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硝子細工の宝石宇宙

 手の中に宇宙がある。
 そんな言葉を誰かに言えば、返ってくるのは呆れか気遣いに嘲笑か。どれに分類されるかは尋ね人次第として、大体その反応は否定に分類されると思う。
 当然と言えば当然だし、僕も同じことを聞かれたらまず流して本題を促すだろう。
 なら手の中に星があると聞けばどうだ?
 星を示す形やイメージ次第にはなるが、やはり反応は否定のものが多いだろう。星とは夜空に浮かび太陽によってその姿を写し、輝かせる存在だからだ。何かを示す抽象的なものだったとしても、夜に見えるものと事前に注意してしまえばそれはほぼ満場一致となる。
 では、その二つを同時に手中に収めた場合、返ってくるのはどんな言葉だろうか?


「魔理沙。今、僕の手の中には宇宙と星がある」
「あー? なんだよ香霖。見てわかるように私は読書中なんだから邪魔するな」

 読書の邪魔をされた魔理沙が軽い苛立ちを滲ませながら応える。
 いつものように暇潰しに香霖堂へやって来た魔理沙は、前と品揃えの変わらないということで僕と同じく適当な椅子に腰掛けて本を開いていた。
 菫子によって商売意欲を取り戻した僕としては、面白い道具がないとほざく魔理沙に一泡吹かせてやらんと胸の内を燃やす。

「まあまあ、百聞は一見にしかずだ。見てみるといい」
「ったく、しょうがないな香霖は。優しい魔理沙さんに感謝しろよ?」

 面倒臭いと言いたげな表情を作りながらも、そこに浮かぶかすかな期待の色を僕は見逃さない。
 付き合いが長いだけあって、こうした時の僕が持ってくる道具は僅かながらに心を動かされるものが多いと体験談で知っているのだ。
 ニヤリと笑みを浮かべながら、僕は手の中のそれを魔理沙に見せる。
 途端、魔理沙の顔に驚愕が刻まれる。
 やがてそれは隠し切れない興奮を宿し、掌の上のそれへ手を伸ばしてくる。
 僕はそれを魔理沙の視界から外れるように移動させた。

「おっと、お触りは厳禁ですよお客さん」
「おい、わざわざ見せて来たのにその態度はないぜ」
「見ていいとは言ったが触っていいとは言ってない。君の場合、すぐ持っていくからな」
「そんなことしない。借りてるだけだ」
「結果が同じなら意味が無い」

 魔理沙は小さな腕を懸命に伸ばして手の中のそれを取ろうとするが、そこは流石の体格差。
 全身を使って来ても、子供の彼女では大人の僕が手を上げるだけで届かなくなる。

「くそ、大人げないぞ!」
「大人だからね」
「こなくそー」

 猫のように威嚇する魔理沙を見やり、僕は座っていた椅子から立ち上がる。

「お、なんだ。実力行使か? 運動不足の香霖に若さを教えてやるぜ」

 両手を突き出す謎のポーズを取る魔理沙を無視して、僕は彼女の近くにあった帽子掛けからいつもの黒い三角帽子を取り上げた。
 あ、と声を上げる魔理沙に対し、僕はさっきまで守りぬいていたそれを彼女に見せる。

「だから、等価交換だ。そいつを持ち逃げするなら、僕がこいつを担保にする」

 そう言ってぽすっと帽子を被る。帽子の中には何か入っているのか、想像よりも重かった。

「こいつを質に入れられたくなければ……おや」

 まだまだ噛み付いてくると思ったが、予想に反して魔理沙は存外大人しい。
 食い入るように僕が差し出したそれを凝視している様子を見るに、帽子を取ったことさえ気づいていない気がする。
 しばらくそれを見つめていた魔理沙は、絞りだすように声を漏らす。

「香霖、こいつはなんだ?」

 魔理沙は僕から受け取った、掌に収まるガラス珠に注目していた。
 珠の全身が黒く染める中、中心に浮かぶ球体――惑星が光の軌跡を描いて天に立つように座している。
 螺旋を描くような光の道筋の側には惑星に呼応するように輝く星々が散らばり、大小の視覚効果を生み出している。
 まさにそれは宇宙と星を手中に収めた、小さな幻想だった。

「宇宙ガラス。用途は小宇宙の鑑賞だ。ようは地球儀とはまた違う、天龍の模型図みたいなものだろう。宇宙の固定化とも言えるな」

 外の世界で宇宙と呼ばれるそれは、幻想郷においては創造神である龍神になぞらえて天龍と称している。
 魔理沙も好む流星も地上へ降りてきた天龍の鱗と呼ばれているのだ。

「地球儀の亜種にしちゃあ範囲狭いな。固定化ってのは何だ?」
「携帯性に系統した弊害だろう。固定化とは写真のようなものじゃないかな? 宇宙の一部を切り取って、このガラス球の中に押し込んだんだ」
「へー、プラネタリウムは映像の迫力があったけど、これはこれでなんか吸い込まれそうな感じだな」

 言いながら、魔理沙は宇宙ガラスを凝視し続ける。
 彼女の言う、吸い込まれそうという点は僕にも覚えがある。
 宇宙な闇の中に浮かぶ幻想的な星々の光。
 それは感性を刺激し、精神に不思議な高揚を覚えさせることだろう。

「これ、どこで拾ったんだ?」
「作ったんだよ」
「作ったぁ?」
「ああ。以前、霊夢がプラネタリウムにいたく感動したらしくてね。自慢話を聞いて見に行った時に、僕も似たようなものを作ろうとしたんだ」
「それにしちゃあやけに外の世界の道具っぽいぞこれ」
「菫子の協力のおかげだね。彼女にプラネタリウムっぽくて携帯性に優れたものはないかと聞いて、これの資料を持ってきてもらってね。そこから試行錯誤して、昨日完成したんだ」
「つまり私は自慢話の相手に選ばれた、と」
「星にうるさい魔理沙だからこそ、見せる価値もあるしな」
「おっと、香霖にしてはわかってるじゃないか。それじゃあこいつは」
「スカートの中に入れない」
「あ、こらすけべ!」
「誰がスケベだ」

 そそくさとスカートの内ポケットに宇宙ガラスをしまう魔理沙だったが、そうは問屋が卸さない。
 僕は追いかけるように魔理沙の手を止め、宇宙ガラスを取り返す。空いた手で被っていた帽子を魔理沙に被せてやる。

「ったく、仕方ないな、ちょっと待ってろよ」
「んあ?」
「なんか鉄くずと交換したいんだろ? 持ってくる」
「いや、別にそんなこと考えてないぞ」
「あー? だったらなんで私にそれ見せたんだよ。欲しいものがあるから、前金代わりに見せたんじゃないのか?」
「繰り返すが、そんなこと考えてなかったな」
「じゃあなんで見せてきたんだよ」
「……自慢?」
「私に聞くな。っつかその台詞も腹立つ」

 このやろう、と頬に伸ばしてくる魔理沙の手をあしらいながら、どうして僕は宇宙ガラスを作ったのかを思い返す。
 霊夢の自慢話から、何故宇宙ガラスを作ろうと思ったのか。
 確か何か理由があったような気がするが……作るのに夢中で忘れてしまった。

「わかったよ、持ってかないからもう一度見せてくれ。……もっとじっくり見たいんだ」

 前半はともかく、最後の言葉は本当な気がする。
 僕は息を一つつき、魔理沙に告げた。

「それなら、良い見方がある。こっちに来てくれ」

 そう言って、僕は住居スペースの一部に少し細工し、昼であろうと常に真っ暗な作りになっている部屋へ魔理沙を案内する。
 何故か魔理沙は頬を朱に染めて挙動不審になっているが、それを無視しながら彼女を先にその部屋へ入らせた。
 襖も締め、完全な密室の上に明かり一つないここはまさに闇の中とも言えた。

「お、おい。ここで一体何をする気だ?」
「楽しいことさ」
「た、楽しいこと?」

 魔理沙が動揺するような声を上げる。そこに若干の期待を滲ませているように聞こえるのは僕の気のせいか。
 それなら、気のせいであっても本当だと感じさせてあげよう。
 とりあえず魔理沙の位置を把握するべく、聞き取れない声でぼそぼそと何かをつぶやく彼女の小さな左手を握った。

「わひゃっ!」

 奇声を上げる魔理沙。おや、こんなに小心だったか?

「香霖、何するんだ! まだ体と心の準備が……」
「手を繋いでいるのさ」
「何のために!」
「ちゃんと握れるってことはお互い同じ位置を向いてるってことだろ? だから……」

 僕は適当な場所に宇宙ガラスを置き、そこに懐中電灯と呼ばれる外の世界の道具による光を照らす。 
 指向性を持たせた光は僕の手の向きに合わせて、その先にある宇宙ガラスへと降り注いだ。
 すると、宇宙ガラスは先程までの暗闇がなりを潜め、虹色の輝きを徐々に帯び始めていた。

「うお眩しっ…………って、これは…………」
「驚いたかい? これが宇宙ガラスの用途が、観測でなく鑑賞である所以さ」

 光が示す先。宇宙ガラスは円形の台座の上に乗せられ、ゆっくりと回転している。
 回転するのは下に置いた台座の機能だが、光の入り方によって宇宙ガラスはその色を変えていく。
 宇宙という世界の果てにあっても太陽は絶対なる存在。
 それがもたらす光もまた、その恩恵は果てしない。
 と言っても鑑賞用品ではせいぜい色を変化させる程度のものなのだが。

「その道具はなんだよ。魔法じゃないよな?」
「これは懐中電灯っていう、提灯といった携帯の光が進化したものだね」

 電池というものをエネルギー源とし、スイッチ一つで明かりをもたらす外の世界の道具だ。
 幸いにも電池という素材はある程度の在庫があり、短時間であるなら使用に問題がない。

「へー、最近になって随分面白いものばっか仕入れたんだな」
「主にこれとセットだけどね。夜闇の明かりは提灯で代用できるし、いざとなれば魔法もある」

 ただ、せっかく外の世界があるのなら使ってみたいと思うのが道具屋というものだ。
 しばらくそれを堪能し、懐中電灯の光が弱まる頃に僕は部屋に明かりを灯す。
 まあ単に襖を開けただけだが。

「これ、周囲の空間に投影出来たりしないのか?」
「そういうのを求めてるならプラネタリウムにでも行くといい」
「なんだよ、情緒のわからないやつだな。ここまで凝るんならそれくらいまで突き止めろよ」
「無茶言うな。あくまで携帯の鑑賞だ。携帯で出来る範囲に楽しさを追求しているだけだしね」
「部屋丸々一つ使ってるなら、もっと頑張ろうぜ」
「そういうのは君に任せた。僕は星を見るのは嫌いじゃないが、君ほどではないからな」
「ほほう。それはつまり、宇宙ガラスを私に譲ってくれるってことだな?」

 なんでそうなる。
 お得意の魔理沙理論を展開する少女を説教しながら、軽く頬を引っ張る。
 少女の柔らかさを象徴するように、あるいは餅のようにむに~っと膨らむ頬であるが力を入れてないので痛がる素振りはない。
 だが鬱陶しいのに変わりはないのか、両手を振り上げて僕の手を振りほどく。

「宇宙ガラスが一つしかないのに私に任せるってことは、そういうことだろ?」
「言葉の綾だろ。霧雨魔法店なんて開店休業中の仕事をしてるなら、宇宙ガラスも作ってみたらどうだ」
「星はやっぱ直が一番だと思うからなぁ」

 望遠レンズと呼ばれる、星を見る道具を家に導入している魔理沙の言葉は説得力がある。

「ああいや、プラネタリウムやこれが悪いってわけじゃないぞ?」

 その言葉が僕に悪いと思ったのか、慌てたように首を振る魔理沙。
 らしくないと言ってしまうのは憚られるが、根は常識的な少女である。

「まあでも私なら、もっと別のやり方を考えるな」
「ほう? それは僕に対する挑戦か」
「香霖は作るのはすごいけど、使うほうは普通だからな。ミニ八卦炉を火種にしか使わないのが良い例だ」

 へっへと妙な笑い声を上げる魔理沙。
 明らかな挑発ではあるが、こういう時の魔理沙は思いも寄らない成果を上げる時が多々ある。
 星魔法を開発した時も、似たようなことがあったのだから。
 だから僕は言ってみる。

「じゃあ君ならどんなふうにする?」
「ぱっと思いつくのは宇宙ガラスをマジックアイテムにするところだな。香霖は外の道具に興味があるからそれに近づけてるけど、ここは幻想郷なんだからもっと魔法的なものにしちゃっていいんだぞ?」

 質問に答えたのをきっかけに、魔理沙はどんどんそのアイデアを語る。

「マジックアイテムになったなら触媒としても使えるし、プラネタリウムじゃなくて万華鏡みたいにミニ八卦炉を覗き込んだらこの宇宙ガラスの色んな視点が見れるようにもなる、ってのもいいかもな」

 目を輝かせ、自分のやりたいこと、出来ること、出来そうなことを連々と語っていく魔理沙。
 その姿はおもちゃを目の前にした子供のようで(実際に子供だが)僕の頬を緩ませる。
 だから僕は、こう言った。

「へえ。それなら魔理沙に貸してみるのも一興かもしれないな」
「な、本当か!?」
「ただし、お代はその新しい使い方とやらだ。出来なかったり宇宙ガラスをなくしたらただじゃおかないぞ?」
「他はともかく私が星に関するものを雑に扱うと思ったか?」

 思ってる。

「へっ、まあいいぜ。それなら思いついてできたら香霖にはいの一番に見せてやるよ。霊夢より早いんだ、光栄に思えよ?」
「はいはい、期待してるよ」
「よし、それじゃあ早速家で実験開始だな。ありがたく借りてくから、楽しみに待ってろよ香霖!」

 そう言い残して、彼女は嵐のように去っていく。
 僕は彼女が去る様子を見送り、つぶやいた。 

「こうまで狙い通りに行く自分が怖いな……」

 そう。
 この宇宙ガラス、僕は元々魔理沙に貸そうと考えていた。 
 鑑賞用という用途を見出したのは良いが、光を当てることで色が変わる、というもの以外良い使い方が浮かばなかったのだ。
 もちろん見て楽しむという使い方もあるが、やはり鑑賞には様々な見方というものが欲しい。
 そこで思いついたのが、魔理沙を焚き付けるという手段である。
 星好きな彼女ならきっと良い感じに使い方を思いついてくれると思い、その予想は的中した。
 素直に協力を要請しても同意してくれないだろうからこその手段だったのだが……ああも喜ばれるとは意外と言えば意外だ。
 本人が言った通り、彼女は天然を好むものとばかり思っていたのだが。

「全くもって、霊夢の言っていた通りだな」

 ――魔理沙ってばあまり興味ないようなフリしてたけど、目はしっかりグッズに釘付けだったのよ。
 私の手前、遠慮しちゃったのかしら?

「そんなの魔理沙らしくないし、気のせいと一笑に付していたが、案外そうだったのかな」

 だとすれば全くもって素直じゃない。
 遠慮する理由なんてないだろうに、こうして自分が作ってやらなければ一体どうしていたのやら。
 ……どうして作ったのかと言われれば自分のためであり、魔理沙がたまたま欲しがっていたというのは全くもって偶然の一言である。 
 それに、作っていた思ったがこれはこれで思考に耽る良い道具であることに違いはない。

「魔理沙がまた来るまで、とりあえずもう一つ作るか……」

 菫子の話ではオーダーメイドなので一つ一つ宇宙の形が違うということだし、僕も幻想郷から見た天龍のおわす世界の一部というものをガラスで作ってみようかな。
 それは、すでにあの宇宙ガラスを魔理沙にあげたものとして考えていたということを知るのは、ふたつ目の宇宙ガラスが完成してからのこと。 
 今この時は、ミニ八卦炉をもらった時のような笑みを零す魔理沙の姿を再現するのに手一杯で、他に気が回らなかった。
 まあ喜んでくれるなら良いか、とそう結論付ける僕であった。 


<了>

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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