間はどうしようかしら」
「私は巫女よ。人間、だなんて呼ばないで」
「だってぇ、私から見れば貴女巫女と言うにはちょっとねえ」

 気だるげに会話を続ける幽香。それに聞いていた、聞き入ってしまったから気付くのが遅れた。
 幽香が指を振る。円を描くように動くそれは、ただ会話を続けるポーズなのだと無意識に判断していた私をあざ笑うかのように、こちらへ向けて止まる指先に光が生まれた。
 一瞬だった。
 閃光はレーザーとなって私へ飛来する。咄嗟にお札メリケンを構えた私であったけど、ビームガンの一撃すら防いだハーフ君の道具がその力に押される。

「こんのぉ!」

 アッパーカットのように腕を跳ね上げ、光を真上へと逸らす。
 幽香の掌よりも細く集束された光熱はお札メリケンを焦がし、館に小さな穴を開けた。

「あら、道具は良いのを使っているのね」

 感心の声をあげる幽香。
 私は不意打ちへの文句を言うでもなく、次に訪れるであろう攻撃に備えお札メリケンへ霊力の全てを注ぎ込んでいた。

「じゃあこれはどう?」

 放たれたのは私ごと飲み込むような白熱の光。
 それに対し、構えをとっていた私が全力を持ってその光に拳を打ち込む!
 数秒の拮抗。
 力負けしたのは私だった。

(このままじゃ飲み込まれて――)

 至った後の判断は我ながらスムーズだった。
 もう片方の手を光の中へ押し込み、暴威を秘めたそれを懸命に逸らす。
 だが結局は耐え切れず、まるで高速物体に轢かれるように跳ね飛ばされ、きりもみしながら部屋の壁へたたきつけられる。大きな傷こそ負わなかったけど、力の差というのは否が応でも理解した。

「かはっ…………!」

 焦げたお札メリケンを巻きつける指が熱い。最初期のプロトタイプのように、お札メリケンは独りでに私の手を離れ焼け焦げた姿を見せながら床へ落ちる。

「やっぱりー。貴女、弱い人間じゃない。嘘をつくのはダメよ?」

 力なく体を起こし、あくびをする幽香を見据える。
 未だ彼女はベッドの上。縁に腰を下ろし移動する様子も戦おうとする気配もない。
 今までの行動全てが虫を払うような、あるいはゴミを片付けるような気楽さの上でのものであったのだと、理解せざるを得ない余裕が窺える。
 お札メリケンの予備はある。
 けど防ぐので手一杯な現状、圧倒的に装備が足りない。……強さも。

「まあでも、それならそれなりに使いみちはあるわけでー」

 幽香が指を鳴らす。
 すると部屋の隅々から植物の蔦がしゅるしゅると這い寄って来る。幽香というインパクトに目を奪われて気づけなかったが、この部屋はベッド以外にも多くの花々が咲き誇っている。中には冬では見られない花もあり、季節に関係のない多くの植物があった。
 入ってきた扉はすでに蔦に絡め取られており、開けるのは難しそうだ。扉だけではなく窓まで植物のバリケードがなされている。閉じ込められた!?

「これは吸血植物の一種でね、人間の血を吸って花を咲かせるの。特に人間の子供のそれは、薔薇にも負けない真紅をもたらすわ」

 くるみも喜びそう、とのたまう幽香。くるみというのが人名なのかはわからないが、この植物に捕まった末路は予想できた。

「そんなの、ゴメンよ!」

 即座にお札メリケンを装着、床を殴って穴を開け脱出を試みようとする。
 だが殴った床に変化はない。見れば、いつのまにやら床に花が散りばめられていた。これは、何?

「あら親切。わざわざ食事の時間だって叩き起こしてくれるなんて。それに、進んで与えてくれるなんて貴女はとっても素敵ね」

 お札メリケンから発していた霊力が枯れる。
 充電用にとっておいたお札のストックが急速に失われていくのを感じて、私はその場から後ずさる。これ、霊力を吸われてる!?

「んー、お礼がしたいの? でもーその人間はあの子達の肥料だからなあ。どうしましょう」

 幽香のつぶやきに応じたのか、這っていた蔦の動きが止まる。私も止まる。
 攻撃は何故か効かない。脱出も封じられた。

「え、私にって? 嬉しいけどまるで足りないわー。夢を写したせいでもう少ししたら枯れちゃいそうだし、失敗しちゃった」
「夢の力……? 貴女、レティに何かした?」
「れてぃ~?」
「冬の妖怪。えっと、雪女。今起こっている冬は、その夢だって言っていた」
「んー? ん~…………あー、冬のイメージが強い夢を見ている妖怪のことね。知ってる? 夢幻世界って夢の同調が可能なの。それでちょっと冬を彩ろうとしたんだけど、イメージ元が寝ようとしちゃうのよ。だからその影響でこの世界もちょっとバランス崩しちゃいそうでね? あー、これなら槐安通路の一部にでも流し込めば良かった。そうすればあっちがなんとか修正してくれるのに」

 思いのほか饒舌な幽香にも驚きだけど、それ以上に彼女は一体何を言っているのだろう?
 私によくわからないけど、覚えておいたほうがいい。この証言でハーフ君や夢美が何か意見を言ってくれるはずだ。
 饒舌だったのは愚痴でもあったようで、間延びした喋りでありながら割と長く続いた会話の中、私は感じた疑問を投げる。

「理屈はよくわからないけど、今幻想郷では冬がちょっと長続きして困ってるのよ。その原因を調べていたんだけど……これは、アンタが原因?」
「幻想郷? 私はこの世界にしか冬を起こしてないつもりだけど」
「現に幻想郷ではまだ雪が積もってるのよ。この世界が幻想郷に影響を与えてるってことじゃない」
「漏れたのかしらー。それなら徐々に終わってしまうわね。……ああ巫女って名乗ってるのはそれを解決しに来たからか」
「今更か!」

 少し強めに叫ぶ。鼓舞しなければ不安に押しつぶされてしまいそうだから。
 敵地と思われる場所に私一人。これで不安を感じないほどの強さは私にはない。なんとか、どこかで突破口を見つけないといけない。
 さしあたって今は会話を一秒でも長続き……

「巫女を名乗る偽物と言っても、私を退治しに来たことに変わりはない。それじゃあ改めてこの子達の餌になってね?」
「連れてきたのは、そっちの癖に……!」
「後で叱っておくわ。今度こそ夢美って子を連れて来てもらわないと」
「夢美を連れて来て一体何をするつもり? 力なら、貴女は十分に持っているのに」
「あって困るものじゃないし、単に好奇心よ。さ、お話はこれでオシマイ。その子に食事をさせてくれたからそれなりの会話を設けてあげたし、もういいわよね」

 問答はこれで終わり、と言わんばかりに蔦が再び動き出す。足元に咲き誇る花こそ足を止めるといった邪魔はしないけど、四方八方囲まれた状況に変化はない。
 霊力が吸われていた以上、単なる拳でこの場を切り抜けなければいけない。
何その無理ゲー?

(あ、私ここで終わるかも)

 こうなれば古くから伝わる戦術、神風特攻するしかない。
 目標はもちろん幽香。せめて一矢でも報いてやらなければ!
 という気概を感じて油断してくれれば儲けもの。どのみち、気概と云えど幽香に特攻を仕掛けることに変わりはない。
 私が今持っている全戦力が脱出のきっかけに、

「ぱぁん」
 
 気づけば、私は前のめりに地面に寝転がっていた。両足が痛い。足先に感じる熱さとそれらは、痛打を受けたことを証明している。これは、裂傷?
 段々と、自分がどうして倒れたのかを理解する。
 足元からの衝撃。
 まるで地雷にようなそれを、私はもろに受けてしまったのだ。

「爆花、略してバッカ。ほら、貴女みたいな人に有効でしょう?」

 足元の花は攻撃しなかったわけじゃない、機会を伺っていたのだ。
 私が幽香へ踏み込もうとしたタイミングを見計らい、爆ぜた。幸いかどうか、ハーフ君が用意した靴はそれなりに耐性があったようで足は繋がったまま。それでも両足だけで今攻撃しなかったのは、幽香の性格故か。

「ふふ、良いお顔。そういうのを見るのって、とっても楽しいわ」

 そう、相手をいたぶるという趣向。それが、私の足が無事な理由だ。
 立ち上がろうと力を込めた腕に再び走る衝撃。今度は手を狙った爆花の一撃。
 痛いけど、耐える。ここでみっともなく呻いて、幽香を喜ばせたくない、という意地もあるけどそれによって注意力が散漫になるほうが怖い。

「今は片手だけど、同じことをしたら両手両足になるだけよ。でも私としては、残る片手で何をしてくれるのかも気になるわね。ただ立ち上がるだけだったら吹き飛ばすわ」

 暗に立ち上がることすら許さない、と幽香は言下に告げる。
 まずい。これは、まずい。ホントまずい……! ここまで力の差があるなんて……!

「もう抵抗は終わり? それならそれで、あの子達を彩る、美しい花の養分になってちょうだいね」

 私が思うような反応を見せなかったからか、延々と傷めつける嗜好はなかったのか、幽香は死刑宣告に似たそれを言い渡す。
 くっ、無抵抗でやられる巫女さんじゃない! と思ったその時だった。
 部屋を衝撃と轟音が駆け巡る。破砕した窓の硝子が壊れる音に次いで幾重にも閃く光条が縦横無尽に部屋を蹂躙し、花と植物達を駆逐していく。
 光に貫かれた植物が焼け焦げた様子を見ると、それは光と熱による攻撃だった。そして、それを使う人物達に心当たりがあった。
そして視界の片隅に見える光景。これは――!

「っくらあああああああ!」

 手足を使わず、己の背筋を限界まで使い跳ね上がる。その勢いを利用し、宙返るように浮いた体を確認し、無事な片手を支点に、駒のように体を回す。
 私は残るお札メリケンの残量を使い切るように、接地面ゼロ距離にて寸打を床へ打ち込んだ。
 瞬間、爆花を馬鹿にするような爆発が手元で起こる。お札メリケンによる衝撃で、砲弾のように私の体は明後日の方向、窓の方角へと吹っ飛んでいく。
 同時に迫るのは赤い輝き。
 メタリックに彩られ、磨き上げられた鏡のように私を移すそれが凄まじいスピードで館の壁を走って迫っている。
 走るたびに館の窓を踏み破るそれは知識にある中では乗用車に似たものだと告げていたが、空を疾駆するそれはその単語への印象をかき消すような動きを見せていた。

「巫女、こっちよ!」

 車体の窓からマントを翻した赤い少女――夢美が姿を現す。
 伸ばしてくる手に、私も懸命に応じる。その手を握った夢美が、空いた手に夢幻爆弾を手にしていた。

「ちょ、ご主人! この距離でその改良型はヤバ過ぎ――」
「聞こえませーん! そいっ!」

 放られた夢幻爆弾が、館に当たる。
 そこから溢れる真っ白な光と、盛大な爆砕によって私は空いた窓から車内の反対の窓へと押し込められ、顔面を思い切り打った。
 眼下に見える星々と、興味深くこちらを見据える幽香の顔を遠くに感じながら、私はそこで意識を手放した。

<了>

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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