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時には昔のSSを

長かった宙シリーズも完結して、朱鷺子話も一段落ついたので、昔書いて某所に投稿したSSを引っ張り出してみる。
多分知ってる人は知ってる作品。初めてまともに終わらせた東方SS。
現行シリーズや朱鷺子話にも多く流用された、雛形とも言えるものです。
pixivで霖之助の二次創作の歴史についてまとめられていたので、僕も昔を振り返る意味でここにSSを置いておきます。


内容は朱鷺→霖のカップリングものです。


「朱鷺の乙女」



 太陽の高度が最も低く、昼が最も短い冬至の日。
 すでに光はなく夜の帳がおりた妖怪の時分、僕は冷えた体をあっためる魔法の水――とどのつまり酒だ――を静かに飲んで季節外れの月見をしゃれ込んでいた。
 魔理沙に宴会するから来いよと誘われていたのだが、元々騒がしいのが嫌いな僕は丁重にお断りし、独り静かに飲んでいるというわけだ。
 博博神社のほうを見ても、魔法の森に遮られてその景色を見ることは出来ない。
 しかし、星天を射抜くような極大の光が空へ伸びていくのを見ると、相当騒がしい宴会をしているようだ。行かなくて正解だ。
 お猪口の酒をあおり、一息つく。あぶった魚の切り身を浸して飲む酒はまた格別。静かなこの夜に熱燗で体をあっためる。これが冬の正しい飲み方だ。
 気分良く月見する僕の耳が、何かが飛来する音を捉える。
 風切り音のように鋭く飛ぶ音源を探ろうと顔を上げた僕の眼に飛び込んできたのは、こちらに向かってダイブする妖怪少女の姿だった。

「う、受け止めてぇ~!」

 そう叫ぶ妖怪少女。
 が、僕は痛いのが嫌なので弾丸となった少女の軌道上から逃れる。直後、派手な音を立てて少女が縁台に突っ込んでいく。

 ひくひくと動いていた足は、時間の経過と共にやがて動かなくなった。

「大丈夫かい?」
「なわけあるかー! 受け止めてって言ったじゃない! このメガネ!」

 優しく声をかけてあげたというのに、ひどい言い草である。第一僕にこの少女を助ける義理もなければ義務もない。少女からの礼と多少の良心の満足と引き換えにするには、あの高速物体を受け止めるのは等価ではない。
 じたばたと足や体を懸命に動かして縁台から抜けようとするが、完璧にめり込んだせいかびくともしない。
 このまま置いていても邪魔なだけなので、僕はやむなく引っこ抜こうと足を持つが、

「あー、ちょ、こらー! スカートめくれるでしょ! すけべ!」

 助けようとしたらこれだ。
 僕は家を完全防音にすれば問題ないか、と結論付けて家の中に戻る。が、僕が家の中に入る気配を察知したのか、さっきよりもより大きな動きと声で少女は叫びだす。

「助けてよー! お礼に珍しい本あげるからー!」
「そうか。なら助けてあげよう」

 工具を持って縁台を解体し、僕は少女を救出する。縁台がなくなったのは痛いがまた直せばいい。どの道縁台を直すのだから、やはり何か収穫もなければやっていけない。僕は一応、商人の端くれなのだからこれくらいしないとな。

「大丈夫かい? 傷の手当をするから、こっちへ来るといい」 
「う、うん…………?」

 手のひらを返した僕の態度に疑惑の眼差しを向ける妖怪少女の手を引いて、適当な場所に座らせる。僕は医療道具を持って彼女の傷の具合を確かめる。
 以前、永遠亭で簡単な医療技術を学んでおいて助かった。元々知識の探求や弾幕ごっこで傷ついたコソ泥二人のために覚えた技術であるが、人生どこで何か役に立つかわからないものだ。

「よし、大きな傷はないし打ち身と軽い切り傷だけだ。丈夫な体に感謝するといい。あとは安静にね」

 医者の真似事らしく、それらしい台詞を持って診察終了とする。

「あ、ありがと」
「どういたしまして」

 ここでようやく、僕は妖怪少女を観察する。
 種族は朱鷺。黒を基調とした衣に身を包んでいるが、他にも白や青も混じっており、加えて体から生えた羽の色は赤。霊夢に魔理沙、それに僕の色を全部混ぜたような印象だ。
 ふと、僕はこの少女に対して既視感を覚える。本という単語もあり、思い出せそうな気もするのだが…………

「あ、あの」

 それが、僕を呼んでいるのだと気づくのに数秒の時間を要した。

「僕のことかい? 僕は森近霖之助、ここ香霖堂の店主を務めている」
「じゃあ香霖堂、その……本のことなんだけど、その前にここに泊めてもらっても良い?」

 店主でも名前でもなく、店の名前で呼ばれるのはまた珍しいと思いながら僕は理由を尋ねる。

「外に出たら、殺されそうだから…………」

 殺されるとはまた物騒なものだ。人間ならともかく、夜という時間である以上妖怪が怯える必要はそうないと思うが。

「この近くに凶悪な妖怪でもいるのかい?」
「いるわ! すごくいる! よってたかって私を食べようと襲ってくるの!」

 爆発するような声量の拡大が、僕の鼓膜を震わせる。耳鳴りする耳を押さえ、僕は彼女をなだめる。
 ここでかんしゃくを起こされて帰られたら、僕の本が手に入らなくなってしまう。
 僕は屈んで目線を合わせると、少女の手を引いて腕の中に納めその背中を優しく撫でてやる。
 今の彼女は一種の恐慌状態にある。落ち着かせるには、自分が安全な場にいることに対する安心感が必要だ。
 ここは静かな場所であるし、僕に少女を害する意思がない。治まるのも時間の問題だろう。
 ややあって、嗚咽にも似た興奮は収まってきたようで、若干頬を赤らめながら少女は僕から離れていった。

「あ、ありがと。……前の件はこれでチャラにしてあげる」
「前の件?」

 はて、僕はどこでかこの少女と会ったことがあっただろうか?

「まさか、忘れたって言うの!? 酷い!」

 悩む僕に憤然たる面持ちで少女が叫ぶ。そうは言うが、わからないのだから仕方ない。
 わからないことはわからないと諦め、思考放棄するのが僕のやり方だ。
 すでに僕はこの少女のことを思い出す作業は半ば諦めていたのだが……

「いきなり襲ってきてヒトの本を奪った紅白と、取り返しにきた私をボコボコにした黒白の仲間でしょ!?」

 その程度の理不尽、幻想郷では珍しくないことだと思うが、当事者にとっては問題なのだろう。
 事実、僕だって勝手に略奪を繰り返すあの巫女と魔法使いに悩んでいるし。

「『非ノイマン型計算機の未来』ってタイトルの本よ!」

 そこまで言われて、ようやく僕は思い至る。以前、霊夢が服を破って来店した時だ。
 あるシリーズの本を十二冊持っていた僕は、霊夢が持っていた三つの本がその系統の本だと知り、交渉の末手に入れたのだ。その後、この少女のことなど思い出さず本も全て読みつくし、忘却の彼方になっていた。
 そういえば理不尽な文句を言って人の服を勝手に着ていたが……なるほど、扉を壊して来店した、あの妖怪少女だったのか。

「それにしても、結構昔のことだと言うのに……よく覚えていたね」
「ふん、嫌なことは印象に残るから覚えちゃうのよ」

 幻想郷では異変を起こした張本人が何食わぬ顔で翌日を闊歩しているというのに……
 恨み辛みを抱えたまま生きているのは、地底の橋姫くらいかと思っていたが、やはり全員が全員そうではないのだろう。
 最も、異変を起こす連中は負の感情すら楽しみそうだが。
 が、その前にやるべきことはある。

「ところで、お礼の本というといったいどんなものなんだい?」
「えーっと、確かデータフローアーキテクチャってタイトルだったかな」

 題名を聞き、僕はそれが外の世界の魔法であるプログラムに関連するものであると推測する。
 読んでも理解することの出来ない書物ではあるが、僕の能力と同様に使い方、或いは理論を推測するのを楽しむので何も問題ない。
 最も、まさか動かない大図書館の魔女同様にその方面の知識を模索しているのが、野良(といっては失礼だが、そう評する他ない)妖怪の少女だとは驚きである。
 感心する僕を訝しげに見る少女。そういえば、と僕は彼女の名すら知らないことに思い至る。

「そういえば自己紹介をされていなかったけど……君の名は?」
「私? 私は……ううん、どうでもいいわ。好きに呼んで」

 好きに呼べ、か。これはまた難儀な話だ。
 道具なら名前のないものに名をつけることなど絶対にしないが、彼女は生きた妖怪だ。問題は、ないだろう。

「君は朱鷺の妖怪みたいだし……そうだね。朱鷺子と呼ばせてもらうよ」
「うん、そうしてもらえると嬉しい」

 なぜ、わざわざ他称で呼ばれることを是としているのかは知らないが、僕はそこまで彼女に関わる気はないので放置しておくことにする。
 月見途中だったので、時間を潰す意味で僕は簡単な酒宴を開くことにした。
 酒が嫌いな妖怪はいない。朱鷺子は喜び勇んで招かれてくれた。

「宿を貸すのもありだが、折角読書を好む同行の士に会えたことだ。君が持っていたあの本、外の世界に関する書物について君はどう考えている?」

 そう言うと、朱鷺子は驚いた様子で僕を見ている。さて、何か特別な話題でもあっただろうか?

「ご、ごめんなさい。てっきり、鳥が本を読むことで皮肉られるかと…………」
「ひょっとして、鳥だから鳥頭呼ばわりされるのかい?」
「……………………うん、よく言われる」
「ひどい話だ。それは周りの至らなさのせいだね。妖精と比べるつもりはないし、言ってはなんだが鳥は犬や猫よりも頭がいい」

 鳥頭という言葉は、頭が悪いということを意味するネガティブな印象がある。しかし、ちょっと落ち着いて考えてみて欲しい。
 注目すべきは犬頭、猫頭という言葉がないのは一体何故か? ということだ。
 犬頭という言葉がないゆえ、犬は頭がよいといえるという短絡な結論に達するなんて聞いたことがない。
 犬や猫、それらの妖怪を基準にすれば、鳥は間違いなく彼らより賢いのである。

「じゃあどうして、鳥頭って言葉がまかり通っているの?」

 朱鷺子が話に食いついてくる。皮肉の言い合いを常とする幻想郷の住人のため、鳥類の彼女に鳥頭と言えば格好の話題だったのだろう。
 簡単に答えを求めず、自分の中で意見をまとめてから僕に話をして欲しかったが、相当参った様子の彼女にそんな冷静さを求めるのは酷な話だろう。
 僕は話を続けた。

「結論は簡単な話さ。つまり鳥頭という言葉が通用する以前、人間は鳥に能力以上の頭のよさを期待し過ぎていたんだ。
 能力の比較対照が人間だったと思う。おそらく、人間にない飛行能力を高く評価するあまり、鳥も人と違って知能の高さも相当なんだろうと過剰な期待を抱いてしまったのだと僕は考えている」

 期待が大きいほど、現実を認識したときの落胆ぶりは大きくなるものだ。
 要するに、人を比較の基準にした過剰かつ無謀な期待に添えなかった鳥に落胆した結果、鳥頭がネガティブな意味として定着するに至ったと考えてよいのではなかろうか。それの証拠に鳥頭を使う対象は人や鳥であることがあげられる。
 犬が間抜けなことして「お前は鳥頭な犬だなぁ」というフレーズはまず聞いたことがない。
 つまり、落胆して発生した言葉であるにもかかわらず、鳥頭という言葉に、なんぞかすかな期待を感じずにはいられないのだ。
 鳥なら、もっと賢いはずなのだという期待があったからこそ発生した言葉なのだと考えておかしくはなかろう。

「でも、実際私だってそんな頭良いわけじゃないわ。香霖堂の服を着た紅白のことを紅白なんて思わなかったし、周りに染まった価値観を覆すなんて無理じゃ…………」

 そんなことあったか、と思い出しつつ、僕の服を着た霊夢を見て霊夢と判断できなかった朱鷺子は自分が小さな存在であると自覚したのか縮こまるように背中を丸める。
 彼女は外の世界の書物を集めているようだし、ここで慰めておけば、お礼を上乗せしてくれるかもしれない。
 そんな下心が芽生えた僕は、迷うことなく頭を巡らせた。

「朱鷺子。君がすべきことは鳥頭という言葉を否定することではなく、賢いことを意味するポジティブな意味として世間に受け入れられることを、じわじわと浸透させる活動をすることさ。
 言葉は変化するものだ。鳥頭の意味を将来完全に真逆にすることを目的にする、くらい意気込んでいたほうが悠久の時を生きる妖怪にはちょうどいい」

 もし外の世界が幻想郷のように全てを受け入れ、或いは空を飛ぶ程度の力が興味に値しないくらいの価値観を持っていれば、きっと鳥頭なんて単語は生まれなかっただろう。
 ミスティア・ローレライのように世間で活動する鳥の妖怪の地位向上のためにも、そういった運動をして損はないだろう。 
 神が信仰心によって力を増やすように、良くも悪くも知名度によって得られる加護は果てしないのだから。

「で、でも…………私にそんなことできるかなー…………」

 あくまでネガティブな様子の朱鷺子。
 異変を起こせるほどの力はなく、森を彷徨い狩られる立場でもある朱鷺子に価値観の変動という彼女にとっての大仕事は相当なプレッシャーなのだろう。

「そう難しく考えることはない。僕だって十数年前まで無名だったこの香霖堂の知名度を上げている。
 一日一年なんて、僕ら妖怪にとってはあまり変わらないものだろう? 焦らずゆっくりしていけばいいのさ」

「な、なるほどなー…………」

 ショックを受けた表情の朱鷺子。そんなに驚くことではなさそうだが……

「ありがとう。あんた、いい人だったのね」
「当然さ。僕ほどの好人物は幻想郷にもそういやしない」

 だから本に色をつけてくれ、と言おうとした僕だったが、朱鷺子は急に立ち上がって外へ出て行ってしまった。
 呆然とする僕に、頑張ってくるーという言葉が遠くから聞こえてくる。ひょっとして今から活動開始するのだろうか。
 ややあって、朱鷺子は服をズタボロにした姿で帰ってきた。
 ちょうど宴会を開いている博博神社へ布教活動をしようと飛んでいったのだが、そもそも宴会の食事として狙われて逃げていたのに、また自分から捕まりにいくところだったと思い出したのはいいが、不運にも酔った魔理沙に見つかって逃げてきたと言う。
 涙目で自分が狙われているのを忘れていたとのたまう朱鷺子に、僕は鳥が本当は頭が良いという持論を崩された気分だった。周りから鳥頭といつも言われるのが、わかってしまった気分だ。
 頭が悪くないのに行動がそれに伴っていないのを見ると、話に聞く天人と仲良くなれるんじゃないか。そう思った。



 翌日、朱鷺子はお礼の本を持って香霖堂に訪れた。
 僕が言わずとも朱鷺子は礼に色をつけてくれたようで、何冊か追加で譲ってくれた。
 何も言わずお礼の格を上げるところを見れば、妖夢と違ってそれなりに世渡りが上手いのだろう。
 これで迂闊で残念な性格さえ直せば鳥頭の単語撤回の布教活動も来年中に終わるかもしれない。
 ただ、譲ってもらった本は痛みが目立った。住居のない朱鷺子では、保管するのに苦労しているのだろう。
 顔をしかめていた僕に、朱鷺子はこう提案をした。

「あのさ、倉庫の一部貸してもらえない? その代わり、私が手に入れた本を読ませるから」

 ほう、一丁前に交渉ときたか。
 しかも、僕の心の琴線に触れるにくい提案である。タダで僕の知らない本が手に入る機会だ、断る理由もない。
 だから僕は、布教活動のついでに香霖堂の宣伝をするようお願いした。
 交わされる握手は、交渉成立の証。交渉と言うほど崇高なものではなかったが、良い取引が出来たものだ。
 僕もそのお礼に報おうと、霊夢や魔理沙に朱鷺子の特徴を伝えてなるべく狩らないようお願いをしている。
 布教活動は難航しているようだが、会うたびに経過報告して一喜一憂する朱鷺子を見て、僕は幼少の魔理沙を思い出し思わず頬が緩んだりしたものだ。目的に向かって努力する子は、好意に値する。
 そうやって朱鷺子と触れ合っているうちに、彼女は勝手に屋根裏部屋に住み着いていた。最初は文句を言ったが、迷惑はかけないし店を手伝ったり酒のつまみを持ってきてくれるので、家賃と思うことにした。
 ありていに言えば、僕は朱鷺子のことを気に入っていたのだ。
 パチュリー・ノーレッジのような専門の会話でなく、互いに外の世界の想像を刺激する朱鷺子との会話は新鮮だ。
 素人だからこその突飛な意見、道具屋としての意見、膨大な書物の下地から生まれる堅実な意見。これら三つが合わさった会話は僕にとって楽しいものになっていたのだ。
 

「最近繁盛してるみたいだな」
「そうね。茶葉も良いの使ってるみたいだし」

 ある日、朱鷺子が本を漁りにいった外出中に勝手に居座る霊夢と魔理沙が来たときのことだ。
 倉庫や店の中に豊富に取り揃った商品の陳列や、倉庫に増えていく本のことを指しているのだと気づいた僕は、朱鷺子に心の中で感謝の意を示した。

「朱鷺子のおかげだね。今度、酒でもおごってやろうかな」

 誰だ? と言う魔理沙に、朱鷺の妖怪少女のことさと言う。

「朱鷺子っていうのね、あの鳥。鍋にするな、って言われたときはびっくりしたけど…………気に入ってるのね」
「そうかい? あの子は誰かと違って商品を盗まないし、本を持ってきてくれたりするし気に入らない理由はないよ」
「失礼なヤツもいたもんだな」

 悪びれた様子のない魔理沙にため息をつきながら、これが彼女の本質なのだから仕方ないとも半ば諦める。

「ねえ霖之助さん、最近人里で頻繁に現れる鳥の妖怪がいるって話だけど…………」
「ああ、多分朱鷺子のことだね。どうかしたのかい?」
「私は鳥頭じゃなーいって感じで、人里回って説明してるみたいだけど、何入れ知恵したの?」

 僕は鳥頭の由来や、それに対しての意見、朱鷺子に言った言葉を再現して二人に聞かせた。

「他人の評価なんてどうでもいいじゃない。どう思われようが、自分が変わるわけじゃないんだし」

 霊夢の浮遊感、というより束縛されない特性は誰にも真似できない。それゆえ、霊夢は心底そう思っているであろう台詞を放つ。
 他人の気持ちを理解できない、理解しないというより自分を偽らないその性格は、周囲にとって異質、或いはまぶしいものに感じるのだろう。だからこそ、霊夢の周りには人が集まるのかもしれない。

「…………ふーん。だから、あんなに頑張ってるのか」

 魔理沙はそう言うだけで、後は何も言わない。努力型の魔理沙は、何か共感するものでもあったのだろうか。

「ま、迷惑かけないんなら別にどうでもいいけどね」

 そう締めくくり、霊夢は再びお茶を飲み干していく。
 言葉は古くから呪法の最も重要な部分を司るまじないとしての一面も持つ。言葉による影響とは果てしないのだが、霊夢にとっては馬の耳に念仏と同じなのだろう。ある意味、羨ましいものだ。

「まるで鶴の恩返しだな」

 不意に、魔理沙がそうつぶやく。

「香霖はあいつを助けて、あいつは香霖のために本とか仕入れてるんだろ?」
「でもあれは鶴でしょ? 朱鷺の恩返しなんて聞いたことないわ」

 霊夢の言葉を受け、僕の脳裏に閃くものがあった。
 日本の佐渡島の方言では、朱鷺の事を「ドウ」「トウ」「ツウ」と言う。民話採集者が、佐渡島の方言を知らず、朱鷺を意味する「ツウ」と言う言葉を「つる」と聞き間違ったものかもしれない。
 だから、「鶴の恩返し」が本当は「朱鷺の恩返し」であった可能性は大。それが本当だとすれば、朱鷺子は僕に福をもたらしてくれるかもしれない。
 事実、倉庫の商品も増えたし話に付き合うのも悪くない。なんだ、本当にそうかもしれないな。

「何ニヤついているんだ? 気持ち悪いぜ」
「ああいや、なんでもないさ。とにかく、朱鷺子はうちの従業員みたいなものだから、暴力を振るわないように」
「別に危害を加えなければ何もしないわ」
「朱鷺子を襲った理由は君が不機嫌だったときにたまたま目に付いたから、って聞いてるけど?」
「さあ、そうだったかしら。忘れちゃったわ」

 この巫女にまともな常識を期待するほうが無理な話だったか。
 ともかく、その日僕らはいつものように過ごし、夕餉を食していった二人は満足して帰っていった。
 寝る時まで朱鷺子を見かけなかったが、僕らは同居しているわけでなく、部屋を貸しているだけなのだから別に待つ必要はないだろう。
 そんなことを思い、明かりを消して僕は眠りについた。


 彼が寝入ったときを見計らい、私は彼の部屋に侵入した。
 メガネを外し、子供のような寝顔をさらす彼にいつもの皮肉げな表情はない。穏やかな顔だ。
 本当なら今日の昼以降は、この人との話をしようと思っていたのに、あの紅白と黒白がやってきたから私はこっそり屋根裏に戻り様子を伺うことしか出来なかった。 
 三人の会話を盗み聞きする中、あの黒白は鶴の恩返しという外の世界に伝わる御伽噺を例えに出した。
 あの紅白も……いや、鳥頭同様世間に浸透しているあの御伽噺、実は鶴でなく私の種族を題材にした話である。
 加えて言えば、鶴の恩返しは元々ある民話を改変して作られた物語に過ぎない。
 改変と言っても、おじいさんを若者に変えただけで後はあまり変わらない。
 けれど、そこに恋愛感情があったのなら?
 助けられた朱鷺は、助けてくれた若者に恋をし、自らを「つう」と名乗って若者に嫁いだ。
 恩返しとして、自らの羽根から着物を作り、それを売ることで福を授けた。
 けれど、若者は欲深くさらなる財を求めてしまった。
 旗を折る間、決して覗いてはいけないとしたふすまを開いて、若者はつうの正体を知った。
 世間では悲劇として伝えられたあの話は、私達朱鷺の今後を大きく変えた物語なのだ。
 この悲劇は、朱鷺が人間に恋したことと、若者が約束を破ったことによって起こってしまった。
 欲のために大切なものを失ってしまった若者の件はともかくとして、人間に恋した朱鷺は、その後、何を思ったか?
 約束破りは論外としても、朱鷺にも過失が無いとは言えない。
 その過失とは、夫婦間に隠し事があった。タブーがあったということ。
 それを反省してのことか、その後の私たちは、子供の頃から時間をかけて相性の合う相手を探しだすようになる。夫婦間で隠し事のない幼なじみとしか結婚しなくなった。
 そのせいか、私達の種族は絶滅の危機を迎えた。多くの人間が私達を保護し、種の保存のために頑張ったけど、全部失敗してしまった。
 当然な話よね。
 私達は、誰とでも夫婦になれる野鳥なんかじゃないんだから。
 私達は人間達より恋深く、一途な愛を求める野鳥。よって種の滅びは早まるばかり。
 私のように幻想郷へ来れなかった朱鷺は、いったいどれだけ自分の気持ちを貫き通せたのだろう。

「…………霖之助」

 彼の名前をつぶやいてみる。
 私が彼を香霖堂と呼ぶ理由。
 私が彼に名を言わない理由。

「―――――――」

 夜の空気に、言葉が溶け込む。
 あえて言うなら、それは名詞だ。 
 彼が答えることはないので、私は安心してその名をつぶやいた。
 私の、本当の名前を。

「これ、自分の伴侶にしか、名乗らない名前なんだ」

 朱鷺子は、私は霖之助に好意を持っている。
 鳥頭とからかわれ、コンプレックスを持っていた自分に語ってくれた持論で、私がどれだけ救われたことか。
 大好きな本のことを語れる相手がいる喜びを教えてくれた。
 そうでなくとも、勝手に住居を奪ったというのに咎めることなく話をしてくれる。
 最初こそ苦手意識があったけど、これだけのことをされて好きにならない理由は、ない。
 けれど彼の周りには様々な少女がいる。
 特に昔から知っているという黒白は要注意だ。
 彼自身に興味はないかもしれないが、好きでもない相手の下へたびたびやってくる乙女はいない。
 弾幕ごっこも、戦闘も、力の劣る私では彼女らに敵わない。
 けれど、恋愛ならどうだろう。
 力なんてそこに関係ない。
 あるのは、思いの丈をぶつけ合う気持ちの戦い。
  
 つうは自分が朱鷺であるという十字架を背負い、恋した若者に嫁いだ。
 その恋心も、お金に目がくらんだ夫によって踏みにじられてしまった。
 若者は、着物を手に入れた代わりに、とても大切なものを失った。
 私も、同じような道を歩いている。
 霖之助は、道具屋だから欲もあるし、人並みに野心を持っている。
 けれど、私はつうが出会ったのが霖之助なら、絶対にそんなことが起きなかったと断言する。
 彼は本当に大事なものは自らの懐に納め、どうでもいい商品だけを売る商売人失格の男。

 だから。

「私は『つう』にならない」

 だから。

「本当の名を、霖之助に教えるんだ」

 そう、静かに宣言した。






<了>

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プロフィール

鳩

Author:鳩
ついにブログ開設です。
オリジナル小説のほか、東方projectのSSを主に書いています。
最近はジャンル問わずの投稿小説サイトであるArcadiaや、東方SSサイトの大御所、Coolier-クーリエ-東方創想話で「鳩」名義で活動中。森近霖之助を主役に書いてます。
リンクはフリーです。
何か連絡があればこちらへどうぞ
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  画像提供:会帆
東方・森近霖之助<いらっしゃい。折角だから、訪問記録をつけさせてもらうよ。


上記絵文字提供:うるち

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