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転がるそれを拾うのは

 ぱり、という小気味良い音が店内に響く。
 ぺら、と本をめくる紙の擦れる音に沿うように紡がれるそれは、日常のひと時を確かな実感として与えてくれる。
 穏やかな卯月の昼下がり、いつも通り勝手に煎餅を拝借して齧る霊夢を見やり、僕は読書をする手を止めて言った。

「そういえば、最近霊夢は人里に行くことが多いんだな」
「おん?」


 半分になった煎餅を口に咥えながらこっちを見る霊夢。
 同じく勝手に僕の服に袖を通す彼女は、昔より若干成長した顔で小首を傾げた。

「そりゃあ巫女だもの。人里を巡回するのは当然だわ」
「いや何。その周期が昔より多くなった気がしたんだ」
「全然変わってないわよ。まあ最近監視先増えたけど」
「そうなのか。聞いた話じゃ、よく人里に行くって話だったからさ」
「そう思うのは香霖堂に来るのが少なく……あら、寂しくなった?」

 半眼になり、からかうような視線を向けてくる霊夢を馬鹿言うなと切り捨てる。
 何が悲しくて客じゃない相手の訪問が減ったことを寂しく思わなきゃならない。

「冗談よ、冗談。霖之助さんは妖怪の時間で生きてるから、そう感じているだけなのかもよ。最後に人里に行ったのだって、もう何年も前でしょう?」
「一応、君達が人里でお祭り騒ぎをしていた時は出かけたよ」
「あれは異変みたいなものだものだからノーカウント」

 噛み砕いた煎餅をお茶で流し込み、ほう、と一息つく霊夢。 
 確かによくよく観察してみると、昔より霊夢は全体的に成長しているような気がする。
 身長や体格といった服のサイズは元より、その雰囲気が、だ。
 昔は妖怪相手に通り魔じみたことを多くしていたが、関わる妖怪が増えたことで前よりものんきになった気がする。いや、これは成長か?

「何よ、じろじろ見て。えっちね」
「言いたいだけだろ。僕が君をそんな目で見たことなんてないぞ」
「じゃあこれから見られちゃう?」
「……本当に変わったな。そんなこと言い出すとは思わなかった」
「少女ですもの。日々健やかにね」
「健やかねえ」

 子供から少女への変化、ということだろうか。
 年を経るにつれて少女は女性を強く実感する。霊夢もまた、それを意識している段階ということかもしれない。

「それより、どうして人里のことを言い出したのよ」
「ん、ああ。特にこれといった理由があるわけじゃないんだが、しいて言えば鈴奈庵の子が理由かな」
「小鈴ちゃんが?」
「割と君を尊敬の目で見ているようだ。君も中々にたらしになったものだ、とね」
「何よそれ、それこそ霖之助さんが言いたいだけじゃない」
「そいつは失敬。ただ、人里の子供が香霖堂に来て、そこから霊夢の話題が出たのは確かだ。理由としてはそんなことがあったから、かな」
「へー。小鈴ちゃんがねえ。あの子は割と困った子なのよね、色んな意味で……霖之助さんは妖魔本持っていたりするの?」
「さて、どうだろうね」
「徹底的に調べて欲しい?」
「大掃除を手伝ってくれるなら助かるよ」

 それは自分でやって、と霊夢はばっさり却下した。
 僕は本にしおりをはさみ、霊夢に言われた異変に関係なく人里へ行った日……蝉の資料を求めて稗田の家を尋ねた頃を思い出す。
 あれも年単位で昔だった気がするが、正確には思い出せない。

「最近は仙人だってよく人里に行っているみたいよ? 霖之助さんも引きこもってないで、たまには行ってみたら?」
「行く理由が中々ね……」

 実際問題、僕が人里に行く理由はあまりない。
 霧雨道具店へ行くという手もなくはないが、あまり昔の者が行くのは今の者にもよくないだろう。
 人里はあくまで人間達の住居なのだから。

「頭固いわねぇ。今は妖怪だって客にしているんだし、酒を共に酌み交わしてたりするわよ? 美味しいものもあるし」
「僕はどっちかと言えば静かな酒が好きだし、食事を取る必要もないがね」
「でも味覚自体はあるんでしょう? なら食べたほうがお得じゃない。最近は果物なんかが美味しいわ」
「僕はそれ単品よりも何かに添えてもらいたいな。……酒」
「タラの天ぷら」
「唐揚げ」
「お団子なんかもいいわね」
「…………」
「…………」

 霊夢が無言で店の奥へと引っ込んでいく。
 僕はその後を追いながら、彼女と違う部屋――自室へと足を運んでいく。
 目的は金銭の入った財布である。
 中を見やり、満足の行く金額が入っていることを確かめる。
 確認して部屋を出ると、そこには巫女服に着替え直した霊夢が心なしどや顔をかまして佇んでいた。

「良い店なんだな?」
「評判は良いわね。入りたかったんだけど、その時は仕事をしていたから」
「巫女服は仕事服だろう? 私服じゃなくていいのか?」
「むしろ巫女が居る、って安心出来るわ」
「君が問題ないって言うなら良いか」
「そうよー。それじゃ、行きましょうか」

 何処へ、とは聞かない。
 互いにその場所を知っているのだ。改めて尋ねるなんて無粋な真似はしない
 あの前置きはなんだったのか、なんてことも思い出さない。
 食欲なんて、湧いてしまったほうが負けなのだ。
 そんな言い訳を脳内で繰り返しながら、僕は霊夢に釣られて人里へと足を向けていった。


 ――訪れた先は、予想外の人の群れが集まっていた。 
 霊夢の話を聞けば、最近祭りではないがやや賑わいを見せる程度に活性化しているらしい。
 人里でそんなことが起きるなんて、誰か経済方面で暗躍しているのだろうか。

「人里から支配者が出て、ルール違反しない限りは盛り上がって損はないわ。ほら、お店のバリエーションだって増えてるでしょう?」

 確かに、立ち並ぶ食事処は、僕が訪れた時よりも店舗が増えている気がした。
 団子屋や蕎麦屋は昔なじみの場所であったが、それ以外にも大きめの食事処がいくつか存在しており、それぞれにまばらに客が入っている。
 最近住人でも増えたのか? だが人里の人数は調整されているはずだが……

「ほら、今日は飲み食いに来たんだから、そんな難しい顔しないの」
「――それもそうだな。とりあえず、霊夢おすすめの場所に行こう」
「そうこなくっちゃ。あ、まずあの屋台にしましょう。前に私の占いで一念奮起したらしいから」

 幻想郷の母とか名乗っていた胡散臭い占い師をしていた頃時か。
 なまじ当たるものだからと人が詰め寄っていたそうだが、正直才能の無駄遣いがしてならない。

「こんにちは、景気はどう?」
「あ、巫女様! おかげさまで、鍬を振るうより才能があったようです」
「それなら良かった。二つもらえる?」
「はい、少しお待ちを。……ああ、巫女様ならお代はいいですよ」 
「それはダメよ。対価はしっかりもらわないと商売が成り立たないわ」
「おい」

 おい。

「では初回のみは受け取ってください。奉納ということで」
「奉納となると神社への供え物なんだけど……」
「巫女様個人宛、ということで一つ」
「……まあ、それなら。ありがとう店主さん」

 凄まじく納得が行かない会話を見届けながら、霊夢が屋台の店主から串焼き団子を受け取る。
 焼き鳥は夜雀が襲ってくるので彼も安心だろう。

「はい霖之助さん。私のおごりよ」
「正確には主人からの、だろうに」

 受け取り、串焼き団子にかぶり付く。
 何か特殊な調味料でも使っているのか、団子以外にも旨味が口の中に広がっていき、食指を大いに刺激する。

「こりゃあ美味い。今度また買いに来てもいいかもな」
「んま~。次はお酒が飲みたくなる味だわ」
「それなら、次はお飲処という話だが場所は?」
「ここが東地区だから……えっと北側だったかしら。ついてきて、霖之助さん」
「酒は逃げないだろう、ゆっくり行こうじゃないか」
「混んでたら嫌でしょう?」
「そこは巫女権限でなんとかしてくれ」
「そういうのに使うものじゃないわよ」

 割りかし目が真剣だった。
 人里では、博麗の巫女としてきちんと仕事をする姿しか見せないのか、弱みを見られたくないからか。
 どちらにせよ香霖堂でくつろぐ姿とは打って変わった真面目さである。
 人間の味方としては、絶対に譲れないということだろう。

(でも酒を飲む姿は見せていいのか……)

 そこは霊夢にしかわからない境界があるのだろう。
 だが、

「ほら、早く行きましょう?」

 笑みを浮かべて自分を呼ぶ霊夢の姿を見れば、別に構わない。
 そう思える自分が居た。

「ああ、それじゃあ博麗の巫女オススメの味を堪能させてもらおうか」

 言いながら、僕は足早に歩く霊夢の横へ並び期待に胸を膨らませていった。


「うあ~回るまわ~る曲がる世界ままるー」
「霊夢、飲み過ぎだ。少しは酔いを覚ませ」
「川の音きもちいー」
「入るなよ?」

 霊夢オススメの食事処は、評判の通り美味しい食事と酒で僕達を出迎えた。
 巫女の巡回とはなんだったのか、と言わんばかりに飲む霊夢にこれ以上はまずいと判断し、僕は彼女を連れて会計を済ませた。
 適当に水を与え、僕の上着を袖を通さずに羽織らせているので一見すれば巫女だとわからないだろうが、いずれ気付く里人も出てくるだろう。
 現に店の店主がやや怪訝な顔だったしな。……リボンも外して、髪型も少し変えて、と。
 人里の守護者、というか人間の絶対的な味方のこんな有様を見られたら、ますます信仰心が下がってしまう。
 一方的に霊夢の身支度を済ませ、今は酔い覚ましを兼ねて牛歩もかくやというペースで人里の通りを移動している。
 あっちへふらふらこっちへふらふらと動く霊夢は、ご覧の通り夢の世界に片足を突っ込み、両足が入るのも時間の問題だろう。
 一応水などを飲ませているものの、どれほど効果があるかわかったものではない。

「明日の二日酔いは覚悟しておくんだな、霊夢」
「あしたはみこやすむー」

 成長していると思ったのはどうやら気のせいだったらしい。

「だからおうちとめてね~」
「まあ、今の君を一人で神社へ帰すのは心もとないしな」

 ほろ酔いならともかく、どう考えても前後不覚な状態だ。こんな状況で一人道を歩いていたら妖怪の格好の的である。
 いくら博麗の巫女といえ異変でもない現状、妖精の悪戯でも死にかけそうな少女を放置するわけにはいかない。
 僕が博麗神社へ霊夢を運んでいく、という発想は面倒なので破棄した。
  
「んあー」
「おっと」

 ふらふらする霊夢の肩を支え、後ろから押すように歩く。
 僕も同じ程度の酒量を飲んだが、人間と妖怪では酔いと肝の強さが違うのである。

「ねーりんのすけさ~ん、この後ちょっと入りたいところがあるんですけどー」
「飲むのはもうダメだぞ? その状態で飲んだら流石の霊夢も倒れる」
「ちーがうわよ~。おだんごとかねー、色々おみせがちがうから、たべくあべるおー」
「酔いが覚めたらね」
「さめたわー」
「覚めてない」
「さめたのー」

 駄々っ子のような霊夢に適当に相づち、ここまで酔った彼女を見るのは初めてのような気がする。
 いつもは酔っても前後不覚になるまでではなかったと思うのだが……美味しい食べ物に満足して、気が緩んでいるのだろうか?

「食べ歩きなら魔理沙と一緒に行けばいいだろう」
「あいつが居ると、行けないお店もあるのろー」

 ……ああ、霧雨道具店の。
 本来道具店である霧雨の親父さんの店であるが、従業員の士気高揚の名目なのか店の中に食事処が用意されている。
 しかもそれが中々に美味であり、一般にも解放されているのでたまに入る里人も多いことだろう。
 ちなみに親父さん曰く、ちょっと高いけど奮発してもいいと思えるお店、らしい。あの人の手腕は多岐に渡るから見習いたいものだ。

「それに、りんのすけさんがいるなら、わり引いてくれるかもー?」
「期待しているところ悪いが、そういうサービスは今も所属している従業員だけだよ、多分」
「そこはほらー、りんのすけさんがー、わたしのためにー、がんばるのー」
「今こうして頑張ってるよ」
「ありがとー」

 いやほんと、今日の霊夢の酔いは深い。
 いつも素直な彼女であるが、僕に対してここまで無防備さを見せるとは思わなかった。
 こうなると店のことだけではなかろうに、何か良いことでもあったのだろうか?

「酔いは良いよいよ~い」
「……ダジャレじゃない」

 酔いと良いことをかけているわけでは、という以前にこの状態で心を読んでくる霊夢に戦慄する。
 当てずっぽうなのだろうが、無駄に勘の鋭い子だ。

「あーっはっはっは!」

 ……いや、単に自分でギャグを言っただけか。まるで笑えないが。

「んー、きょうはきぶん良いわ~」
「そいつは何よりだ、巫女様」

 普段色々抱えているものも多いだろうし、ま、今日くらいは好きにさせてやるか。
 とりあえず他人の目に触れるのは控えないといけないし、店の場所だけ聞いて持ち帰りで食べ比べてもらうとしよう。
 酔っ払いによる会話をたどたどしく翻訳しつつ、僕は全ての店から持ち帰りの甘味を手に入れるのであった。


 目が覚めた私の目に飛び込んで来たのは、よく知ってる香霖堂の天井だった。
 体は心地よい暖かさと重さに包まれており、自分が布団で横になっていることを示している。
 私は軽く半身を起こすと、頭に軽い痛みが走った。

「あ痛……えーっと、なんでここにいるんだっけ」
「んんんん、んんん。んんんん、んんんんんん、んんんんんん」

 覚醒を邪魔するように割り込んだ奇妙な声に目を向けると、そこには口元にお札を貼った霖之助さんが私をじろりと睨みつけていた。
 ……寝顔見られた?
 しかしそう指摘しても、目の前の大人は何も感じないだろう。デリカシーというものは頭の中にしか存在せず、外に出ることがないのだ。
 なんだか悔しいのでとりあえず現状を指摘してやることにする。

「おはよう霖之助さん、変なファッションに目覚めたのね?」
「んんんんんんんん!」

 そんなわけあるか、と叫んでいるみたい。
 霖之助さんは頭を掻くと、自分の口元――正確にはお札を指し、それを剥がすよう指示してくる。
 自分で剥がせないの? と聞くと、黙って首を振った。よくよく見ればそれは私が使うお札であり、半分といえ妖怪の血が流れた霖之助さんには効果が出ているようだ。

「しょうがないわねぇ。はい、取れた」

 ため息をこぼし、世話の焼ける大人を助けてあげる。
 口元に貼られたお札を剥がすと、ぷはっ、とあえぐように息を吸った霖之助さんは、確認するように自分の口元に手を当てていた。
 怪我がないことに頷き、無事であることと知った霖之助さんは改めて私を恨めしそうに見やった。

「それで、一体どうしたのよ」
「わからないのか」
「わかんない」
「酔った君に、突然やられたんだよ」

 酔った……?
 あー、そう言えば昨日は人里でお酒飲んだりしていたっけ。
 おかしいな、ちょっとつまむくらいしか飲んでなかった気がするのだけど。

「鬼ならその表現も納得しよう。けどあれだけ酔っ払ってちょっとなんて済むはずないだろう……」
「お酒はいつも飲んでるし」
「……とにかく、酔った君を介抱していたら、いきなり『むそーふいーん!』とか言ってお札を直接僕に押し付けて来たんだ。口に貼ってあったのはそれが理由だ。自分じゃ剥がせなかったから、君が起きるまで待っていたんだよ」
「そうだったの、ごめんなさいね。迷惑かけちゃったみたいで」
「……いや、自覚しているならいい」

 頭を下げて謝罪をする。流石に面倒を見てくれた相手への理不尽は私だって悪いと感じるのだ。
 きょとんとした目で私を見る霖之助さんからは、戸惑いに似た感情が窺える。
 何かおかしいことでも言ったかしら?

「まったく、もう霊夢が酔っ払っても無視するぞ」
「ごめんってば」
「いやまあ、ぶり返してなんだがそこはいいって。……一応昨日の記憶はあるかい?」
「ええっと、楽しく飲み食いして、食後川沿いを駄弁りつつ散歩して、最後に甘いお菓子を一緒に食べたんだっけ」

 何だかんだで一日遊んで満腹にもなって充実した気がする。

「そうだよ。それで帰ろうって時に酔いがピークになったんだ。それで肩を貸していた僕にいきなりそれだ」

 そう言って私の手に握られたお札を指す霖之助さん。
 どうせ手を貸してくれていたなら、神社まで行ってくれれば良かったのに。
 私が香霖堂で寝ていたのは、多分神社に行くのが面倒だからだろう。
 私のせいなのだから自分が苦労する必要はない、とか考えていそうだ。 

「しかし他人の口から聞いてみると、まるで男女の逢引だな。いい流れなのに、そうすべき相手を間違えてないか?」
「別に私は気にしてないけど?」
「そうかい? 君ももう年頃だし、そういうのを気にするとも思ったが……」

 確かに色恋沙汰に関してちょっと興味はあるけど、今のところ実感がなく漠然としたものだ。

「ふぅん。それも、霊夢の素直が出した意見かな」

 美味しいものを食べて美味しいと思うような。
 綺麗なものを見て綺麗だと感じ取れるような。
 面倒なことが嫌だと疲れた気分で行うような。
 単純に与えられるものに対して反応して生きてきたから、に自分から何かすることに慣れていない。
 そういう感情だって、相手に反応して自分の心に生まれるものだ。

「ボールみたいよね。誰かに持たれることで動いたり、重力とかで転がったりはするけど……自ら動くことなんてない」
「外部に反応して転がってる、ってことか? 割と霊夢は行動的だと思うけどね。自分じゃ気づかないものか」
「それは、跳ねたボールを見た結果なんじゃないかしら」

 私は何を言っているのやら。
 そう思ってはいるのだけど、口は止まらない。
 なんだろう、浮かれているのとは違う。ふわふわとした浮遊感のようなものに包まれている気がした。
 ヘンな、気分。
 酒が残ってるのかしら?

「空を飛ぶ不思議な巫女なんだし、ボールが自分で飛んでも変じゃないだろうさ」
「霖之助さんが掴んでるから、普通じゃなく明後日に向かっているんだと思うわ」
「おいおい、僕のせいか?」
「そう、霖之助さんのせい」

 理不尽だな、と呆れる彼に、少女はいつでも理不尽なのよ、と適当に答えた。

「ところで、こうしてはっきり喋れるなら酔いも収まっただろう。神社に戻らなくていいのか?」
「一日くらい開けても問題ないけどね。でも、介抱してくれたお礼もしたいし……霖之助さん、今の時間は?」
「分類するのなら朝だね」
「夜通し寝てたのね、私」
「それはもうぐうすかと」

 気持ち良さそうに寝ていたよ、と言う霖之助さん。やはり寝顔は大いに見られていたようだ。
 寝起きも合わせて役満である。

「まったく、ペットにでもなる気か霊夢は」
「それなら過保護なくらいに世話をしてね」
「そう思うならご主人に媚びを売ってくれよ」
「拾った動物の世話が面倒でも捨てないなら」
「気に入った商品は決して売ったりはしないさ」
「ならいいわ、朝ごはんくらいは作ってあげる」

 売り言葉に買い言葉、というわけではないけどペットとしては世話をしてくれたご主人様に媚を売ることにしよう。
 ようやく布団から出た私は、足早にお勝手へ向かう。
 何度も通り、使った場所だ。目を瞑っていたってわかる。
 食材の確認でもしようかな、と思ったところでふと気付く。私は霖之助さんに押し付けられたお札を持ったまま台所へ来てしまったようだ。
 使い終わった後だし適当に捨てておくのが常なのだけど、今日の私は何故かそれをじっと見つめてしまう。

「霖之助さんの口に触れたお札……」

 無意識につぶやかれた言葉と共に、私はそれを自らの口元へ触れさせる。

「……………間接、ね」

 漏れた言葉にはっとする。
 目が明後日に向いてぐるぐる廻る。
 なんか、すごく恥ずかしくなった。
 すぐにお札を剥がし、勢いのままに破こうとして――出来なかった。
 さりとて、どう処分するかも決められない。
 なんだこれ。なんだこの自分。気持ち悪いぞ私。

「本当、霖之助さんに世話してもらおうかな」

 ――ああ、やっぱ寝起きはダメだ。色々考えすぎる。
 想像した未来、可能性を振り払うように、私は朝食の支度にとりかかる。
 そうして出来上がった朝餉を食べる霖之助さんが、ぽつりと言った。  

「昨日の酔っ払った所といい、時々仕草が可愛いと思う所は少し愛でられる気がするよ。これからも媚びてくれるなら、世話を見るのも吝かじゃない」

 ……………なんか言ってる。軽口、よね?
 多分霖之助さんもお酒が残って、舌の滑りが良いのだ。きっとそう。
 そうやって誤魔化しながら、私という弾んだボールは転がっていく。
 触れるその手が、拾い上げる彼であると夢想して―― 
 

<了>

TAKA8様に挿絵をいただきました!
見たい方はこちらからどうぞ。

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
noblenova☆gmail.com←☆を@に変えて送信お願いします。
バナーは目次の中にあります。

web拍手

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  お礼画像はこちらです。
  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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